『レミニセンス』:2021、アメリカ

海面上昇と戦争で未来への希望は消え、人々は過去に救いを求めるようになった。戦時中は尋問装置に使われた水槽が、過去を懐かしむための手段になった。ニック・バニスターと助手のワッツ・サンダースはマイアミで「バニスター&アソシエイツ」という会社を経営し、客にレミニセンス(記憶潜入)させている。事務所にはニックの戦友で常連のハンクが来て、「ドライ・ランドを奪っている地主に寝場所を追い立てられた」と話す。彼は装置を使って13年前の実家の裏の野原に行き、愛犬のアンジーと遊んだ出来事を回想した。
ハンクは金が無いのでバッカと呼ばれる麻薬を渡そうとするが、ニックは受け取らなかった。常連客のエルサは、いつも同じ男との過去を振り返った。メイという女性が事務所に来て、鍵を無くして困っていると話す。メイは装置を使い、ニックとワッツはサンクン・コースト(水没海岸)のマンションで目を覚まし、勤務する「ココナッツ・クラブ」の楽屋で鍵を落とす様子を確認した。ニックはワッツに続けるよう指示し、メイが泣いてからステージに出て歌う様子を見つめた。メイは事務所を出て行く時、イヤリングを置き忘れた。
昼間の街は暑すぎるので、ニックは夜になってから検事局へ赴いた。彼は検事のエイヴリーから捜査協力を要請されていたが、検事補のハリスから「もう必要ない」と告げられる。エイヴリーたちは欲しい土地に火を付けて安く買い叩いている悪徳地主のシルヴァンを捕まえ、上訴のために動いていた。シルヴァンは病気を患っており、供述を取るには水槽ではなく昔の方法が必要だった。シルヴァンは余裕を見せて、検事局を後にした。
ニックはココナッツ・クラブへ行き、メイにイヤリングを渡した。なぜ歌う前に泣いていたのかと彼が訊くと、メイは緊張のためだと話す。ニックはメイをマンションへ送り届けてセックスし、翌朝に会話を交わした。メイが何も言わずに姿を消したため、ニックは何ヶ月にも渡って水槽で彼女との過去ばかり見るようになった。ワッツは呆れて前に進むよう説くが、ニックはメイに固執した。新型の記憶ポッドに客を奪われてエルサも来なくなっているが、ニックは仕事そっちのけでメイを捜し回った。
ニックは道に落ちているイヤリングを見つけ、メイが戻って来たのだと確信する。エイヴリーの依頼を受けた彼は、麻薬の過剰摂取で意識を失った売人のフォークスのレミニセンスを実施することになった。エイヴリーの狙いは、フォークスのボスでニューオーリンズの麻薬王と呼ばれるキング・ジョーを逮捕するための証拠を掴むことだった。ニックは現場にある旧式の2D装置を使い、フォークスがバーでジョーや用心棒のロレンゾと取引の話をする5年以上前の記憶を再生した。
バーにメイがいたので、ニックは彼女に固執して記憶を誘導する。ハリスがマイクを使ってフォークスに「ジョーについて話せ」と要求すると、意識空白(ブランク)が発生した。ニックが記憶を修正すると、汚職警官のサイラスも登場した。メイはフォークスを利用してジョーの恋人になり、組織からバッカを盗み出す計画を語った。ニックはロレンゾの紹介と嘘をつき、ジョーの元を訪れた。ロレンゾは既に死んでいるため、すぐにニックの嘘はバレてジョーの手下たちに捕まった。
ニックはジョーから目的を問われ、メイを捜していると話す。ジョーは「あいつが戻ると思うのか」と馬鹿にして笑い、殺害しようとする。そこへワッツが駆け付けて発砲し、一味を始末した。事務所に戻ったニックは、また装置を使ってメイとの思い出に浸る。メイは水没したロンドンからニューオーリンズへ行ったが悪い仲間が出来て逃げ出したこと、マイアミに来たがお金が無くて小船で寝たこと、キース沖に流されたが海に建てた家で暮らすフランシスに救われたことを語った。
ニックはワッツから「何を見つけたいの?」と問われ、「メイは俺を騙して何かを奪っていった」と答える。彼は最後にメイを見たワッツの記憶を探るため、装置を使わせる。ニックの外出中に事務所を尋ねたメイは、ワッツの尋問を受けて麻薬依存症だったことを告白した。ワッツは娘がいること、アルコール依存症のせいで親戚に引き取られて全く会っていないことを語った。「ニックに見てほしいんでしょ」とメイが指摘すると、ワッツは激しい動揺を示した。
ワッツの記憶を見たニックは、彼女が目を離した隙にメイが保管庫からエルサの記憶を盗み出したことを知った。水上マーケットへ赴いた彼は、エルサか男に殺されたこと、息子のフレディーが赤毛の女に拉致されたことを目撃者から聞いた。すぐにニックは、赤毛の女がメイだと確信した。ニックの記憶を見たワッツは、ブースが関与していることに気付く。ニックとワッツはエイヴリーに知らせるため、検事局へ向かう。するとシルヴァンが死んで妻のタマラと息子のセバスチャンが土地を相続すると決まったことで、抗議デモの市民が押し掛けていた。タマラの姿を目にしたニックは、彼女が開業直後に事務所へ来たことをワッツに教えた。
ニックはエルサの記憶が自分の頭に残っていると気付き、装置を使った。ワッツはエイヴリーから、ブースがジョーの部下だったが仲違いしたこと、シルヴァンが雇っていたことを知らされた。ニックはエルサの恋人がシルヴァンだったこと、彼の子がフレディーであることに気付いた。彼はシルヴァンがエルサとフレディーを殺すため、ブースを雇ったのだと確信した。彼はワッツに、「ブースを探して、メイを見つける」と告げた。
ワッツはニックに、「彼女とは本当の愛じゃない、幻よ」と説いた。ニックは「幻でも俺は追う。逃げ続けるよりマシだ」と言い、ワッツが娘から逃げていると指摘した。彼はワッツにクビを言い渡し、シルヴァン邸のあるドライ・ランドへ向かった。ニックはシルヴァンに扮し、記憶の中で生きるタマラと接触した。彼はタマラに質問し、シルヴァンが財産分与を嫌がってブースに「母子を殺せ」と命じたこと、ブースには売春婦の仲間がいたことを聞き出した。ニックは再生工場の跡地を訪れ、ブースを見つけ出した。彼は逃げるブースを捕まえ、メイの居場所を聞き出そうとする…。

