『ランナーランナー』:2013、アメリカ

プリンストン大学に通うリッチー・ファーストは、オンラインカジノで負けた教授から「賭け金を取り戻したい」と相談される。リッチーは彼に、「割引クーポンは差し上げましたが、俺に賭け金が入るわけではないんです」と説明する。かつて彼はウォール街の大手投資会社で働いていたが、ボーナスを貰う直前にリーマン・ショックで倒産した。リッチーは学部長のモンローに呼び出され、オンラインカジノを運営して稼いでいることを指摘される。学生のポール・アルノーが父に話したことで、モンローの耳に入ったのだ。
リッチーは「俺は何も盗んでいません。それに俺は過去の報酬が高すぎるという理由で奨学金が貰えないんですよ」と訴えるが、モンローは校則を守るよう要求する。リッチーは「カジノをやっているんじゃなく、サイトのアフィリエイトで稼いでいるだけです」と言うが、モンローはカジノと手を切らなければ退学にすると通告した。そこで彼は卒業の学費を稼ぐため、オンラインカジノで「ミッドナイト・ブラック」に全財産を投入した。勝てると確信したリッチーは、親友のクレイグに反対されても構わずに続けた。
惨敗に終わったリッチーだが不審を抱き、友人のライオネルに調べてもらうと通常の勝率を遥かに超越していることか判明した。彼はギャンブル狂である父のハリーを訪ね、コスタリカに知り合いがいないか尋ねる。リッチーはミッドナイト・ブラックの運営会社を経営するカジノ王のアイヴァン・ブロックに会おうと考えたのだが、ハリーは「何のツテも無い」と告げる。そこでリッチーはコスタリカへ乗り込み、アイヴァンに会おうと決めた。
クレイグが「負けを認めたくないだけだろ」と告げて反対するが、リッチーは耳を貸さない。「どうやってブロックに近付くつもりなんだ。会えたとしても、あっさり金を返すと思うのか」とクレイグが言うと、リッチーは「この大学で修士号を取れば人生が変わる。俺の最後のチャンスだ」と告げた。コスタリカに赴いたリッチーは、カジノサイトを運営するペットやアンドリューと出会った。ミッドナイト・ブラックのエキスポ会場へ出向いたリッチーは、アイヴァンのビジネスパートナーであるレベッカに話し掛けて「明日の夜、参加したい」と告げた。会場の監視カメラを見つけたリッチーは、「サイトは詐欺だ。証拠もある」と書いた紙を掲げた。
警備員によってアイヴァンの元へ連行されたリッチーは、イカサマの証拠となる資料を提示した。するとアイヴァンは、翌朝になってリッチーを船へ呼び出した。彼は「調べてみたら、バックドアを作っていた何人かのプログラマーがいた。申し訳ないが、会社がやったわけじゃない」と説明し、ネットで暴露せず報告してくれたことに礼を述べた。アイヴァンは賭け金を返却してペントハウス・スイートを用意したこと、卒業までの学費を振り込んでおいたことを話す。それから彼は「前とは違って、一流企業で良い仕事に就ける確率なんてランナーランナーでフラッシュの確率みたいなモンだろ。4%程度だ」と語り、自分の下で働かないかと持ち掛けた。
3年後には8桁の年俸になると言われ、リッチーは乗ることにした。彼はアフィリエイト改革を実施し、部下としてペットとアンドリューを雇い入れた。あっという間に3ヶ月が経過し、リッチーはレベッカ以外の全てを手に入れたと感じていた。アイヴァンはコスタリカのギャンブル責任者であるエレーラと会い、いつもの金を支払う。しかしエレーラは不足なので倍額を持って来るよう要求し、オンラインカジノを害悪だと思っている議員もいるのだと告げた。
アイヴァンはリッチーがレベッカと親密に話している様子を目撃し、桟橋へ呼び出した。彼はリッチーに、「ロンドンから来るシェッキーという男と会え。そいつと組めば売り上げが10%は上がる。契約を取れたら、そいつの歩合がお前に入る」と述べた。その翌日、リッチーはFBIのシェイヴァース捜査官に拉致される。シェイバースはアイヴァンを逮捕しようと目論んでおり、協力しなければアメリカには帰国できないと脅しを掛けた。
リッチーはアイヴァンに、FBIの脅しを受けたことを話した。するとアイヴァンはシェイヴァースのことを知っており、「逃げたければ逃げて構わない。だがヤバいことはやってない。仮に犯罪だとしても、管轄が違う。あいつらは、この国では駐禁の切符も取れない」と語った。リッチーはシェッキーと会い、「誘導した客の33%を貰う。今の会社は条件を飲んでくれたぞ」と告げられる。アイヴァンの会社では30%の条件だが、リッチーは「1日だけくれ。ボスに話してみる」と言う。
アイヴァンは「パーセンテージは譲歩できない」と告げ、相手の弱みを見つけろと指示した。リッチーが美女を用意すると、シェッキーは簡単に肉体関係を持った。妻子あるシェッキーは後悔し、30%の条件で組むことを承知した。リッチーはアイヴァンからボーナスとして大金を貰い、クラブへ繰り出した。彼はレベッカと踊り、肉体関係を持った。翌朝、ペットはFBIに脅されたことをリッチーに告げ、アメリカへ帰国することを決めた。
アイヴァンはリッチーに電話を掛け、仕事を指示した。リッチーはアイヴァンの部下であるウィルソンとカジノで会い、貸金庫の金を受け取る。それからエレーラの元へ行き、金を渡した。するとエレーラは不足だと告げ、手下たちにリッチーを暴行させた。戻ったリッチーに抗議されたアイヴァンは、「コスタリカでギャンブルをやっていたら、殴られることぐらいあるさ」と告げる。リッチーは帰国しようとするが、空港にはFBIの手が回っていたため麻薬所持の疑いで逮捕されてしまう。それはシェイヴァースの仕掛けた罠であり、リッチーはパスポートも取り上げられてしまう。シェイヴァースは「協力すれば釈放する。拒否すれば刑務所に入る覚悟はしておけよ」と言い、リッチーを帰らせた。
カジノに戻ったリッチーはアンドリューから、客の口座に金が残っていないことを聞かされる。支払いの時は別の口座から出す仕組みになっており、アイヴァンは客の金を使い込んでいるというのだ。全てが詐欺だと知ったリッチーに、アイヴァンはハリーがカジノで偽札を使う防犯カメラの映像を見せた。彼は「俺が見つけなきゃ親父さんは破滅だった。どのカジノでも借金まみれでヤバい状況だ。マズい男から大金を借りてたが、俺が肩代わりした」と語り、「親父さんは安全だし、俺たちの関係も今まで通りだ」と告げた…。

