『ラスト・ターゲット』:2010、アメリカ&イギリス

スウェーデンのダラルナ。暗殺者のジャックと恋人のイングリッドは、雪の積もる森にあるコテージで過ごしていた。次の朝、2人が外を歩きながら話していると、ハンターの足跡が残っていた。ジャックは刺客だと察知し、イングリッドに「隠れろ」と告げて木陰に走った。発砲を受けたジャックが拳銃を取り出すと、彼の正体を知らないイングリッドは驚く。ジャックは「なぜ銃なんか?」という彼女の質問を無視し、1人目の刺客を射殺した。
ジャックはイングリッドに、「戻って警察に知らせろ」と指示する。イングリッドがコテージへ戻ろうとすると、ジャックは背後から射殺した。車を降りた2人目の刺客が周囲を見回していると、後ろから忍び寄ったジャックが射殺した。彼は車を奪って森を去り、連絡船でスウェーデンを出た。電車でイタリアに入ったジャックは、組織のパヴェルに電話を掛けた。ローマのレストランでパヴェルと会った彼は狙撃者について尋ね、「調査中だ。少し時間が掛かる」と言われる。「女もグルか」とパヴェルが訊くと、ジャックは「関係ない」と即答した。パヴェルはイングリッドに同情する言葉を口にするが、ジャックは眉一つ動かさなかった。
パヴェルはジャックに、しばらく身を隠すよう促した。彼は車を用意しており、カステルヴェッキオという小さな町へ行って連絡を待てと指示する。車でカステルヴェッキオへ赴いたジャックは、そこを通過してカステル・デル・モンテの町で部屋を借りる。彼は室内で体を動かし、双眼鏡で周囲を観察する。町に出た彼はベネデット神父に「休暇旅行かね?」と問われ、「仕事を兼ねて」と答える。どんな仕事か訊かれた彼は、カメラマンだと答えた。ジャックは本名を名乗らず、エドワードという偽名を使った。
ベネデットが「一緒に酒でも飲もう。今夜、来たまえ」と誘うと、ジャックは「遠慮します」と断る。しかしベネデットは、「この地方の話をしよう。神父は何でも知っている」と告げた。ジャックは携帯電話を使わず、電話ボックスを使ってパヴェルに連絡を入れた。するとパヴェルは「お前に仕事だ。銃のカスタムだから、引き金を引く必要はない」と告げ、ジャックは「考えておく」と返した。ベネデットの家を訪ねたジャックは、一緒に酒を飲んだ。「イタリアの歴史を学んだか?」と質問されたジャックは、「写真を撮るだけだ」と答えた。するとベネデットは、「それがアメリカ人だ」と口にした。
ジャックは市場のカフェへ行き、依頼人のマチルダと会う。彼女はサイレンサー付きの自動小銃のカスタムを依頼し、ジャックは注文内容を細かく尋ねた。彼は郵便局で銃の入った小包を受け取り、部屋に戻って作業に取り掛かった。ジャックは売春宿へ行き、娼婦のクララを抱いた。彼はベネデットの家に招かれ、一緒に夕食を取った。ジャックが2ショットの写真を見つけると、ベネデットは「自動車整備士のファビオだ。違法なこともしているらしい」と言う。「君は職人の手をしている。芸術家じゃない。心に神を宿す者は、それだけで幸せになれる」と彼が話すと、ジャックは「神は私に興味など無い」と述べた。
ジャックは車の調子が悪くなり、ファビオの整備工場を訪れた。彼がカスタムに必要な部品を買おうとすると、ファビオは「持って行け」と告げた。ジャックはライフルをカスタムし、川で試し撃ちをした。彼は売春宿へ行くが、クララかいないので立ち去った。バーに入った彼は、外で停まっている車を気にする。店主はジャックに、届いた手紙を渡した。ジャックが手紙を開くと、ダラルナで3人の射殺死体が発見された新聞記事の切り抜きが入っていた。店を出たジャックは、部屋に戻って眠りに就いた。
後日、ジャックは電車の駅へ赴き、マチルダと合流する。彼はマチルダを山奥へ連れて行き、カスタムした銃を試させた。マチルダは修正してほしい部分を示して細かく注文し、来月の頭に銃と弾丸を用意するよう依頼した。ジャックはバーに立ち寄った後、売春宿でクララを抱いた。クララが「いつもと違うわ。何だか別のことを考えているみたい。他の女性のこと?」と訊くと、ジャックは「芝居はよせ。他の客は喜ぶだろうが、私は快楽を求めて来ている」と冷淡に告げた。
翌日、ジャックがカフェにいると、クララが友人のアンナと一緒にやって来た。クララが「近い内に会える?水曜日は暇よ」と告げると、ジャックは「いつもの場所で」と言う。しかしクララが「どこかしら。忘れたわ」と微笑むと、彼は少し考えてから「じゃあ新しい場所で。決めていいよ」と微笑で返した。クララはレストランを指定し、夜の8時に会う約束をジャックと交わした。スウェーデン人の殺し屋に尾行されたジャックは、それに気付いて待ち伏せた。ジャックは通り掛かって巻き込まれた男のスクーターを奪い、車で逃げる殺し屋を追った。ジャックは殺し屋を始末し、その場を去った。
ジャックはパヴェルに電話を掛け、「スウェーデン人の殺し屋に居場所を知られた」と報告した。するとパヴェルは、「町に残って仕事を終わらせろ」と指示した。翌朝、ジャックが公園に行くと、ベネデットの姿があった。ベネデットはジャックに、「君は多くの罪を犯して来た。そして今も犯している。金属で物を作っている」などと語る。告解すべきだと促されたジャックは逆に質問し、ベネデットは過去に罪を犯したことを明かした。ジャックはレストランへ行き、クララとディナーと共にした…。

