『ワイルド・バレット』:2006、アメリカ
ダイナーで発砲音が響いた。マフィアの下っ端であるジョーイ・ガゼルは、ロシア人少年のオレグを抱えて店から出て来た。彼はオレグを車に乗せて猛スピードで走らせ、「きっと間に合うからな」と声を掛けた。自転車が前を横切ったので、彼は慌ててブレーキを掛けた。その18時間前、ジョーイはボスの息子であるトミー、兄貴分のサルと共に、ヤクの取引現場にいた。そこへ武装した覆面集団が乗り込み、金と麻薬を奪おうとする。トミーたちが反撃して全員を銃殺すると、その連中は汚職警官だった。
トミーは自分とサルのリボルバーをジョーイに渡し、処分するよう命じた。帰宅したジョーイは老いた父のポップスに声を掛け、家事をしている妻のテレサとセックスしようとする。地下室で遊んでいた息子のニッキーと親友のオレグは、ジョーイが来たので慌てて隠れた。彼から「地下室に入るな」と厳しく言われていたからだ。ジョーイはオレグのことを快く思っていなかった。ジョーイが拳銃を秘密の保管場所へ収納する様子を、2人は目撃した。
オレグが家に戻ると、映画『11人のカウボーイ』を愛する養父のアンゾと、暴力的な彼に遠慮しながら暮らす母のミラがいた。アンゾはオレグを呼び寄せ、一緒に映画を見ることを強要する。彼はロシアで過ごした少年時代を語り、最初からビデオを再生しようとする。彼は間違えた箇所を再生するが、オレグは「僕、ここ好きだ」と漏らす。アンゾが「デュークが死ぬ場面が?」と怒って殴ろうとしたので、オレグは慌てて逃げ出した。ミラがオレグを擁護すると、アンゾは「俺に逆らうのか」と彼女を殴り付けた。そこにオレグが戻り、アンゾに拳銃を発砲した。
家族と夕食を取っていたジョーイは、隣家の発砲音を耳にした。ガゼル家の窓にも銃弾が飛んで来たので、ジョーイは拳銃を手にして隣家へ向かう。激しくドアをノックして中に入ると、アンゾが肩を撃たれていた。アンゾに事情を尋ねたジョーイは、オレグがトミーの拳銃を盗み出して使ったことを知る。オレグが警察に捕まって拳銃のことを話せば、ジョーイは間違いなく組織に始末される。警察が捕まえる前に、オレグを見つけなければならない。
オレグを捜しに行く前に、まずジョーイは現場に落ちていた銃弾を回収した。それからアンゾが運び込まれた病院へ行き、手術で摘出された銃弾を回収した。ジョーイはニッキーにオレグの行きそうな場所を尋ね、公園の施設へ向かった。麻薬課のライデル刑事は病院へ行き、アンゾに事情聴取する。「ヤク中の仕業だろう。黒人は区別が付かない」と話すアンゾは、ロシアンマフィアのボスであるイワンの甥だった。そのことを確認したライデルは、「裏庭で面白い物が発見されてる。風邪薬の箱が6箱だ」と含んだように告げた。
ジョーイがニッキーと共に公園の施設へ行くと、そこにオレグの姿は無かった。だが、そこに彼が潜んでいた形跡を見つけたジョーイは、「まだ近くにいるはずだ。見つけるぞ」とニッキーに告げた。彼の読みは当たっており、オレグは銃を持った浮浪者に連れ出されていた。浮浪者はヤクの売人である黒人を脅して公衆トイレへ行き、そこに隠してある麻薬を取って来るようオレグに命じた。そこへ黒人の仲間が来て銃撃戦になり、オレグは逃げ出した。発砲音で駆け付けたジョーイは、生き残っていた売人から事情を聞き出した。
オレグはポン引きのレスターが娼婦のディヴィーナに暴力を振るっている現場を目撃し、拳銃を構えた。しかし銃弾が入っておらず、レスターはオレグにナイフを突き付けて凄む。すると背後からディヴィーナがレスターを殴り倒し、オレグに「やる時はやらなきゃ」と告げた。ディヴィーナは立ち去ろうとするが、喘息持ちのオレグが心配になって薬局へ連れて行く。「処方箋が無いと薬は出せない」と薬剤師が頑なに拒否するので、ディヴィーナはオレグの拳銃で彼を脅して薬を出させた。
ジョーイはサルからの電話を受け、ニッキーを車に残してストリップ・クラブへ入った。店にはライデルが待ち受けており、トミーから拳銃の処分を指示されたジョーイが命令に従わなかったこと、その拳銃がアンゾ射撃に使われたことを指摘する。ジョーイはシラを切るが、ライデルは賄賂を要求する。彼は駅のロッカーの鍵を渡し、「夜中までに入れておけ。もしも金が無かったら、どんな手を使ってもお前らをムショへ入れてやる」と恫喝した。
