『ロック・ザ・カスバ!』:2015、アメリカ

アフガニスタンのパクティア州。ブルカで顔を隠したサリーマは村を抜け出し、洞穴へ赴いた。彼女はテレビを付け、オーディション番組の『アフガン・スター』を観賞した。アメリカ、カリフォルニア州ヴァン・ナイス。音楽マネージャーのリッチー・ランツはモーリーンという女性を面接し、彼女の歌を聴く。お世辞にも上手いとは言えなかったが、リッチーは契約すると告げる。彼は契約書にサインさせると、1200ドルの諸経費を小切手で支払わせた。モーリーンは何も知らずに喜ぶが、所属歌手のロニー・スマイラーは彼女が帰った後で「金を巻き上げて、コピーバンドでデビューさせるだけ」とリッチーの手口を批判した。
リッチーは大物と仕事をしていた過去を誇らしげに語り、「いつまでも燻ってるつもりは無い。また必ず成功してみせる」とロニーに言う。しかしロニーから自分のオリジナル曲を歌わせる約束について確認されると、適当に誤魔化した。リッチーはロニーをクラブ「ポゴス」へ連れて行き、カバー曲をステージで歌わせる。すると音楽に乗っていた客の男がリッチーに声を掛け、「俺はプロモーターだ。彼女を連れてアフガニスタンへ行け。米軍慰問ツアーだ。ソランジェでオープニング・アクトを務めさせる」と述べた。「まずはカルダハルで、全国を回る。大金が手に入るぞ」と言われ、リッチーは快諾した。
リッチーは離婚した妻と暮らす娘のドリーと密かに会い、仕事でアフガニスタンへ行くことを話す。「アフガニスタンなんて無意味だわ」とドリーが言うと、彼は「これは始まりに過ぎない。待ってろ、現地に着いたらカスバへ行って土産を買う」と語る。ドリーは「カスバはアフガニスタンじゃないわ、北アフリカよ」と、冷静に指摘した。飛行機に搭乗したロニーは不安を漏らし、気分か悪くなって嘔吐した。リッチーはスティーヴィー・ニックスを例に出して元気付けようとするが、ロニーには何の効果も無かった。
リッチーとロニーはカブール国際空港に到着するが、荷物が届いていなかった。迎えに来たバーンズ二等兵は「良くあることです」と言い、「ホテルまで送りますが、防弾チョッキの着用を」と告げた。リッチーが買い物に行こうとすると、彼は「大統領暗殺未遂事件のせいで厳戒態勢です」と説明した。ジープでホテルへ向かう途中、近くで爆発が起きた。ロニーが鎮静剤を飲もうとすると、リッチーは半分だけにしておくよう指示した。
ジープがホテルに到着すると、バーンズはリッチーに「危険なので通常は泊まれませんが、一晩だけ許可を貰いました。通りから離れた部屋を選んで、外出は控えて下さい」と話す。リッチーがオーナーに良い部屋を頼んでいる間に、薬で気持ち良くなったロニーはボンベイという傭兵と親しくなった。ボンベイはタリバン兵を逆さ吊りにして、刑務所に入っていたという男だった。リッチーはロニーを部屋で眠らせ、バーへ出向いた。するとIBM(国際弾道軍需社)のニックとジェイクが現れて名刺を渡し、「国防総省と3億ドルの契約をした。半年前は健康食品を売っていたが、今ではカブール最大の武器商人だ」と陽気に語った。
リッチーが部屋に戻ると、ロニーは書き置きを残して姿を消していた。リッチーは財布もパスポートも持ち去られていたが、バーンズはロニー抜きで慰問ツアーを開催することを告げてホテルを去った。リッチーはロニーを捜索するため、ニックたちの車に乗せてもらった。明日までカブーを発つ飛行機が無いことから、ニックたちはロニーがクラブ「ヴォルカン」にいるはずだと言う。彼らは運転手を雇っており、その車について「大量虐殺犯のアザム・ゴールに貰った」と話す。
クラブに近付くと武装した現地の兵士たちが待ち受けており、運転手が賄賂で通してもらおうとしても拒否された。リッチーは事情を説明し、ショーに招待すると持ち掛けた。危険を察知した運転手が慌てて車を発進させた直後、兵士たちは一斉に銃撃してきた。リッチーは命の危険を感じるが、ニックとジェイクは能天気な様子を崩さなかった。クラブに到着すると入り口で身体検査が実施され、ニックたちは所持していた拳銃を預けた。拳銃を携帯しているのは当たり前だと聞き、リッチーは困惑した。
クラブの奥へ進んだリッチーは、プールで泳いでいるマーシーという女に目を奪われた。マーシーに声を掛けたリッチーは、彼女が娼婦だと知る。「もうすぐ引退する。最後のチャンスよ」と言われたリッチーは、金の代わりに腕時計を渡して彼女のトレーラーハウスへ行く。翌朝、バーンズがトレーラーハウスに入ると、リッチーは女装姿で手足をベッドに拘束されていた。マーシーは外出しており、リッチーはバーンズに頼んで拘束を解いてもらった。
