『ロッキー・ザ・ファイナル』:2006、アメリカ

ボクシングの世界ヘビー級チャンピオン、メイソン・ディクソンは、また秒殺でベルトを防衛した。秒殺の試合が続いているため、彼は 観客からブーイングを浴びる。テレビ中継のアナウンサーは、「対等に戦える挑戦者の出現が待たれる」とコメントする。一方、かつて ヘビー級王者として活躍していたロッキー・バルボアは、亡くなった妻エイドリアンの命日に墓参へと出掛けた。エイドリアンの兄である ポーリーも一緒だが、ロッキーの息子ロバートは不在だ。「あいつも忙しいんだよ」とロッキーはポーリーに言う。
ロッキーが会社勤務のロバートを訪ねると、息子は上司から「ここでは親の七光りは通用しないぞ」と叱られていた。ロバートは「一緒に いると霞むから」と、あまりロッキーと会いたがっていなかった。それでもロッキーから「今夜、店に来い」と誘われ、それには応じた。 ロッキーは「エイドリアンズ」というイタリア料理店を営んでいる。彼は店に行き、案内係のイザベルに声を掛ける。かつての対戦相手で あるスパイダーがタダ飯を食っているが、ロッキーはそれを許した。
ロッキーは料理人のホセに話し掛け、「息子が来るから特別な料理を作ってくれ」と注文する。ロッキーは客のテーブルへ行き、昔の試合 について語る。そこへロバートから電話が入り、行けなくなったことが伝えられた。店の営業が終わった後、ロッキーはポーリーを伴い、 エイドリアンとの思い出の地を巡る。ポーリーは「過去にすがりついていても仕方が無い」と言うが、ロッキーは「そんなことはねえよ。 俺にとっては宝物だ」と反発する。
ロッキーはポーリーと別れた後、懐かしいバー「ラッキーズ」に立ち寄った。バーテンのマリーは、少女時代に家まで送ってもらい、 「タバコはやめろ」と言われたことをロッキーに語る。ロッキーは、自分に悪態をついた少女のことを思い出した。そこへアンジーという 不良少女が近付き、生意気な態度で「あっちに仲間がいるから一杯おごってよ」と絡んできた。ロッキーが軽くあしらうと、アンジーは 悪態をついて仲間の元へ戻った。
仕事の終わったマリーを、ロッキーは車で送ることにした。車へ向かう途中、マリーは夫と別れてシングルマザーになっていることを話す 。アンジーと仲間たちがロッキーを見つけ、罵声を浴びせて挑発してきた。車を降りたロッキーは掴みかかって怒鳴り付け、謝罪させて 追い払った。ロッキーが家まで送ると、マリーとジャマイカ人の男の間に生まれた息子ステップスがいた。ロッキーはステップスに挨拶 して名刺を残し、店に来るよう誘って立ち去った。
ディクソンは、かつて所属していたジムの会長マーティンの元を訪れた。マーティンはディクソンに、「今のお前には強い挑戦者が必要だ 。その試験を乗り越えた時、自尊心を知ることが出来る」と述べた。マリーとステップスがロッキーのレストランを訪れた夜、ロバートは 仲間たちとバーで飲んでいた。バーのテレビでは、ディクソンと現役時代のロッキーをコンピュータで対戦させる企画が放送されていた。 バーチャル試合ではロッキーがKO勝利し、バーの観客は大いに盛り上がった。
ロッキーはマリーに、「ステップスを週末だけでもウチのレストランで働かせないか」と持ち掛けた。ロッキーはステップスを連れて犬の 保護施設へ行き、元気の無い犬を選んで飼うことにした。ロッキーはステップスに名前を付けるよう促し、犬はパンチーと名付けられた。 バーチャル試合の翌週、ポーリーがレストランを訪れて、テレビを付けてロッキーに見せた。そこでは先週のバーチャル試合のことが話題 となっていた。しかしコメンテーターは「ロッキーは過大評価されている」と、バッサリと切り捨てた。
ロッキーはロバートの元を訪れ、「また試合がやりたい。大きな試合じゃなくていい。地元で地味にやる」と語る。ロバートは「もう年 だし、笑い者になるだけだ。時代は変わったんだよ」と反対するが、ロッキーの考えは変わらず、「お前にも協力してほしい」と言う。 ロッキーはポーリーに「もうピークは過ぎただろ」と言われるが、「まだ心の奥底で何かが燃えているんだ」と口にした。
ロッキーはペンシルヴァニア体育協会にプロボクシングのライセンス発行を申請するが、却下された。しかしロッキーは年を取っても夢を 追い求める熱い気持ちを訴え、プロボクサーとしての復帰が認められた。ディクソンのマネージャーを務めるルー・ディベラとL.C. リコはロッキーの復帰を知り、ディクソンとの試合を組もうと考える。ディクソンの試合の視聴率は下がる一方だったが、ロッキーとの 試合なら話題性があって金儲けになると考えたのだ。だが、ディクソンは「楽勝の相手だ」と嫌がった。
ロッキーはマリーに、「店の案内係が出産するので、代わりにやってみないか」と持ち掛けた。最初は断ったマリーだが、ロッキーに説得 されて承諾した。ポーリーは店を訪れ、ロッキーに「リングへ戻るのは勇気が必要だが、お前なら出来るよ」と告げた。ポーリーが去った 後、ディベラとリコが店に現れた。彼らはロッキーに、ディクソンとのエキシビジョン・マッチを提案した。もっとマイナーな試合で復帰 したいと考えていたロッキーだが、「収益の一部は寄付される」と言われ、考えさせてほしいと返答した。
ロッキーはマリーに相談し、復帰に対して気持ちに迷いが生じていることを吐露した。するとマリーは「せっかく得たチャンスを無駄に しないで。戦うのがボクサーよ」と背中を押した。ロッキーは、ラスベガスでのディクソンとの試合を受けることにした。記者会見を見た ロバートは、ロッキーに「ようやく自分の力で歩いて行こうと思ったのに、ますますバカにされる。試合なんかしないでくれ。僕まで 笑われる」と告げる。ロッキーは「人生はどんなパンチより重い。だが、どれだけ打ちのめされても前に進むんだ。その先に勝利がある。 自分の弱さを人のせいにするな。自分を信じて生きろ」と、熱い言葉を息子に投げ掛けた…。

