『ラッシュアワー3』:2007、アメリカ&ドイツ

ロサンゼルス。香港警察のリー捜査官は、中国のハン大使の警護役として車に同乗していた。同じ頃、ヘマをして交通整理係に回されて いるロス市警のカーター刑事は、マーシャとゾーイという女性2人組の車を検挙した。ハン大使は国際刑事法廷ビルに赴き、会議に出席 した。レイナール委員長は挨拶に立ち、ハンに「世界最大の中国系犯罪組織との戦いを指揮してほしい」と告げた。
ハンは壇上に立ち、「シャイシェンの居所を突き止めた」と口にした。その直後、彼は狙撃を受けて倒れた。向かいのビルから逃げる人影 を発見したリーは、後を追い掛けた。リーの姿を見たカーターは、マーシャたちの車で追跡した。リーは逃げた男を袋小路に追い詰め、銃 を向けた。振り返った男の顔を見て、リーは動揺した。その男ケンジとは顔見知りだった。そこへカーターが車で突っ込んできた。ケンジ はその場から逃走した。
リーとカーターが病院へ向かうと、ハンは銃弾が心臓を逸れて一命を取り留めていた。ロス市警のディール部長は、リーとカーターに 「ロスにいる大使の娘が病院へ来る。彼女を警護しろ」と告げた。病院に現れたハンの娘スーヤンは、1週間前に父から封筒が届いたこと を告げた。その封筒は、スーヤンが教えているチャイナタウンのクンフー道場のロッカーに入れてあるという。
リーとカーターは道場へ行くが、ミー師範は「先生が来るまでロッカーは開けられません」と告げた。カーターが勝手に奥へ行こうとする と、巨漢の道場生が現れた。リーとカーターが巨漢に振り回されていると、道場主のユーがやって来た。ユーは「今朝、銃を持った連中が 来てロッカーを空っぽにした。奴らはスーヤンも父親と同じ目に遭わせてやると言っていた」と告げた。
リーとカーターが病院に戻ると、病院関係者もハンの護衛も全て消えていた。ハンの部屋に行くと、スーヤンと看護婦1名が付き添って いた。看護婦に訊くと、護衛は引き上げたという。そこに銃を持った連中がやって来たので、リーたちは応戦した。連中の一人を捕獲する と、フランス語を話した。リーたちは、病院の上にあるチャペルの尼僧アグネスに通訳を頼んだ。カーターが銃を突き付けて脅すと、男は 「フランクリン・ルーズベルト500、ジュヌヴィエーヴ」という言葉を口にした。
リーとカーターは、ハンとスーヤンをレイナールに預けることにした。レイナールたちがフランス大使館を出たところで、これから乗ろう としていた車が爆発した。その2日後には、パリで国際刑事法廷の会議が開かれることになっていた。リーとカーターはシャイシェンを 探すため、フランスへ向かうことにした。飛行機の中でガイドブックを読んだカーターは、フランクリン・ルーズベルト500というのが パリにある地下クラブの住所だと知った。
リーとカーターは空港に降り立った途端、国家保安局のレヴィ警視に捕まった。レヴィは2人を連行し、手錠を掛けて暴力的な尋問を 行った。さらに彼は、2人の尻の穴まで手を突っ込んで身体検査を行った。ようやく解放されたリーとカーターは、タクシーに乗り込んだ 。運転手のジョルジュはアメリカ嫌いで、悪態ばかりついた。腹を立てたカーターは銃を抜き、おとなしくさせた。
リーとカーターは地下クラブを訪れた。カーターはバカラのテーブルにいる美女をナンパした。リーはカウンターへ行き、バーテンダーに ジュヌヴィエーヴのことを尋ねるが、相手にされなかった。すると謎の女性ジャスミンが現れ、「力になれるかも。2階に行きましょう」 と告げた。2階の部屋に入ると、ジャスミンは襲い掛かってきた。リーとカーターと共に店から脱出した。ジュルジュのタクシーに乗ると 、複数のバイクが追ってきた。リーとカーターはタクシーから転落し、連中に包囲された。
リーとカーターは下水道施設に連行され、そこにケンジが姿を現した。ケンジはリーに「今夜の内にパリから去れ。そうすれば生かして おいてやる」と告げた。リーが「大使や娘はどうなる?」と訊くと、彼は「俺には助けてやれない。もう決まったことだ」と答えた。 リーが「だったら留まる」と言うと、ケンジは立ち去った。リーとカーターは、一味の隙を見て逃げ出した。2人は下水道の中を移動し、 高級ホテルにチェックインした。
リーはカーターからケンジとの関係について問われ、孤児院で兄弟のように育ったことを明かした。リーは10歳の時に警官の養子になり、 ケンジは裏社会で生きるようになったのだ。外出して街を歩いていたカーターは、ジュヌヴィエーヴという踊り子の写真が使われた看板を 発見した。一方、リーの部屋にはレイナールがやって来た。彼は「命を狙われている。家族も含めてだ」と言い、フランスの秘密捜査官が 1ヶ月で12名も殺されていることを告げた。
リーが「シャイシェンとは誰です」と訊くと、レイナールは「人ではなく、リストのことだ。組織では5年に一度、各支部のボスによる 集会がある。そこでは選挙によって次のボス13名が選ばれる。その名前がシャイシェンには書かれている」と説明した。レイナールは 「ジュヌヴィエーヴという女がハンと接触したことが分かっている。その女が何か知っているはずだ。先回りして女に会い、リストを手に 入れろ」と言い、シャンゼリゼ劇場のチケットを渡した。
カーターはジュヌヴィエーヴを見つけるため、シャンゼリゼ劇場の楽屋に潜入した。衣装デザイナーを詐称した彼は当初の目的を忘れ、 踊り子たちの体をチェックして目の保養をした。劇場を訪れたリーは、観客席に組織の連中がいるのを目にした。そこにカーターが来た ため、リーはジュヌヴィエーヴの命が狙われていることを告げた。ステージにジュヌヴィエーヴが登場すると、一味は銃を取り出した。 リーとカーターは出演者に成り済まして舞台に上がり、ジュヌヴィエーヴを連れ出した。
リーたちが外に出ると、ちょうどジュルジュのタクシーが通り掛かった。リーたちはジュヌヴィエーヴをタクシーに乗せ、ホテルへ向かう 。カーターは寝室でジュヌヴィエーヴと2人きりになり、彼女を口説いた。2人がベッドで抱き合っていると、潜入したジャスミンが ジュヌヴィエーヴの命を狙った。気付いたリーが駆け込んで発砲すると、ジャスミンは窓から逃走した。
リーとカーターは、ジュヌヴィエーヴを連れてジョルジュの家に避難した。シャイシェンのことを尋ねられたジュヌヴィエーヴは、「私が シャイシェンよ」と言ってカツラを外した。すると丸坊主の後頭部には、各支部のボスたちの名前が刻まれていた。昔から女性の頭に名前 を刻むのが組織の伝統であり、ジュヌヴィエーヴはケンジから「名誉あることだ」と言われて承知したのだという。
ジュヌヴィエーヴがハンに接触したのは、国際刑事法廷なら自分を守ってくれると考えたからだった。店やホテルに殺し屋が現れたことで 、彼女は「絶対に殺される」と弱気になっていた。リーとカーターは彼女を守ってもらうため、レイナールの元を訪れた。だが、彼は組織 と結託していた。それを察知したリーは、レイナールにナイフを突き付け、部下から拳銃を取り上げた。そこへケンジから電話が入った。 彼はスーヤンを人質にしており、シャイシェンとの交換を要求してきた…。

