『若き勇者たち』:1984、アメリカ

9月。セオドア・ルーズベルト大統領の銅像が建つコロラド州カルメット。高校の生徒たちが歴史の授業を受けていると、校庭に正体不明のパラシュート部隊が降下した。その数の多さに教師のティーズデイルが異様なものを感じ、様子を見に行く。だが、彼が話し掛けると、兵士たちはいきなり発砲した。さらに兵士たちは、教室の生徒たちに向けて銃を乱射した。生き残った生徒たちの内、ジェッド、ロバート、ジェッドの弟マット、ダリル、ダニー、アードヴァークの6人は同じ車で脱出した。
ジェッドたちが町に入ると兵士たちが攻撃しており、アードヴァークの父親は車にいる息子に向かって呼び掛ける。彼が兵隊に捕まったため、アードヴァークは戻ろうとするが、車はそのまま走り抜けてジェッドたちの父エッカートが営むガソリンスタンドへ辿り着いた。エッカートは「山へ逃げるんだ」と言い、店にある食料や必要な物資をに荷台に積み込ませた。ジェッドたちはエッカートに別れを告げ、山へ向かった。
行く先に兵隊が待ち受けていたため、運転するジェッドは道路から外れて攻撃を回避する。そこに戦闘ヘリが来て兵隊を攻撃したので、ジェッドたちは「味方だ」と喜んだ。山で一夜を過ごした6人だが、前日の攻撃でラジオを破壊されていた。生徒会長のダリルは降伏を主張し、ダニーも賛同する。「町に戻るのは危険だ」とジェッドが言うと、ダリルは苛立って掴み掛かる。ジェッドはダリルを投げ飛ばし、「行きたければ行け。第三次世界大戦が始まって、人が殺されてる。ロシア人の仕業かもしれない」と声を荒げる。結局、全員が山に留まることを選択した。「俺とマットは親父に連れられて、この山に何度も来てる。狩りも出来るし、釣りも出来る。長い間、ここに居られる」とジェッドは語った。
10月、食料と情報が必要だと考えた彼らは、町の様子を見に行くことにした。ジェッド、マット、ロバートの3人が町に入ると、見たことも無い車両が走っており、異様な雰囲気に包まれていた。3人は雑貨店に入り、顔見知りのアリシアに状況を尋ねる。するとアリシアは顔を強張らせ、ジェッドたちがKGBに手配されていること、ロシア人だけでなくキューバ人も捜していることを教える。ジェッドが父のことを訊くと、アリシアは「奴らは抵抗しそうな人を捕まえた。そういう人は再教育キャンプと呼んでいるドライブ・イン・シアターに連行された」と告げる。
夜、3人は柵で囲われたドライブ・イン・シアターへ行き、エッカートと会った。エッカートは息子たちに、「俺はもう死んだ。お前たちを助けてやれない」と告げる。ロバートが父について訊くと、どうなったか分からないとエッカートは告げた。彼は「復讐してくれ」と息子たちに言い、再教育キャンプから立ち去らせた。3人は郊外に住むメイソン老夫婦の元を訪れ、フリー・アメリカという自由地区があることを知った。情報が欲しくて町へ行ったことを話すジェッドたちに、メイソンはラジオをプレゼントした。
メイソンは「もうカルメットには行くな。殺人が横行してる。寝ている間に喉を切り裂かれる」と3人に警告する。ロバートが親のことを尋ねると、メイソンは「君の父親は奴らに殺された。見せしめだ。母親のことは分からない」と告げる。彼は「必要な物資が欲しければ、ここに来ればいい」と告げ、地下室に隠れさせている孫娘のトニーとエリカを預かってほしいと頼む。敵兵に強姦されそうになったのだという。ジェッドたちはトニーとエリカを山へ連れ帰る。
ある日、敵軍の3人組が観光気分で山に入って来た。ジェッドたちは銃撃し、全員を始末した。敵軍のベラ大佐はベイツ市長を呼び、息子のダリルと仲間たちについて尋問する。ベイツは「ウチの息子は暴力など振るうような奴じゃない」と言い、殺人への関与を否定する。敵軍は再教育キャンプの十数名を野原へ連れ出し、銃殺した。その中にはエッカートもいた。父が殺されたと知ったマットが号泣すると、ジェッドは「生きてる限り、二度と泣くな。悲しみを別の物に変えるんだ」と抱き締めた。
怒りに燃えたジェッドたちは、町外れの給油所に現れた戦車隊の3人に奇襲を仕掛けて抹殺した。さらに彼らは多くの捕虜を銃殺しようとしていた敵軍を襲撃し、皆殺しにした。ジェッドたちはウルヴァリンズと名乗り、次々に敵軍を始末していく。11月、ジェッドたちは墜落したアメリカ人の戦闘機パイロットを保護した。男は空軍のアンドリュー・タナー大佐で、敵軍が巧妙な作戦で要所を掌握していったことを語る。キューバとニカラグアの連合軍がメキシコから、ソ連軍はカナダから潜入してきたが、現在は膠着状態らしい。その日の深夜、ジェッドたちはアンディーを起こし、「装甲車部隊を襲う」と告げる。翌朝、彼らは敵に奇襲を仕掛けて甚大な被害を与えた。
12月、ジェッドたちはアンディーの立てた作戦を遂行し、敵軍の陣営を攻撃して捕虜を解放した。彼らは助け出した捕虜に銃を渡し、共に戦うよう促した。1月、ジェッドたちは友人の戦闘機が飛んでいくのを目撃する。その直後、背後から敵軍の戦車が出現し、彼らは慌てて身を隠す。何とか撃滅したジェッドたちだが、アンディーとアードヴァークが犠牲となった。2月、敵軍はウルヴァリンズを撃滅するため、部隊を雪山に差し向けた。ジェッドたちは敵を壊滅させ、ゴルスキーという兵士を捕虜にする。探知機を調べたジェッドたちは、ダリルが誘導装置で敵に居場所を教えたことを知る。勝手に町へ行って敵に捕まり、仲間たちを裏切っていたのだ…。

