『ライド・アロング 〜相棒見習い〜』:2014、アメリカ
アトランタ市警のジェームズ・ペイトンは運び屋を詐称し、偽造パスポートを作っているセルビア人のマルコと接触した。ジェームズの目的は、マルコの背後にいる大物犯罪者のオマールを逮捕することだった。しかし素性を見抜かれたため、ジェームズはマルコや手下たちとショッピングモールで銃撃戦を繰り広げる。マルコが車で逃亡したため、ジェームズは追跡した。激しいカーチェイスの末にマルコの車は横転し、ジェームズは彼に拳銃を突き付けて身柄を確保した。
一方、ビデオゲームが大好きなベン・バーバーは、FPSに没頭している。同棲している恋人のアンジェラから話し掛けられても、彼はゲームを最優先で考える。ベンはアンジェラと結婚を考えており、そのために警察学校の試験を受けた。アンジェラは兄であるジェームズに祝福してもらいたいと考えており、そのためにベンは決断したのだった。ジェームズは派手な騒ぎを起こしたことで、上司のブルックス警部補から叱責される。ジェームズはオマールの逮捕に執念を燃やしているが、誰も見たことが無い人物であり、ブルックスは存在そのものを疑問視していた。
高校の警備員として働いているベンは、生徒のラモンを気に掛けていた。ラモンが悪友たちと遊びに行こうとすると、ベンは説教して翻意させた。試験に合格したベンが自宅でアンジェラと喜び合っていると、いきなりジェームズが乗り込んで来た。しかし暗がりで相手の顔が見えなかったため、ベンは侵入者に焦ってパニックに陥った。ジェームズがベンを扱き下ろすと、アンジェラは激しく反発した。ベンから警察学校に合格したことを知らされたジェームズは、露骨に不快感を示した。ベンが「警官になって、アンジェラと結婚する」と言うと、ジェームズは「明日、俺に同行しろ。妹にふさわしい男かどうか証明しろ」と要求した。
翌朝、ジェームズはベンを警察署へ連れて行き、何が起きても訴えないと約束する書類に署名させた。彼は通信係のジーナに、厄介な案件である126Sの通報を回すよう頼んだ。ジェームズは通報の連絡を受け、違法駐車のバイカーたちがいる現場にベンを連れて行く。1人で解決するよう命じられたベンは、バイカーたちと話して立ち去ってもらおうとする。しかし全く相手にされず、大勢の連中に取り囲まれた。ジェームズは部下のサンティアゴから、ランフラットという若者が情報を掴んでいる可能性について連絡を受けていた。
ジェームズはベンを車に連れ戻し、ランフラットの元へ向かった。彼は1人で仕事をしようとするが、ベンが何か手伝いたいと言うので、ランフラットの幼い弟と話すよう指示した。ベンは弟のモーリスと会うが、馬鹿にされただけで終わった。厄介払いをしたジェームズはランフラットを捕まえ、オマールとセルビア人組織について尋問した。ジェームズから射撃経験について問われたベンは、ビデオゲームの経験について話す。ジェームズが馬鹿にして笑うとベンは憤慨し、いかにビデオゲームの世界で自分が優秀なのかを語った。
ジェームズはベンを銃砲店へ連れて行き、射撃を体験させた。初めて本物の銃を手にしたベンは、一発も的に当てることが出来なかった。女性店長のヴァルと話したベンは、数日前までツァスタバM92を扱っていたことを知った。ビデオゲームで豊富な知識を得ているベンは、それがセルビア製の機関銃であることをジェームズに教えた。ジェームズはヴァルに質問し、その銃を所持していた連中の1人にセルビア訛りがあったことを知った。
ジェームズはセルビア人がオマールに銃火器を売っていると睨み、部下のサンティアゴとミッグスに電話を入れた。また通報の連絡が入り、ジェームズとベンはクレイジー・コーディーという酔っ払いが暴れているスーパーマーケットへ出向いた。ベンはジェームズの指示を聞かず、自分で解決しようとコーディーの前に飛び出した。しかしコーディーに襲われて首を絞められ、ジェームズに助けてもらった。コーディーが連行された後、ベンはアンジェラからの電話に「俺には合わない」と漏らした。
アンジェラはコーディーの名を聞き、ジェームズのポーカー仲間だと教える。ベンはジェームズと部下たちの会話を盗み聞きし、今までの案件が全てイジメだったと知る。ジェームズはベンが警官になることを諦めたと確信し、新たな126Sを取り消そうとする。しかしベンはジェームズの策略だと思い込み、通報があったストリップクラブへ行く。2人組の強盗が銃を構えるが、彼は偽物だと決め付けて挑発するような態度を取った。実際に発砲が起きて、ようやく本物だと気付いたベンは悲鳴を上げた。
