『リグレッション』:2015、スペイン&カナダ&アメリカ

1990年、ミネソタ州ホイヤー。自動車修理工のジョン・グレイは署長のクリーヴランドに呼ばれ、「神よ、救いたまえ」と繰り返しながら車で警察署へ出向いた。クリーヴランドは彼を署長室に招き入れ、「ボーモント牧師と話した。君の娘はいつから教会に身を寄せてる?」と質問した。ジョンが「火曜日からです」と答えると、クリーヴランドは「牧師が持って来た。君の娘が署名してる」と言い、一枚の書面を彼に見せた。その様子を目撃したブルース・ケナー刑事は興味を抱き、「何があった?」と同僚に問い掛けた。
ブルースは署長室が尋問すると、ジョンは「良く覚えていない」と証言する。改めてブルースが質問すると、自身の罪は認めた上で「記憶が無い」と告げた。ブルースはクリーヴランドに、「記憶が無いなんて有り得ない。ただの時間稼ぎですよ」と主張した。彼はジョンの娘であるアンジェラの話を聞きたいと考えるが、クリーヴランドは「ボーモントが面会を渋ってる」と告げる。彼はブルースに、「明白な虐待事件だ。ジョンに真実を吐かせろ」と命じた。
ブルースはグレイ一家と親しい警官のジョージ・ネスビットを伴い、ジョンの実家を訪れた。彼はジョンの母であるローズに事情聴取し、「虐待を知っていたか?」と尋ねる。ローズは彼に、「牧師さんから聞いて息子を問い質した。息子は怒って否定した」と話す。ブルースはローズの承諾を得て、アンジェラの部屋を見せてもらった。アンジェラの兄であるロイは家を出ており、その行方は分からなかった。ブルースはローズに、「ロイは父親から逃げるために家出を?」と質問する。するとローズは、「息子に尋ねた。すると息子は私の手を取って、一緒に祈ったわ」と答えた。
ジョージはブルースに、「ジョンが虐待なんて信じられない。もしも単なる愛情表現だったら?娘の過剰反応さ。難しい子だ」と告げる。「内気な子だ」とブルースが言うと、彼は「あの家族を昔から知ってる。家を見ただろ。母親を亡くした上、貧しい生活を送ってるんだ。アンジェラは、あの家から逃れたかったんだ」と語る。ブルースが「生活を変えたいからって、19歳の娘が父親を刑務所送りにするのか」と疑問を口にすると、ジョージは「可能性はある」と断言した。
クリーヴランドは精神科医のケネス・レインズを呼び、ジョンの精神鑑定を依頼した。レインズはブルースとクリーヴランドに、「ジョンの精神は正常だ。作戦じゃない。弁護士を要求せず、自分を守る気が無い。自分のしたことに耐え切れず、記憶を失ったんだ」と述べた。彼は退行催眠で記憶を呼び戻すため、ジョンにアンジェラが署名した書面の文章を呼んでもらう。具体的な虐待証言を聞かされたジョンに、レインズは当時の出来事を思い出すよう促した。
最初は何も思い出さなかったジョンだが、レインズが再び退行催眠を試みると「彼がアンジェラの手を黒いテープで縛ってる」と口にした。「なぜ俺は止めなかった?」と漏らす彼に、レインズは犯人の正体を教えるよう迫る。ジョンは「俺はカメラを持って撮影してる」と言い、アンジェラを襲ったのがジョージだと証言した。ブルースはジョージの弁明を全く聞かず、荒々しく制圧して逮捕した。ジョージの弁護士は、ブルースに「写真があるなら見せているはず」と告げた。
ブルースがアンジェラの話を聞きに行こうとすると、クリーヴランドはレインズと一緒に行くよう命じた。レインズに「ジョージを疑っていたのか」と問われたブルースは、「最初から変だと思っていた」と告げた。教会に着いたブルースは、アンジェラに「事件が起きた時、部屋に第三者がいただろう。ジョンが供述した」と話す。アンジェラが「独りにしてくれたら紙に書く」と言うので、ブルースとレインズは席を外した。
ブルースとレインズはボーモントから、「アンジェラは昔から内向的な子だった。ある日、急に泣き出した。それで父親に虐待されていると分かった」と聞かされる。アンジェラはブルースたちに、ジョンが悪魔を召喚する儀式を執り行ったこと、自分の下腹部に逆さ十字の印をナイフで刻んだことを説明した。同席していた人物を教えるよう求められたアンジェラは、ジョージの写真を指差した。ジョンの面会に赴いたボーモントは、「娘に逆さ十字の印を付けたな。全て思い出せ」と厳しく批判した。
アンジェラの事件はテレビで大きく報道され、悪魔的儀式虐待に関する体験本『悪魔の名において』を執筆したクーパー女史は顔を隠してインタビューに応じた。警察はロイがピッツバーグにいることを突き止め、ブルースとレインズが現地へ飛んだ。2人の訪問を受けたロイは、「母の死は自殺だった」と口にした。ブルースが「記録上は運転ミスによる自動車事故死だ」と告げると、彼は「父は飲酒問題で母を苦しめ続けた」と語った。