監督はアントン・コービン、原作はマーティン・ブース、脚本はローワン・ジョフィー、製作はアン・キャリー&ジル・グリーン&アン・ウィンゲート&ジョージ・クルーニー&グラント・ヘスロフ、製作総指揮はエンツォ・システィー、製作協力はケヴィン・フラトウ、撮影はマーティン・ルーエ、美術はマーク・ディグビー、編集はアンドリュー・ヒューム、衣装はスティラット・アン・ラーラーブ、音楽はヘルベルト・グレーネマイヤー。
出演はジョージ・クルーニー、ヴィオランテ・プラシド、テクラ・ロイテン、パオロ・ボナッチェリ、ヨハン・レイセン、イリーナ・ビヨルクルンド、フィリッポ・ティーミ、ラファエル・セラノ、アンナ・フォグリエッタ、ラース・イェルム、ビョルン・グラナス、イザベル・アドリアーニ、イザベル・クラメロッティー、アンジェリカ・ノヴァク、グイド・パリジャーノ、サンドロ・ドリ、ジョルジオ・ゴッビ、シルヴァーナ・ボッシ他。


マーティン・ブースのミステリー小説『暗闇の蝶』を基にした作品。
デビュー作の『コントロール』でカンヌ国際映画祭カメラ・ドール(特別表彰)などを受賞したオランダ出身のアントン・コービンが、監督を務めている。
脚本は『28週後...』のローワン・ジョフィー。
ジャックをジョージ・クルーニー、クララをヴィオランテ・プラシド、マチルダをテクラ・ロイテン、ベネデットをパオロ・ボナッチェリ、パヴェルをヨハン・レイセンが演じている。

序盤、ジャックはイングリッドに警察を呼ぶよう指示し、背後から射殺する。
「殺しの現場を見たら恋人であろうと容赦なく始末する」という、ジャックの冷徹非情なキャラクターを冒頭からアピールしたかったんだろう。
でも、「戻って警察を呼べ」と指示する意味は全く無いよね。背中を向けさせてから撃たなくても、すぐ殺せばいいでしょ。
その行動に意味があると感じさせるような描写が何か用意されているならともかく、何も無いんだし。

あとさ、「冷徹に仕事を遂行する非情な暗殺者」であるジャックが心を許せる数少ない相手として、恋人がいるんじゃないのか。
だから、殺しの現場を見られて始末するのはいいとしても、少しぐらい苦悩や葛藤があってもいいんじゃないかと。
アピールしたい内容と状況が、上手く合致していないように感じるぞ。
イングリッドが「性欲を満たすために買った一夜だけの女」ってことならともかく、明らかに恋人として付き合っている関係のはずなんだし。

さらに厄介なのは、ジャックがカステル・デル・モンテに移ってから出会うクララの存在だ。ジャックはクララと売春宿で出会うが、本気で惹かれるようになる。そして今度は、クララを守ろうとするのだ。
そうなると、イングリッドを容赦なく始末した序盤の行動と整合性が取れなくなっちゃうでしょうに。
クララが拳銃を携帯しているのを知ってジャックは怪しむけど殺すことは無いし、彼女の説明を全面的に信用する。それどころか、足を洗って彼女との新生活を始めようとさえするのよね。
だけど、なぜイングリッドの時には、そんな決意に至らなかったのか。なぜ出会ったばかりのクララに対して、そこまで入れ込むことが出来るのかと。

ジャックはハンターたちに命を狙われて返り討ちに遭わせた後、すぐにパヴェルと連絡を取って調査を依頼する。それはパヴェルを信用しているから取った行動のはず。
それなのに、パヴェルからカステルヴェッキオで連絡を待つよう指示されたジャックは従わず、カステル・デル・モンテで部屋を借りる。
そこで指示を無視する理由がサッパリ分からない。
「カステルヴェッキオに着いたけど、なんか雰囲気が嫌だった」という程度かもしれないけど、余計な引っ掛かりを生んでいることは否めない。

