『ロボコップ』:2014、アメリカ

パット・ノヴァクが司会を務めるテレビ番組『ザ・ノヴァク・エレメント』では国防総省のモンロー将軍をゲストに迎え、米国製の軍事用ロボットが世界中で使われていることを示す。これまで米軍兵士が担っていた仕事をロボットに担当させ、世界の平和を守っているのだとノヴァクは説明する。ロボットの導入によって犠牲者を減らすことが出来たと、モンローは利点を語る。テヘランからの中継では、自爆テロ犯をロボットが攻撃する様子が写し出された。
ノヴァクは人々に、「なぜアメリカ国内ではロボットが導入されないのか」と訴えた。そして軍事用ロボットの製造元であるオムニコープのレイモンド・セラーズCEOを愛国者として称賛し、ロボット導入に反対するヒューバート・ドレイファス議員と彼の支持者たちを批判した。一方、デトロイト警察のアレックス・マーフィー刑事は相棒のジャック・ルイスを病院送りにされ、怒りに燃えていた。彼は保管庫の銃が密売組織に流れていることを突き止め、ボスであるヴァロンと接触した。しかしタレコミ電話によって正体を知られ、激しい銃撃を受けてジャックが重傷を負ったのだ。しかしアレックスは本部長のカレン・ディーンから、勝手に動かないよう命じられた。
セラーズは部下のリズ・クラインたちを伴ってワシントンの聴聞会に出席し、ドレイファスたちと意見を戦わせた。セラーズはロボットの有能性を説明するが、ドレイファスは「機械に人間の気持ちは分からない。子供を殺しても何も感じない。だから国民の72%はロボット警官に反対している」と告げて拍手を浴びた。アメリカは世界最大の市場であり、セラーズは是非ともロボット警官の導入を実現させたいと考えていた。そのためにオムニコープは民主党と共和党に多額の献金をしていたが、効果は出ていなかった。
セラーズは幹部のトム・ポープから、世論を変える必要があると言われる。セラーズは「彼らが欲しがっているのは人間と同じ感情を持った製品だ」と言い、人間と機械を合体させるプランを思い付いた。彼はサイボーグ技術の権威であるデネット・ノートン博士と会い、協力を要請する。デネットは「戦闘アプリケーションは作らない」と断るが、セラーズは「研究に必要な資金を手に入れ、大勢の命を救うための名案を思い付いた」と述べた。
汚職警官のアンドレ・ダニエルズとジョン・レイクはヴァロンから、アレックスを買収するよう告げられる。アンドレは「無理だ、相棒を撃たれてる」と言い、アレックスがジャックの見舞いに行く予定を教えて殺害を促した。ヴァロンは手下を病院へ派遣し、アレックスの車に爆弾を仕掛けさせた。一方、セラーズやデネットたちは、事故で脳や肉体を損傷した警官たちの選抜作業を行った。妻のクララと息子のデヴィッドが待つ家へ戻ったアレックスは、車のクラクションが勝手に鳴り始めたので様子を見に行く。ドアを開けた直後に車は爆発し、アレックスは重傷を負った。
セラーズたちはクララを本社へ呼び、デネットがアレックスの状態について説明する。助かっても死ぬまで車椅子生活を余儀なくされること、他にも多くの障害が残ることをデネットは説明し、大きな決断を迫った。3ヶ月後、アレックスが意識を取り戻すと、デネットや助手のキムたちによってロボット警官に改造されていた。デネットの説明を受けたアレックスは、怒りに任せて施設を飛び出した。しかしモニターで観察していたデネットがキムに指示し、アレックスの機能を停止させた。
デネットはアレックスを装置に固定し、現実を受け入れるよう説いた。彼は機械の部分を外し、ほとんど肉体が残っていないことを教えた。デネットが「脳は残っている。損傷部分は修復したが、知能や感情は以前のままだ。君がコントロールしている」と言うと、アレックスは「それが本当なら、俺は死にたい。この悪夢を終わらせてくれ」と告げる。デネットは「奥さんや息子に何と言う?君を助けたいという家族の思いを奪うのか。奥さんは君を愛しているから同意書にサインした」と語り、その思いに応えるよう説いた。
デネットは軍事用ロボットの配備を担当している軍人のリック・マトックスにアレックスを紹介し、性能テストを行った。人質の子供を見て迷いを示すアレックスはロボットに比べて動きが遅く、マトックスは「使えない」と切り捨てた。オムニコープへ出向いたデネットは、セラーズに「人間の要素がシステムを邪魔する」と告げる。セラーズは「それでも国民に指示する物を作る必要がある。もう公表日も決まってる。何とかしてくれ。彼を素早く動くよう改良してくれ」と頼んだ。
デネットはアレックスに詳細を教えず、脳に手術を施した。セラーズはリズたちと施設を訪れ、アレックスのテストを見守った。素早い反応を見て驚くリズに、デネットは「通常モードではアレックスが決断するが、戦闘モードではソフトウェアが決断する。システムから脳に信号が送られ、彼の決断だと錯覚させる」と説明した。「自分を人間だと思うマシンは違法よ」とリズが言うと、セラーズは「自分をマーフィーと思うマシンなら合法だ」と述べた。
アレックスはデネットの車に乗せられ、緊張しながら帰宅して妻子と再会した。オムニコープ本社へ戻った彼は退院したジャックと遭遇し、「今の俺の家は、ここのラボだ。ヴァロンと一味を逮捕するぞ」と告げた。アレックスは警察の全データを脳に転送され、システムが自動的に犯人や性格な居場所を割り出した。しかし犯人が銃を構える現場を見たアレックスは極度のストレスを感じ、意識を失ってしまう。既に予定が入っているお披露目の場には大勢のマスコミや住民が集まっており、リズは早急に直すようデネットに命じた。
デネットはアレックスのストレス値を下げるため、原因ホルモンを下げて感情を消去した。会場へ赴いたアレックスは妻子を見ても、脅威が無いと機械的に判断するだけで立ち去った。人々の前に立ったアレックスは無感情のまま、犯罪データの照合だけを事務的に実施した。その結果、アレックスは観客の中に重犯罪者のキングを見つけ、逃げようとする彼を捕まえた。ノヴァクの番組でもアレックスの活躍は大々的に取り上げられ、すっかり住民たちの人気者となった。
トムは「もう後戻りできない」と言うが、デネットは「今に感情が暴走する」と危惧する。セラーズは「問題が起きることは想定できた。今さら欠陥品でしたでは済まされない。このまま進めるしかない」と言い、デネットに「しばらくはアレックスを家族と会わせるな」と指示した。デトロイト警察に戻ったアレックスは、全ての捜査権限を与えられて次々に犯罪者を捕まえる。セラーズはマトックスを呼び、「ノートン博士は製品を管理できなかった。奴の脳内データやラボの監視映像をチェックしてくれ」と頼んだ。アレックスの活躍によってオムニコープの株価は上昇し、上院は世論の変化を受けてドレイファス法廃止へと動き始めた…。