ブルースが「ジョンは酒を飲んだ時、君と妹に何をした?」と質問すると、ロイは「何も無かった」と答えた。しかしブルースは信じず、レインズは「子供の頃の寝室に戻ろう。フード姿の男がいたね?」と言う。彼はブルースに退行催眠を掛け、子供時代を思い出すよう促す。ロイはブルースたちに、「フードの男が6人入って来た。でも化粧で顔は分からない」と語った。レインズが「辻褄が合わない。ロイが思い出したのは子供時代だが、アンジェラの虐待は去年だ」と話すと、ブルースは「それより気になるのは部屋に6人もいたことだ。それだけ大勢いれば、ローズが気付くはず。共犯の可能性もある」と述べた。
ブルースはローズの元へ行き、「写真はどこだ。ロイに聞いたぞ」と詰め寄る。ローズは彼に平手打ちを浴びせ、「嘘つき。ロイがそんなことを言うはずない」と泣いた。ブルースはクリーヴランドからFBIの報告書を見せられ、本が出版されてから悪魔崇拝者の大きな事件として捜査が続いていたことを知らされる。しかし捜査は先月で棚上げとなっており、クリーヴランドはブルースに「儀式に関する噂は多いが証拠は無い」と言う。さらに彼は、証拠が出なければジョージも釈放になることを告げた。
ブルースは医師からの電話を受け、傷跡を見せるよう言われたアンジェラがパニックに陥ったことを聞いた。ブルースが病院へ出向くと、アンジェラは「これを見せたら貴方も殺される」と口にする。ブルースが勇気を出して踏み出すよう説くと、アンジェラは逆さ十字を彼に見せて「貴方も殺される」と告げた。ブルースはアンジェラに詳細な証言を頼み、レコーダーに録音した。アンジェラは作業場で黒ミサが何度も繰り返されていたこと、ローズも加担していたこと、参加者は赤ん坊を殺して肉を食べていたことを語る。彼女が「遺体は家の敷地に埋めてある」と話したので、ブルースは掘り起こして調べるよう部下たちに命じた。
ブルースが警察署にいるとアンジェラが現れ、誰か分からないが尾行されていると言う。ブルースは音声を録音し、彼女の調書を取った。アンジェラはブルースに、メイン通りで尾行されたこと、母が「奴らの手口」と言っていたことを語った。目的について、母は殺害の脅迫と話していたと彼女は証言する。深夜の無言電話も彼らの手口だと、母は言っていたらしい。そんなことを教えた直後、母は死んだのだとアンジェラは説明した。その夜、自室で眠りに就いたブルースは侵入した黒ミサの連中に包囲され、注射を打たれた。体の自由を奪われた彼に女性がまたがり、肉体関係を持った。だが、それはブルースの見た悪夢だった。
ブルースが拘留されているジョンの元へ行くと、彼は悪魔の絵を何枚も描いていた。ジョンが「母も俺も誘惑から逃れていたんだ。でも、悪魔は近くにいた」と言うと、ブルースは「悪魔ではなく君の仕業だ。妻殺しも白状するか」と詰め寄った。「あれは事故だ」とジョンが告げると、彼は「嘘だ。現実逃避はやめて連中の名前を教えろ」と怒鳴った。彼はローズを教会へ連れて行き、アンジェラと対面させた。ローズが「なぜ牧師を通して虐待の話を?」と尋ねると、アンジェラは泣きながら「記憶を失ってるでしょ。おかしくなりそうだった」と語る。ローズは「嘘つき」と声を荒らげ、その場から連れ出された。
その夜、ローズは飼い猫が外へ出たので後を追い掛け、納屋を調べた。吠える黒豹を見た彼女は、慌てて家に逃げ込んだ。すると「赤ん坊を殺した」「嘘つき」と糾弾する人々の声が聞こえ、ドアの隙間から血が流れ込んだ。ローズは2階の窓から飛び降り、重傷を負って病院に搬送された。アンジェラはブルースに、「母は父の酷い仕打ちを耐え忍んで死んだ」と話す。「貴方は祈りの力を信じないのね」という彼女の言葉に、ブルースは「君を信じてる」と手を握る。アンジェラは彼に体を預け、「貴方だけが頼りよ」とキスをした。
ロイは病室を訪れ、ローズに「何があった?」と問い掛ける。ローズが「連中に追い回された。私がお前にしたことを絶対に話さないよう脅された」と語ると、ロイは「おばあちゃんは何もしてない。僕を受け入れてくれた」と言う。しかしローズは、「酷いことをした罰よ。今になって分かる」と口にする。ロイは病院へ来ていたブルースに「もう祖母に近付くな」と怒鳴り、レインズとボーモントを激しく非難して追い払った。
ボーモントはブルースとレインズに、「ロイも無意識の内に取り込まれている。悪魔の仕業だ」と語る。レインズは否定的な見解を示すが、彼は「悪魔は何らかの形で君たちも翻弄する」と警告した。帰宅したブルースは、老女が黒ミサの儀式を執り行う悪夢を見た。彼は周囲の人間が全て悪魔崇拝者ではないかと疑心暗鬼になり、怯えながら警察署へ向かう。ジョージが釈放されたと知った彼は、クリーヴランドに抗議した。レインズが「アンジェラの逆さ十字は自傷の可能性がある」と話すと、ブルースは激しく反発した。彼はジョンの面会に行き、全ての真相を話すよう要求した…。

