『RENT/レント』:2005、アメリカ

クリスマス・イヴ。歌手志望のロジャーと映画監督志望のマークはアパートで同居しており、去年から家賃を滞納している。他の住人たちも家賃を支払っていないが、立ち退き命令は拒否している。かつてロジャーたちの仲間だったベニーは、金持ちの娘と結婚している。義父はビルとホームレスの住む区画を買い、地域の再開発を計画している。ベニーはロジャーとマークに、「モーリーンの抗議ライブを知った義父が、家賃を取り立てろと言ってる」と話した。
かつてマークはモーリーンのマネージャーだったが、捨てられていた。ロジャーとマークは、モーリーンが今はジョアンヌという女性と付き合っていることを教えた。ベニーは彼らに、「モーリーンの抗議ライブを中止させれば家賃はタダだ。出来なきゃ立ち退け」と告げた。コリンズは男たちに襲われ、バッグを奪われて怪我をする。路上ミュージシャンのエンジェルはコリンズに気付き、声を掛けた。彼がエイズ患者でライフ・サポートの会に行くことを話すと、コリンズは自分もエイズだと明かした。
元薬物依存症のロジャーはHIV陽性で、死ぬまでに名曲を書きたいと思っていた。下の階に住むミミがロジャーの部屋に来て、ロウソクに火を付けてほしいと頼んだ。ロジャーは彼女に、死んだ恋人のエイプリルに似ていると告げる。ミミは彼に、『キャット・スクラッチ』のSMダンサーをしていることを話す。ミミがヘロイン中毒だと知ったロジャーは自分もヤク中だったことを語り、やめるよう諭す。しかしミミは受け入れず、「ほんの気晴らしよ」と軽く告げた。
翌朝、マークは実家からの電話に居留守を使い、ロジャーに「こんな生活が嫌になって来るが、実家よりはマシだ」と語った。7ヶ月ぶりに2人の元を訪ねたコリンズは、本性が知られてMITをクビになったと話す。しかし彼はNYUで働くことになったと言い、エンジェルを紹介した。マークはモーリーンから、「ジョアンヌが頼りにならないからデモ会場に来て」という電話を受けた。彼はロジャーたちに愚痴をこぼしながらも、モーリーンに未練があるので音響の調整に出向くことにした。
コリンズとエンジェルは、ライフ・サポートの会に来ないかと誘った。ロジャーは断るが、マークは「後で行く」と答えた。彼が会場に着くとモーリーンは来ておらず、ジョアンヌがいた。ジョアンヌはマークが来たことに不快感を示すが、渋々ながらも音響の調整を任せた。マークがモーリーンの身勝手に振り回されていることを指摘すると、ジョアンヌは認めた。マークがライフ・サポートの会に出向いてドキュメンタリーを撮らせてほしいと頼むと、参加者のスティーヴやポールたちは承諾した。
ミミは仕事を終えるとロジャーの元へ行き、一緒に出掛けようと誘う。しかしロジャーは彼女が薬を続けていることに言及し、諦めてくれと告げて立ち去らせた。翌朝、マークはベニーからの「モーリーンを止めるなら期限は日没だぞ」という留守電メッセージを聞くが、無視を決め込んだ。ロジャーはマークから「ミミも抗議デモに来る。お前も来い」と誘われるが、すぐに断った。しかしライフ・サポートの会の集まりをマークが撮影していると、ロジャーがやって来た。
ロジャーたちが外に出ると、道路わきに寝そべっているホームレスの女性が警察官たちに注意されていた。マークがカメラを回すと、彼女は「出世に利用するな」と怒鳴った。コリンズとエンジェルはロジャーたちと別れ、互いの愛を確かめ合ってキスをした。夜、ロジャーは売人と話しているミミを見つけ、昨晩の態度を謝罪した。「埋め合わせがしたい。みんなライフ・カフェに集まる。一緒に行かないか」と彼が誘うと、ミミは快諾した。
ロジャーとミミが抗議デモ会場に行くと、既に大勢の人々が集まっていた。マークがカメラを回す中、モーリーンはバイクで会場に現れた。。モーリーンがステージに上がると、観客は喝采を送った。ベニーは義父と共に会場へ入り、抗議デモの様子を観察した。モーリーンはベニーを批判し、彼女のパフォーマンスで観客は盛り上がる。しかし会場を警備していた警官隊と一部の観客が衝突し、モーリーンの説得にも関わらず乱闘が勃発して逮捕者が出た。
ロジャーたちはライフ・カフェに集まり、マークは「今夜11時のニュースでライブが流れる。映像を売った」と話す。世間の注目を集めることに繋がるため、ミミはマークに感謝した。カフェに来ていたベニーはミミたちから非難され、町を良くしたいだけだと反論するが全く相手にされなかった。ロジャーはミミと2人になり、自分がエイズだと打ち明けようとした。するとミミは、自分も抗エイズ薬を服用していることを話した。外に出た2人は、愛を確かめ合ってキスを交わした。
大晦日、ロジャーたちはタイムズ・スクエアへ出掛けて新年ほ迎えた。マークが回すカメラの前で、ミミは「心を入れ替えて復学する」、ロジャーは「今年中に新曲を完成させる」と誓った。モーリーンとジョアンヌ、コリンズとエンジェルは交際を続けていた。一行がビルに戻ると、ベニーによって玄関に南京錠が掛けられていた。エンジェルは鉄製のゴミ箱で殴り付け、南京錠を破壊した。ロジャーたちが部屋に入ると、荷物は全て持ち出されていた…。

