『ロッキー・ホラー・ショー』:1975、イギリス&アメリカ

暗闇の中に真赤な口紅を塗った大きな唇が浮かび上がり、『Science Fiction, Double Feature』を歌う。オープニング・クレジットが 終わると、デントンの教会からラルフとベティーという若者カップルが結婚式を挙げて外へ出て来た。式の参列者が集まり、記念写真を 撮影する。ベティーが投げたブーケを受け取ったのは、親友のジャネットだった。ラルフはジャネットと交際中の友人ブラッドに、「次は 君の番らしいな」と告げた。
新婚夫婦が車で出発した後、ジャネットはブラッドに結婚式での感動を語る。ブラッドはジャネットに愛を歌い、指輪を見せてプロポーズ する。ジャネットは大喜びし、歌で感激を表現する。2人はデュエットで愛を歌い、高校時代の恩師であるスコット博士へ婚約の報告へ 向かうことにした。画面には犯罪学者が登場し、観客に語り掛ける。彼はブラッドとジャネットの様子を写真に記録していた。
犯罪学者は「2人は11月の夜更けにデントンを出発し、恩師であるスコット博士を訪問します。嵐を予感させる雨雲が立ち込める中で、 スペアタイヤは空気漏れを起こしていました。しかし2人は恋に燃えていたため、嵐に負けるものかと張り切っていました。この夜は、 2人にとって忘れがたい夜となるのです」と述べる。ジャネットとブラッドの車は道を間違えたのか、行き止まりに辿り着く。ブラッドが 戻ろうとすると、タイヤがパンクした。ブラッドは、さっき見た城で電話を借りようと考えた。
雷が鳴る中で2人が城の敷地に辿り着くと、「危険を覚悟して中へどうぞ」という札があった。2人が庭を歩きながら歌っていると、 フランケンシュタイン城が見えてきた。チャイムを鳴らすと、せむし男のリフ・ラフが出て来た。「車が故障したので電話を借りたい」と ブラッドが言うと、リフ・ラフは2人を招き入れる。奥から賑やかな声がするので、ジャネットが「パーティーでも開いているの?」と 尋ねると、リフ・ラフは「特別な夜です。ご主人様のお祝いでして」と答えた。
リフ・ラフの妹マジェンタが現れ、「私もあなたも、みんなラッキーよ」と叫んだ。リフ・ラフは棺を開いてガイコツを見せ、マジェンタ と共にノリノリで歌い出した。奥の広間では、客であるトランシルヴァニア人の面々が歌い踊っていた。コロムビアという男装の娘も歌う 。ジャネットは気味が悪くなり、ブラッドに「出ましょう」と言う。しかし不安げなジャネットとは違い、ブラッドは呑気だった。
ジャネットとブラッドの背後に、エレベーターを使って城の主人であるマッド・サイエンティストのフランクン・フルターが現れて歌う。 彼はトランシルヴァニア星雲のトランスセクシャル星から来た宇宙人である。ブラッドが「電話を借りたい」と告げると、彼は「そんなに 慌てないで。今夜は泊まっていきなさい。いいものを見せるわ。人造人間を作ってるの」と言い、実験室へ来るよう促した。
ジャネットとブラッドはリフ・ラフたちによって強引に服を脱がされ、下着姿にされる。エレベーターで2階へ行くと、手術着に着替えた フランクン・フルターと客たちが待っている。フランクン・フルターは2人に上着を差し出した。彼は「生体実験の失敗によって、生命を 作るために必要な物を発見した」と語り、人造人間のロッキーを披露する。包帯を取られたロッキーは、「悲しい運命、転落の悲劇が 待ち受ける。悲劇の人生がこれから始まる」と歌い出す。
パンツ一丁になったロッキーを見たフランクン・フルターは、たくましい肉体と美しい顔にうっとりする。彼はロッキーにダンベルを プレゼントし、「強い男になるのよ、体を鍛えるの。一人前の男にしてあげる」と歌う。その時、巨大冷凍庫の扉が開き、オートバイに 股がった男が飛び出してきた。フランクン・フルターの失敗作である人造人間のエディーだ。コロムビアは喜び、ロックンロールを歌う エディーと踊る。リフ・ラフやロッキーたちもノリノリで踊った。
フランクン・フルターは不機嫌になり、逃げるエディーを追い回して始末した。彼はロッキーに「あれは安楽死よ。彼には筋肉が無い」と 告げる。筋肉を見せ付けるロッキーに、フランクン・フルターは「一人前の男にしてあげる」と歌う。彼はロッキーと手を取り合い、寝室 へ入った。ゲストの面々も姿を消す中、ブラッドとジャネットは別々の部屋へと案内される。リフ・ラフとマジェンタは、監視モニターで 2人の部屋の様子を見ていた。
夜、ジャネットがベッドにいると、フランクン・フルターが来て彼女を誘惑した。ジャネットはブラッドに言わないと約束をさせてから、 彼と関係を持つ。その間にリフ・ラフとマジェンタは、鎖に繋がれているロッキーを甚振った。ロッキーは鎖を外して逃げ出す。ブラッド の部屋にもフランクン・フルターが現れ、彼を誘惑して関係を持つ。そこへリフ・ラフから、ロッキーが城の敷地内に逃げたという報告が 入った。マジェンタが番犬を放ち、ロッキーは慌てて逃げた。
部屋を出たジャネットはモニターを作動させ、ブラッドの部屋にフランクン・フルターがいるのを目撃した。ショックを受けた直後、彼女 は番犬に追われて隠れていたロッキーと遭遇する。傷を手当てしたジャネットは、ロッキーに欲望を抱く。そんな様子を、マジェンタと コロムビアがモニターで見守っていた。2人はジャネットが欲望に陥落するのを期待していた。ジャネットは「私に触って、メチャクチャ にして」と歌いながら、ロッキーを求める。マジェンタたちはジャネットがロッキーに抱かれるのを眺め、浮かれて抱き合う。
フランクン・フルターはブラッドと共にエレベーターを降り、ロッキーに逃げられたリフ・ラフを鞭打った。その時、外のモニターに来客 の姿が写る。それはスコット博士だった。フランクン・フルターはブラッドを睨み、「ここへ来たのは偶然じゃないわね。仕組んだのね。 スコットの正体は分かってるわ。政府の依頼でUFOの研究をしているじゃないの」と語る。初耳なので、ブラッドは驚いた。
フランクン・フルターはスコットを招き入れ、「この城の調査にブラッドとジャネットを送り込んだわね。思い通りにはさせないわ。計画 が変わったの」と言う。するとスコットが「ブラッドがいることは知らなかった。エディーを捜しに来た。彼は私の甥だ」と言うので、 フランクン・フルターは激しく動揺する。その時、水槽でジャネットの声がした。フランクン・フルターが開けると、裸でシーツを被って いるジャネットとロッキーの姿があった。
マジェンタがフランクン・フルターたちの元に現れ、夕食の時間を知らせた。全員で夕食の席に就き、リフ・ラフとマジェンタが肉料理と 酒を運ぶ。その肉がエディーの体だと悟ったコロムビアは、顔を引きつらせて自室へ引っ込んだ。スコットは「産まれた日からエディーは 問題児だった。母親が死んだ日、彼は家出した」と歌う。そして彼から届いた助けを求めるメモを見せる。歌が終わると、フランクン・ フルターはテーブルクロスを引き抜いた。するとテーブルの中には、エディーの無残な死体が納められていた…。

