『ロミオ・マスト・ダイ』:2000、アメリカ

アメリカ西海岸オークランドでは、チュー・シンが率いる中国系ギャングと、アイザック・オーディ率いる黒人ギャングが、勢力を二分していた。そんな中、チューの息子ポーが何者かに殺害されるが、チューとアイザックは事を荒立てないと約束した。
ポーの兄ハンは香港で刑事をしていたが、父と弟を逮捕しなかったことで、刑務所に入っていた。弟の死を知ったハンは、脱獄してアメリカへと渡った。ハンはアイザックの娘トリッシュと親しくなり、彼女のボディガードを務めるモリースの反感を買う。
アイザックはNFL誘致のために土地の取り立てを進めていたが、そんな中で息子のコリンが殺される。一方、ハンはコリンの隠していたメモを発見し、兄を亡くしたトリッシュと共に書かれていた住所の調査を始める。ハンはアジア系ギャングの倉庫を襲撃した一味の1人を捕まえて、事件の黒幕が中国系ギャングの中にいることを知る。
ハンは幼馴染みで組織の幹部でもあるカイに疑いの目を向けていた。だが、確かにカイは犯行に加担していたが、黒幕はチューであった。チューはアイザックの右腕であるマックと手を組み、互いの組織の人間を殺していたのだ。
マックはトリッシュを人質に取り、NFLチームの共同オーナーになろうとするアイザックに土地の権利書を渡すよう要求する。激しい銃撃戦の末に、アイザックは死亡した。ハンは父の屋敷に乗り込み、立ちはだかったカイとの1対1での戦いに挑む…。

監督はアンジェイ・バートコウィアク、原案はミッチェル・カプナー、脚本はエリック・バーント&ジョン・ジャレル、製作はジョエル・シルヴァー&ジム・ヴァン・ウィック、共同製作はウォーレン・カー、製作協力はミッチェル・カプナー&アイリス・リュートリンガー、製作総指揮はダン・クラッチオロ、撮影はグレン・マクファーソン、編集はデレク・G・ブリーキン、美術はマイケル・ボルトン、衣装はサンドラ・J・ブラッキー、マーシャル・アーツ・コレオグラファーはコーリー・ユエン、音楽はスタンリー・クラーク&ティンバランド。
出演はジェット・リー、アリーヤ、アイザイア・ワシントン、デルロイ・リンド、ラッセル・ウォン、ヘンリー・オー、DMX、D・B・ウッドサイド、ジョン・キット・リー、エドゥアルド・バレリーニ、アンソニー・アンダーソン、マシュー・ハリソン、テリー・チェン、デレク・ロウ、ローニン・ウォン、バイロン・ローソン、ケンダル・サンダース、ベンツ・アントワーヌ、キース・ダラス他。


ジェット・リーがハリウッドで初めて主演を務めた作品。トリッシュをアリーヤ、マックをアイザイア・ワシントン、アイザックをデルロイ・リンド、カイをラッセル・ウォン、チューをヘンリー・オー、黒人系ギャングが集まるカジノの店主シルクをDMXが演じている。

どうやらタイトルは『ロミオ&ジュリエット』から取っているようだが、内容は全く違っている。ハンとトリッシュをロミオ&ジュリエットに見立てているのかもしれないが、2人はそこまで惚れ合う関係にならないし、引き裂かれるわけでもない。
視覚効果を『マトリックス』のマネックス・ビジュアル・エフェクツが担当しているというのがセールスポイントらしいが、「敵を殴るとレントゲンのように骨が見える」という『必殺仕掛人』のような視覚効果(X-rayバイオレンスという名称らしい)は完全に滑っている。おまけに、それが大きな売りのはずなのに、ほとんど使われてないし。

