『レッド・ライト』:2012、スペイン&アメリカ

物理学者のマーガレット・マシスンと助手のトム・バックリーは、超常現象の調査活動を行っている。2人はマイケル・シジウィックという男から連絡を受け、激しいラップ現象が続いている彼の家に赴いた。2人が家に入ると、マイケルの妻であるサラ、娘のスーザンがいた。マイケルはマーガレットとトムだけでなく、霊能力者のトレイシー・ノースロップも呼んでいた。トムはトレイシーを拒絶せず、穏やかに挨拶を交わした。
トレイシーは交霊会を開き、トムは記録係を担当した。マーガレット、トレイシー、シジウィック夫妻が机を囲んで座り、手を繋いだ。薄暗くした部屋の中で、トレイシーは幽霊に対して話し掛けた。しかしラップ現象だけでなく机が持ち上がり、シジウィック夫妻は激しい恐怖に見舞われた。マーガレットは以前の住まいを懐かしがるスーザンの仕業だと見抜き、彼女と2人きりになった。マーガレットの質問を受けたスーザンは、クローゼットを使った仕掛けを考えたのが姉だと白状した。マーガレットは「もう止めると約束すれば、パパには言わない」と持ち掛け、スーザンに承諾させた。
マーガレットは大学で講義を行い、交霊会で机を持ち上げるトリックについて説明した。生徒のサリー・オーウェンが「全ての超常現象はイカサマということですか」と質問すると、マーガレットは「そうは言ってないわ。大半が簡単に説明の付くものか、個人の思い込みということよ」と答えた。別の生徒が「どうすれば正しく検証できますか」と尋ねると、彼女は交霊会のトリックを防ぐ方法を解説した。ベンというう生徒に「説明の付かない現象を見たことは?」と訊かれると、マーガレットは今まで見たことが無いと告げた。マーガレットは超常現象研究センターのポール・シャクルトン博士から協力を要請されるが、「インチキには手を貸さない」と断った。
盲目の超能力者であるサイモン・シルヴァーは1960年代末にスターとなり、1970年代に名声を高めた。しかし1975年に引退を発表し、多くのファンが落胆した。彼の能力に懐疑的だったマーティン・ワイナー記者がショーの最中に心臓発作で死亡し、サイモンへの疑惑が浮上したことが引退のきっかけと捉える人も多かった。しかし引退から30年以上が経過した今、サイモンは復帰を宣言した。彼は助手であるモニカ・ハンセンを伴い、久しぶりに表舞台へ顔を見せた。
トムはサリーと親しくなり、彼女にコインを使った手品を披露した。何のために超常現象の嘘を暴いているのか問われたトムは、「例えば君の母親が体調を悪くして、霊能力者に会ったとしよう。霊能力者から軽い胃炎だから心配は無いと言われるが、後で手遅れの胃癌だと判明したら、どうする?」と語った。トムとマーガレットは連絡を受け、スティーヴィーという少年の調査に赴いた。スティーヴィーの母親は「息子は無意識に絵を描く」と言うが、トムとマーガレットは即座にインチキだと見抜いた。
マーガレットは昏睡状態にある息子のデヴィッドと会うため、トムの運転する車で病院を訪れた。彼女はトムに、「人が幽霊を信じるのは、死んだ後にも何かがあると願っているからよ。でも自分の願望で信念を曲げることは出来ない」と述べた。さらに彼女は、「超能力者には2種類いるわ。自分が超能力者だと信じている人と、自分の嘘が見抜かれないと思っている人。どっちも間違いよ」と語った。
トムの推薦によって、サリーが超能力調査チームに加わった。マーガレットをリーダーとする3人は、レオナルド・パラディーノという男がショーを開いているホテルへ赴いた。トムとマーガレットは、レオナルドがインチキ超能力者であることを既に知っていた。彼は名前を変えながら、長きに渡って活動しているのだ。サイモンの弟子であるレオナルドは協力者から密かにイヤホンで情報を受け取り、観客のことを知っているように見せ掛けるというトリックを使っていた。マーガレットは制御室へ乗り込み、協力者を見つけた。
トムはシルヴァーを調べようと提案するが、マーガレットは「もう30年前に調査は終わってる」と興味を示さなかった。「10日後には町に来るんだよ」とトムが粘っても、マーガレットの答えは変わらなかった。彼女はポールから、ESPカードの実験で目覚ましい結果が出たと聞かされる。興奮している様子のポールに、マーガレットは実験した時の状況を詳しく尋ねた。彼女はポールと助手の前でESPカードをズバリと言い当て、眼鏡に反射していることを指摘した。
シルヴァーのショーが近付く中、マーガレットは超能力を巡る討論番組に出演した。モニカを含む他の参加者が超能力の肯定派で固められ、マーガレットは挑発に乗って熱く語る。サリーと一緒にテレビを見ていたトムは、不安な様子を見せた。トムが「あのことは言うな」と心配したコメントを、マーガレットは口にした。頭を抱えるトムはサリーに「なぜ分かったの?」と訊かれ、「超能力者だから」と答えた。モニカの皮肉っぽい言葉を受けたマーガレットは、腹を立ててスタジオを出て行った。
翌日、トムは昨夜の番組について報じた新聞をマーガレットに見せ、「奴を優位にしたんだぞ。シルヴァーを調べるべきだ」と主張した。それでもマーガレットが首を縦に振らないので、トムは「だったら俺がやる。貴方は負けたんだ」と興奮する。マーガレットは「これが彼の手口なの。私もやられた。弱みに付け込まれるわ」と言い、討論番組でサイモンと怒鳴り合いになった時のことを打ち明けた。サイモンからデヴィッドのことを見抜くような言葉を告げられ、マーガレットは迷いを隠せなかったのだと話す。
トムはサイモンのショーが開かれている会場へ行き、トリックを暴こうと機械を動かす。しかし電気系統のショートで事故が起き、会場は混乱に陥った。トムはマーガレットが倒れているのを見つけて病院へ運ぶが、彼女は死んでしまった。トムは刑務所にいるレオナルドと面会して「シルヴァーに俺たちのことを話したな」と問い詰めるが、「奴と組んでいたのは20年も前のことだ」と完全否定された。
悪夢にうなされて飛び起きたトムは、家の前に置かれた鳥の死体を発見した。シルヴァーの仕業だと感じたトムは、外へ出て捜し回った。トムが戻って来ると、家の中が激しく荒らされていた。テレビのニュースを見たトムは、サイモンがポールの依頼を受けて科学的な検証実験に協力することを知った。トムはポールを恫喝し、実験チームに加えるよう要求した。ポールは実験内容への口出しを禁じた上で、立会人としての参加を承諾した…。