監督はジム・シャーマン、舞台版作詞&作曲はリチャード・オブライエン、脚本はジム・シャーマン&リチャード・オブライエン、製作は マイケル・ホワイト、製作協力はジョン・ゴールドストーン、製作総指揮はルー・アドラー、撮影はピーター・サシツキー、編集&音楽 編集はグレーム・クリフォード、デザインはブライアン・トムソン、衣装はスー・ブレーン、ダンス振付はデヴィッド・トグリ、音楽監督 &アレンジはリチャード・ハートレイ。
出演はティム・カリー、スーザン・サランドン、バリー・ボストウィック、リチャード・オブライエン、チャールズ・グレイ、パトリシア ・クイン、リトル・ニール、ジョナサン・アダムス、ピーター・ヒンウッド、ミートローフ、 ジェレミー・ニューソン、ヒラリー・ラボウ、ペリー・ベッデン、クリストファー・ビギンズ、ゲイ・ブラウン、アイザック・バックス、 スティーヴン・カルカット、ヒュー・セシル、イモージェン・クレア、トニー・コーワン、サディー・コーレ他。


イギリスで誕生した舞台劇を基にしたミュージカル映画。
原作者のリチャード・オブライエンが、リフ・ラフを演じている。
フランクン・フルーターをティム・カリー、ジャネットをスーザン・サランドン、ブラッドをバリー・ボストウィック、犯罪学者をチャールズ・グレイ 、マジェンタをパトリシア・クイン、コロムビアをリトル・ニール、スコットをジョナサン・アダムス、ロッキーをピーター・ヒンウッド 、エディーをミートローフが演じている。
カリー、オブライエン、クイン、ニール、アダムス、ミートローフは、ロサンゼルス公演と同じキャスト。
ただしアダムスは舞台版ではナレーターで、ミートローフは舞台版ではスコット役も兼任だった。