監督はブレット・ラトナー、キャラクター創作はロス・ラマンナ、脚本はジェフ・ナサンソン、製作はロジャー・バーンバウム&アーサー ・サルキシアン&ジェイ・スターン&ジョナサン・グリックマン&アンドリュー・Z・デイヴィス、共同製作はジェームズ・M・ フレイタグ&レオン・ドゥデヴォア、製作総指揮はトビー・エメリッヒ、撮影はJ・マイケル・ミューロー、編集はドン・ジマーマン& ディーン・ジマーマン&マーク・ヘルフリッチ、美術はエドワード・ヴァリュー、衣装はベッツィー・ハイマン、視覚効果デザイン&監修 はジョン・ブルーノ、音楽はラロ・シフリン。
出演はジャッキー・チェン、クリス・タッカー、マックス・フォン・シドー、真田広之、工藤夕貴、イヴァン・アタル、ノエミ・ ルノワール、チャン・チンチュー、ツィ・マー、ダナ・アイヴィー、ヘンリー・オー、 ジュリー・ドパルデュー、スン・ミンミン、ミア・タイラー、リサ・ソーンヒル、シルヴィー・ラグーナ、デヴィッド・ニーヴンJr.、 マイケル・チョウ、M・ケンタロー、オアン・ニューエン、フィリップ・バージェロン、フランク・ブロインブローク、アンドリュー・ クワン他。