脚本&監督はロドリゴ・コルテス、製作はアドリアン・ゲラ&ロドリゴ・コルテス、製作総指揮はシンディー・コーワン&アーヴィング・コーワン&リサ・ウィルソン、共同製作はクリスティーナ・ピアヴェサン&マヌエル・モンソン、製作協力はサラ・ジャイルズ&アティテュード・アセソレス、撮影はシャヴィ・ヒメネス、編集はロドリゴ・コルテス、美術はアントン・ラグーナ、衣装はパトリシア・モネ、音楽はヴィクトル・レイェス。
出演はキリアン・マーフィー、シガーニー・ウィーヴァー、ロバート・デ・ニーロ、トビー・ジョーンズ、ジョエリー・リチャードソン、エリザベス・オルセン、クレイグ・ロバーツ、アドリアーニ・レノックス、レオナルド・スバラグリア、ガーリック・ヘイゴン、バーン・ゴーマン、ミッチェル・ミューレン、ネイサン・オスグッド、マドレーヌ・ポッター、エロイーズ・ウェブ、ジーニー・スパーク、ジャン・コルネット、ロバート・G・スレイド、ユージニオ・ミラ、リン・ブレイズ、イーベン・ヤング、ベッキ・ジェメル、イ・ジユン他。


『[リミット] 』のロドリゴ・コルテスが脚本&監督&編集を務めた作品。
トムをキリアン・マーフィー、マーガレットをシガーニー・ウィーヴァー、サイモンをロバート・デ・ニーロ、ポールをトビー・ジョーンズ、モニカをジョエリー・リチャードソン、サリーをエリザベス・オルセン、ベンをクレイグ・ロバーツ、レオナルドをレオナルド・スバラグリア、マイケルをネイサン・オスグッド、サラをマドレーヌ・ポッター、スーザンをエロイーズ・ウェブ、トレイシーをジーニー・スパークが演じている。

まず引っ掛かるのは、超能力と超常現象を一緒に扱っていること。
人間が披露する特殊な能力と、特定の場所で発生する不可思議な現象は、大きな枠で解釈すれば、同じグループに入るだろう。いずれも「非科学的な現象」として捉えられることが多いとか、インチキも多いとか、色んな共通項はある。
しかし本作品は「超能力者と科学者の対決」という構図があるわけで、その中で超能力と超常現象を一括りに扱うのは、話のピントがボヤけてしまう。
そこは「マーガレット&トムはインチキ超能力を否定的な立場から研究している」という風に、絞り込んでおくべきだろう。「物理学界のジェームズ・ランディー」的なキャラにしてしまった方がスッキリするってことだ。