監督はジョゼ・パヂーリャ、脚本はジョシュア・ゼトゥマー&エドワード・ニューマイヤー&マイケル・マイナー、製作はマーク・エイブラハム&エリック・ニューマン、製作総指揮はビル・カラッロ&ロジャー・バーンバウム、撮影はルラ・カルヴァーリョ、美術はマーティン・ホイスト、編集はダニエル・レゼンデ&ピーター・マクナルティー、衣装はエイプリル・フェリー、視覚効果監修はジェームズ・E・プライス 音楽はペドロ・ブロンフマン。
出演はジョエル・キナマン、ゲイリー・オールドマン、マイケル・キートン、サミュエル・L・ジャクソン、アビー・コーニッシュ、ジャッキー・アール・ヘイリー、マイケル・K・ウィリアムズ、ジェニファー・イーリー、ジェイ・バルシェル、マリアンヌ・ジャン=バプティスト、ザック・グルニエ、エイミー・ガルシア、ダグラス・アーバンスキー、ジョン・ポール・ラッタン、パトリック・ギャロウ、K・C・コリンズ、ダニエル・キャッシュ、モーラ・グリアソン、スチュワート・アーノット、マット・クック、スティーヴ・カミン、ノーリン・グラムガウス、マージャン・ネシャット、メイシャム・モタゼディー他。


ポール・ヴァーホーヴェンが監督を務めた1987年の同名映画をリブートした作品。
『エリート・スクワッド』『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』のジョゼ・パヂーリャが監督に抜擢された。
脚本担当はオリジナル版のエドワード・ニューマイヤー&マイケル・マイナーと、これがデビューとなるジョシュア・ゼトゥマー。
アレックスをジョエル・キナマン、デネットをゲイリー・オールドマン、セラーズをマイケル・キートン、ノヴァクをサミュエル・L・ジャクソン、クララをアビー・コーニッシュ、マトックスをジャッキー・アール・ヘイリー、ジャックをマイケル・K・ウィリアムズ、リズをジェニファー・イーリー、トムをジェイ・バルシェル、ディーンをマリアンヌ・ジャン=バプティストが演じている。

