『レディ・プレイヤー1』:2018、アメリカ

2045年、オハイオ州コロンバスの集合住宅。2027年生まれのウェイド・オーウェン・ワッツは両親を亡くし、叔母のアリスと暮らしている。コロンバスはハリデーとモローがグレガリアス社を設立した場所であり、世界で最も発展している。重苦しい現実から逃れるため、多くの人々がVRの世界を利用している。家を出たウェイドは集合住宅で暮らすギルモア夫人と挨拶を交わし、近所のスクラップ置き場へ赴く。彼は全方向性ランニングマシンに乗り、ゴーグルを装着して『オアシス』というゲームの世界に入り込んだ。
『オアシス』の中では、どんなキャラクターにもなれるし、どんな場所にも自由に行ける。ウェイドはパーシヴァルと名付けたアバターを使い、食事とトイレ以外の全てを『オアシス』内でやっている。リアルで会ったことの無い巨漢のエイチとも、彼は『オアシス』で親友になった。パーシヴァルは惑星ドゥームへ行き、ダイトウ&ショウたちと共に戦っているエイチに声を掛ける。ハリデーは様々な力を持つマジック・アイテムを『オアシス』に散りばめ、スキルの高い物が入手できる。デスマッチやアーティファクト集めでコインを稼ぐことが出来るが、アーマーのレベルが低い場合は注意が必要だ。コインを稼げばレベルは上がり、アバターが死んでも復活できるが所持品はリセットされる。
ハリデーとパートナーのモローは2025年に最初の『オアシス』を発表し、たちまち大人気となった。モローは数年後にビジネスから手を引き、ハリデーは2040年に死んだ。ハリデーは死ぬ前に、「隠しアイテムのイースター・エッグを『オアシス』に残した。最初に見つけた者には会社の株と運営権を譲渡する」というメッセージを残していた。彼はゲアノラックというアバターを使い、3つの鍵を作っていた。3つの試練を突破し、魔法の門を鍵で開けた勇者だけが宝を入手できる。鍵は秘密の迷路に隠されており、それから5年が経過したが発見した者はいなかった。
第1の試練は既に発見されており、カーレースであることが分かっている。しかし難易度が高く、誰もゴールできていない。未だに諦めていないのは、ガンターと呼ばれるエッグハンターだけだ。エッグハンターにはパーシヴァルやエイチたちの他に、世界第2位の企業であるIOIのソレント社長が送り込んだシクサーズの面々もいる。パーシヴァルはエイチと合流し、レースに参加した。バイクを走らせる女性ライダーを見たパーシヴァルは、シクサー殺しの異名を持つアルテミスだと気付いた。
キングコングに行く手を塞がれたパージァルは、後ろから走って来るアルテミスが危険だと感じる。彼はアルテミスを助けるが、バイクはコングに潰された。パーシヴァルはエイチにバイクの修理を頼むため、アルテミスを連れて彼の作業場へ赴く。パーシヴァルはアルテミスから「このコンテストに勝ったらどうする気?」と問われ、「リアルの世界で野望がある。貧乏から脱出したい」と答える。アルテミスはコングを恐れて進もうとしないパーシヴァルを批判し、「ソレントに全てを牛耳られないため、『オアシス』を守ろうとするのが本当のガンターでしょ」と告げた。
バイクの修理が終わると、アルテミスはパーシヴァルに嫌味を浴びせて姿を消した。アリスの声が聞こえたので、ウェイドは家に戻った。するとアリスの同棲相手のリックが、ゲームに負けたことでウェイドに八つ当たりする。彼が家を買うための貯金までアップグレードに使っていたため、アリスは「ここから抜け出すお金だったのに」と嘆いた。リックは金遣いが荒いだけでなく暴力まで振るうような男だが、アリスは彼の肩を持ってウェイドを怒鳴り付けた。
「ハリデーはルール嫌い」というアルテミスの言葉が気になったウェイドは、パーシヴァルとして『オアシス』内のハリデー年鑑を訪れた。若い頃のハリデーの映像を見た彼は、「後ろに進んじゃダメなのか?」という言葉に着目する。カーレースに参加したパーシヴァルは、スタート時に全速力でバックした。すると地面の一部が開き、地下の隠し通路が出現した。パーシヴァルは難の障害物も無いコースを疾走し、ゴールに辿り着いた。アノラックと会った彼は最初の鍵を受け取り、アカウントのコインは一気に増えた。