脚本&監督はアレハンドロ・アメナーバル、製作はフェルナンド・ボヴァイラ&アレハンドロ・アメナーバル&クリスティーナ・ピオヴェサン、製作総指揮はシモン・デ・サンティアゴ&アレックス・ラロンド&ボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン&ジスラン・バロワ&アクセル・クシェヴァツキー&ノア・シーガル、製作協力はギエム・ヴィダル=フォルチ、撮影はダニエル・アラーニョ、美術はキャロル・スピアー、編集はカロリーナ・マルティネス・ウルビナ&ジェフ・アシェンハースト、衣装はソニア・グランデ、音楽はロケ・バニョス。
出演はイーサン・ホーク、エマ・ワトソン、デヴィッド・シューリス、ロテール・ブリュトー、デイル・ディッキー、デヴィッド・デンシック、ピーター・マクニール、デヴォン・ボスティック、アーロン・アシュモア、アダム・ブッチャー、ジェイコブ・ニーエム、アーロン・エイブラムス、キャサリン・ディッシャー、ダニエル・バーゴン、ジュリアン・リッチングス、クリスチャン・ブルーン、ルーク・マーティー、ウェンディー・ライオン、ケイトリン・コチシュ、サマンサ・テナス、JC・ケリー、モーラ・グリーソン、パトリック・ギャロウ、ジャネット・ポーター他。


『アザーズ』『海を飛ぶ夢』のアレハンドロ・アメナーバルが脚本&監督を務めた作品。
前作『 アレクサンドリア』から7年ぶりの長編映画となる。
ケナーをイーサン・ホーク、アンジェラをエマ・ワトソン、レインズをデヴィッド・シューリス、ボーモントをロテール・ブリュトー、ローズをデイル・ディッキー、ジョンをデヴィッド・デンシック、クリーヴランドをピーター・マクニール、ロイをデヴォン・ボスティック、ジョージをアーロン・アシュモアが演じている。

ブルースがジョンに事情聴取する時点では、どういう容疑が掛かっているのか観客には分からない状態だ。
その前にクリーヴランドが書面をジョンに見せているのだが、そこに書かれている内容は観客に教えてくれないのだ。
ジョンが自供した後のブルースたちの台詞によって、ジョンがアンジェラへの虐待容疑を掛けられていることは伝わる。でも、その説明を後回しにしている意味が全く無い。
なぜブルースが尋問する時点で、観客にジョンの容疑が伝わるようにしておかなかったのか。

ジョージはローズに事情聴取してグレイ家から車で去る時、ブルースに「アンジェラは、あの家から逃れたかったんだ」と言う。「生活を変えたいからって、19歳の娘が父親を刑務所送りにするのか」ブルースは疑念を示すが、ジョージは「可能性はある」と告げる。
もちろん、この段階では誰もジョージの考えに賛同しないし、すぐに彼自身が犯人として疑われる展開へ突入する。
でも、何も言わなければ、その時点で「アンジェラが家から逃げるために嘘をついて父親を陥れようとした」という選択肢を思い浮かべる観客はいないだろう。
なぜ余計な選択肢を早い段階で与えてしまうのか。その不必要なサービスは何なのか。