オリジナル版『ロボコップ』は、どこからどう見てもB級SFアクションだった。
だが、そこにポール・ヴァーホーヴェン監督の毒っ気やバカっぽさが上手い塩梅で盛り込まれ、どこか歪んでいるし欠陥もあるけど面白味のある作品に仕上がっていた。
そんなオリジナル版と比較すると、これは良くも悪くも「普通の映画」に仕上がっている。
前作に比べて遥かに洗練されているし、映像の質も向上していることは確かだ。
しかし、味は薄くなった。

この映画は、私が勝手に「ダークナイト症候群」と呼んでいる症状に陥っている。
『ダークナイト』の大ヒット以降、やたらと「ヒーローがウジウジと苦悩し、重厚なテーマを持ち込んでシリアスに描く」というヒーロー映画が増えた。
そもそも私は『ダークナイト』が傑作だとは微塵も思っちゃいないのだが、困ったことに世界中で大ヒットしたので、その影響を受けたり、二匹目のどじょうを狙ったりする動きが出るのは理解できる。
ただし、それで成功しているケースを、まだ私は見たことが無い。

この映画の製作サイドが実際に『ダークナイト』を意識したかどうかは知らないが、少なくとも結果としてはダークナイト症候群を患っている。
そういうダメな方向性を持ち込んだことで、「ただ無駄に重苦しいだけでカタルシスや爽快感が無い」という状態に陥っている。
オリジナル版と全く同じことをやる必要なんて無いし、何かを変えるからこそ新たに作り直す意味があるというものだ。
ただし、どこを変えるか、どのように変えるかってのは慎重に考えないと、単にオリジナル版の良い点を削ぎ落としてダメな改変だけを盛り込んだ駄作に仕上がってしまう。
そして本作品は、そういう失敗をやらかした。

冒頭、かなり偏った内容のテレビ番組が写し出され、司会者のバット・ノヴァクがロボット導入を主張してセラーズを称賛する。
その描写は、オリジナル版にあったテレビ報道のシーンを意識しているんだろう。
ただしオリジナル版と違って、そこには毒が無い。ノヴァクの主張や番組の内容は、ただ単に「ロボット警官を導入させるための偏向報道」というだけでしかない。
つまり、ストーリーを進めるための描写に過ぎない。
だからテヘランの中継内容にしても単にシリアスなだけで毒はゼロだ。

その後、当たり前っちゃあ当たり前だが、しばらくはアレックスがロボコップになる前の話が描かれる。
しかし、その話が面白くない。
そもそもリブート版だから、「アレックスが悪党のせいで重傷を負い、ロボコップに改造される」という展開になるのは分かっているのよ。そりゃあ、そこからして改変されている可能性はゼロじゃないかもしれんけど、そうなるんだろうという予想は付く(そして実際、その通りの展開になる)。
それもあって、「モタモタしている」と感じてしまうのだ。
もちろん、ロボコップになるまでの話に面白味があれば問題は無いんだろうけど、ほとんど「ただの段取り」でしかないのよね。

セラーズが「人間と機械の合体だ」と思い付いた時も、デネットが計画を持ち掛けられた時も、クララが決断を迫られた時も、ロボコップ計画については明かされていない。クララが決断を迫られた3ヶ月後のシーンでロボコップに改造されたアレックスの姿が描かれ、そこで初めて計画の正体が明かされる形にしてある。
だが、そこまで謎にして引っ張っている意味が全く無い。
前述したようにリブート版なので、多くの観客はアレックスがロボコップになることを知っている。そもそもタイトルが『ロボコップ』なんだから、セラーズの計画がロボット警官の製造だってことは明らかでしょ。
そこを隠したまま話を進めても、そこに引き付ける力なんて無いよ。

マトックスがアレックスをシミュレーションする場所は中国という設定なのだが、施設は屋内だし、スーパーインポーズが無ければ場所がどこなのかは全く分からない。中国政府や中国の組織が関与しているわけでもないので、そこが中国である意味は全く無い。
わざわざ中国という設定にしている意味は、中国という大きな映画市場を意識してのことなんだろうか(ちなみに、製作に中国企業は参加していない模様)。
ただ、それならそれで、もっとハッキリした形で中国の観客に訴求力を持つようなモノを持ち込まなきゃ、効果は無いと思うぞ。
あえて言うならアレックスが逃げ出した時に写る田んぼが「中国らしい風景」ってことになるのかもしれんけど、それってアジア圏だったら普通に見られる光景だし。

アレックスがロボコップになっても以前の記憶や感情を持っているという設定は、オリジナル版と大きく異なる点だ。
オリジナル版では、改造された当初は感情も記憶も失われており、それが少しずつ蘇ってくる展開になっていた。
それと全く逆のことを、このリブート版ではやっているわけだ。
しかし残念ながら、その改変は効果的に機能していない。それはオリジナル版と逆にしたからダメだったということではなく、その描き方がマズかったってことだ。