監督はジョン・ミリアス、原案はケヴィン・レイノルズ、脚本はケヴィン・レイノルズ&ジョン・ミリアス、製作はバズ・フェイトシャンズ&バリー・バッカーマン、製作総指揮はシドニー・ベッカーマン、撮影はリック・ウェイト、編集はトム・ノーブル、美術はジャクソン・デ・ゴヴィア、音楽はベイジル・ポールドゥリス。
出演はパトリック・スウェイジ、C・トーマス・ハウエル、リー・トンプソン、チャーリー・シーン、ダーレン・ダルトン、ジェニファー・グレイ、ブラッド・サヴェージ、ダグ・トビー、パワーズ・ブース、ベン・ジョンソン、ハリー・ディーン・スタントン、ロン・オニール、ウィリアム・スミス、ヴラデク・シェイバル、フランク・マクレー、ロイ・ジェンソン、ペペ・セルナ、レイン・スミス、ジャッド・オーメン他。


『ビッグ・ウェンズデー』『コナン・ザ・グレート』のジョン・ミリアスが監督を務めた作品。
ジェッドをパトリック・スウェイジ、ロバートをC・トーマス・ハウエル、エリカをリー・トンプソン、マットをチャーリー・シーン、ダリルをダーレン・ダルトン、トニーをジェニファー・グレイ、ダニーをブラッド・サヴェージ、アードヴァークをダグ・トビー、アンディーをパワーズ・ブース、メイソンをベン・ジョンソン、エッカートをハリー・ディーン・スタントンが演じている。
チャーリー・シーンは、これが正式な形での映画デビュー(その前に父親であるマーティン・シーンの主演作『地獄の逃避行』(1973)にアンクレジットで出演している)。

当時は冷戦真っ只中であり、しかも監督がタカ派のジョン・ミリアスなので、見事なぐらい分かりやすい反共プロパガンダ映画である。
この当時、ロナルド・レーガンが掲げたレーガノミクスの中には、「国防と無関係な歳出を減らし、それを国防費に回して軍事的に強いアメリカを復活させる」という政策が含まれていた。
そんなレーガノミクスを全面的に肯定し、応援する映画とも言えるだろう。
あれだけ大量のパラシュート部隊が降下するまでアメリカ政府は全く気付かず、簡単に国土へ潜入されている。なぜかアメリカ合衆国の防衛システムは全く機能していないのだ。
一応、冒頭のテロップで「NATOは解散してアメリカ合衆国は孤立した」と説明されており、だから以前と比べて共産国の情報が入って来なくなったという状況にあると仮定しても、だからって敵軍が国土に降下してくるまで全く気付かないってのは、どんだけボンクラなのかと。

あと、ジェッドは「第三次世界大戦」と言っているが、なぜか共産国の連合軍は核爆弾を撃ち込んで攻撃しようとはせず、大量の部隊を突入させる。
キューバとニカラグアはともかく、ソ連は核爆弾を充分に保有しているはずだが、それを使おうとはしない(セリフでは使用したことに触れているが、劇中では描かれていない)。
また、戦闘機による爆撃も展開しない。徹底して陸軍、それも歩兵を中心とした攻撃で制圧してやろうという、なかなか気概のある連中だ。
あと、連合軍は戦略的に何の価値も無さそうな田舎町を、なぜか制圧するのね。
そこに「実はこういう狙いがあって」という理由が用意されているわけではない。

侵入した敵軍を攻撃するために米軍が出動する様子は、戦闘ヘリがチラッと出て来るだけ。連合軍が「戦車が迫っている」と言うシーンはあるが、その様子は描かれない。
で、1ヶ月が経過すると、どうやらアメリカは多くの地域が敵軍に制圧されているようだ。
アメリカと同盟を結んでいないとしても、共産国軍がアメリカを制圧したら、ヨーロッパ諸国が黙っていないようにも思えるが、イギリス以外の国は静観している設定だ。
その理由についてアンディーは「二度の大戦があったからな」と言っているが、何の説明にもなっていない。