ジョーイはダイナーへ行き、待っていたボスのフランキーやトミーたちと面会する。フランキーは「俺はイワンとガソリンの取引がある。波風を立てたくない。イワンの甥は、お前がガキを使ってビジネスに手を出したと思ってる。銃を使って自分を撃たせたと」と話し、「俺はイワンに約束した。絶対にガキを見つけるとな」と告げた。車で待っていたニッキーは、オレグがディヴィーナと一緒に店へ入るのを目撃した。ニッキーは店へ行ってオレグに合図を送り、トイレへ誘い出した。
フランキーたちはオレグの存在に気付かず、ダイナーを出て行った。ニッキーはオレグから拳銃を受け取り、トイレのタンクに隠した。ニッキーはジョーイにオレグのことを明かさず、車に戻った。ジョーイは彼の迂闊な一言で何か隠していると見抜き、「正直に話せ」と詰め寄った。ジョーイは急いでダイナーへ戻るが、タンクの中に拳銃は無かった。ジョーイは清掃係のマニー・ペレスが拳銃を見つけて盗んだと睨み、ダイナーの事務所に忍び込んで彼の住所を調べた。
ディヴィーナはオレグがずっと付いて来るので、「ダメだよ。家に帰りな。そう悪くないかもよ」と促した。するとオレグは無言のまま、アンゾに虐待されて腫れ上がった背中を見せた。そこへ警官隊が駆け付け、オレグとディヴィーナを捕まえた。ジョーイはテレサからの電話で、オレグが警察署に連行されたことを知った。ライデルは優しい素振りで取調室にオレグを連れ込み、どこで銃を手に入れ、どこに隠したか話すよう持ち掛けた。
ジョーイが帰宅すると、テレサはニッキーを同行させたことを非難した。ジョーイが「心当たりがある」と出掛けようとすると、トミーとサルがやって来た。彼らは「ガキが警察に捕まったらしいな。遠くへ行きなよ」と脅しを掛けて立ち去った。オレグは「学校の使われていないロッカーにあった」と証言したが、ライデルは嘘だと分かっていた。ライデルはアンゾに、「あの銃は隣の家から貰ったって白状させろ。出来なきゃお前をムショにぶち込むぞ」と告げた。
ジョーイはマニーのアパートに押し掛けるが、彼は不在だった。ジョーイは部屋にいた妻のコンチータを拳銃で脅し、マニーの居場所を吐かせた。アンゾはオレグをダイナーへ連れて行き、拳銃のありかを吐かせようとする。オレグはテーブルを引っ繰り返し、店から逃亡する。オレグが駐車場に停めてあったバンに身を隠すと、それはデズとエデルという夫婦の所有物だった。ジョーイはマニーが仲間とカードに興じている602号室へ乗り込み、銃のありかを吐かせようとする。しかし、マニーは拳銃を売り払っていた。
デズとエデルは優しい態度でオレグに接し、自宅へ連れていく。2人はエリックとシモーネという兄妹も連れており、面倒を見ていた。不穏な空気を感じたオレグが「トイレに行きたい」と言うと、エデルは呼吸器を預かって「あっちよ」と教えた。オレグは逃げ出そうとするが、どこも厳重に施錠されていた。彼はエデルのバッグを見つけ、携帯電話を盗み取った。携帯を隠したところへエデルが現れ、「トイレへ案内するわ」と告げた。
エデルはオレグをトイレに入れると、外で待機した。オレグはテレサに電話を掛け、「何か変なことされそう」と告げて助けを求めた。テレサは薬棚の薬を見つけさせ、そこに書かれている住所をオレグが伝えた。車の修理に行ったレスターは、修理工からカードに勝って入手したリボルバーを自慢される。すぐにオレグが持っていた銃だと気付いたレスターは、500ドルで買い取った。テレサはニッキーを車に乗せ、オレグほ助けに行く。オレグを助け出した彼女は、夫婦が児童愛好者の鬼畜だと知って銃殺した…。脚本&監督はウェイン・クラマー、製作はマイケル・ピアース&ブレット・ラトナー&サミー・リー、共同製作はケヴァン・ヴァン・トンプソン、製作総指揮はアンドリュー・フェッファー&スチュワート・ホール&アンドレアス・グロッシュ&アンドレアス・シュミット&マット・ルーバー、撮影はジェームズ・ウィテカー、編集はアーサー・コバーン、美術はトビー・コーベット、衣装はクリスティン・バーク、音楽はマーク・アイシャム、音楽監修はブライアン・ロス。
