『リボルバー』:2005、フランス&イギリス

ジェイク・グリーンは7年の刑期を終え、刑務所を出た。2年後、彼は借りを変えさせるため、兄のビリーと彼の警護役であるテディー、アイヴァンの3名を伴ってドロシー・マカのカジノを訪れた。側近のポールから連絡を受けたマカは、自分のいるフロアへ通すよう指示した。ジェイクが来ると、マカは「事業を始めるらしいが、君は使用人に過ぎない」と見下した態度を取った。ジェイクは大金を賭けた勝負を要求し、それにマカは乗った。
対決に勝利して大金を得たジェイクは、カジノを去ることにした。ポールが「ボスが戻るよう求めている」と呼びに来るが、ジェイクはビリーから「今日は終わりにしよう」と促された。ジェイクは「まだ勝負は終わってない」と呟き、その場を後にした。ザックという男が彼に「困ったら手を貸しますよ」と言い、カードを渡した。エレベーターを嫌ったジェイクは、階段で下りることにした。しかし急に意識を失い、彼は階段から転げ落ちた。受け取ったカードには、「エレベーターで行け」と書かれていた。
マカはポールからジェイクが「まだ勝負は終わってない」と言っていたことを聞き、「奴を始末しろ。ソーターとスリムにやらせろ」と命じた。ジェイクは女医に診察を受けるが、失神の原因不明だった。幸いにも怪我は無く、すぐにジェイクは立ち去った。彼が家に入ろうとすると、玄関前に「これを拾え」と書かれたカードが落ちていた。ジェイクがしゃがんでカードを拾おうとすると、いきなりソーターが発砲して来た。幸いにも銃撃を免れたジェイクは、車で駆けつけたザックに「乗れ」と促された。ジェイクが車に乗り込むと、ザックはバーへと赴いた。彼はバーテンのドリーンを紹介した後、相棒であるアヴィにジェイクを会わせた。
アヴィは入手したカルテをジェイクに見せ、「君は3日後に死ぬ。特殊な病気で血液と臓器がやられている」と告げた。アヴィとザックはジェイクに、「君を1度救ったが、今後は無料じゃない。マカは殺し屋を雇った。持っている金を全て渡し、我々の指示に従い、質問に必ず答えれば、君を守ろう」と取引を持ち掛けた。ペテンだと感じたジェイクは相手にせず、その場を去った。彼は2人の医者に診察してもらうが、同じ結果を宣告された。彼はバーへ戻ってアヴィたちと再会し、取引を承諾した。
アヴィとザックは、自分たちが高利貸しであることを話した。彼らは「君の金を他人に貸し付ける」と言い、仕事先にジェイクを連れて行く。ジェイクは彼らから、マカのことを全て話せと要求された。マカにはエディーという3人の手下がいて、町のギャンブルを仕切っていた。ある時、ジェイクは死んだディーラーの後釜になるよう求められて断った。しかし娘のレイチェルが産まれたばかりのビリーが脅されたため、彼は仕方なく引き受けた。
ある日の賭場で、ジェイクは男性客から侮辱を受けた。腹を立てたジェイクが発砲し、撃ち合いが勃発した。その最中に金が無くなり、ジェイクはタレ込みによって逮捕された。エディー4人組はジェイクが何も喋らないよう、ビリーの家族を脅した。その際、娘を守ろうとしたビリーの妻は銃の暴発によって死亡した。ジェイクはマカのことを何も喋らず、7年の懲役を終えた。そしてマカに復讐するため、彼の金を奪って恥をかかせてやろうと目論んでいた。
マカは裏社会の大物であるサム・ゴールドに呼び出され、教会へ赴いた。代理人のウォーカーが現れたので、マカは「予定通り、ドラッグは金曜までに届けます」と言う。ウォーカーは「問題を抱えているようですが、人目を惹かないように。二度目のチャンスはありません」と述べた。ウォーカーは絶対的な権力者であり、誰も正体を見たことが無い。誰もが恐れる存在であり、マカも今回の仕事を失敗することが出来ないと肝に銘じていた。