監督はクリス・コロンバス、脚本はスティーヴン・チョボスキー、戯曲&作曲&作詞はジョナサン・ラーソン、製作はジェーン・ローゼンタール&ロバート・デ・ニーロ&クリス・コロンバス&マーク・ラドクリフ&マイケル・バーナサン、製作総指揮はケヴィン・マックコラム&アラン・S・ゴードン&ラタ・ライアン、共同製作総指揮はトム・シェラク、共同製作はジュリー・ラーソン、製作協力はポーラ・デュプレ・ペスマン&ジェフ・ハンセン、撮影はスティーヴン・ゴールドブラット、美術はハワード・カミングス、編集はリチャード・ピアソン、衣装はアギー・ゲラード・ロジャース、振付はキース・ヤング、音楽プロデュース&編曲はロブ・カヴァロ、音楽監修はマット・サリヴァン、ヴォーカル指揮&追加編曲はティム・ウェイル。
出演はロザリオ・ドーソン、テイ・ディグス、ウィルソン・ジャメイン・ヘレディア、ジェシー・L・マーティン、イディナ・メンゼル、アダム・パスカル、アンソニー・ラップ、トレイシー・トムズ、アーロン・ローア、サラ・シルヴァーマン、アンナ・ディーヴァー・スミス、ダリル・エドワーズ、ダニエル・ロンドン、アイーシャ・デ・ハース、ウェイン・ウィルコックス、ビアンカ・サムズ、ヘザー・バーベリー、リーサ・コーエン、コーリー・ローゼン、ケヴィン・ブラックトン、ベッティーナ・デヴィン、マッケンジー・ファージェンス、ショーン・アール、マイク・ガリバルディー、ロッド・アーランツ、ジョエル・スウェトウ他。


ブロードウェイ・ミュージカル『レント』を基にした作品。
監督は『ハリー・ポッターと賢者の石』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』のクリス・コロンバス。
ミミをロザリオ・ドーソン、ベニーをテイ・ディグス、エンジェルをウィルソン・ジャメイン・ヘレディア、トムをジェシー・L・マーティン、モーリーンをイディナ・メンゼル、ロジャーをアダム・パスカル、マークをアンソニー・ラップ、ジョアンヌをトレイシー・トムズが演じている。
テイ・ディグス、ウィルソン・ジャメイン・ヘレディア、ジェシー・L・マーティン、イディナ・メンゼル、アダム・パスカル、アンソニー・ラップは、ブロードウェイ版と同じキャスト。
当初はメイン8名を続投させる予定だったが、ミミのフニ・ルービン=ヴェガは妊娠、ジョアンヌ役のフレディー・ウォーカーは年齢を理由に出演を辞退した。