あと、「しばらく姿を隠す」ってことを考えると、むしろ田舎の小さな町よりもローマみたいな大都市の方が向いているんじゃないかと思ったりするんだよね。
そう感じる理由は、ジャックがアメリカ人で、イタリア語を全く話せないからだ。
そんな奴が急に田舎町で暮らすようになったら、住人が好奇の目を向けたり興味を示したりするリスクが大きいんじゃないかと。
っていうか、ジャックの仕事を考えると、英語しか話せないってのも、プロとしてどうかと思うぞ。

っていうか、実はファビオの工場を訪れるシーンで、少しだけイタリア語も話しているんだよね。
でも喋れるんだったら、最初から喋るべきでしょ。イタリアに来ているんだし、周囲はイタリア人ばかりなんだからさ。
「なぜか周囲の人々が英語を流暢に喋れる」という都合の良さに助けられて、ジャックはほとんどイタリア語を話さないけど、そんなの変でしょ。
どうしても英語で描きたかったのなら、英語圏の国を舞台にすりゃ良かったんじゃないかと。

ジャックはハンター2人を容赦なく殺すが、なぜ「足を撃って動けなくしてから、黒幕や自分を狙った理由を尋ねる」という行動を取ろうとしないのか。
これが「ギリギリの状況で殺す以外に手は無かった」ってことならともかく、少なくとも2人目に関しては尋問できるだけのチャンスは充分にあったぞ。
これはスウェーデン人の殺し屋に狙われた時も同じで、ここでも簡単に殺しちゃうんだよね。
自分を狙っている黒幕や理由について、何も気にならないのかよ。

ジャックは暗殺者のはずなのに、なぜパヴェルは銃のカスタムの仕事を依頼するのか。そして、なぜジャックは引き受けるのか。
そもそも彼はカスタムの仕事も担当していたのかもしれないけど、その辺りは全く分からない。
売春宿にクララがいないと知ったジャックは、なぜ立ち去るのか。彼がクララにこだわる理由は、サッパリ分からない。
色んな謎が多いけど、それはミステリーとして話を面白くするための要素ではなく、単に説明が足りていないか、もしくは描写を間違えているだけ。

ジャックはバーに入った時、外で停まっている車を気にする。
しかしバーを出た彼は、そんなに車を気にすることもなく、その場を去って家へ戻っている。特に車の所有者を突き止めようとするような行動も取らず、次のシーンに移っている。
「常に周囲を観察し、警戒しているんですよ」ってのをアピールしたかったのかもしれないし、それ自体は別に悪くない。
ただ、それならそれで、「何も無かった」という肩透かしになっちゃうのは仕方が無いにしても、もう少し車については突っ込んで確認した方が良くないか。

ジャックはクララから、「いつもと違うわ。何だか別のことを考えているみたい」と指摘される。たぶん実際に、いつもとは違っていたんだろう。
ただ、なぜジャックがと違っていたのか、その理由は分からない。マチルダに惚れたわけでもないだろうし、仕事が気になっていたってわけでもないだろうし。
で、そこでジャックは冷淡な態度を取るのに、カフェでクララから声を掛けられた時は笑顔で話す。それどころか、デートの約束まで交わす。それが不可解にしか思えない。
また、冷たくされたクララがジャックをデートに誘うのも、「いつの間に惚れたのか」と疑問を抱いてしまう。ここは恋愛劇の描写を端折り過ぎて、かなり不自然になっている。

ジャックはパヴェルからカステルヴェッキオで連絡を待つよう指示された時、それに従わずカステル・デル・モンテで部屋を借りる。
だが、スウェーデン人の殺し屋に襲われた後に「町に残って仕事を終わらせろ」と指示されると、それには従っている。
なぜなのか、まるで分からない。
ダラルナで居場所がバレて命を狙われたから、別の場所に移ったはずで。なのにパヴェルが今回は「町に残れ」と命じるのは、明らかに変でしょ。なのに、そこは気にならないのかと。

終盤、マチルダはジャックからカスタムした銃を受け取ると、それを使って彼を始末しようと目論む。しかしジャックが細工を施していたため、暴発で死亡する。
でも、その前にジャックばパヴェルに、足を洗うと告げているんだよね。そんなことを言った時点で、ジャックが「組織に狙われる」と考えるのはプロなら普通だろう。
で、それは組織サイドも分かっているはずなのに、彼がカスタムした銃を使うのがボンクラに見えちゃうぞ。
あと、ここでパヴェルが自ら殺しに来て、ジャックは始末するものの撃たれて致命傷を負うのよね。でも、それは最後だけ都合良くパワーバランスが変わっているだけにしか思えんよ。

(観賞日:2021年3月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会