脚本&監督はシルヴェスター・スタローン、製作はチャールズ・ウィンクラー&ビリー・チャートフ&デヴィッド・ウィンクラー& ケヴィン・キング、共同製作はガイ・リーデル、製作総指揮はアーウィン・ウィンクラー&ロバート・チャートフ、撮影はクラーク・ マシス、編集はショーン・アルバートソン、美術はフランコ=ジャコモ・カルボーネ、衣装はグレッチェン・パッチ、音楽はビル・ コンティー。
出演はシルヴェスター・スタローン、バート・ヤング、アントニオ・ターヴァー、ジェラルディン・ヒューズ、マイロ・ヴィンティミリア 、トニー・バートン、A・J・ベンザ、ジェームズ・フランシス・ケリー三世、 ルー・ディベラ、マイク・タイソン、ヘンリー・G・サンダース、ペドロ・ラヴェル、アナ・ジェラーナ、アンジェラ・ボイド、ルイス・ ジャンサンテ、モーリーン・シリング、ラハマード・テイト他。


『ロッキー』シリーズの6作目であり、『ロッキー5/最後のドラマ』(1990年)以来、16年ぶりとなる続篇。 全作に出演しているのは、ロッキー役のシルヴェスター・スタローンのみ。
ポーリー役のバート・ヤングとトレーナーのデューク役のトニー・バートンは1作目から のレギュラーだが、前作だけは出演していない。マリーとスパイダーは1作目に登場したキャラクターで、スパイダーはロッキーの最初の 対戦相手。その時と同じペドロ・ラヴェルが演じている。一方のマリーは、ジェラルディン・ヒューズが演じている。
ディクソンを演じるアントニオ・ターヴァーは2006年に現役を引退した元世界ライトヘビー級チャンピオンで、この映画のために増量した 。ロッキーの息子ロバートは、前作ではスライの息子セイジが演じていたが、今回はマイロ・ヴィンティミリアが担当している。リコを A・J・ベンザ、ステップスをジェームズ・フランシス・ケリー三世、ディベラを本人、マーティンをヘンリー・G・サンダース、 イザベラをアナ・ジェラーナ、アンジーをアンジェラ・ボイドが演じている。