ブロードウェイ版は作者のジョナサン・ラーソンがプレビュー公演初日に35歳で急死したこともあり、大きな注目を集めてロングラン公演を記録した。
ピューリッツァー賞文学芸能部門の最優秀戯曲賞、トニー賞ミュージカル部門の作品賞&脚本賞&作曲賞&助演男優賞、ニューヨーク市批評家協会賞の最優秀ミュージカル賞など数々の賞を受賞している。
当然のことながら、この映画版も大きな期待を持って製作されたはずだ。
しかし映画版は酷評を浴び、興行的にも失敗に終わった。

舞台版とは異なり、メイン8名が『Seasons of Love』を合唱するシーンから作品を始めている。このオープニングが、映画のピークと言ってもいいだろう。薄暗いステージに8人が並び、マイクに向かって歌うだけのシンプルなシーンなのだが、楽曲の素晴らしさもあって、観客を引き付ける力を感じさせる。
ただし、ここからストーリーが続いていくわけではない。ここだけは完全に独立した別のパートになっており、「それはそれとして」ってことで、このパートが終わってから本編に突入する。
最初に掴みたいってのは分かるが、この構成は結果として成功しているとは言い難い。
その分断された構成が、余計に本編の弱さを感じさせることに繋がっている。

私は某有名人のようにミュージカルが嫌いじゃないし、「急に歌い出すなんて変でしょ」とイチャモンを付ける気も無い。
むしろジャンルとしては好きな部類に入るし、それなりに本数も見て来た。
だが、この映画におけるミュージカルシーンは、その多くが「歌わない方が良かったんじゃないか」と感じさせるモノになっている。
「普通にドラマとして描いた方がいいんじゃないか」と思うし、いっそのことシーンごと丸ごとカットでもいいんじゃないかと感じる箇所さえある。

本編の1発目に用意されている『Rent』からして「何の助走も無く、いきなり歌から入るのか」とは言いたくなるが、まだ「歌わなくてもいいんじゃないか」とまでは感じない。
ビルの屋上でロジャーがギターを弾きながら『One Song Glory』を歌うシーンは、ちゃんと気持ちの高まりから歌い始めているし、自分の思いを吐露する内容なので、ここは何の問題も無い。
ただ、ミュージカルシーンの中での回想としてエイプリルとの過去をサラッと処理するのは、見せ方として上手くないと感じる。
ロジャーにとってエイプリルとの関係は重要なはずなのに、ほぼ無意味なモノになっている。喪失感も、まるで伝わって来ないし。

ミミがロジャーの元に来て「ロウソクに火を付けて」と歌い出す『Light My Candleの』で、いよいよ「それは違うぞ」と言いたくなる。
そこでの2人のやり取りを全て歌にする意味が全く感じられず、「普通に会話しろよ」と言いたくなる。
同じようなシーンで、普通に会話をするケースも少なくないのよね。
なので、「どこはミュージカルシーンにするのか、どこは普通の会話劇で描くのか」という基準が全く分からないのだ。

エンジェルが部屋に来てからの『Today 4 U』は彼が自身のパフォーマンスを披露するという形なので、ここもOK。
ただ、ここまで容認しているミュージカルシーンにしても、引き付ける力は弱いんだよね。見せ場としての魅力を感じさせるシーンは、1つも無い。
音響の調整に出向いたマークとジョアンヌがデュエットする『Tango: Maureen』は、ミュージカルに入るタイミングが違うと感じる。マークからマイクに向かって何か喋るよう言われたジョアンヌが「テスト、123」と口にするトコからが歌なのだが、気持ちが高まるような要素は皆無なので違和感しか無い。
あと頭を打ったマークが見た夢としてミュージカルを続けるのも、まるで上手く馴染んでいない。その夢の中でモーリーンを初登場させるのも、キャラの見せ方としては上手くない。