リチャード・オブライエンは舞台俳優として下積み経験を積んでいた頃、ミュージカル用のオリジナル曲を書いていた。
その内の1曲、この映画版でもオープニングで歌われている『Science Fiction, Double Feature』を聴いた劇場プロデューサーの マイケル・ホワイトが興味を示し、小劇場での公演に資金提供することを申し出た。
オブライエンは脚本を執筆し、超低予算の舞台劇『The Rocky Horror Show』は1973年に上演された。
当時から、フランクン・フルターはティム・カリー、リフ・ラフはオブライエンが演じていた。

『The Rocky Horror Show』は初演から人気を集め、すぐに別の劇場での再演が決まった。
やがてパパス&ママスやキャロル・キングなど数々のミュージシャンを売り出したアメリカの大物音楽プロデューサー、ルー・アドラーが 『The Rocky Horror Show』に目を付け、ロサンゼルスでも公演が行われた。
その勢いに乗り、ブロードウェイ公演や映画化も決定した。しかしブロードウェイ公演は評論家から酷評を浴び、3週間半で打ち 切られた。
映画の方は、内容からして観客を呼べないと判断して未公開にしようとした20世紀フォックスを、ルー・アドラーが説得して小規模公開 されたが、客の入りはサッパリだった。

ここで終わっていたら、この作品が今もカルト映画として高い人気を誇っているはずがない。
本作品がカルト映画として人気を集めるようになったのは、ミッドナイト・ショーでの上映によって「観客参加型映画」へと変貌した からだ。
そのきっかけは、1976年のニューヨークでのミッドナイト・ショーだ。
映画を見ていた観客が、登場人物に向かってツッコミを入れた。やがて、小道具を使って劇中と同じような状況を作る客や、同じ扮装で 劇場へやって来る客も現れ始めた。
その観賞スタイルは上映館が移動する中で、アメリカ全土へと広がっていった。
『ロッキー・ホラー・ショー』は、まさに観客参加型の「ショー」として人気を集めるようになったのである。

とにかく本作品を見る時には、マトモな映画だと思ったらダメだ。
筋書きは支離滅裂で、行き当たりばったりとか、そういうレベルじゃない。
ミュージカル・ナンバーの入り方にしても、ちょっと変だ。
例えば雷雨の中でジャネットとブラッドが城の敷地に到着すると「危険を承知で中へどうぞ(Enter at Your Own Risk!!)」の札が あったのに、城を見つけた2人は喜んで「あれは人生の暗闇を照らす光。希望の明かり」と『Over At The Frankenstein Place』を呑気に 歌っている。
雷鳴が鳴り響き、不安を煽っているんだから、明らかに場面と合っていない。

キャラの態度や行動もデタラメ。
不安がっていたはずのジャネットが、急に嬉しそうな感じで微笑する。
しばらくは相手に合わせようという態度だったブラッドが、急に激怒する。
今すぐ城を出たいと言っていたジャネットが、フランクンフルターが「ついに知り得たのです、命を作る秘密を。大発見です」と言うと、 なぜか感銘を受けて拍手する。
「筋肉の付きすぎている男は好きじゃない」と言っていたジャネットは、後になって「筋肉質の男が好き」と歌う。
もうメチャクチャだ。

古い城に住んでいるフランクン・フルター、とリフ・ラフとマジェンタは宇宙人という設定だが、地球に来た目的は何なのか、人造人間を 作っていた理由は何なのかは、全く分からない。
終盤、ブラッドたちを石像に変身させたフランクン・フルターが劇場に移動すると、その石像たちが元の姿に戻り、 『Rose Tint My World』や『Don't Dream it Be it』といったミュージカル・ナンバーを歌って踊るが、もうマジに考えたら、何が何やら ワケが分からない。
最初から最後まで、マトモに筋の通っているトコを見つけ出す方が難しいんじゃないかと思えるぐらいの映画だ。
「整合性が取れているか否か」とか、そういう問題ではない。シナリオがグチャグチャで、ドラッグでもやりながら執筆したかのような 仕上がりなのだ。
だから一部の人間からすると、中毒性がある作品ってことなのかもね。
ドラッグだけに(いやいや、何も上手いことは言えてないぞ)。

個性的なキャラクターやチープな舞台装置によってサイケな雰囲気が醸し出されているという部分はあるものの、まあ普通に考えれば、 単なる低予算のドイヒーな映画に過ぎない。
これがカルト映画化した大きな要因に、「ミュージカル形式だったから」ということがあるんじゃないだろうかと私は思う。
ミュージカル形式になっているから、そんなに退屈せず、途中で投げ出したい気分にならず、最後まで見ていられる。
正直、これがミュージカルじゃなかったらと思うと、ちょっとゾッとするよ。

(観賞日:2012年8月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会