『ラン・オールナイト』:2015、アメリカ

クリスマスのブルックリン。マフィアのボスであるショーン・マグワイアに雇われていたジミー・コンロンは、酒浸りの日々を送っている。彼はショーンの息子であるダニーに、「親父さんに暖房が壊れたと言ったら、アンタに借りろと」と告げる。ジミーを馬鹿にしているダニーは金を差し出すが、ドタキャンした男の代理としてサンタ役を担当するよう指示する。ショーンが「勘弁しろよ」と困惑すると、彼は「だったら部屋で凍えてろ」と冷淡に告げた。
リムジンの運転手として働くマイクは、ボクシングジムでレッグスという黒人少年のコーチをしている。レッグスが浮付いた態度を見せると、マイクは「才能があるのに潰すことばかりしている」と説教する。ダニーはショーンにアルバニア人のヴィクターを紹介し、品物を運び込むための協力を持ち掛けた。ダニーは「タンカーの荷揚げで目をつぶってくれればいい」と言うが、その品物がヘロインだと知ったショーンは「ビジネスは変化した。俺は合法的な実業家だ」と協力を拒否した。
ダニーは父を説得しようとするが、ショーンはヴィクターに立ち去るよう要求した。ヴィクターはダニーに、「口利き料を返せ。お前の家へ取りに行く」と告げる。ショーンはダニーから「あいつらと約束した。今さら取り消せない」と言われ、「お前のミスだ。自分でケリを付けろ」と突き放した。マイクは妊娠している妻のギャビー、娘のケイトリン&リリーと平穏に暮らしている。彼は父のジミーを嫌っており、ずっと会っていない。マイクは金を稼ぐため、クリスマスでも仕事に出掛ける。
ジミーはマグワイア邸のクリスマス・パーティーにサンタの格好で参加するが、酒の匂いを撒き散らしながら子供と接する。ショーンの部下であるフランクの妻が娘を連れて来ると、ジミーは下品な言葉を口にした。カッとなったフランクが掴み掛かろうとすると、ショーンの腹心であるパットが制止した。ジミーは誤って暖炉に手を突っ込み、火傷を負って子供たちを罵った。ジミーは洗面所で手を冷やし、ショーンはパットに「何か食わせて水を与えろ」と指示した。
ショーンにとってジミーは単なる子分ではなく、若い頃からの親友だった。彼が「どうしたんだ、話せよ」と優しく声を掛けると、ジミーは「眠れないんだ。殺した奴らが夢に出てくる」と吐露した。ショーンが「やらなきゃ、こっちがやられてた」と言うと、ジミーは「俺の人生には、もう誰も残ってない」と口にする。ショーンはジミーに「俺を見ろ」と促し、「どこへ行こうと、一線を越える時は一緒だ。俺と、お前と」と告げた。
その夜、マイクはリムジンにヴィクターを乗せ、ダニーの家へ向かう。ジミーがレストランにいると、殺人課のジョン・ハーディング刑事が新しい相棒のオスカー・トーレスを伴って現れる。ハーディングはジミーを見つけると、オスカーに「ショーンの殺し屋だった頃からの腐れ縁だ」と説明した。彼は「検事までショーンに買収されてる。殺し屋は野放し。何人殺した?」とジミーに言い、「アーニー・ヘイズの未亡人から毎年、手紙が届く。新しい情報は無いかと25年後も決着を求めてる。俺の机は、そんな手紙が山積みだ。うなされて眠れない時は、俺に電話しろ」と語った。
ヴィクターと側近を迎えたダニーは、ヘロインでハイになっていた。リムジンで待機していたマイクは自転車を走らせるレッグスを目撃し、「危ない場所には近付くな」と注意する。レッグスが「リムジンに乗せてくれたら帰る」と約束したので、マイクは承諾した。ダニーはヴィクターに金を渡さず、同席した友人のキーナンと共に嘲笑する。ダニーはヴィクターを射殺し、側近にも怪我を負わせる。側近が外へ逃げ出したので、ダニーは後を追った。
リムジン内部を携帯で撮影していたレッグスは、ダニーに気付いてマイクに教える。マイクはダニーが側近を殺す様子を目撃し、伏せるようレッグスに指示した。マイクはダニーに気付かれ、顔見知りだったので「俺だ、マイクだ」と告げる。ダニーは拳銃を突き付け、彼を家に引っ張り込む。マイクはダニー&キーナンと戦い、現場から逃走する。帰宅した彼は、妻が娘たちを連れて兄のリッキーを訪ねていると知る。彼はローズに電話を掛け、自分が呼び戻すまで留まるよう指示した。
ジミーはショーンから連絡を受けて事情を知り、マイクの家へ赴いた。ショーンはパットに、家から出ないようダニーに伝えるよう指示した。しかしダニーは命令に従わず、マイクの抹殺に向かう。マイクはジミーの訪問を歓迎せず、「家族に近付くな」と拒絶する。ジミーは警察に連絡しないようマイクに約束させ、立ち去ろうとする。しかしダニーが忍び込んでマイクを殺そうとしたので、銃弾を浴びせて殺害した。彼はショーンに電話を掛け、事情を説明した。するとショーンは、「どうなるか分かるな?お前もだ」と告げた。マイクは父に「出て行け、失せろ」と怒鳴って追い払った後、警察に連絡して「父が男を殺した。正当防衛だ」と告げた。
マイクの家へ駆け付けた警官のコルストンとランドルは、ショーンの組織に買収されている連中だった。彼らは問答無用でマイクに手錠を掛け、フランクの元へパトカーで連行しようとする。外で張り込んでいたジミーは追跡し、パトカーをクラッシュに追い込んだ。彼は2人を始末し、マイクを救い出す。フランクが追って来たため、ジミーはマイクを連れて地下鉄構内へと走る。ジミーはトイレでフランクと格闘し、抹殺してから地下鉄に乗り込んだ。
ショーンはパットに、「死体をマイクの車に積み、警察の目に付く所に置け。マイクを犯人に仕立て上げろ」と命じる。ジミーはマイクの「出頭する」という言葉に、「まだだ。お前の家族も危ない。生き延びることだけを考えろ。一晩だけ我慢するんだ。朝になってもケリが付かなかったら、俺が出頭する」と語る。彼はリッキーの家にいる家族の無事を確認するようマイクに指示し、「連絡するまで動くな」と告げる。ショーンは泣いて詫びるキーナンを抱き寄せ、ナイフで何度も突き刺して惨殺した。
ジミーはハーディングに電話を掛け、「助けてくれ。息子を救ってくれたら、警官殺しで自首する」と告げる。ハーディングは「お前が殺した全員の名前を教えれば、息子の話を聞いてやる」と述べた。ショーンの手下たちはリッキーの家へ乗り込み、マイクは妻と娘2人を連れて風呂場に隠れる。リッキーはローズの居場所を問われ、来ていないとシラを知る。手下たちは脅しを掛けるが、ショーンからの電話を受けて立ち去った。
ジミーは思い出のレストランでショーンと会い、息子の助命を嘆願した。彼は「俺がダニーを殺した。殺し屋を差し向ければ、銃を置いて迎える」と言うが、ショーンは「必ずお前の息子を仕留める。この店でお前と再び会い、それからお前も殺す」と言い放った。ジミーはマイクと合流し、町を離れるよう説いた。しかしマイクが「ジムに来てる子が一部始終を目撃している。その子を捜し出す」と言ったので、ジミーは同行することにした。一方、ショーンはジミーとマイクを抹殺するため、殺し屋のプライスを呼び寄せた…。

