『レポゼッション・メン』:2010、アメリカ&カナダ

近未来。ユニオン社が販売する人工臓器は、多くの人々に利用されていた。高額のためにローンを組む人も多いが、支払いを滞納すればレポ・メンが回収に向かう。レポ・メンのレミーは、滞納者であるヘンリー・スマイズの部屋で彼の帰りを待ち受けた。酒を飲んで女と一緒に帰宅したスマイズは、慌てて「金なら払う」と弁明する。レミーは「金の回収に来たんじゃない」と告げ、ティーザー銃で彼を気絶させた。レミーは手術道具を取り出し、メスで腹を割いて人工肝臓を取り出した。
会社に戻ったレミーは、回収した臓器を上司のフランクに渡した。彼は親友で同僚のジェイクから、飲みに行こうと誘われる。レミーは妻のキャロルから販売部に移ることを求められているが、まだ決断していない。ジェイクと共に出掛けたバーで、レミーは歌手のベスに見とれた。翌日、レミーは自宅で友人たちを招き、バーベキューパーティーを開いた。電話を受けたジェイクは、レミーに「滞納者が来る。半年間の滞納だ」と告げる。「手数料は倍額。半分やる」と彼が言うので、レミーは2分だけ抜け出すことを承諾した。
ジェイクは庭を抜け出し、レミーの家の前へ向かう。レミーはキャロルに「肉を取りに行った」と嘘をつく。滞納者を乗せたタクシーの運転手が、家の前で停車した。ジェイクは滞納者に襲い掛かり、腹を割いて人工腎臓を回収した。不審に思って様子を見に来たキャロルは、それを目撃して激怒した。彼女はレミーに「決断して」と迫り、息子のピーターを連れて家を出た。その夜、レミーとジェイクは車で移動中、スキャナーで大勢の滞納者の存在をキャッチした。2人は滞納者18名が逃げようとしている貨物船に踏み込み、抵抗する連中を始末して32個の臓器を回収した。
レミーは回収した臓器をフランクに引き渡した後、販売部へ移る決意をジェイクに明かした。彼は最後の仕事として、音楽プロデューサーのジミー・Tボーンが住む邸宅へ赴いた。かつては売れっ子だったTボーンだが、今ではすっかり落ち目になっている。Tボーンは覚悟を決め、横になった。レミーは人工心臓を停止させるため、除細動器で電気ショックを与えようとする。だが、装置の故障によってレミーは激しく吹き飛ばされ、意識を失った。
レミーが病院のベッドで意識を取り戻すと、フランクとジェイクがいた。レミーは人工心臓が取り付けられていることに気付いた。電流で心臓が焼けてしまったのだという。生きるためには他に方法が無く、レミーは正式な移植手術を受けた。レミーが帰宅すると、鍵が取り換えられている。家の中にはキャロルがいたが、「決断してと言ったのに、貴方は無視した」とレミーを冷たく追い払った。レミーはジェイクの家で世話になることにした。
レミーは仕事に復帰するが、滞納者を気絶させて臓器を回収しようとしても、メスを入れることが出来なかった。販売部に移っても会社を訪れる人へのセールス・トークが下手で、まるで稼ぐことが出来ない。ローンの支払いが滞る中、レミーはギャンブルで当てようとするが、それも失敗に終わった。90日が経過し、ついにレミーの元へ最後通告が届いた。それを知ったジェイクはレミーに金を稼がせようと考え、廃墟での簡単な回収作業を用意した。だが、レミーは滞納者にメスを入れることが出来ず、殴られて気を失った。
意識を取り戻して歩き出したレミーは、ドラッグの禁断症状に見舞われているベスを発見した。彼はベスをモーテルに運び込み、彼女を救う。だが、意識を取り戻したベスはレミーに殴り掛かり、「助けなんか要らない」と喚いた。彼女もレミーと同様、人工臓器を使っている滞納者だったのだ。しかもベスは10個の臓器を使っていた。レミーは本社に忍び込んでデータを抹消しようとするが、ジェイクに見つかった。「会社が差し向けるのはレイか?」というレミーの質問に。ジェイクは「たぶん。だが、俺かもしれない」と答える。レミーは「仕事は仕事だ」と告げ、その場を後にした。
モーテルに戻ったレミーは、ベスに「データを消し切れなかった。ここから逃げるんだ」と言う。2人は廃墟に身を隠し、そこで肉体関係を持った。だが、穏やかな日々は長く続かなかった。フランクの命令を受けたレポ・メンのレイが、人工臓器の回収にやって来たのだ。レミーはレイを始末し、負傷したベスを車に乗せて逃亡する。レミーは肺のマスコット人形に入り、ユニオン社に忍び込んだ。
レミーはフランクの部屋に乗り込み、ディーザー銃を向けて「データを消せ」と脅しを掛けた。するとフランクは「君がデータをいじったせいで、本社が装置を全て持ち帰った。回収された装置は、全て本社のピンク・ドアで登録される」と声を荒げる。レミーはベスの元に戻り、「ユニオン社の無い国へ逃げる」と告げた。一方、フランクはジェイクを呼び、「今度は君がレミーを追え」と命じた。
空港へ赴いたレミーとベスは、妨害装置を使って人工臓器の存在を隠し、セキュリティー・チェックをクリアした。だが、ベスの膝から血が垂れ落ちたため、治療を要求されて搭乗を止められる。ベスが治療を受けていると、レポ・メンがやって来た。レミーとベスは空港の職員とレポ・メンを叩きのめし、その場から逃走した。ベスはレミーを連れて、闇の回収屋をしているアズバリーを訪ね、助けを求めた。ベスは膝の治療を受けるため、レミーと共に闇医者のアルヴァ&リトル・アルヴァの元へ行く。手術を終えたレミーとベスがアズバリーの所に戻ると、彼は殺されていた。部屋にはジェイクが待ち受けており、自分が除細動器に細工したことを明かす…。