ジェイクはアヴィたちに金を渡し、刑務所のことを話すよう要求される。ジェイクが入った独房の両隣には、チェスの天才とペテンの巨匠が入っていた。ジェイクは届けられる書物の中でペテンに利用できる本を積極的に読んだが、その全てに彼らの書き込みがあった。格の違いを感じたジェイクは、彼らの考え方を全面的に信じた。ある時、彼らは痕跡も残さずに刑務所から消えた。2年後にジェイクが出所すると、隠しておいた金は盗み出されており、「上達する唯一の手段は、強敵との勝負」と書かれたメモが残されていた。ジェイクは彼らの方式を実行し、大金を稼ぎ出した。
アヴィとザックはジェイクに高利貸しの仕事を手伝わせる一方で、ドラッグの入った金庫をマカのカジノから奪った。マカはポールに、別のドラッグを用意するよう命じた。ポールはマカの商売敵である中国人のジョンと会い、交渉を持ち掛けた。ジョンは高値を吹っ掛けたが、ポールから報告を受けたマカは「買え」と指示した。ジョンは手下のスキニー・ピートに仕事を任せて「揉め事は銃で片付けろ」と告げ、ポールは側近のルーを差し向けることにした。
ピートとルーはホテルで取引することになり、それぞれの一味が別の部屋に入った。アヴィとザックはジェイクを連れてホテルへ赴き、先に来ていたドリーンと合流する。アヴィたちはガスを使って両方の連中を眠らせ、金とドラッグを奪い去った。目を覚ました双方の連中は、相手側の仕業だと思い込んだ。ジェイクはビリーからの電話で、「そいつらと手を切れ。彼らは最後の手段だ。全ての金貸しに断られた時に現れる。彼らはゴールドを怒らせた。殺されるぞ。だが、奴らは特別だ。何か始末されない理由がある」と語った。
ジェイクはアヴィとザックから、返済の滞っているフレッドという男の膝頭を撃つよう命じられた。ジェイクは拒絶し、アヴィに拳銃を剥けた。しかし銃は空砲で、ジェイクは頭を殴られて昏倒した。病院で再検査を受けた彼は、最初の診断が過ちだったことを医者から告げられた。ジェイクが電話を掛けて「俺に何を隠してる?」と尋ねると、アヴィは「じきに分かるさ」と答えた。マカは手下のポールとパトリックから、ジェイクがビリーと組んでいること、その背後に2人組がいることを知らされた。彼はポールに、ソーターたちを使って始末するよう命じた。
ジェイクはアヴィとザックの元へ行くが、質問しても軽く受け流された。「自分で何とかしろ」と言われたジェイクは、スリムに襲われた。発砲をかわしたジェイクが逃走すると、スリムは自らを誤射して死んだ。ジェイクが「全て話してもらおうか」と要求すると、アヴィとザックは「3人のエディーについて真実を話してないな」と指摘した。ジェイクは「3人のエディーはマカがコンクリート詰めにして殺害した」と喋っていたが、それは嘘だった。
3人のエディーはジェイクが出所した日に現れ、銃を突き付けた。しかしジェイクが「まとまった金を貸してくれたら毎月3パーセントを支払う」と持ち掛けると、彼らは乗った。その後、ジェイクは1人ずつと会い、今度は4パーセントで取引を持ち掛けた。3人のエディーは快諾し、ジェイクは約束通りに金を支払った。しかし、実は1人に借りた金を別のエディーに渡すことを繰り返しただけだった。
やがて3人のエディーは金が用意できなくなり、マカに借金を申し込んだ。利子が付くことから、マカは金を貸してやった。エディーたちは質問を受けても、ジェイクが絡んでいることを明かさなかった。ジェイクはギャンブルで大儲けした後、3ヶ月のバカンスに出掛けた。金が返せなくなったエディーたちは、マカの拷問を受けた。彼らはジェイクが黒幕だと白状するが信じてもらえず、ポールに射殺された。これによって、ジェイクの復讐相手はマカだけになった…。