主演はポール・ウォーカー、共演はキャメロン・ブライト、ヴェラ・ファーミガ、チャズ・パルミンテリ、カレル・ローデン、ジョニー・メスナー、イワナ・ミルセヴィッチ、アレックス・ニューバーガー、マイケル・カドリッツ、ブルース・アルトマン、エリザベス・ミッチェル、アーサー・ナスカレッラ、ジョン・ノーブル、イダリス・デレオン、デヴィッド・ウォーショフスキー、ジム・トゥーイー、トーマス・ロサレスJr.エディー・オテロ、デヴィッド・モンテイロ、クララ・ペレス、ジュリアン・リットマン、ライアン・ジェームズ、エレン・サヴァリア、マシュー・ブラッド=スマイス、ウィリアム・バード・ウィルキンス、エフレイム・ゴールディン、トッド・クラマー、ジェフ・カスター、ジャン・コホート他。
2003年の映画『The Cooler』で高い評価を受けたウェイン・クラマーが、監督と脚本を務めた作品。
ジョーイ役は『ワイルド・スピード』『イントゥ・ザ・ブルー』のポール・ウォーカー。
オレグをキャメロン・ブライト、テレサをヴェラ・ファーミガ、ライデルをチャズ・パルミンテリ、アンゾをカレル・ローデン、トミーをジョニー・メスナー、ミラをイワナ・ミルセヴィッチ、ニッキーをアレックス・ニューバーガー、サルをマイケル・カドリッツ、デズをブルース・アルトマン、エデルをエリザベス・ミッチェル、フランキーをアーサー・ナスカレッラ、イヴァンをジョン・ノーブル、ディヴィーナをイダリス・デレオン、レスターをデヴィッド・ウォーショフスキーが演じている。この映画、「クエンティン・タランティーノが絶賛した」という言葉で宣伝された。
そりゃあ配給会社からすると、それは観客を呼び込むための惹句として使いたいところだろうし、タランティーノが絶賛したってのを宣伝に利用するのは間違った戦略ではない。
ただし、観客が勘違いしてはいけないのは、「タランティーノが絶賛した」というのは、決して「万人にオススメできる傑作」という意味ではないということだ。
タランティーノはクセの強い監督であり、カルト映画を愛する人だということを忘れてはいけない。イタリアン・マフィアにロシアン・マフィア、汚職刑事に犯罪者カップルと、モラルの欠如したロクでもない連中ばかりが交差する。
腐敗した都会の中で、拳銃を巡る暴力の光景が描き出される。
汚い言葉の洪水、ちょっとしたエロ描写、凝った映像表現。
タランティーノのデビュー作が『レザボアドッグス』だったことを考えても、ブラックスプロイテーション映画のファンであることを考えても、なるほど、好きになりそうな作品だってのは良く分かる。その一方で、これが興行的に失敗した理由も、何となく理解できる。
「どっかで見たことがあるような」という既視感に満ち溢れているってのが最も大きいんじゃないだろうか。
それを言い出したらタランティーノだって色んな映画からネタを拝借しているのだが、彼の場合はチョイスする対象が古いカルト映画であるケースが多いし、ネタをパッチワークした結果として独自の色を感じさせる仕上がりになっている。
この映画の場合、「ガイ・リッチーぽくね?」という印象が強いし、そつなくまとまってはいるが、あまり新鮮味は感じない。
そうなると、かなり最近の映画を連想させるってことだから、そりゃ少々厳しいのかなと。オレグ視点のシーンを多く盛り込んでおり、どうやら彼を使って「人間愛」とか「親子愛」とか「家族愛」とか、とにかく愛のドラマを構築しようとしているようだ。
だけどねえ、ぶっちゃけ、そういうヒューマニズム、要らないなあ。
「アンチ・モラルな話に中途半端なヒューマニズムなんて邪魔」っていうことじゃなくて、この映画では邪魔な要素になっているということだ。
そういう部分でドラマを描写しようとすることが、テンポの悪さに繋がっている印象を受けるのだ。オレグ視点のシーンが増えることには別の問題も絡んでいて、それは「この物語はどっちへ向かおうとしているんだっけ?」ってのがボンヤリしてくることだ。