監督はミゲル・サポチニク、原作はエリック・ガルシア、脚本はエリック・ガルシア&ギャレット・ラーナー、製作はスコット・スチューバー、製作総指揮はミゲル・サポチニク&ジョン・モーン&アンドリュー・Z・デイヴィス&マイク・ドレイク&ヴァレリー・ディーン、撮影はエンリケ・シャディアック、編集はリチャード・フランシス=ブルース、美術はデヴィッド・サンドファー、衣装はキャロライン・ハリス、音楽はマルコ・ベルトラミ、音楽監修は、キャシー・ネルソン。
出演はジュード・ロウ、フォレスト・ウィッテカー、リーヴ・シュレイバー、アリシー・ブラガ、カリス・ファン・ハウテン、ライザ・ラピラ、イヴェット・ニコール・ブラウン、RZA、チャンドラー・カンタベリー、ジョー・ピングー、ティファニー・エスペンセン、ターニャ・クラーク、マックス・ターンブル、ハワード・フーヴァー、ロバート・ドッズ、ラフ・ロウ、トレメイン・コリオン他。


エリック・ガルシアのSF小説『レポメン』を基にした作品。
原作者が脚本にも携わっている。
監督はCMやミュージック・フィルムの演出を務めて来たミゲル・サポチニクで、これが映画デビュー。
レミーをジュード・ロウ、ジェイクをフォレスト・ウィッテカー、フランクをリーヴ・シュレイバー、ベスをアリシー・ブラガ、キャロルをカリス・ファン・ハウテン、アルヴァをライザ・ラピラ、TボーンをRZA、ピーターをチャンドラー・カンタベリーが演じている。

近未来が舞台のはずだが、冒頭でレミーは昔ながらのタイプライターを打っている。
それは廃墟にあった古い物ってことが後半に入って判明するが、それ以外の部分、屋内の調度品や家電製品、街の景色などを見ても、「近未来」をイメージさせるようなモノが見当たらない。
レポ・メンが人工臓器を取り出す方法も、メスを使って腹を割くという、とてもアナクロな方法だ(既に現在でさえ、手術ロボットが存在しているというのに)。
そんな中で、ユニオン社関連の設定や装置だけが「近未来」なので、そこが特異なモノとして、悪い意味で際立ってしまう。

設定に無理があり過ぎる。
人工臓器を回収するのと、金や家を回収するのはワケが違うはずなのに、それを同列に扱っている。
でも金や家は回収すれば他で使えるけど、人工臓器は無理でしょ。
使い回しをしているのであれば、値段はもっと下がるはずだ。
それに、中古品を使い回すにしても、わざわざ回収のために多くの人員や予算を使うってのは、金儲けを考えると、あまり利口とは思えんぞ。