ジェームズはストリップクラブの事件を解決したものの、ブルックスから叱責された。ジェームズは一人でオマールの捜査を続けようとするが、ベンから「ブルックスに密告する」と脅されたため、仕方なく同行させた。2人はジェイという男を捕まえ、情報を聞き出そうとする。ジェイが強気な態度で拒否していると、ベンの突き付けていた銃が暴発する。怖くなったジェイは、古い廃工場で取引が行われることを白状した。
ジェームズはベンを恫喝して車に待機させ、廃工場でサンディエゴ&ミッグスと合流した。だが、それは罠であり、ジェームズはオマールと通じていたサンディエゴ&ミッグスに拘束されてしまう。気になったベンは廃工場を覗き込み、中の様子を確認した。取り引きが始まる中、ベンは堂々と廃工場へ乗り込んだ。何者か問われた彼は、「俺がオマールだ」と告げた。ベンは誰もオマールを見たことが無いことを利用し、そこにいた連中の動きを止めることに成功した。彼は巧みな弁舌で一味を黙らせ、ジェームズの拘束を解いた。だが、そこへ本物のオマールが現れたため、ベンの嘘が露呈してしまう…。監督はティム・ストーリー、原案はグレッグ・クーリッジ、脚本はグレッグ・クーリッジ&ジェイソン・マンツォーカス&フィル・ヘイ&マット・マンフレディー、製作はアイス・キューブ&マット・アルヴァレス&ラリー・ブレズナー&ウィル・パッカー、製作総指揮はニコラス・スターン&ロン・ムハンマド&クリス・ベンダー&JC・スピンク、撮影はラリー・ブランフォード、美術はクリス・コーンウェル、編集はクレイグ・アルパート、衣装はセキナー・ブラウン、音楽はクリストファー・レナーツ。
出演はアイス・キューブ、ケヴィン・ハート、ローレンス・フィッシュバーン、ジョン・レグイザモ、ブルース・マッギル、チカ・サンプター、ブライアン・カレン、ゲイリー・オーウェン、ジェイコブ・ラティモア、ジェイ・ファラオ、ベンジャミン・“リル・P−ナット”・フローレス、ドラゴス・ブクル、グレッグ・レメンター、エリック・ベンソン、アンナ・ハウス、ジャスミン・バーク、ジュリー・グリブル、ジョン・キャップ、アノーナ・トラー、ドウェイン・ブラウン、ルーアン・ラフォーチュン他。
アイス・キューブが製作と主演を兼ねた作品。
監督は『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』のティム・ストーリー。
脚本は『めざせ!スーパーの星』のグレッグ・クーリッジ、これが初の長編映画となるジェイソン・マンツォーカス、『ゴースト・エージェント/R.I.P.D.』のフィル・ヘイ&マット・マンフレディーによる共同。
ジェームズをアイス・キューブ、ベンをケヴィン・ハート、オマールをローレンス・フィッシュバーン、サンティアゴをジョン・レグイザモ、ブルックスをブルース・マッギル、アンジェラをチカ・サンプター、ミッグスをブライアン・カレンが演じている。この映画の大きな問題点は、アイス・キューブの俺様度数が高すぎるってことだ。
ビリングトップはアイス・キューブだし、製作も兼任しているので、彼が主役として目立とうとするのは当然っちゃあ当然だろう。
ただ、キャラ造形やバランスを考えると、むしろ「ベンが主人公で、その相棒がジェームズ」という形にした方がいいんじゃないかと思うのだ。
ギークのベンが次第に成長していく様子をドラマの軸に据えて、そんな彼を苦々しく思っていたジェームズが認めるようになるという変化を隣に配置した方がいいんじゃないかと。ベンから「アンジェラとの結婚を認めてほしい」と言われたジェームズは、拳銃を何発も発砲する。だが、直後に「それは妄想でした」ということが明らかにされる。
でも、そこまでに「ジェームズがヤバいことを妄想する」というネタは1度も無かったし、それ以降も全く無い。なので、そこだけが浮いている。
いっそのこと、そこは「ホントに何発か威嚇発砲する」という形にしちゃってもいいんじゃないか。
ジェームズはベンを嫌っており、直前には激しい怒りや嫌悪感もハッキリと示していたので、そこで「怒りを我慢する」という描写があるのは違和感があるし。妄想から醒めたジェームズは立ち去ろうとするが、ベンの元へ戻って「プロポーズの準備は出来てるのか」と問い掛ける。そしてベンに対し、自分に同行して証明しろと要求する。