監督はブラッド・ファーマン、脚本はブライアン・コッペルマン&デヴィッド・レヴィーン、製作はアーノン・ミルチャン&ジェニファー・デイヴィソン・キローラン&レオナルド・ディカプリオ&マイケル・シャンバーグ&ステイシー・シェア&ブライアン・コッペルマン&デヴィッド・レヴィーン、製作総指揮はエリック・ホルンバーグ&ブラッド・ウェストン、撮影はマウロ・フィオーレ、美術はシャリーズ・カーデナス、編集はジェフ・マカヴォイ、衣装はソフィー・デ・ラコフ、音楽はクリストフ・ベック。
出演はジャスティン・ティンバーレイク、ベン・アフレック、ジェマ・アータートン、アンソニー・マッキー、マイケル・エスパー、ジョン・ハード、ベン・シュワルツ、ユル・ヴァスケス、ボブ・ガントン、オリヴァー・クーパー、クリスチャン・ジョージ、ジェームズ・モリーナ、ルイス・ロンバルディー、ヴィンセント・ラレスカ、バーニー・O・ラモス・ロブレド、サム・パラディオ、デヴィッド・コスタビル、ジョーダン・ベッダー、ダイオ・オケニイ、マイク・サンペドロ、ランドール・M・コルシ、クリフォード・E・マイアットJr.、ローラ・アレマン、ダグ・ワインバーグ他。


『リンカーン弁護士』のブラッド・ファーマンが監督を務めた作品。
脚本は『オーシャンズ13』『ガールフレンド・エクスペリエンス』のブライアン・コッペルマン&デヴィッド・レヴィーン。
リッチーをジャスティン・ティンバーレイク、アイヴァンをベン・アフレック、レベッカをジェマ・アータートン、シェイヴァースをアンソニー・マッキー、ペットをマイケル・エスパー、ハリーをジョン・ハード、クレイグをベン・シュワルツ、エレーラをユル・ヴァスケス、モンローをボブ・ガントン、クローニンをオリヴァー・クーパー、ウィルソンをクリスチャン・ジョージが演じている。