ブルースは尋問した相手の証言を聞いただけで、簡単に信じ込む。最初はアンジェラの書面を見ただけで「ジョンが犯人」と断定し、次はジョンの証言で「ジョージが共犯」と断定する。しかも「最初からジョージを疑っていた」とまで言い出す始末だ。
何の証拠も無いのに、そこには全く迷いが無い。
疑念を抱いて、裏付けを取るために捜査するわけではない。最初から「ジョンとジョージがアンジェラを儀式の生贄にした」と決め付けて、その断定に合った証拠を手に入れようとする。
なので、ボンクラな奴にしか見えない。

最初から「これが真相だ」と安易に決め付けるキャラクターがいても構わないけど、それって普通は脇役が担当するべき役割なのよね。そして主人公は、そこに疑念を抱いて捜査を進めるようなポジションにすべきだろう。
しかし、そういう望ましい図式が成立していない。
そのため、観客が映画の外側で勝手に疑念を抱かなきゃいけない羽目になっている。
残念ながら観客は劇中で捜査することが不可能なので、ずっとモヤモヤした気持ちを抱えたまま映画を見せられる形になる。

ボンクラなのはブルースだけでなく、レインズも似たようなモノだ。彼はインチキで説得力ゼロの専門家にしか見えない。
レインズは何かに付けて退行催眠をやりたがるのだが、実際には「誘導」と言った方がいいだろう。ジョンに催眠を掛ける時、レインズはアンジェラの供述書をブルースに読ませる。つまり、何も無いトコから当日の出来事を思い出させるわけではなく、「アンジェラが虐待された」ということは事実と断定し、その上で「何があったか」を言わせようとするのだ。
ロイの時も「フード姿の男がいたな」と勝手に決め付けており、もはや洗脳に近い。自分のイメージが先にあって、それに沿った答えを言わせているだけなのだ。
そういうカラクリがバレバレなので、オカルトとしてのミスリードは完全に失敗している。

そろそろ完全ネタバレを書いてしまうが、黒ミサの連中は存在しない。
そいつらの儀式で多くの赤ん坊が殺されたってのも、逆さ十字の傷を付けられたってのも、全てはアンジェラの嘘だ。家を出たかった彼女は邪魔な家族を排除するため、芝居をしたのだ。
ただ、バカな牧師が「この子が嘘をつくはずはない」と全面的に信じ込むのは分かるけど、他の多くの面々も悪魔やカルト教団の存在を妄信したり偽の記憶を植え付けられたりするのは、ものすごく無理があるようにしか感じないのよね。
「そういうことが実際にあったんだもん」と主張したくなるかもしれないが、だとしても本作品での描き方が下手だってことなのよ。
何しろブルースにしろローズにしろ、悪魔や儀式に関する幻覚や悪夢まで見ちゃうぐらい入り込んじゃってるからね。

だけど、そこまで強力な催眠や洗脳の能力をアンジェラが発揮しているわけではないのよ。
勝手にブルースたちが催眠状態へ落ちて行くだけなのよ。
だけど、その暗示に簡単に落ちてしまうような心理や環境に、全員があるようには思えない。
まだ後ろめたさのあるジョンはともかくとして、ブルースなんかは疑うのが仕事なのに最初から信じ込んじゃってるからね。
それは説得力ゼロだわ。

しかもブルースはアンジェラに、「作業場で全てを見たような気がした。暗示作用だ」とまで言っているのよね。
「暗示」ってことを本人も認識しているはずなのに、なんでアンジェラが芝居をしているだけなのに自分から安易に暗示の中へハマっていくのかと。
過去に何か事件があって、その時の影響でオカルトを信じやすくなっているわけではない。過去に関わった女性のことを引きずっていて、アンジェラに重ねているわけでもない。
何の特殊な事情も無いので、ブルースの動かし方には強引さしか感じないのよ。

終盤に入り、ブルースは「退行は記憶ではなく、誘発された幻想なのでは」とレインズに問い掛ける。こっちは最初から分かっているので「何を今さら」だけど、それはひとまず置いていこう。
ブルースはレインズに「我々が同じ情報を繰り返し植え付けた。後は想像力が補完する」と語り、ズバズバと真相を言い当てる。
その直前に「夢に出て来た老女はポスターの出演者だった」と知り、そこからの発想なので、一応は手順を踏んでいる。でも、それまで「夢に出て来た老女はポスターの出演者」と全く気付かないのは、あまりにも都合が良すぎる。
そして、それが分かっても、そこから一気に真相へ突き当たるのは「急に利口になったな」と言いたくなる。
その直前までは悪魔が云々という話をすっかり信じ切っていたのに、急激な宗旨替えだよな。

(観賞日:2020年4月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会