どうも、ジェット・リーをアメリカのヒップ・ホップ文化に溶け込ませようとしているだが、完全にミステイクだろう。ひょっとするとジェット・リーをジャッキー・チェンと同じように扱おうとしたのかもしれないが、全くアクターとしてのキャラクターが違う。ジェットには、もっと東洋の神秘としての存在感を持たせた方が遥かに光ったはずだ。
ハッキリ言って、駄作である。何がダメって、ジェット・リーのアクションありきの映画なのに、ジェット・リーを光らせようとしていないのが決定的にダメ。製作サイドは、企画段階で過去のジェット・リー作品をちゃんとチェックしたんだろうか。

とにかく、アクション・シーンが少なすぎる。香港からカンフー・スターを招いておいて、どうしてカンフー・アクションをたっぷり披露させようとしないのか全く理解できない。黒人俳優にダラダラと喋らせる暇があったら、もっとアクションを見せなさいっての。
ジェット・リーの魅力をいかに引き出すかということを、製作サイドはまるで考えていないとしか思えない。自分達の考えた枠に、彼を当てはめようとしている。しかも、その枠を作ったのはジェットの良さを分かっていない人間なんだから、どうしようもない。

復讐心に燃えて脱獄までしたはずのハンが、トリッシュにニヤけていたり、ジョークを飛ばしたりして妙に呑気なのは、かなり違和感がある。どうしてユーモラスな味を持ち込もうとしたのか。シリアス一辺倒で構わないし、むしろそうすべき作品だと思うぞ。
ハンはノンビリしているばかりで、ちっとも犯人探しを進めようとしない。だから、話が進む中で、ハンは何もしていないということになる。とても主人公とは思えない状態だ。そして、なぜか脇役のはずのアイザックやマックの存在が強く出てしまう。

ハン以外のキャラクターの視点でのシーンが多くて、主役であるはずのジェット・リーの出番が少ない。ジェット・リーとアリーヤは同列の扱いなのかもしれないが、前述のように2人が惹かれ合うわけでもないし、トリッシュはアクションにほとんど関わらないわけだから、そうなるとアクション映画なのにアクションが少ないということになる。
人間関係も物語も、無駄にややこしい。アクション映画のはずなのに、アクションの邪魔をするように話をややこしくしてどうするのか。しかも、その入り組んだ人間関係が、ドラマの面白さを生み出しているわけでもないし。父親を黒幕に設定しちゃったもんだから、「最後に敵ボスを倒してカタルシス」という終わり方も出来なくなってるし。

アクション・シーンの撮影も、ジェットを分かっていないとしか思えない。ジェットはアクションが苦手なわけでもないし、スタントマンを使うわけでもない。だから、ワンカットを長めにして格闘の動きを見せれば、彼の良さは出る。ところが、やたら細かくカットを割ってしまうので、動きが良く分からず、彼の良さが消されてしまっているのだ。
最初の脱獄シーンからして、ジェットの良さを存分に引き出そうとしていない。自転車で外に出ようとしたところで警報ベルが鳴らされ、駆け付けた大勢の警官とのバトルになるのかと思ったら、何も起こらずあっさりとジェットは逃走に成功する。他の役者ならともかく、ジェットを起用した最初のアクションシーンとしては、拍子抜けだ。

アクション・シーンの作り方からして、イマイチだ。アメフト遊びでアクションを見せるぐらいなら、普通に敵との格闘シーンを増やしてほしい。終盤でジェット・リーが全く関わらないアクション・シーンを盛り上げるというのも、どういう考え方なのかサッパリ分からない。
あと、ワイヤー・アクションの見せ方もヘタ。ジェットにワイヤーを使わせるのなら、「超人的な動きだがスムーズに見える」という風にしないとダメだ。なのに、この映画では「いかにもワイヤーを使ってます」と強調するかのような動かし方、見せ方をしている。

コーリー・ユエンが武術指導を担当しているのだから、ジェットの良さは分かっているはずなのだが、華麗な足技も少ないし、動きも遅いように思える。アメリカの俳優とのバトルで、相手に合わせて動きを遅くするというのならまだしも、ラストのラッセル・ウォンとの戦いでも遅い。しかも、そのクライマックスのはずの戦い、今一つ盛り上がらないし。

 

*ポンコツ映画愛護協会