監督はガイ・リッチー、脚本はガイ・リッチー、脚色はリュック・ベッソン、製作はヴィルジニー・シラ、共同製作はリュック・ベッソン&ピエール・スペングラー、製作総指揮はスティーヴ・クリスチャン、撮影はティム・モーリス=ジョーンズ、美術はイヴ・スチュワート、編集はジェームズ・ハーバート&イアン・ディファー&ローメッシュ・アラウィヘア、衣装はヴェリティー・ホークス、音楽はナサニエル・メカリー。
出演はジェイソン・ステイサム、レイ・リオッタ、ヴィンセント・パストーレ、アンドレ・ベンジャミン、テレンス・メイナード、アンドリュー・ハワード、マーク・ストロング、フランチェスカ・アニス、メム・ファーダ、アンジェラ・ローレン・スミス、エラナ・ビニシュ、シェンド、ビル・ムーディー、スティーヴン・ウォルターズ、ヴィンセント・リオッタ、トム・ウー、イアン・プレストン=デイヴィス、ジミー・フリント、ブライアン・ヒバード、ブルース・ワン、トニー・タン、ジョージ・スウィーニー他。


『スナッチ』『スウェプト・アウェイ』のガイ・リッチー監督が、ヨーロッパ・コープのリュック・ベッソンと手を組んで作った映画。
ジェイクをジェイソン・ステイサム、マカをレイ・リオッタ、ザックをヴィンセント・パストーレ、アヴィをアンドレ・ベンジャミン、ポールをテレンス・メイナード、ビリーをアンドリュー・ハワード、ソーターをマーク・ストロング、ウォーカーをフランチェスカ・アニスが演じている。

この映画は2005年にイギリスやフランスなどヨーロッパの幾つかの国で公開されたものの、酷評を浴びて興行的にも惨敗した。
その後、アメリカでは2007年に入って限定公開されたのみで、日本でも2008年まで公開されず塩漬けにされていた。
ガイ・リッチーは当時の奥さんであるマドンナを主演に据えた『スウェプト・アウェイ』も惨敗しており、「もう完全に終わった」とまで言われたほどだ。
しかし結果的には、『ロックンローラ』を経て『シャーロック・ホームズ』で復活するのだが(個人的には『シャーロック・ホームズ』を高くは評価していないけど)。

ともかく、本作品については酷評を浴びてコケるのも当然だろう。
何より致命的なのは、「ワケが分からん」ってことだ(いや実はワケが分かる映画なんだけど、それについては後述する)。
前半は調子良く進んでいて、「謎めいた展開の中で張り巡らせた伏線が、どのように回収され、バラバラのピースが1つに組み合わさるのか」と期待を持たせる。
ところが後半に入るとジェイクの禅問答が始まり、おまけにマカまで禅問答に突入しちゃうので、「デヴィッド・リンチやデヴィッド・クローネンバーグの真似なのか」と言いたくなる。

ガイ・リッチーは2007年12月5日にニューヨークのトライベッカ・グランド・ホテルで開催された上映会に出席した際、「僕ですら、この映画を50回見てようやく理解できたくらい」とコメントしている。
ジョーク交じりだったのかもしれないけど、作った本人が50回も観賞しないと分からない映画なんだから、ほとんどの観客は理解できなくて当たり前だ。そして、ほとんどの観客は、理解するために50回も観賞してくれるほどお人好しでもなければ辛抱強くもない。
つまり「50回も観賞しないと分からない映画」を作った時点で、「誰に向けて作ってんだよ」と言いたくなってしまうわけだ。
もちろん、「謎めいた映画」とか「一度の観賞では全てを理解できない映画」ってのも、ある程度なら有りだろう。でも50回ってのはキツいでしょ。
ワケが分からなくても、分からないなりに面白味があれば、まだ救いになるとは思うのよ。
ところが本作品は、ワケが分からなきゃ面白さも伝わらないという困った映画なのである(っていうか普通はそうだけど)。

ジェイクが「借りを返してもらう」とマカのカジノへ乗り込んで憎しみを示す時点では、2人の因縁がどういうものなのかは分からない。
その辺りはミステリーのような状態になっており、復讐劇として見た場合には全く乗れない。
しかし、どうやらガイ・リッチー監督は最初から、これを復讐劇として描くつもりは無かったようだ。
だからこそ、ジェイクがマカとのゲームに勝利するシーンもバッサリと省略しているんだろう。

ジェイクは「金を奪って恥をかかせることが最も効果的な復讐方法だ」と語っているが、兄嫁を殺されたのに、その程度で復讐を済ませてしまうのかってのは引っ掛かる。ジェイクはともかく、ビリーはそれで納得できるのかなと。
あと、実行犯であるエディーたちへの復讐は既に終わっており、台詞と回想シーンで簡単に片づけられる。
そんなわけで、ジェイクがアヴィたちに「復讐する事情」を説明した後でも、やはり復讐劇にはイマイチ乗れない。
復讐劇として描いていないにしても、表面的には復讐劇として乗れるモノに仕上げておいた方がいいんじゃないかと思うんだけどね。

ぶっちゃけ、この映画だと、ジェイクの目的が「兄嫁を殺された復讐」じゃなくても、そんなに支障が無いような気がするのよね。
アヴィとザックの取引に乗ってからは、「マカに復讐してやる」というジェイクの燃える思いなんて完全に消え失せているんだし。
彼らのペテンに巻き込まれたことへの焦りや苛立ちばかりが強くなり、もはやマカの金を盗み出すことも、どうでも良くなっているんじゃないかとさえ感じられるのだ。
その部分でさえ、「アヴィたちの行動に巻き込まれているだけ」という印象になっている。本人の主導的な部分が完全に無くなっいるんだよね。