監督はリサ・ジョイ、脚本はリサ・ジョイ、製作はリサ・ジョイ&ジョナサン・ノーラン&マイケル・デ・ルカ&アーロン・ライダー、製作総指揮はアテナ・ウィッカム&エリシア・ホームズ&D・スコット・ランプキン、製作協力はサム・ギルバーグ、撮影はポール・キャメロン、美術はハワード・カミングス、編集はマーク・ヨシカワ、衣装はジェニファー・スタージク、視覚効果監修はブルース・ジョーンズ、音楽はラミン・ジャヴァディー。
出演はヒュー・ジャックマン、レベッカ・ファーガソン、タンディウェ(タンディー)・ニュートン、クリフ・カーティス、マリーナ・デ・タビラ、ダニエル・ウー、モージャン・アリア、ブレット・カレン、ナタリー・マルティネス、アンジェラ・サラフィアン、ハヴィエル・モリーナ、サム・メディナ、ノリオ・ニシムラ、ロクストン・ガルシア、ジョヴァンニ・クルス、パク・ウンヤン、ハン・ソト、レイ・ヘルナンデス、ガブリエル・イコールズ、アンドリュー・ハイアット・マセット三世、ニコ・パーカー、バーバラ・ボニラ、ジュールス・ハートレー、ホルヘ・ランゴリア他。


TVシリーズ『ウエストワールド』のプロデューサーや『バーン・ノーティス 元スパイの逆襲』の共同プロデューサー&脚本家を務めていたリサ・ジョイが、初めて監督&脚本を担当した劇場映画。
ちなみにリサ・ジョイの旦那は、クリストファー・ノーランの弟で、本作品の製作にも携わっているジョナサン・ノーラン。
ニックをヒュー・ジャックマン、メイをレベッカ・ファーガソン、ワッツをタンディウェ(タンディー)・ニュートン、ブースをクリフ・カーティス、タマラをマリーナ・デ・タビラ、ジョーをダニエル・ウー、セバスチャンをモージャン・アリア、ウォルターをブレット・カレン、エイヴリーをナタリー・マルティネス、エルサをアンジェラ・サラフィアンが演じている。