ライフ・サポートの会をマークが撮影すると、参加者たちが『Life Support』を歌い出す。
だけど、そこで初登場したスティーヴが最初に歌い始めるので「お前が歌うんかい」とツッコミを入れたくなる。
『キャット・スクラッチ』でミミが『Out Tonight』を歌うのは「ショーとしての歌唱」という形なので何の問題も無い。
ただし、そこから外に出てロジャーの部屋に行き、恋の掛け合いが始まると、「それは要らない。普通の会話劇でいい」と言いたくなる。

翌日のライフ・サポートの会の『Will I?』も、歌わなくていい。
シーンごと丸ごとカットでもいいと感じるぐらい、意味も力も感じない。
その次のコリンズとエンジェルがデュエットする『I'll Cover You』は、それ自体はあっても構わないけど、そこに向けたタメや助走が全く足りていない。
抗議デモ会場でモーリーンが披露する『Over the Moon』は、ほぼアカペラのソロ曲だし、喋りの途中でメロディーを乗せる箇所が何度か入るという形なので、ミュージカルシーンとしての魅力は皆無に等しい。

ライフ・カフェのシーンでは、ベニーの反論を受けたロジャーたちが『La Vie Boheme』を歌う。
踊りもあるし、バックコーラスも入るしオープニングを除けば、ここまでで一番のミュージカルシーンと言っていい。
ただ、途中でロジャーとミミの関係を描くパートに移ってしまうので、そこは完全に切り分けた方がいいと感じる。
ロジャーとミミがデュエットする『I Should Tell You』が入り、そこから再びカフェでの楽しく軽快な『La Vie Boheme』に戻るが、ロジャーとミミのパートが邪魔でしょうがない。

そこから新年に切り替わると『Rent』の歌声が聞こえてくるが、何の流れも無く冒頭と同じ曲を使っても効果はゼロ。
冒頭で使ってから劇中でも同じ曲を流すのなら、2発目はキッチリとドラマを盛り上げた上で使うべきだよ。そんな雑な形で使っちゃダメだろ。
ジョアンヌがモーリーンの支配欲に腹を立て、婚約パーティーで『Take Me or Leave Me』を歌い出すシーンは、そこへの流れを上手く作れていない。「そこで歌うぐらいなら、その前のシーンで良かっただろ」と言いたくなる。
ミミが嫉妬するロジャーの怒りを買って『Without You』に入るシーンも、そこへ向けた助走が全く足りていない。

『Without You』の流れでシーンが切り替わり、背景として月日の経過をダイジェストで描いている。
そこは、終盤に入って時間が足りなくなったので慌てて話を先に進めているような印象が強い。そのせいで、エンジェルの死という大きな出来事が何の力も持たずに通り過ぎてしまう。
教会で歌われる『Goodbye Love』も、まるで心に響かない。
そこからシーンが切り替わると歌、次のシーンが切り替わると歌という構成は、「歌ってもいいけど、まずドラマから入ろうぜ」と言いたくなる。

主要キャラクターは全員、ドラッグやエイズ、性的少数者など何かしらの問題を抱えている。それでも深刻になり過ぎることなく基本的に明るく振舞っているのは、もちろん意図的な演出だろう。
ただ、抱えている問題に対する苦悩の深さが全く伝わって来ない。些細なことで嫉妬したり喧嘩したりする自己中心的な連中を、まるで愛せないという問題もある。
あと、ロジャーたちは「芸術家だったら何をやっても許される」みたいなスタンスなのだが、それには賛同しかねる。
家賃を支払わずビルに居座り、「立ち退きを要求するベニーが全て悪い」と主張するのだが、同情の余地が無いのよ。芸術家としての苦しみや辛さを描いていないから、そこで共感するのも不可能だし。

(観賞日:2022年12月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会