アヴィがジェイクに教える病気の宣告も、ジェイクがマカとの因縁や刑務所の出来事を語る内容も、とにかく何から何まで全てが胡散臭い。
そして、そこには熱ってモノを感じない。
良く言えばクール&スタイリッシュってことなのかもしれないけど、「遥か遠い場所で繰り広げられている空虚な絵空事」を見せられているような印象なのだ。
そして、そういうモノを見せられていると、こっちの気持ちもクールになってしまう。

ジェイクがアヴィたちの策略に巻き込まれても、焦ったり苛立ったりしても、そこに気持ちが入らない。そもそも、ジェイクが余命わずかと宣告された後、「全額を渡せば危険から守る」という取引にのる理由がイマイチ分からない。
そりゃあ目的を果たす前に殺されるのは避けたいだろうけど、かなり無理があると感じる。
アヴィたちがジェイクに仕事を手伝わせるのも、どういう意図だかサッパリ分からない。
そこで余計な引っ掛かりを生じさせるぐらいなら、アヴィとザックを「理由は良く分からないけどジェイクの復讐を手伝ってくれるアウトロー」ってことにしてもいいんじゃないかと。どうせジェイクの余命がわずかってのも、物語の展開に大きな影響を与えていないし、その要素を削ってもいいんじゃないかと。
ひょっとすると、その辺りも全て意味が含まれているのかもしれないけど、50回も観賞しないと分からないのなら、無意味なのと大して変わらんよ。

ザックがジェイクに渡すカードの文面は、1枚目も2枚目も「そんなピンチを事前に察知するのは絶対に無理だろ」という内容だ。
1枚目は「エレベーターで行け」という内容だが、階段を下りる時にジェイクが失神することなんて、彼が病気だと知っていても言い当てることは不可能だ。
そっちは「念のために」と解釈するにしても、2枚目の「これを拾え」に関しては、ソーターが狙撃するタイミングで拾うかどうかは時の運でしか無いわけで。
しかも、それを拾ったからって、狙撃を免れるとは限らないし。

つまりザックが渡したカードは、ジェイクを助けることに繋がっているけど、予言者や超能力者でもなきゃ有り得ない非現実的な助言ってことだ。
結果的には、それでも辻褄が合うようになっている。
しかし、種明かしが訪れる前の段階でも、そこが非現実的なファンタジーにしか思えないってのは上手くないと思うのよ。
そこは一応、ちゃんと理屈が通る形でザックがジェイクを救う内容にしておいた方がいいと思うのよね。

前半からジェイクの心の声が何度も挿入されているが、後半に入るとジェイクが自分の心の声と積極的に対話する展開が訪れる。それと同時に物語は、精神世界で葛藤する男を描く観念的な内容になる。
しかもジェイクだけじゃなくて、マカまで内面の自身と対峙するようになり、映画は五里霧中の世界へと踏み込んでいく。
そこから抜け出すことが無いまま、映画は観客を煙に巻くようにして終わる。
珍しいことにクロージング・クレジットが存在しないが、それも含めて観客を放り出す感覚の強い終わり方だ。

劇中に「これが正解です」という種明かしの時間帯が用意されているわけではないので、あくまでも推測になってしまうが、ようするに本作品は「全てジェイクの夢(もしくは妄想)でした」ってことなんだろう。
彼は刑務所から出ておらず、シャバに出て復讐を果たす妄想を膨らませたってことなんだろう。
つまり両隣の独房に入っていたチェスの天才とペテンの巨匠も、アヴィとザックも、想像上の人物ってことだ。
それ以外の人物は、どれが実在でどれが架空なのかは分からないけど、その辺りはどうでもいいわな。

で、「全てジェイクの夢でした」という風に解釈すれば、意味が分からなかった描写や、整合性が引っ掛かる描写などは、全て一応の筋が通るようになる。
「だって夢だからね」という答えによる解決なので、それを「筋が通る」と表現していいのかどうかは微妙なトコロだが、でも夢なんだから仕方が無い。
で、この映画の大きな問題点は、「もはや何でも有りじゃねえか」と言いたくなるってことだ。全てが夢ってことなら、何をやってもOKでしょ。
これがファンタジーなら「ファンタジーとしてのルール」を守る必要があるけど、夢ってことならルール無用だからね。
っていうか、さんざん意味ありげな描写を盛り込んでおいて、夢オチは無いでしょ。

(観賞日:2015年11月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会