監督はジャウマ・コレット=セラ、脚本はブラッド・イングルスビー、製作はロイ・リー&ブルックリン・ウィーヴァー&マイケル・タドロス、製作総指揮はスティーヴン・ムニューチン&ジャウマ・コレット=セラ&ジョン・パワーズ・ミドルトン、製作協力はレイモンド・クインラン、撮影はマーティン・ルーエ、美術はシャロン・シーモア、編集はダーク・ウェスターヴェルト、衣装はキャサリン・マリー・トーマス、音楽はトム・ホルケンボルフ。
主演はリーアム・ニーソン、共演はジョエル・キナマン、ヴィンセント・ドノフリオ、エド・ハリス、コモン、ブルース・マッギル、ジェネシス・ロドリゲス、ボイド・ホルブルック、ホルト・マッキャラニー、ロイス・スミス、ラシャ・ブコヴィッチ、パトリシア・カレンバー、マルコム・グッドウィン、ジェームズ・マルティネス、ボー・ナップ、トニー・ナウモフスキー、リサ・ブランチ、オーブリー・オマリー・ジョセフ、ジュリア・チッチャーリ、キャリントン・メイヤー、ギャヴィン・=キース・ウメー、アーニー・アナストス、アル・トラウツウィッグ、ロデリック・ヒル他。