ロッキーとディクソンの試合シーンは、HBOが中継したバーナード・ホプキンスとジャーメイン・テイラーの試合の前座として行われた 。
劇中で会場にいてロッキーに声援を送っている観客は、本物の試合を見に来た人々だ。
演出ではなく、会場では実際にロッキーへのコールが自然発生したらしい。
その試合では、スライは本当にアントニオ・ターヴァーと殴り合っている。

『ロッキー5/最後のドラマ』でロッキーは恩師ミッキーのジムを引き継いでボクサーを育てていたはずだが、今回はレストラン経営者に なっている。
「ジムは辞めた」という風にセリフで触れることも全く無いし、どうやら前作は無かったことになっているようだ。
実際、これまでのシリーズの映像が回想として挿入されているのに、前作からのフッテージだけは使用されていない。

ロバートが会社を辞めてロッキーの応援をするようになるのは、ちょっと引っ掛かる。
会社を辞めるという行動が、逃げているようにしか感じられないのだ。
そこは会社で頑張りながら父親を応援する形でいいでしょ。
あと、ステップスやパンチーの存在価値が薄い。
ロッキーとステップスの間で擬似親子関係を構築するより、ロバートとの関係を、死んだエイドリアンも絡めて描いた方がいい。

クライマックスとなるエキシビジョン・マッチは、ディクソン側に「慢心による調整不足」「試合途中での左拳の骨折」という要素を 用意してある。
とは言え、「50代で現役復帰したばかりのロートルが、現役のヘビー級王者を相手に互角の戦いをする」という内容には無理を感じる。
そこは、そんなに現実離れした内容よりも、「売り出し中のホープが相手で、ほとんど一方的な展開でボロボロになるが、終盤 は少し持ち直して、フルラウンドを戦い抜く」という程度でもいいんだけどな。

と、先に文句を付けておいてナンだが、この映画、私は感動した。
時代は変わったのに、それに抗うように、ロッキーは現役復帰を決意する。
年を取っても夢を追い求め、不器用に戦うことを選ぶ。
新作が公開される度に酷評されていた本シリーズなのに、なぜ今回だけは評論家からも絶賛されたかというと、それは高い評価だった 1作目をなぞっていることが大きいと思う。
『Gonna Fly Now』に乗せて、ロッキーがフィラデルフィア美術館の階段を上がって拳を掲げるシーンなんて、そりゃ燃えるわな。

たぶん、この映画だけを見ても、大して心を揺れ動かされることは無いんじゃないだろうか。
この映画を見て感動するというのは、今までのシリーズ(5作目は除外でもいい)に付き合ってきた人だけに与えられた特権と言っても いい。
傑作だった1作目を除くと、続編が出る度にポンコツ度数が高まっていったシリーズに我慢して付き合ってきたからこそ、この映画では、 いちげんさんには味わえない感動を味わうことが出来るのだ。

エイドリアンの死に対するロッキーの悲しみや喪失感なんて、この映画だけを見ても、その思いの深さは全く伝わらないだろう。
マリーやスパイダーなんて1作目の登場人物だから、それを見ていないと、彼女たちが登場している意味の重さが分からないだろう。
そこから感慨深いものを受け取ることが出来ないだろう。
この映画で心を揺り動かされるには、これまでの積み重ねが大切なのだ。

そういうことも含めて、これはノスタルジーを喚起する映画と言うべきかもしれない。
いや、そうではなく、ノスタルジーに頼った映画ということになるのかもしれない。
だが、この映画に関しては、それでも構わないと思う。
単体では決して絶賛できるような仕上がりではないが(ただし光と影の使い方は印象的)、ロッキー・バルボアに思い入れのある人なら 必見。絶対に見て損はしない。
ちなみに私はロッキーがエイドリアンを思い起こす序盤でウルウルしたし、終盤もやはり目が潤んだ。

(観賞日:2011年1月11日)


第29回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の助演男優】部門[バート・ヤング]

 

*ポンコツ映画愛護協会