舞台設定は近未来だけど、じゃあジャンル的にはSFなのかと思いきや、それは全く違う。結局のところ、やってることはクラシカルなハードボイルド物とメロドラマの組み合わせなんだよね。
近未来は背景に過ぎず、話の内容は1940年代の映画と大差が無い。
水没都市という設定は、「水没した都市」の映像を見せたかっただけだろう。それ以上でも、それ以下でもない。「だから人々が記憶にすがる」という理由には、上手く結び付いていない。
っていうか水没都市という舞台を設定したのなら、そこを使ったミステリーやアクションにでもすれば良かったんじゃないの。
「レミニセンス」という趣向は、この映画に何の面白さも提供していないぞ。

レミニセンスが商売として成立しているのが、どうにも引っ掛かる。それを3D映像として見ているのはニックとワッツで、本人は夢の中で過去を見ているだけ。実際の過去と異なる行動を取れるわけでもなく、ただ過去の出来事を見るだけだ。
しかも、メイのように「思い出せない記憶を取り戻す」ってことなら分かるけど、ハンクやエルサが装置を使う様子を見る限り、彼らは明らかに「ハッキリと覚えている過去を装置で振り返る」という作業を繰り返しているのだ。
それって、自分だけで普通に回想すれば良くないか。わざわざ装置を使うってのは、何がどう違うのか。
エルサは「レミニセンスだと彼の腕を感じる」と説明しているけど、そういう特殊な感覚は、映画を見ていても全く伝わって来ない。

メイをファム・ファタールとして描きたいのは良く分かるけど、説得力は皆無に等しい。
ニックはメイが事務所に来ると「忘れられない瞬間が訪れることがある。彼女を見た時が、それだ」とモノローグを語るので、ようするに一目惚れしたってことだ。そこは映像的な演出にこれといった細工も無いし、「レベッカ・ファーガソンだから」ということに全て頼っている。でも、かなり苦しいぞ。
「元カノや死んだ妻に似ている」みたいな設定でもあれば、それが大きな助けになっただろう。そうなると「ニックが元カノや妻との記憶を見るために装置に依存している」という設定が乗っかることに繋がるし、それは内容にも大きく関与して来るだろう。
ただ、それはそれでドラマに使えそうなので、別に悪くないんじゃないかと思ったり。
とにかく、ニックが全てを犠牲にしてでも執拗に追い求めるほど、メイが価値のある女性には思えないのよ。

この映画には、「メイの正体や事件の真相に対して興味が持てない」という大きな欠点がある。色々と原因はあるんだろうけど、やっぱり一番は「レミニセンスとか要らなくねえか」と思っちゃうことじゃないかな。
フィルム・ノワールと近未来SFの組み合わせ自体は、特に新鮮味は感じないけど、そこまで悪くないと思うのよ。ただ、本来は中心になるべき「レミニセンス」が、あっても無くても構わないとしか思えない要素になっちゃってんのよね。
それが無くても、普通に「ニックが事件を調査して情報を集め、真相に近付いて行く」ということでも良くないかと。
そこの問題を解決するには、レミニセンスや装置自体が事件に大きく関わって来るような設定にするしか方法は無かったんじゃないかと。

ニックが何度も装置に入って見るメイとの思い出は、ただ事件の真相から目を逸らすための手順、極端に言えば時間稼ぎのための脱線にも思えてしまう。なぜなら、そこでメイが語る言葉の大半は嘘だからだ。
そして肝心な謎解きの部分は、その大半を御都合主義に頼っている。
例えば、保管庫の暗唱コードを知らないメイがエルサの記憶を盗み出せるのは、歌で開くことを知ったからという設定だ。保管庫が歌で開くことは、ニックが真相に気付いた時に初めて明かされる。そこまでに何のヒントも無かったので、唐突にしか感じない。
ミステリーは雑に片付け、アクションで話を盛り上げようとする。
それは力の配分を完全に間違えているとしか思えない。

終盤に入って「メイはブースの指示でニックに近付いたが、本気で惚れた」「ブースを裏切り、フレディーを救うために動いた」と明らかにされるが、全ては想定内だし、どうでもいいとしか感じない。
フレディーを海の家で保護しているのも、どうでもいい。
「メイは嘘ばかりついていたが、1つだけ真実はあった」という趣向になっているわけでもないし。
あと、最終的に「実は今までの内容は全て、老人になったワッツが孫娘に語る内容だった」と明らかにされるが、この仕掛けも「どうでもいい」としか思えないし。

(観賞日:2023年8月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会