監督のジャウマ・コレット=セラと主演のリーアム・ニーソンが『アンノウン』『フライト・ゲーム』に続いて3度目のタッグを組んだ作品。
脚本は『ファーナス/訣別の朝』のブラッド・イングルスビー。
マイクをジョエル・キナマン、ジョンをヴィンセント・ドノフリオ、ショーンをエド・ハリス、アンドリューをコモン、パットをブルース・マッギル、ガブリエラをジェネシス・ロドリゲス、ダニーをボイド・ホルブルック、フランクをホルト・マッキャラニーが演じている。
アンクレジットだが、ジミーの兄のエディー役でニック・ノルティーが出演している。

『アンノウン』は3000万ドルの製作費で、アメリカでの興行収入が約6100万ドルというヒット作となった。
続く『フライト・ゲーム』では製作費が5000万ドルに上積みされたが、興行収入も約9100万ドルまでアップした。
そこまでは順調に来ていたわけだから、ジャウマ・コレット=セラ&リーアム・ニーソンの3度目のタッグとなる作品には映画会社サイドも期待したことだろう。
しかし本作品は、製作費が『フライト・ゲーム』と同じ5000万ドルで、アメリカでの興行収入は約2600万ドル。
完全にコケたわけである。

冒頭、森で深手を負って倒れているジミーの姿が写し出され、「俺は多くの罪を重ねてきた。永遠に許されはしない。報いがあることは分かっていた。罪は必ず自分に跳ね返る」というモノローグが語られる。
そこから「16時間後」に時間を遡る構成になっている。
なので観客は、最終的にジミーが死ぬんだろうってのが何となく予測できる状態で、物語の進行を見守ることになる。
そのモノローグを回収するためには、ジミーが殺さなきゃスッキリと終われないだろうからね。

「16時間後」に戻ると、ジミーが酒に溺れており、ダニーに金を無心して馬鹿にされる情けない姿が描かれる。
しかし、ジミーが単なるヘタレじゃないことは、事前に情報を得ていなくても分かる人が大半だろう。ここ最近のリーアム・ニーソンのフィルモグラフィーとか、ジャウマ・コレット=セラと組んだ前の2本を知っていれば、バレバレと言ってもいい。
っていうか、どうせ少し経ったら「ショーンの殺し屋だった」という説明が入るので、「今でも本気になれば強い奴」ってのは分かるしね。
だから、最初にジミーをアル中の情けない男として見せるのは、話の作りとして大きく外しているわけではないけど、大した効果は期待できない。

序盤からジミーが過去の殺人に苦悩していること、うなされて眠れないことが何度もアピールされている。最初のモノローグからして、そこに触れているしね。
でも「ジミーが過去の殺人に苦しんでいる」という要素は、後の展開には見事なぐらい結び付いていない。
ジミーはマイクを救うため、組織を敵に回して戦うことになるので、そんなことは気にしていられなくなるのだ。
ザックリ言うと「飲んだくれだったオッサンが息子を助けるために戦闘本能を取り戻す」という話なので、過去の罪に苦悩して云々なんてのは真逆の要素と言ってもいいぐらいなのだ。

ジミーが酒浸りの情けない奴に成り下がっているのも、「過去の殺人のせいで眠れなくなっているのが原因」という設定が必要不可欠というわけではない。
例えば「妻が死んでから酒浸りの日々に」とか、「息子に拒絶されて酒浸りの日々に」とか、そういうことでもいい。っていうか、この映画の粗い作りを考えれば、もはや理由なんて何も用意されていなくても構わないぐらいだ。
そもそも前の2作だって、ヒットはしたけど、かなり雑な内容だったからね。そこを勢いとノリで突っ切ろうとするのが、ジャウマ・コレット=セラ&リーアム・ニーソンの映画だった。
しかし興行的に失敗したってことは、残念ながら今回は失敗したようだ。
そろそろ飽きられたのか、あるいは粗さがバレてしまったのか。