超能力と超常現象を一緒に扱うことで最もマズいのは、「超常現象のインチキは故意じゃないケースも多い」ってことだ。
イカサマ超能力に関しては、全て「その本人が嘘をついている」ということになるのだが、超常現象に関しては異なっている。
例えば家屋でラップ現象が発生した場合、「誰かがイタズラしている」というケースもあるだろうが、大抵は自然現象として科学的に説明できる原因がある。
この映画は「科学者が超能力者の嘘を暴こうとする」というのが本筋なんだから、故意に誰かを騙そうとしているわけではない超常現象まで扱うのは余計な作業でしかないのだ。

ようするに、冒頭シーンで描写されるエピソードの内容は、本来ならば「霊能力者のインチキを暴く」ということを目的にすべきなのだ。
しかしマーガレットとトムはシジウィック家に到着するまで、トレイシーが来ていることを知らなかった。彼女の交霊会を記録することになったのは、偶然でしかない。
当初の目的はシジウィック邸で発生しているラップ現象の調査であり、今回は幼い娘の仕業だったけど、それも偶然だ。前述したように、ラップ現象は人為的な原因が絡んでいないことも多い。
っていうか、幼い娘の仕業であったとしても、例えば「呼ばれた時点でトレイシーが霊の仕業だと言っていることを聞かされており、そんな彼女の嘘を暴いて本当の原因を指摘する」という形にすれば、「霊能力者のインチキを暴く」というエピソードとして成立するだろう。

ただし、仮に霊能力者のインチキを暴くエピソードとして冒頭シーンを描いたとしても、それで観客を引き付けるパワーを持つようになったのかと考えると、それは大いに疑問がある。
と言うのも、そこで描写される超常現象は、「交霊会の最中に激しく机が揺れて持ち上がる」というモノなのだ。
もうねえ、ちょっと超常現象や超能力に詳しい人だったら、その交霊会のトリックに関しては良く知っていることなんだよね。大学で講義するシーンでマーガレットがトリックを説明するけど、その前からインチキなのはバレバレなのよ。
だから、そういうので一時的に恐怖を喚起しようとしても、「すんげえ古臭い」としか感じないのよ。

導入部だけでなく、そこから物語が進行しても、やっぱり「なんかセンスが古いなあ」という印象が付きまとう。
レオナルドのショーについても、使われているトリックは古くから使われている手法だ。
トレイシーの時も思ったけど、とっくの昔に超能力ハンターが看破しているような手法を未だに使っているというインチキ超能力者のセンスも古いけど、そういうのを看破して得意げになっているマーガレットも陳腐に思えてしまうのだ。
そんなの、もはや素人でも簡単に看破できるようなトリックだからね。

トークショーに出演したサイモンがスプーン曲げをお願いされている描写も、「今さらスプーン曲げなのかよ」と思っちゃう。
時代設定が1970年代や1980年代ならともかく、2012年の映画なのよ。
スプーン曲げをやるにしても、せめて「ただ曲げるだけ」というユリ・ゲラーがやっていたような「手品の初歩の初歩」で出来るトリックで留まるんじゃなく、新しいモノを見せないとさ。
ぶっちゃけ、スプーン曲げなんてワシだって簡単に出来るんだから。

シルヴァーをショーを前にして超能力を巡る討論番組が放送されるんだけど、ここに嘘臭さを感じてしまうのは「日本とアメリカの違い」ってのが関係しているのかなあ。
何が嘘臭く感じるのかっていうと、「マーガレットを除く他の面々が全て超能力肯定派で、シルヴァーの超能力は科学的に証明されていると断言している」という設定。
日本でもユリ・ゲラーが来日した頃には「彼の超能力は本物」ということで大々的に宣伝するようなテレビ番組があったけど、今の時代に「この人の超能力は本物」と断言するような番組は、ちょっと考えにくい。
つまり、その番組に関しても、やはり「センスが古い」と感じるのだ。
でもワシが知らないだけで、ひょっとするとアメリカでは未だに「彼の超能力は本物」という番組が普通に成立しちゃうのか。