88分という上映時間を考えると、そんなに丁寧に色んなことを描いている余裕が無いのは分からなくもない。
ただ、そうであっても、序盤の展開は拙速で雑だなあと感じる。
モンローから「カジノと手を切らないと退学だ」と通告されたリッチーが、即座に「じゃあ全財産をオンラインカジノでに注ぎ込んで増やそう」と決めるのは、ものすごくアンポンタンにしか見えるのだ。
こいつはキレ者という設定のはずなのに、いきなり浅はかさを露呈しているように思えるのだ。

「ポーカーではカモがいる。統計的に間違いない」と自信は見せているけど、そもそもリッチーがポーカーで勝つための理論を持っているとか、統計学のスペシャリストだとか、そういうことは全く示されていない。
モンローとの会話の中で、優秀な学生ってことに軽く言及しているだけだ。
学校の成績が優秀であっても、ギャンブルの強さとイコールではない。なので、自信満々でギャンブルに走るのは、愚かな行動にしか思えない。
リッチーがキレ者なら、他の方法は思い付かなかったのかと。

リッチーは「ミッドナイト・ブラック」がイカサマだと気付くが、そこも慌ただしい。
彼は負けた直後、ライオネルに調べてもらってイカサマだと確信している。つまり、「自信満々だったのに惨敗してショックを受ける。
しかし、ふとしたことでイカサマではないかと疑いを抱き」という手順が抜けているのだ。
モノローグでは「戦って負けるのは悔しい」と言っているけど、その悔しさなんて伝わらないまま次へ移ってしまう。

もっと根本的なことを言ってしまうと、「ウォール街の大手投資会社で働いていたが、ボーナスを貰う直前にリーマン・ショックで倒産」という設定を台詞で軽く処理していること自体、どうなのかと言いたくなる。
それってリッチーのキャラ造形において、かなり重要な要素じゃないのか。
そこでの経験から「頑張るだけではダメ」「タダ乗りは無理」という教訓を得たらしいけど、ドラマの中で全く活用されていない。
そういう背景を全て無かったことにしても、まるで内容や印象に変化は起きない。

リッチーはクレイグからコスタリカ行きを反対されると、「この大学で修士号を取れば人生が変わる。俺の最後のチャンスだ」と告げる。
だけど、リッチーがそこまでプリンストン大学での修士号に対して必死になっていることが全く伝わって来ない。
「最後のチャンスだ」と言っているけど、そこまで追い詰められている印象も全く受けない。
リッチーから他の選択肢を奪い取るための作業が何も無いので、彼がオンラインカジノに全財産を投じたり、コスタリカへ乗り込んだりする行動が全て「衝動的で軽い」という印象になるのだ。

何の当ても無いままコスタリカへ行っても、簡単にブロックと会うことが出来るんだから、やっぱりリッチーは利口な奴ってことになるのかもしれない。
ただ、それよりも「安易な御都合主義がまかり通っている」という印象の方が強い。
もちろんリッチーは適当に動いているだけでブロックに会えたわけじゃなくて、「監視カメラにメッセージを表示することで警備員に連行される」という作戦は取っている。
でも、それは「優れた知恵」を感じさせるようなアイデアでもないし。

リッチーはブロックに誘われると、あっさりと彼の会社で働くことを決める。
「プリンストン大学で修士号を取るのが最後のチャンス」ということで、オンラインカジノに全財産を投入してまで学費を稼ごうとしていたのに、ブロックの「一流企業で良い仕事に就ける確率なんて、ランナーランナーでフラッシュの確率みたいなモンだろ」という言葉で簡単に宗旨替えしてしまうのだ。
なので、やっぱり軽い奴だなあという印象になってしまう。
っていうか実際、リッチーは軽い奴だよ。

リッチーが「本人はキレ者だと思っているけど実際は隙だらけ」という設定なら、それでも別にいいだろう。
だけど、「調子に乗っている自信過剰の学生」じゃなくてウォール街で大金を稼いでいた男なんだから、それだとマズいんじゃないかと。
それに実際、設定としても単なる浮かれポンチの男じゃなくて、頭脳明晰な奴ってことになっているわけだし。
ただ、リッチーとアイヴァンの間で高度な頭脳戦が繰り広げられるのかというと、そんな展開なんて無いんだけどね。

リッチーがブロックの会社で働き始めると、彼のナレーションによって「瞬く間に3ヶ月」が過ぎてしまう。
その間にアフィリエイト改革は実施したらしいが、「俺は全てを手に入れた」と語られても「いや何が?」と言いたくなる。そんなに簡単なナレーションと短い映像だけでは、彼が手に入れた物なんて何も伝わって来ないぞ。「それまで学費の支払いに苦しむ学生だったが、金に不自由の無い立場に」という急激な変化なんて、これっぽっちも見えて来ないぞ。
あと、「ただ一つを除いて」ってことでレベッカに惚れていることが示されるが、そこも雑な処理だなあと。出会った時から惚れていた設定なのかもしれないけど、恋愛劇は超が付くほど薄くて浅い。
まあ他の要素にしても、大して変わらないんだけどさ。