レポ・メンはメスを使って臓器を取り出しているが、全員が医師免許を持っているというわけでもあるまい。
どうせ滞納者は死ぬから、臓器を取り出す作業に医師免許は不要なのか。だとしても、人工臓器を回収したところで、滞納している負債と同程度の価値があるとも思えんが。
それよりも、支払いが滞ったら別の何かを差し押さえるとか、そういう手口の方がいいんじゃないかと。あるいは、人工臓器によって人間は長寿になっているのだから、もっと長期のローンを組ませればいいんじゃないかと思ったりもするし。
「臓器を取り出す」というグロテスク描写を最初に思い付いて、そこに説得力や整合性を持たせるための作業が上手く行かなかった、あるいは手を抜いたということなんじゃないかと思ったりしてしまう。

人工臓器を回収されたら死ぬことは分かっているのに、滞納者が平気で酒を飲んだり女と遊んだりして帰宅するってのは違和感がある。
殺されることを覚悟して、諦めているならともかく、そうじゃないわけだから。
あと、フランクは心配している客に「実際に臓器回収が行われるケースは、まずありません」と話しているけど、実際は幾つも行われているわけで。
その事実がバレてないってことなのか。
それは不可解だ。臓器が回収されれば滞納者は死ぬわけで。誰かが死ねば、警察が動くでしょ。

そもそも、「ローンが支払えなくなったら臓器回収」というのは会社として明らかにしているわけで、その段階でブラック企業でしょ。
それは「支払えなかったら死んでもらう」と言っているのと同じなんだからさ。
そんな会社が、イリーガルな企業や闇の会社としてではなく、堂々と営業している大会社として成立しているのも違和感がある。
ベスのセリフからすると、どうやら人工臓器を扱っているのはユニオン社だけでなく複数の企業がやっているようだから、そこには競争があるはず。
だったら、ユニオン社のように「とても高額で、滞納者は容赦なく殺す」というブラック企業が大会社として君臨しているのは奇妙だ。
ヤクザがやっている悪徳金融みたいに、「真っ当な方法では人工臓器を入手できない人が(厳しい条件をクリアしないと入手できないような世界観設定にしておくのだ)、違法で手に入れるために使う会社」ということなら分かるけど。

そんな風に、序盤で提示される設定に違和感が強いので、その時点で気持ちがイマイチ乗っていかない。
それでも、「荒唐無稽な話です」ということでキッパリと割り切って、おバカなパワーと勢いで乗り切っていこうとするのならば、何とかなったかもしれない。
しかし実際には、「リアリティーのあるシリアスなSF」という雰囲気を醸し出してストーリーを進めていくので、厳しいことになっている。

レミーたちが、いわば人殺しに加担しているのに、それを平然とこなしているのも違和感がある。
そこに苦悩や葛藤は全く無い。
でも人間の心を失っているとか、冷酷非道な奴とか、そういう設定でもなさそうだ。
ずっと続けている中で感情が麻痺したとか、そういうわけでもなさそうだし(少なくとも映画を見ている限り、そういうことは感じられない)。
普通に喜怒哀楽の感情表現を見せているので、仕事を事務的にこなしている部分と、キャラとして頭の中で合致してくれない。

ジェイクの臓器回収を目にしたキャロルが家を出て行くのは、あまりにも唐突で違和感が強い。
そこで激怒するのは分かるのよ。でも、臓器回収をやったのはレミーじゃなくてジェイクなんだし。
それに、キャロルがレミーに対して販売部への移動を求めていることは描写されていたけど、それが最後通牒という風には見えなかったし。
夫婦仲がそこまで不穏になっているようにも見えなかったし。

シリアスでサスペンスフルな映画のはずなのに、妙にコミカルな描写が混じったりするのもいただけない。
パーティーのシーンで明るい雰囲気になるとか、仕事を成功させた後でジョークを飛ばすとか、そういうのは別に構わないのよ。
ただ、レミーが除細動器のトラブルで弾き飛ばされた時、その状態で静止画像になって「チーン」というSEが入り、「ショックで気絶したことは今までに4度ほどある」というモノローグが入るのは、どう考えてもコメディーの演出でしょ。
それは違うんじゃないかと。