最初に「ジョーイが盗まれた拳銃を取り戻そうとする」という目的が提示されており、だからジョーイは盗んだオレグを見つけ出そうとする。
ところが、途中で拳銃はオレグの手から離れて別の人間に移る。
そうなると、もはやジョーイがオレグを追い掛ける必要は無くなってしまうのだ。それでも組織やアンゾ、ライデルはオレグが拳銃のありかを知っていると思っているので、まだ彼が危険な状態にあることは間違いない。
しかし主人公であるジョーイがオレグを追い掛ける必要は無くなってしまい、そうなると「ジョーイの話」と「オレグの話」は完全に分離してしまうのだ。
で、そこをどうやって繋げるのかと思っていたら、デズ&エデルという夫婦が介入し、本筋とは何の関係も無いところでサスペンスを作り出す。で、テレサが乗り込んでオレグを助け、連続児童誘拐&猟奇殺人鬼だったデズ&エデルを銃殺するという展開へ持って行く。
もはや本筋が何なのかサッパリ分からなくなっちゃうぞ。テレサが救い出した後、ジョーイがオレグを預かることになる。
でも、そこでようやく2人をコンビにさせても、本筋が見えなくなっている時間が長すぎるわ。
そこに来てジョーイは「昔、ある子供に会った。父親がクズで、酒ばかり飲んで母親に暴力を振るっていた。復讐の機会を狙っていた彼は14歳の朝、バットで父親を殴り付けた。それから父親はロクにスプーンも握れず、すっかり物覚えも悪くなった。自業自得だ。あと4年待て。それまでは辛抱してるんだ」と彼なりの言葉でオレグを励ましている。
だけど、今さら「ジョーイがオレグに情を抱く」とか、「2人が絆で結ばれる」とかいうドラマをやろうとしても、そりゃ遅すぎるわ。それと、徹底的にシリアスで殺伐としているのも、マイナスではなかったか。
もちろん「ヒリヒリするようなテイスト」ってのを意図的に作っているんだろうし、なんでもかんでも余裕や緩和が必要ってわけではない。徹頭徹尾、シリアスでハードボイルドな暴力映画だって、世の中には幾らでもある。
しかし、この映画に関しては、少しぐらいのユーモラスなテイストが散りばめられていた方が良かったんじゃないか、ある程度の緩和があっても良かったんじゃないかと感じるんだよなあ。
仮にそれが意図的なユーモアじゃなくて、「シリアスにやっているのに、過剰な描写や芝居のせいで滑稽に見えてしまう」という形であっても、それはそれで結果オーライだ。この映画で不愉快だったのは、虐待男のアンゾを最終的に「オレグを心から愛する父親」として描いていることだ。
ミラに「イワンの組織で娼婦をしている時に妊娠した。中絶を要求されたけど断ったら連中はアンゾを差し向けた。でもアンゾはジョン・ウェイン気取りで私を助けてくれた。私の借金をチャラにするよう直談判し、怒ったイワンが殺し屋を差し向けようとすると私と結婚して守ってくれた。でも代わりにシマを終われ、組織では仕事が出来なくなった」とアンゾを擁護する説明をさせている時点で、ヤバい匂いはする。
だが、それより問題なのは、アンゾに「オレグを殺す命令を拒絶して射殺される」というヒロイックな死に様を用意していることだ。
「ジョン・ウェインを気取っている」ということではあるが、そうすることによって、彼のオレグに対する虐待行為が正当化されてしまうのだ。もちろん、これは「モラルなんて吹っ飛ばせ」ってなノリで作られている映画だし、どんな映画も品行方正な内容でロールモデルになるような人物ばかりを出さなきゃいけないってわけではない。
だけど、最低限のルールってのはあると思うのよ。
この映画に関して言えば、登場人物がモラルに反する行為を繰り返すのは一向に構わない。殺し合いだって、もちろんOKだ。アンゾがオレグを虐待するってのも、そういうキャラなんだから構わない。
しかし、そいつを善玉として着地させ、虐待を正当化しちゃうのはアウト。
それは踏み越えちゃいけないラインだ。(観賞日:2014年2月14日)
第29回スティンカーズ最悪映画賞(2006年)
ノミネート:【最も腹立たしい言葉づかい(男性)】部門[ポール・ウォーカー]