シリーズ第3作。監督は3作連続でブレット・ラトナー。
3作連続での出演者は、リー役のジャッキー・チェンとカーター役のクリス・タッカーだけ。
ハン役のツィ・マーは、1作目からの復帰。アンクレジットだが、ディール役のフィリップ・ベイカー・ホールも1作目からの復帰。ハン の娘スーヤンは、キャラクターとしては1作目にも登場していたが、演じる役者は異なっている。
レイナールをマックス・フォン・シドー、ケンジを真田広之、ジャスミンを工藤夕貴、ジョルジュをイヴァン・アタル、ジュヌヴィエーヴ をノエミ・ルノワール、スーヤンをチャン・チンチュー、ハンをツィ・マー、アグネスをダナ・アイヴィー、ユーをヘンリー・オー、道場 の巨漢を中国のバスケットボール選手である孫明明、ジョルジュの妻をジュリー・ドパルデューが演じている。
他に、アンクレジットだが、レヴィをロマン・ポランスキー、ゾーイをサラ・シャヒが演じている。

中国大使が犯罪組織との戦いで指揮を担当するとか、組織の重要な秘密情報を国際会議の場で発表するとか、そんなことは 有り得ない。
ちょうどシャイシェンを発表する直前のタイミングで、ケンジが狙撃するのはおかしい。ハンの言葉を盗聴しているならともかく、声は 聞こえないんだし。
っていうか、ハンを撃ったところで、シャイシェンを知っているのは彼だけじゃないので無意味だよな。
あと、病院ではハンの命を狙ったのに、その後は彼を殺すことに執着する様子を見せないのは適当すぎるだろ。

それと、ケンジは凄腕の殺し屋であるべきなのに、いきなり冒頭の狙撃で失敗しちゃダメでしょ。
そんな大きなヘマをやらかして、よく組織に消されなかったな。そこはハンを殺してしまえば済んだことでしょ。
そこでハンが死んでも、特に支障は無いぞ。
せいぜい病院でのアクションシーンが出来なくなる程度のことだ。それは、代わりのアクションシーンを用意すればいいだけだ。

今回の話は、カーターが参加するところに大きな無理を感じる。かなり無理をして首を突っ込ませている感じだ。
任務に関係しているわけではないし、巻き込まれているわけでもない。
一応、「リーの親友だから手伝う」という形にしてあるが、その軽薄な態度が、ウザくて場違いなものになっている。
なんせハンが殺されそうになった直後に、浮かれポンチな態度を取ったりするし。

なぜスーヤンは、父が「自分に何かあった時は」と言って届けた大事な封筒を、クンフー道場のロッカーなんぞに入れておくのか。
なぜ悪党一味は、その封筒がロッカーにあると知ったのか。
悪党一味が、いちいち「娘も父親と同じ目に遭わせる」とユーに言い残して道場を去っているのも変だし。しかも、そこから一味が娘の命 を狙ってくるのかというと、そうでもない。
病院を襲撃するのはハンの命が目当てだし、車の爆破もスーヤンを狙ったのかどうかは良く分からないし、それ以降は全く狙ってこない。
っていうか、リーたちがフランスに渡るので、それ以降もハンとスーヤンが狙われると都合が悪いのだ。
分かりやすい「作り手側の事情」が透けて見える。

道場で巨漢が登場するのは、『死亡遊戯』でのブルース・リーとカリーム・アブドゥル・ジャバーの戦いに向けたオマージュらしいが、 無理がありすぎる。
リーたちが襲われるのはミーが止めれば済むことだし、他の道場生は子供たちばかりなのに一人だけ巨人ってのも 不自然極まりない。
どこかで登場させるにしても、悪党一味の一人にしておけば良かったのに。
それと、カーターの必要性が皆無だと思えるぐらい、彼とリーとのコンビネーション、掛け合いの面白さ、バディー・ムーヴィーとしての 魅力が全く感じられない。
で、カーターの必要性が薄いこともあって、かなり「ジャッキー・チェン主演作」としても色が濃くなっているのだが、だからって シナリオの適当さという部分で香港映画に近付こうとしなくてもいいのにね。