レミーが人工心臓に対して強烈な拒否反応を示すのも、違和感があるんだよなあ。
嫌がるのは別にいいんだけど、すぐに取り外そうとするほど強い嫌悪感を示すのは、ちょっとキャラの動かし方として行き過ぎじゃないかと。
そういう反応を示すのであれば、それまでのシーンで、「回収する側だからいいけど、自分が付けるのは絶対に嫌だ」と言わせておいて、地均しをしておいた方がいいんじゃないか。
あるいは、回収の際に自分がやっていることへの迷いを示すとか、滞納者に対する罪悪感を見せるとか、そういうことでもいいけど。

レミーが人工心臓を移植した途端、仕事が出来なくなるってのも違和感がある。
なんで急にイップスになっているのかと。
回収しようとすると人工心臓がバクバクと激しく動いちゃうという表現があるんだけど(心臓の音が激しく鳴る)、なぜなのか良く分からないんだよね。
そもそも移植の後は、かなり体力的に弱っているような雰囲気なんだよな。
他の滞納者は元気だったので、それも違和感。

とは言え、レミーは体力が弱っているから、回収作業が出来なくなったわけではない。精神的なものとして描かれているようだ。
でも、「自分も人工心臓になったから、回収に対する罪悪感が生じた」とか、そんな風にも見えないんだよな。
その後で「ジェイクが哀れな男の話をするのを聞きながら思った。殺された男にも名前があって、妻がいて、子供もいただろう」という独白が入るが、回収作業に失敗したシーンでは、そういう感情を抱いていたようには見えない。
移植後のレミーが回収作業をやれなくなるってのは、「金を稼げなくてローンを滞納する」という状況を作るための展開だが、そこがスムーズに描かれておらず、強引に感じられる。

闇医者アルヴァとリトル・アルヴァの手術シーンなんて、まるで必要性が感じられず、ただグロテスク描写を入れたいだけじゃないのかと思ってしまう。
既にレミーとベスはレポ・メンから追われる身になっており、しかもジェイクまで動き出しているんだから、空港を脱出したら勢いを殺さず、そのままクライマックスまで畳み掛けて行くべきでしょうに。
もう終盤に入っているのに、そのタイミングで小休憩に入っちゃうのは理解し難い。

レミーがジェイクと争いになり、窮地に陥ったところで画面が暗転する。で、レミーはベスに起こされ、そこから逃げ出す。
それ以降、
「息子をレミーに会わせることさえ嫌がっていたキャロルが、わざわざ駅まで息子を連れて来る」
「ユニオン社はキャロルたちをマークしているはずなのに、駅には誰も来ない」
「レミーにガミガミ言っているキャロルをピーターがティーザー銃で気絶させる」
「ピンク・ドアの部屋に入ろうとしたレミーは、その前にいた警備員ではない普通の社員たちに襲い掛かられて格闘戦になる」
「レミーとベスが互いの体を割いて臓器にスキャナーを突っ込む」
など、不可解なことが幾つもある。

終盤に入って違和感がさらに増す中で、ジェイクがフランクを始末してレミーとベスを助け、ハッピーエンドに到達する。
ところが、それは本物のハッピーエンドではない。
「実はレミーはジェイクに殴られて昏倒しており、それ以降のシーンは全て彼の見ている夢」という『未来世紀ブラジル』のようなオチが待っている。で、「違和感の強い箇所が多いのは、レミーの見ている夢なので、彼に都合のいい内容になっている」ということで説明が付く。
でも、そうだとしても、オチが明かされるまでに幾つもの違和感を抱かせてしまったら、その時点で失敗だと思うよ。
それに、前述したように、夢に入る以前から違和感の連続だしね。

あと、ジェイクが除細動器に細工を施してレミーが人工心臓を移植するように罠を仕掛けた理由が「レミーが販売部に移るのを阻止し、ずっとパートナーとして仕事をしていきたいから」ってのは、「そんなくだらねえ理由かい」とツッコミを入れたくなる。
劇中では明示されていないが、それは「友人とコンビを組み続けたい」ということじゃなくて、ホモセクシャルな感情があってのことなんだろうとは思うよ。
ただ、仮に「惚れてるから」ということを強くアピールしたとしても、陳腐な印象は大して変わらないだろうなあ。

(観賞日:2013年5月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会