「ジミーが殺し屋だったせいで、マイクと彼の家族に危険が及ぶ」という内容にすると、ジミーがマイクたちを救ったところで「ドイヒーなマッチポンプ」ってことになってしまう。
だから、「マイクがダニーの殺人を目撃し、命を狙われる」という形にしてある。そうすれば、ジミーがダニーを殺したせいでマイクが組織から命を狙われることになっても、「それはジミーが悪いんじゃなくて、マイクを守るためにしたことだ」という言い訳が成立する。
ただし、ダニーを殺したのはジミーなので、ショーンが執拗にマイクを殺そうとするのが「ワケの分からない行動」になってしまう。
これが「ダニーがマイクを殺そうとして、逆に殺された」ってことなら、逆恨みであっても「息子の復讐でマイクを狙う」ってのは理解できる。
でも、そうじゃないんだから。ショーンが「イカれた野郎」というキャラならともかく、かなり頭のキレる冷静な男のはずで。
息子が殺されて冷静な判断力を失っていると捉えても、そこは不自然さが否めない。

それと、「ジミーとショーンは昔からの親友」という設定にしてあることが、まるで効果を発揮しているように思えないのよね。
「ダニーを殺したジミーと、その息子のマイクをショーンが抹殺しようとする」という筋書きにおいて、「友情」という要素は何の影響も及ぼしていない。
単に「マフィアのボスと、その殺し屋」という関係性だったとしても、ほとんど内容は変わらないでしょ。
一応、終盤には2人の対決もあるんだけど、あんまり高揚感は無い。

ジミーはハーディングからマークされていて憎まれているが、息子のために助けを求めたら味方になってくれるという展開がある。
しかし、やりたいことは分かるけど、それを上手く表現できているとは到底言い難い。
「ハーディングはジミーを逮捕しようとしているが、ある種のリスペクトを感じているので、危機に陥った彼の味方になる」ってな感じで見せたいんじゃないかとは思うのよ。
でもハーディングにとってジミーって、ただの腐れ外道に過ぎないはずで。
だから段取りだけが上滑りして、中身が伴わない状態と化している。

ジミーはマイクから「もっと前に逮捕されて償うべきだった」と批判されると、「刑務所に入らなくても、報いは受けてるさ」と告げる。
でも彼は犯した罪を認めず、法の裁きを逃れ、のうのうと暮らしているわけで。
「悪夢にうなされているのが報い」という考えなんだろうけど、それは犯した罪に対する報いとして全く足りていないのよ。だから、そんなことを堂々と息子に言うのは、開き直って自身の殺人を正当化しているようにしか思えないのよ。
うなされて苦悩していることを吐露するぐらいなら、過去の罪を悔いて反省しろよ。
彼のマイクに対する発言からすると、「殺した連中が夢に出て来てうなされるけど、反省や贖罪するつもりは無い」ってことになるぞ。

ジミーはレッグスの家へマイクと共に向かう途中、「家を出て行ったから怒ってるのか。それは誤解だ。俺がしたことは、人間を変えてしまう。普通の生活には戻れない。お前たちを守るには、出て行くしか無かった」と語る。
だけどね、そもそもマフィアの殺し屋をやっていなかったら、「普通の生活には戻れないから出て行かなきゃ」なんて状況に陥ることも無いわけで。
殺し屋稼業で結婚して子供を作り、「守るために家を出た」と自分が間違っちゃいないかのように堂々と主張するのは、どう考えても開き直りだわ。

それでもジミーはマイクを守るために頑張って、ようやく息子気持ちを掴んだかと思ったら、終盤に入って「実はショーンの組織を守るため、マイクの従兄のビリーを抹殺していた」ってことが判明する。
その辺りでショッキングな情報を提示することによって、物語に波を立たせたかったんだろうとは思うよ。
でも、それによってジミーの好感度アップ大作戦は全て台無しになっちゃってるよ。
幾らビリーがヤク中であろうと、組織の情報を警察にゲロするリスクがあろうと、その殺しは全く釈明の余地が無いぞ。

ジミーは組織を壊滅させ、ショーンと対峙して死を見届け、マイクと彼の家族がいる湖畔の別荘へ赴く。そこへプライスが来て彼とマイクを殺そうと襲い掛かって来るんだけど、ここが蛇足にしか思えない。
もうショーンは死んでいるし、プライスがジミーとマイクを狙う理由が無いのよ。ジミーとプライスの間には、何の因縁も無いしね。
プライスが殺しを楽しむ奴だとか、自分なりのルールがあるとか、そんな設定があるわけでもないし。そもそも、何の中身も与えられていないようなキャラだからね。
その上に演じているのがコモンだから、エド・ハリスが死んだ後に「最後の敵」として対峙する相手としては「顔じゃないよ」と言いたくなるのよ。

(観賞日:2017年8月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会