それはホントにベンの人物像をチェックしたいからではなく、過酷な仕事を回して結婚を断念させようという企みだ。
さっきまで感情的になっていた奴が、そこで急に「ベンに罠を仕掛けて結婚を諦めさせよう」という冷静な計略を思い付くのだ。
まあ段取りとしては分からなくも無いが、キャラの動かし方は上手くない。ベンはジェームズから、違法駐車のバイカーたちを独力で立ち去らせるよう命じられる。バイカーたちの元へ赴いたベンは、クールな態度で交渉する。バイカーの1人が靴にツバを吐き掛けると、強気な態度で声を荒らげる。
バイカーが仲間を呼び寄せて包囲されても、まだ強気な態度を崩さない。服を掴まれて持ち上げられても、「離せ、俺は警官だ」と強気に言い放つ。
バイカーから馬鹿にされているし、まるで問題は解決できていないけど、気持ちは全く折れていないのよね。
途中でジェームズを呼ぶなど、少し臆病なトコが見える部分もあるが、逃げ出したり投げ出したりすることは無い。
それってベンのキャラ造形として、中途半端じゃないかと。ジェームズとの対比を考えても、もっとベンのヘタレっぷりは強調した方がいいと思うのよね。
つまり、ただ「腕っぷしが無いから馬鹿にされるし、掴まれるとジタバタしても逃げられない」というだけじゃなくて、気持ちの部分のヘタレっぷりが見えた方がいいんじゃないかと思うのよ。
ジェームズに同行するシーンやバイカーたちと話すシーンを見る限り、ベンって妙に自信ありげだし、強気な態度なのよね。
そうなると、あんまりヘタレっぽく見えないのよ。経験や能力が無いバカかもしれないけど、度胸がある奴に見えるのよ。モーリスと話すシーンでは、幼児を標的にした変態だと騒ぎ立てられたので、慌てて逃げ出す様子が描かれる。
ただ、それは臆病とか弱気とか、そういう問題じゃないし。それに、その直前までは、ずっと強気な態度だったわけで。
しかも、バイカーとのシーンでの描写があるせいで、「相手が幼児だから強気に出た」という形も成立していない。
まあ冷静に考えると、ずっと警備員として働いていたわけだから、ただのヘタレではないんだよね。だけどね、だからって納得できるわけではないよ。
「どうして、もっとヘタレな臆病者という設定にしておかなかったのかなあ」と言いたくなる。ベンを「インドア派で臆病者だから、危険が伴う警官の仕事なんてホントは絶対に嫌だけど、アンジェラのために仕方なく警察学校の試験を受けた」というキャラにしておけば、「最初は逃げ腰で弱々しかった臆病者のベンが、次第に警官の仕事への意欲を見せるようになり、最終的には勇敢な行動で事件を解決に導く」という成長物語が作れる。
この映画だと、ベンは警察学校に合格して喜んでいるし、警官の仕事に同行することへも積極的だ。
ちっとも怖がっちゃいないし、むしろ乗り気な態度だ。
バカだからヘマは多いけど、「経験を積めば、普通に警官としてやっていけそう」という印象を受ける。それでも、まだ「馬鹿にされてばかりだったベンが、一人前の警官に」という成長ドラマがあれば、歩むべき道筋から少しズレているとは感じるものの、まだ何とかなる可能性は残されている。
だけどベンって、最後まで全く成長しないのよね。
そもそも前述したように、彼は強気な態度や積極性という部分では問題が無い。だから、一人前の警官になるために必要なのは、精神面よりも知能や戦闘能力だ。
でも、それって一朝一夕で会得できるようなモノじゃないでしょ。
そんで実際、ベンは最後までバカでヘマの多い奴だし。ベンはお喋りな奴だから、ジェームズを寡黙な奴にしておけば、違いが出る。しかしジェームズも、かなり喋っている。ベンはドジが多いが、ジェームズが有能だという印象も、そんなに強くない。ジェームズもベンも黒人だから、人種の違いは無い。
もちろんジェームズとベンは全く異なるキャラ設定ではあるのだが、対比の面白さがイマイチ。そしてコンビとしての魅力も、あまり感じられない。「反りの合わない2人が、一緒に行動する内にコンビネーションが生まれる」という面白さが乏しい。
バディー・ムービーとしてのスウィング感が弱いのだが、実は全ての原因を一言で集約することが出来る。
それは「だってアイス・キューブの主演作だもの」ってことだ。
それで全ては腑に落ちるのである。(観賞日:2017年1月9日)