何がマズいかって、せっかく「感情も記憶も残っている状態でロボットに改造される」という設定にしたのに、そこで生じるはずの苦悩や葛藤のドラマを膨らまそうとせず、あっさりと終わらせてしまうことだ。
絶望感に打ちひしがれたアレックスがデネットの説得を受け、無表情のままクララとテレビ電話で会話を交わす様子が描かれるが、彼の心情は良く分からない。
妻子と再会しても、相棒と再会しても、特に何があるわけでもない。
もしも主人公がシルヴェスター・スタローンだったら、「重傷を負った刑事が久々に妻子や相棒と再会する」というシーンでそういう反応を示すのかな、という程度のモノであって、ロボコップとしての特徴や意味合いが感じられない。

感情が残っているはずのアレックスは、ほとんど感情を示さないまま、前半の内に脳を改造されている。記憶は残されているし、感情を完全に消去されたわけでもないのだが、戦闘モードでは機械化してしまう。
さらに、お披露目パーティーの直前には感情が消去されてしまう。つまりオリジナル版の初期状態と同じになるわけだ。
だったら最初から、それでいいじゃねえかと思ってしまうのよ。
アレックスが感情も記憶も残っている状態で改造されるなら、そのまま苦悩や葛藤のドラマを描くか、あるいは「少しずつ感情や記憶が薄れていく」というところで悲劇性を持たせるか、どっちかにすべきじゃないのかと。
最初の段階では苦悩や葛藤のドラマを膨らませず、あっさりと感情を消去して、その後で「クララと再会したことで感情が蘇る」という展開を用意しているんだけど、人間ドラマを重視して改変しているはずなのに、そこに費やす時間を短くしてどうすんのかと。

アレックスが倒すべきラスボスがハッキリしないってのも、この映画の大きな問題点だ。
彼を始末しようとしたのはヴァロンの一味と汚職警官たちだから、まずは彼らが倒すべき敵として考えられる。
しかしアレックスがロボコップになった後、ヴァロン一味を退治しようとか、証拠を握ろうという動きを示すことは全く無い。まだ感情があった頃に「ヴァロンと一味を逮捕するぞ」と言っているが、直後に感情を消され、すっかり忘れてしまう。
一方、ヴァロン一味もアレックスを始末しようという動きは見せないので、ここの対立関係は全く浮き上がって来ない。

前述した「クララとの再会で感情が蘇る」という展開の後、アレックスはデータ検索によって車の爆発事故を思い出し、ヴァロン一味の退治へ向かう。
だが、そこで急に舵を切られても、ちゃんとした流れを作っていないので、悪党退治の高揚感や爽快感が得られないのよ。
そもそも、クララは「帰って来て。あの子が待ってる。あの夜以来、デヴィッドが怖がってる。私だけじゃダメなの」と訴えていたわけで。
なので、とりあえず家庭の問題を何とかすることを最優先した方がいいんじゃないかと思っちゃうし。

ヴァロン一味はラスボスとしては存在感がチンケだし、クライマックスの前に一掃されてしまう。
じゃあアレックスが倒すべき最大の敵は誰になるのかと思ったら、セラーズが邪魔になった彼を処分しようと決めて、ラスボスのポジションに座る。
だけど、残り30分ぐらいになって急にラスボスの役割を引き受けても、こっちとしては乗り切れないのよ。
そりゃあ、そこまでも決して善玉とは言えなかったけど、ラスボスっぽさは薄かったし。彼にとってアレックスは重要な製品だったから、敵ではなかったし。
終盤まで悪党の役回りをボンヤリさせておいて、慌てて絞り込んでも、カタルシスが無い。

アクションシーンの方も低調で、そもそも力がそんなに入っているとは思えないし、ケレン味も乏しい。
クライマックスの戦いや決着の付け方は、「赤マーカーが付いている相手はプログラムによって撃つことが出来ない。だからセラーズを撃てない」という形にしてあり、明らかにオリジナル版を意識しているんだけど、冴えないことになっている。
オリジナル版は「会社の重役は撃てないプログラムだけど、その場で社長が悪党を解雇し、アレックスが礼を述べて射殺する」という展開がカッコ良かったのだ。
それに対してリブート版だと「ホントは撃てないけど、頑張って撃ちました」という風にしか見えないのよ。
たぶん「戦闘モードだけど自分の判断で撃った」ということなんだろうけど、それも結局は「頑張って撃った」ってことになるし。

(観賞日:2015年9月4日)


2014年度 HIHOはくさいアワード:第10位

 

*ポンコツ映画愛護協会