リッチーはシェイヴァースに脅された後、アイヴァンから「お前は今までさんざん辛い目に遭って、自分の力を証明したいと思ってる。今がその時だぞ」と告げられる。その言葉を受けて、リッチーは仕事を続けると決める。
だけど、彼が「今までさんざん辛い目に遭っている」という様子なんて、何も描かれていなかったわけで。ウォール街で金持ちになる寸前に会社が倒産したことが、台詞で軽く語られるだけであって。
その前提条件が確立していない中で「自分の力を証明したいと思ってる」と言われても、「そうなの?」と。
そういう設定だとしても、それを表現するための中身が足りていないわ。

リッチーはエレーラの手下たちに暴行され、アイヴァンに「これからも、こういうことはある」と平然と言われ、ようやく帰国する気になる。でも「時既に遅し」で、もうFBIが手を回していて出国できない状態になっている。
ここはリッチーが窮地に追い込まれており、同情心を抱くべきなのかもしれない。
でも、そこまでに帰国するチャンスは幾らでもあったわけで。
リッチーは調子に乗って欲にまみれたせいでドツボにハマっただけなので、「そりゃそうだろ」としか感じない。

そこに限らず、とにかく最初から最後までリッチーという男に何の魅力も感じないし、まるで感情移入できないし、同情する気も応援する気も起きない。それが本作品の大きな欠点になっている。
最初は調子に乗った奴であっても、痛い目を見て反省するとか、心を入れ替えるとか、そういうドラマが用意されていれば何とかなるだろう。だけど、こいつは最後まで根っこの部分が変わらないのよね。
途中で帰国しようとする展開はあるけど、それは「逃げないとヤバい」と思ったからであって、自身の行動を反省したり後悔したりしているわけではない。
自分も犯罪の片棒を担いでいるのだが、被害に遭った人間に対する意識は皆無だし。

リッチーにはギャンブル依存症の父親がいて、後半には「偽札を使おうとしたのをアイヴァンが見つけ、借金を肩代わりする」という展開が用意されている。つまり、ハリーの存在がリッチーを追い詰めることになるわけだ。前半で登場した時は、その場限りのキャラのように思えたが、ちゃんと活用しているわけね。
ただ、ハリーが息子に対する罪悪感や反省の気持ちを全く見せず、「お前だけでも同じ過ちを犯すな。ギャンブルの地獄から、さっさと逃げろ」と告げるので、「どの口が言うのか」と言いたくなる。
テメエのせいで、逃げようにも逃げられなくなっちゃってるんだよ。まずは忠告や助言じゃなくて、詫びを入れろよ。
なぜかハリーを「息子思いの良い父親」みたいに描こうとしているけど、ただのクズだぞ。

終盤の展開について、完全ネタバレを書く。
リッチーはアイヴァンが自分に罪を被せて逃亡しようと企てていることを知り、逆転するための行動に出る。レベッカに協力してもらい、会社の裏金を盗んで買収工作を繰り返す。シェイヴァースから証拠の提出を強要されると、逃げたアンドリューの部屋を調べて犯罪の詳細を記録したUSBメモリを発見する。
アイヴァンが逃亡に使うプライベートジェットの機長を買収し、目的地のアンティグアではなくプエルトリコへ着陸させる。プエルトリコはアメリカ合衆国の管轄下なので、アイヴァンはFBIに逮捕される。リッチーはシェイヴァースにUSBメモリを残し、レベッカと共にプライベートジェットで離陸する。
つまり、当たり前っちゃあ当たり前だが、最終的にはハッピーエンドが用意されているのだ。

しかし、リッチーがアイヴァンを罠に掛けて逮捕させるのはいいとして、「本人は無罪放免」「レベッカと仲良く逃げる」「ハリーも無事に帰国する」と何のダメージも受けないままで終わっているのは、どうにもスッキリしない。
カジノの詐欺には加担していなかったけど、全面的に被害者ヅラできる立場でもないだろ。
あと、表面的には逆転劇だけど、リッチーがやったことって大勢に賄賂を渡しただけだし。結局のところ、レベッカの協力が無ければ成功は無かったわけだし。
なので、そういう意味での高揚感も無いのよね。

(観賞日:2017年12月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会