ジェッドたちが山に留まることを決めると、すぐに1ヶ月後へ場面が切り替わる。
どうやら偵察ヘリに発見されることもなく、敵軍が山を捜索することも無く、平穏無事に過ごすことが出来たようだ。
1ヶ月もあったら、その間は敵に見つからないよう緊張感を保ったまま暮らさなきゃいけないし、精神的にも肉体的にも疲労が蓄積してくるだろう。
また、兄弟以外は狩りに慣れていないから苦労するとか、食料を巡って争いになるとか、そういうことも考えられる。そんな中で、互いのことを理解し合うこともあるだろうし、色々な形で人間関係が変化することもあるだろう。
だが、そういうドラマを描こうとはしない。
そんな様子を描いても、反共の宣伝には繋がらないので、どうでもいいのだろう。

だから6人のキャラクターを掘り下げるような作業は、ほとんど用意されていない。ぶっちゃけ、顔で見分けないと、誰が誰なのか良く分からないほどだ。
ただ、どうせキャラクター紹介も人間ドラマの描写もやるつもりが無いのなら、1ヶ月も経過させず、襲われて逃亡した流れのままで物語を描いて行けばいいのにね。1ヶ月後にジャンプする構成にしたことで、せっかくの緊迫感が途切れちゃうんだから。
で、町に行ったジェッドたちは、御尋ね者になっていることを知るけど、そこで連合軍に見つかりそうになったり、見つかったりというスリリングな展開は無い。
キャンプには簡単に近付けるし、何の問題も無く父とも普通に話せるし、メイソン夫妻の家にも行くことが出来ている。

メイソンは孫娘2人をジェッドたちに預ける。
敵兵から守るために、自分たちよりも信頼できると考えるわけだから、ジェッドたちは随分と頼りがいのある連中として見てもらっているようだ。そして実際、彼らはメイソンの考えていたような頼りがいのある連中であることを証明する。
まずは山へやって来た3人の敵を始末する。初めての殺人だが、迷いや恐怖といった感情は薄い。
その後は奇襲作戦を仕掛け、次々に敵軍を始末していく。
簡単に米国の本土へ侵入し、米軍を倒して町を制圧したような敵軍を次々と殺していくんだから、もはや米軍よりも凄い奴らと言ってもいい。
そして、高校生による殺人行為は、「英雄が悪玉を倒していく」という勇ましい活躍として描かれている。
相手が共産軍なので、そいつらを殺すのは、もちろん勧善懲悪の称賛すべき行為なのだ。

一方の敵軍は、用意周到な準備で米国本土に潜入し、多くの地域を短期間で制圧したはずなのに、そうとは思えないぐらいボンクラな姿をさらけ出している。
そもそも最初の3人が殺された時点で山狩りをすべきじゃないかと思うんだが、そういう行動は取らない。
その後も、ジェッドたちを全く見つけることが出来ない。
ジェッドたちが敵に見つからないように対策を取っているとか、どんどん隠れ家を移動しているとか、そういうわけでもないのに。
そもそも敵軍は、捜し出そうという動きさえ見せていない。

敵軍がウルヴァリンズをずっと放置したままだから、どんどん犠牲が増えていく。
ウルヴァリンズを見つけようとしない代わりに、敵軍は報復として捕虜を殺すというアホなことをやっている。
それでウルヴァリンズが「自分たちのせいで仲間の犠牲が増える」と悩んだり攻撃を中止したりすればいいけど、ジェッドたちはそんなことを全く気にしていない。
「仲間が報復で殺されたら、その報復として、もっと敵軍を殺してやれ」という考え方なのだ。
いやあ、清々しいぐらい好戦的だね。

2月になって、ようやく敵軍はジェッドたちの撃滅作戦を実行する。
最初にウルヴァリンズが行動したのは10月なんだから、随分と放置していたものだ。
で、今回はウルヴァリンズの奇襲を受けたわけではなく、しかも隠れ場所まで分かっているはずなのに、あっさりと敵軍は返り討ちに遭ってしまう。ボンクラだねえ。
で、隠れ場所を知られたのは、ダリルが勝手に町へ行き、父に連れられていった先で敵軍に捕まり、誘導装置を使わされたからだ。
それを知ったロバートは、容赦なくダリルを始末する。
「裏切り者を粛清する」ってのは、もはやテロ集団のような匂いを感じさせる。
だが、「どんな理由があるにせよ、アカに協力する奴は始末して良し」という考え方なのだ。
アカに対する容赦の無さは、徹底しているね。ゴルスキーも容赦なく銃殺しているし。

ちなみに、様々な理由を挙げて「反共映画ではない」とか「実は反戦映画である」といった解釈をする人もいるようだ。
しかし、そんなことは有り得ない。
これは間違いなく反共プロパガンダ映画である。
その理由について説明しろと言われたら、それはとても簡単なことだ。
「だって、ジョン・ミリアスだもの」という一言で片が付く。

(観賞日:2013年5月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会