トレーラーハウスを出たリッチーは物売りの子供たちに取り囲まれ、リザという男が運転するタクシーに飛び乗った。彼はホテルへ戻って妻に電話を掛け、事情を説明して「金を送ってほしい」と頼む。しかし「その前に2か月分の養育費を払って」と要求され、何も言えずに電話を切った。彼が部屋に行くとボンベイが待ち受けており、「女が消えた。輸送機でドバイに発つ予定だった。前金として千ドルを受け取ったが、あと千ドルをお前が払うと言っていた」と話す。「金なんて無い」とリッチーが告げると、彼はライフルを構えて「24時間以内に払わないと殺す」と脅した。
リッチーはリザのタクシーでアメリカ大使館へ行くが、パスポートの再発行に2週間掛かると言われる。リザに誘われた彼がバーへ行くと、テレビでは『アフガン・スター』の予告が放送されていた。リザはリッチーに、それが視聴者投票のオーディション番組であり、優勝すると5千ドルとレコード会社との契約が得られるのだと説明した。そこへニックとジェイクが現れ、「いい話がある」とリッチーに告げて自分たちの倉庫へ連れていく。彼らは何も語らず、いきなり3万ドルの大金を渡した。 リッチーが用件を尋ねると、ニックたちは「自分たちの代わりに、今日中にパクティアまで弾薬を運んでほしい。一応は護衛を付けるが、善良なパシュトゥン人の平和な村だ」と話す。「自衛のために弾薬を必要としてる。人助けだ」と言われたリッチーが「俺に何の得が?」と訊くと、彼らは「俺らが大使館に圧力を掛ければ、すぐにパスポートは再発行される」と述べた。リッチーが承諾すると、護衛を担当するのはボンベイと仲間の兵士たちだった。通訳担当として、リザもタクシーで同行した。
砂漠を移動している途中、地雷によってリッチーたちの車が爆破された。軽傷で済んだリッチーだが、「話が違う」と喚き散らす。そこへパシュトゥン人の騎馬隊が現れ、ボンベイたちは銃を構えて警戒する。その一行はシャワトリ村のタリク・カーン村長と村民たちであり、リザが弾薬を運んで来たことを説明した。タリクは「村へ招待するので泊まっていけ。戦闘員は外だ。茶を飲みながら契約の話をしよう」と言い、リザはリッチーに「断ると殺されます」と教えた。リッチーはボンベイたちと別れ、リザを伴って村へ赴いた。
リッチーは歓迎の席でディープ・パープルの『スモーク・オン・ザ・ウォーター』を熱唱するが、村民は無表情で何も反応しなかった。タリクはリッチーに、「我々は武装勢力に囲まれている。同胞のアザムは村を支配し、麻薬を製造させる気だ。25年に渡る戦争で、もう平和を買う金も無い」と語った。散歩に出たリッチーは、洞穴で歌うサリーマを目撃する。サリーマが慌てて逃げ出した後、リッチーは『アフガン・スター』のチラシを見つけた。
リッチーはリザに、洞穴で村の若い女が歌うのを見たと告げる。リザは「女が歌うのは禁じられている」と驚くが、リッチーは彼女と契約する考えを明かす。リザは「彼女も私たちも殺されます」と反対するが、リッチーは軽く考えて「これは運命だ。俺が交渉する」と述べた。翌朝、リッチーは洞穴でサリーマの歌声を聞いたことを村人たちに話し、穏便に交渉を進めようと目論む。しかしタリクは娘のサリーマが侮辱されたと感じて激怒し、リッチーはリザと共に村から立ち去らざるを得なくなった。
リッチーが車で村を出ていくと、サリーマはトランクに隠れて付いて来た。サリーマは『アフガン・スター』の収録現場まで連れて行くよう頼み、「神を祝福するためカブールへ行く」と言う。リッチーは「君の父さんたちに俺が殺される」と断るが、サリーマは「それが神の意志なら私も死ぬ」と告げる。リッチーは「俺は死にたくない」と嫌がるが、「運命は定められている。神の御心に従うだけ」というサリーマの言葉を受け、2割の取り分でマネージメントを引き受けた。
リッチーはサリーマを泊める場所を確保する必要に迫られるが、リザは「未婚の女性が男性の部屋に泊まるのは禁じられている」と告げる。そこでリッチーはマーシーのトレーラーハウスへ戻り、サリーマを泊めてほしいと頼む。サリーマは3割の取り分と家賃と食費、さらに賞金の一部も貰うという約束で承知した。アザムはナジアーと会い、麻薬に反対するタリクへの苛立ちを口にしていた。彼はナジアーに、「お前が村長になれ」と指示する。アザムはタリクを陥れるため、不良品の弾薬を村へ運ばせていた。
リッチーはサリーマを連れてカブールへ行き、『アフガン・スター』が収録されているテレビ局に辿り着いた。警備兵に賄賂を渡して中に入ったリッチーは、プロデューサーのダウードにサリーマを出演させてほしいと持ち掛けた。ダウードは女性が歌うことに難色を示し、「今シーズンは無理だ」と断る。リッチーが説得しようとしても、彼の考えは変わらなかった。しかしサリーマの歌声を聞いてダウードの気持ちは一変し、審査員を説き伏せて特別に出場を許可した…。