話が中盤辺りまで進んでも、まだ「この映画は何を描きたいのか?」ってのがハッキリと見えて来ない。
「トムとマーガレットがサイモンの超能力の真贋を見抜くために対決する」というところへ向けて進めているんだろうとは思うけど、それにしてはサイモンの「超能力者」としての存在アピールが弱すぎる。もっとサイモンが超能力を使うシーンを前半から描き、「本物かもしれない」と観客に思わせるぐらいのことをやっておかないと、対決に向けた雰囲気は全く盛り上がらない。
ただし、サイモンの超能力を前半からアピールしておいた場合、それはそれで別の問題が生じる可能性が高い。
どんな問題かというと、「サイモンがインチキ超能力者であることがバレバレになってしまう」ってことだ。
トークショーでスプーン曲げをお願いされた時点で何となく感じる人もいるだろうけど、その程度のことで超能力者を自称している時点でニセモノ感たっぷりだ。「持っている能力の一端」としてスプーン曲げをやるような人は、100パーセントの確率でインチキな超能力者なのだ。

そりゃあ、「いかにもインチキ臭い」という描写にしておいて、「本物の超能力者」というオチを用意する手もあるだろう。しかし、そういうオチへ持って行くのなら、それなりの見せ方が必要になる。
で、それをやっていない本作品は、完全ネタバレだが、やはり「インチキな超能力者だった」というシンプルに着地に至る。
それは別にいいとしても、あまりにもインチキ超能力者としてのレベルが低すぎて、対決の図式が全く盛り上がらないのだ。
前述したように、最初からインチキっぽさ満点だからね。今さらユリ・ゲラーと同程度のインチキを見せられているような感じなのだ。
繰り返しになるけど、インチキ超能力に対するセンスが古いのよ。

インチキ超能力のレベルを上げるとなると、それはそれで難題が待ち受けている。
インチキってことはトリックを用意しなきゃいけないわけだが、イカサマ超能力のレベルを上げると、それに応じてトリックのレベルも上げなきゃいけなくなる。
スプーン曲げなら「テコの原理」とか「力で曲げる」という単純なトリックでも成立するけど、大掛かりだったり派手だったりするインチキは、そういうわけにはいかない。
でも、そこをクリアしてでもインチキ超能力のレベルを上げておかないと、この映画のように科学者と超能力者の対決が盛り上がりに欠けることになってしまうのだ。

もう1つの問題として、「そもそもサイモンの超能力が偽物だと暴く意味は何なのか」という目的がボンヤリしていることが挙げられる。
序盤でサリーが「わざわざ超常現象の嘘を暴いて何の意味があるのか?嘘でもいいのではないか」と疑問提起しているけど、それに対して「観客を物語に引き込み、トムの行動に引き込む」という力を持った答えが用意されていない。トムは「超能力者に軽い胃炎だと言われた母親が胃癌だったら?」と言っているけど、それだけでは観客を対決に引き込む力が全く足りていない。
そんなわけだから、サイモンの超能力がインチキだと明かされたとして、そこにどれだけの高揚感や爽快感があるのかと想像した時に、そんなに強くはないだろうと思ってしまう。そういう思いを抱きながらの観賞になってしまう。
トムの行動目的に引き付けられるモノが弱くても、サイモンを不快指数の高い悪人キャラとして描写していれば、「勧善懲悪」的な意識でトムを応援することも出来ただろうが、そういう色付けも無いしね。

サイモンの超能力がインチキだと分かった時、幾つかの疑問が残ることになる。
ショーの最中に記者が心臓発作で死んだのは何だったのか。マーガレットが自宅で曲がっているスプーンに気付くのは何だったのか。トムが電話を受けた時にガラスが割れるのは何だったのか。マーガレットの突然死は何だったのか。
そういった謎の内、大半はすぐに解き明かされる。「トムが超能力者だった」と明らかにされるからだ。
マーガレットのスプーンが曲がったことや、ガラスが割れたこと、家が荒らされたことなどは、全て「トムがやったこと」という説明が付くのだ(意識的にやったのか、自分の能力に無自覚だったのかはボンヤリしているけど)。

ただし、記者とマーガレットの死については、トムがやったわけではないので謎が残されたままだ。
終盤、トムはサイモンの手下にトイレで襲撃されているので、記者とマーガレットも殺された可能性はある。
ただし2人が殺されたのだとすれば、なぜトムを襲った手下は殺害せずにボコボコにしただけで済ませているのかが分からない。始末しなきゃ意味が無いでしょ。
そして、もしも記者とマーガレットの死が殺害ではなかったとすると「ただの偶然」ってことになるのだが、それはそれでスッキリしないわな。

(観賞日:2014年11月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会