リーとカーターが病院に戻ると、病院関係者もハンの護衛も全て消えているが、ものすごく不自然だ。
なぜ護衛は引き上げたのか。なぜ病院関係者は看護婦1人を残して消えたのか。
それについて、納得できる説明は何も用意されていない。
病院を襲撃した連中の一人を捕獲すると、バリバリのアジア系なのに(演じているのは日本人)、なぜか喋るのはフランス語。

リーたちは男から「フランクリン・ルーズベルト500、ジュヌヴィエーヴ」と聞き出すと、その言葉の意味を確かめずに尋問を終わらせる というマヌケぶりをさらす。
尋問に使った手術室を出ると、大勢の警官たちが現場検証をしている。そんな状況の中、リーたちは男を尋問していたのか。無茶な設定 だな。
っていうか、いつの間に警察の応援を呼んだんだろうか。
呼んだにしても、到着が早いし。

レヴィはリーとカーターを捕まえて暴力を行使し、「お前たちが中国の犯罪組織に捕まったら私の責任問題になる」と言うが、正直、ワケ が分からない。
その後、「隠してあった銃を見つけた。言うことを聞け」などと口にして、尻の穴に手を突っ込んで身体検査をする。
何がやりたいのかサッパリだ。で、それが終わったら、あっさり解放してくれるし。
ひょっとすると、単に尻の穴をまさぐりたいだけの変態というキャラクター設定だったりするのか。

リーはハンが狙撃された直後にケンジと対面するが、この2人の関係が全く説明されないまま、どんどん話を先に進めていく。
いきなり全てを明かす必要は無いにしても、その関係を示す断片ぐらいは用意すべきだろう。
舞台がパリに移動し、物語が中盤を過ぎてからケンジが再登場する。その辺りで、ようやくリーとケンジの関係が説明される。
そこに至るまで、2人の関係に触れることは全く無い。
回想シーンが入るとか、何かキーとなるアイテムやエピソードを用意するとか、そういう配慮も無い。

義兄弟の2人が敵対関係になるというのは本作品において重要な意味を持つ要素のはずなのに、そこで男と男のドラマ、苦悩や葛藤、絆の 深さ、そういったモノを描く作業を、ブレット・ラトナーは何もやらない。
この人は、そういうことに何の興味も無い。
ブレット・ラトナーは人間ドラマを撮らない、もしくは撮る能力が無い監督だ。
ファストフード的な軽いアクション・コメディーしか撮れない監督なんだから、そういうジョニー・トーやジョン・ウーが得意とする ような要素をシナリオに持ち込んだこと自体が間違いなのだ。
それに関連して、リーが「俺一人で戦う。これは俺個人の問題だ」と言い、カーターが「手伝わせろ。ケンジが何か言っても信用できない 。兄弟じゃない」と返し、リーが「お前もそうだろ」、カーターが寂しそうに「そうだな、ブラザーじゃない」と言って部屋を出て行くと いう場面があって、しんみりとした情感のある雰囲気を出そうとしているようだが、完全に失敗している。

ジュヌヴィエーヴがカツラを外すと後頭部にボスたちの名前が刻まれているという展開には、失笑せざるを得ない。
その馬鹿馬鹿しい伝統を置いておくにしても、なぜ中国じゃなくてフランスにいる女を選ぶのかも分からん。
それに、なぜリーたちが店に行くまで、彼女は命を狙われなかったのか。
「そこへリーたちが行くと、タイミング良く事件が起きる」という御都合主義が見えまくりだ。

レイナールも組織と繋がっているのだが、どういう関係性なのか、彼の目的が何なのかは良く分からない。
あと、ケンジが組織の中でどういう位置にいるのか、それも良く分からないんだよな。
ケンジがロサンゼルスで捕まえたスーヤンをわざわざフランスまで連れて来るとか、とにかく「フランスを舞台にする」という目的のため に色々と無理をしまくっていて、その無理も露骨に見えているし。
ジャッキーの年齢的な問題もあってアクションは控え目だし、前2作より良かった点は何も無い。

(観賞日:2010年7月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会