監督はバリー・レヴィンソン、脚本はミッチ・グレイザー、製作はジェイコブ・ペチェニック&ビル・ブロック&イーサン・スミス&スティーヴ・ビング&ミッチ・グレイザー、製作総指揮はトム・オーテンバーグ&ピーター・ローソン&ヤコヴォス・ペトセニカキス&ヤコヴィナ・ペトセニカキス&サーシャ・シャピロ&アントン・レッシン&ブライアン・グレイザー&トム・フレストン&マーシャ・スウィントン、共同製作総指揮はジェイソン・ソスノフ、製作協力はロキシー・ロドリゲス&エリッサ・フリードマン&クリス・モラン、撮影はショーン・ボビット、美術はニールス・セイエ、編集はアーロン・ヤネス&デヴィッド・モリッツ、衣装はデボラ・L・スコット、音楽はマーセロ・ザーヴォス。
主演はビル・マーレイ、共演はケイト・ハドソン、ゾーイ・デシャネル、ブルース・ウィリス、ダニー・マクブライド、スコット・カーン、リーム・リューバニ、アリアン・モーイエド、テイラー・キニー、グレン・フレッシュラー、ビーハン・ランド、サミール・アリ・カーン、ファヒム・ファズリ、ジョナス・カーン、サラ・ベイカー、フサム・チャダット、メーガン・ライチ、エイヴリー・フィリップス、ハッサン・ボウアヤド、セバスチャン・コリヌー、ハマダン・モハメド・ハビブ、ベナマラ・アジディン、モハメド・ボウサレム、マンスール・バドリ、カマル・ケンゾー他。


『トラブル・イン・ハリウッド』『ザ・ベイ』のバリー・レヴィンソンが監督を務めた作品。
脚本は『大いなる遺産』『リクルート』のミッチ・グレイザー。
タイトルはザ・クラッシュの曲から取られている。
リッチーをビル・マーレイ、マーシーをケイト・ハドソン、ロニーをゾーイ・デシャネル、ボンベイをブルース・ウィリス、ニックをダニー・マクブライド、ジェイクをスコット・カーン、サリーマをリーム・リューバニ、リザをアリアン・モーイエドが演じている。

この作品は、2009年にイギリスの「チャンネル4」が出資して製作されたドキュメンタリー映画『Afghan Star』から着想を得ている。
『Afghan Star』はオーディション番組『アフガン・スター』に出演する人々を追った映画で、リマというパシュトゥン人の女性も登場した。
しかしサリーマのモデルになっているのはリマではなく、ヘラート出身のセタラ(Setara Hussainzada)だ。彼女は番組に出演したせいで、地元ではアバズレ扱いを受ける。さらに彼女は、保守的なアフガニスタンの人々には絶対に認められない「踊る」という行動を番組で取ったため、殺人予告を受けてしまった。
そんな彼女に、この映画は捧げられている。

しかし残念ながら、この映画が彼女に届くことは無いだろう。
それには3つの理由があって、まずセタラは殺人予告のせいで地元に帰ることが出来なくなっただけでなく、身を隠す必要に迫られたからだ。
2つ目の理由として、この映画がアフガニスタンで上映されることは無いだろうってことだ。
最後の理由として、「そもそもアメリカでも大コケしたので少数しか見ていない」ってことがある。Forbesが発表した「2015年に最もコケた映画トップ10」で、堂々の1位に輝いた作品なのだ。
製作費は1500万ドル(約18億円)、全米2012館の劇場で公開されたが、興行収入は290万ドル(約3.6億円)で製作費回収率は19%という壮絶なコケっぷりだった。

これがコメディー映画として作られていることは、モーリーンを面接する導入部のシーンでハッキリと分かるようになっている。
そんなに面白いシーンではないが、コメディーのベタベタな方法を使ったスケッチになっている。
ただ、明確にコメディーとして描いていることが分かるからこそ、「なのに全く笑えない」ってことが寒々しいし、痛々しい。
まるで笑えないコメディーになっている理由は1つではなく、幾つもの原因が複合した結果だ。

まず1つとして、ビル・マーレイが主演ってことが挙げられる。
いつも不機嫌そうで無愛想なイメージであり、それが彼の俳優としての特徴だ。
そんな彼の持ち味が、この映画には上手くハマッていない。もっとリアクターとして、クドいぐらいの表現をしてくれる人の方が絶対に映画として跳ねる。
周囲のキャラクターがストーリーを牽引し、リッチーは受け手として構えているだけで笑いに繋がるような構図なら問題は無いが、そうではないので軽やかさに欠けるのだ。

手持ちカメラで撮影しているってのも、マイナスに作用している。
それによって臨場感は出るが、そのことがコメディーを邪魔している。
「危険だらけの戦地」としての臨場感を出しても、意味が無いでしょ。むしろ、寓話的な印象を醸し出した方がいいんじゃないかと。
これが「戦争の愚かしさを痛烈に風刺する」とか、「反戦のメッセージを笑いに包んでアピールする」とか、そういう意識があるならともかく、そういうわけでもないんだし。

しかしコメディーとしての質を問う前に、もっと根本的な部分で本作品は大きな失敗をやらかしている。それは、なかなかサリーマが登場しないってことだ。
冒頭シーンで登場しているが、その時点では台詞も無いし、彼女がサリーマだと分からない。そして、そこから随分と時間が経過し、リッチーがシャワトリ村で目撃するシーンまで、サリーマは登場しない。そこまではリッチーの行動を追い掛けているだけであり、たまにサリーマの様子を挟むような構成は無い。
前述したようにドキュメンタリー映画『Afghan Star』から着想を得ている作品だという情報は事前に知っていたので、いつになったらサリーマが登場するのか、いつになったらリッチーが『アフガン・スター』に興味を持つのかと思っていたら、そんな状態なのだ。
この映画って、リッチーとサリーマが出会うことで、ようやく本格的に物語が動き出すようなモノなのよ。そこまでの経緯は、極端に言ってしまえば導入部に過ぎないのよ。
なのに、そこに時間が掛かり過ぎだわ。

リッチーがアメリカで面接をする様子、プロモーターから慰問ツアーを持ち掛けられる様子、アフガニスタンへ赴く様子と続くが、その辺りは余裕で受け入れられる。
リッチーがアフガニスタンへ行く用事を作らないと、サリーマとは会えないからね。
しかしロニーが去った後、「マーシーと出会ってロニーを捜索する目的を忘れ、彼女を買う」とか、「ボンベイに金を要求される」とか、「ニックたちから仕事を頼まれる」といった出来事を連ねて時間を費やす辺りになると、「すんげえモタモタして寄り道しまくってるな」と言いたくなるのよ。
シャワトリ村に着かなきゃサリーマと会えないのなら、さっさと村へ行かせるべきだわ。

ハッキリ言うけど、マーシーとかボンベイなんて、別に登場しなくてもいいのよ。
「有名な俳優を起用しないと訴求力に支障が出る」ってことでケイト・ハドソンやブルース・ウィリスを使いたかったのなら、それは一向に構わないのよ。
ただ、そういう面々を登場させるのは、リッチーがサリーマと会った後でも充分に間に合うでしょ。
最優先で考えるべき事項を後回しにしているもんだから、本筋が薄くなっているのよ。

リッチーはサリーマの歌声を聞いて契約しようと考えるが、「その歌に心を打たれ、今までとは全く違う気持ちで彼女を売り出したいと思う」ってわけではない。
単に金ヅルとして、自分が第一線に返り咲くための道具として捉えているいるだけだ。
だからタリクと村民たちが激怒してヤバいと感じたら、さっさと退散する。
付いて来たサリーマを引き受けることに決めた時も、「その熱意や真っ直ぐな気持ちに打たれて」という印象は全く無い。

リッチーはダウードを説得しようとする際、「サリーマには次が無い。この国にも、君にもだ。彼女が番組で歌えば、その勇気を全国民が見ることになる」と熱く訴える。
しかし、それは「サリーマのために何とかしてやりたい」ってことではなくて、スターを売り出したいという私欲に過ぎない。
そこには音楽に対する純粋な気持ちも、サリーマに対する奉仕の精神も、まるで感じられない。
リッチーは最後まで、冒頭で観客に与えた第一印象から根っこの部分は全く変わっちゃいないようにしか見えないのだ。

本来なら、「最初はビジネス目的でサリーマを『アフガン・スター』に出演させてスターにしようと目論んでいたが、命懸けで歌おうとする彼女の純粋で真っ直ぐな情熱に心を動かされ、全力で応援してあげたいという気持ちになる」という変化の経緯があってほしいところなのだ。
しかし、そういうドラマは全く描かれていない。そもそも、そういう変化を描くための時間が全く足りていない。
また、これはビル・マーレイの演技なのか演出が原因なのかは不明だが、後半戦でリッチーの気持ちが変化していくような様子も見られない。
ここが本作品にとって、致命的な欠陥になっている。

終盤、サリーマの身に危険が及ぶことを知っても、リッチーは村へ連れ戻された彼女を決勝に引っ張り出そうと画策する。それはサリーマの歌いたい気持ちを汲んでの行動ではなく、金儲けのためだ。
マーシーからの連絡で「テレビに出せば彼女も父親もアダムに殺される。村を乗っ取られる」と言われると、すっかり怖じ気付く。ここでリザの説得を受け、ようやく「ちゃんとサリーマのために仕事をしよう」という意識を持つ。
だけど、そこまでの何の揺らぎも無いので、慌てて改心させたようにしか思えないのよ。
そもそもリッチーの「サリーマのために」という気持ちに観客を引き込むには、2人の関係描写が弱すぎるし。

(観賞日:2017年9月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会