ウェイドは獲得したコインでX-1スーツを手に入れ、届いた商品を見て興奮した。ソレントは『オアシス』に入り、殺し屋のアイロックにパーシヴァルの始末を依頼した。レースではパーシヴァルに続き、逆走の情報を得たアルテミス、エイチ、ダイトウ、ショウがゴールした。トップ5が貰えるヒントの巻物には、「自分の作品を嫌う作者。鍵は飛ばなかったジャンプ。足跡を辿り、過去から逃れよ。さすれば翡翠の鍵は汝の物」と書かれていた。
パーシヴァルが手掛かりを得るためにハリデー年鑑へ行くと、有名人の彼は大勢に囲まれた。するとアルテミスが「有名人の自覚を持て」とパーシヴァルを連れ出し、眼鏡やスーツを渡して変装させた。パーシヴァルはアルテミスと共に、ハリデーの映像をチェックした。そこでは若い頃のソレントがインターンとして働いており、知らなかったアルテミスは驚いた。パーシヴァルは映像を早送りし、ハリデーがカレン・アンダーウッドとデートした時の様子を見ることにした。カレン、通称「キーラ」は現在のモロー夫人だが、独身の頃に1度だけハリデーとデートしていたのだ。
アルテミスはパーシヴァルに木曜日の予定を尋ね、夜10時にダンスクラブへ来るよう誘って立ち去った。パーシヴァルはエイチにデートの予定を話し、「アルテミスに利用されてるじゃないか」と言われる。エイチは「女に入れ込むな。『オアシス』で会う相手には警戒しろ」と忠告するが、パーシヴァルは「大丈夫だ。彼女とは気が合うんだ」と話す。パーシヴァルはダンスクラブへ行き、アルテミスと会う。アイロックは店内に入り、2人の様子を観察した。
アルテミスは何か起きるかもしれないと言い、パーシヴァルをダンスに誘う。ウェイドはアルテミスに本気で惹かれ、「リアルの世界でも会えないかな」と提案する。アルテミスは「会ったらガッカリするよ」と断るが、ウェイドは本名を名乗る。アルテミスは「正気?そこらの連中に正体を明かしちゃダメだよ」と注意するが、ウェイドは「君は特別だ。君に恋してる」と告白する。アイロックはウェイドの名前を知り、不敵な笑みを浮かべた。
シクサーズが店に突入してパーシヴァルとアルテミスを攻撃すると、アイロックも加勢した。パーシヴァルは購入しておいたゼメキスのキューブを使い、60秒前に時間を戻してアルテミスと共に逃亡した。アルテミスは能天気な態度のパーシヴァルを蹴り飛ばし、「遊びじゃないのよ。現実の世界で大勢が苦しんでる。死人も出てる」と告げる。彼女は父親がIOIに多額の借金を抱えていたこと、徴収センターで働いたが負債は膨らむばかりだったこと、病気になって死んだことを語る。アルテミスは「アンタはリアルの世界に生きてない。そんな奴に付き合ってられない」とパーシヴァルを突き放し、その場を去った。
アイロックはウェイドに関する情報を突き止め、ソレントに知らせた。ソレントは役員のフナーレに、ウェイドの捜索を命じた。ソレントはパーシヴァルをIOIプラザへ招待し、手を組まないかと持ち掛けた。彼は高額の報酬を提示し、ウェイドの趣味に合わせて豊富な知識を披露する。しかしウェイドはソレントが部下から情報を得ていると察知し、「アンタは大嘘つきだ」と誘いを断った。ソレントは「君の正体は分かってる」と言い、ウェイドの個人情報を詳細に話し、集合住宅の爆破を予告した。ウェイドは慌てて戻ろうとするが、集合住宅は爆破されて崩壊した。
ウェイドは刺青男に拉致され、アルテミスをアバターとして使っているサマンサ・イヴリン・クックの元に連行される。彼女は反乱軍のメンバーとして、リアルの世界でもIOIと戦っていた。サマンサは2つ目のヒントの意味に気付き、ハリデーがキーラとデートした場所が手掛かりだとウェイドに話す。2人はパーシヴァルとアルテミスになり、エイチ、ダイトウ、ショウと合流してハリデー年鑑へ赴いた。パーシヴァルはデートで見た『シャイニング』が答えだと確信し、上映中の映画館へ全員で向かう。『シャイニング』を見ていないエイチは、次々に怪奇現象を体験した。
パーシヴァルとアルテミスに救出されたエイチは、壁に飾られているキーラの写真を見たと話す。一行はエイチの案内で集合写真の場所に戻り、アルテミスはキーラがパーティールームにいると推理する。一行がパーティールームに入るとキーラがゾンビたちと踊っており、アルテミスは「ハリデーが初期に作ったゲームよ。『シャイニング』は引っ掛けだったのね」と言う。アルテミスはパーティールームに飛び込み、巻き込まれたパーシヴァル以外の3人は映画館の外へ弾き飛ばされた。アルテミスはキーラの元へ到達し、ダンスに誘った。するとアノラックが出現し、翡翠の鍵をアルテミスに差し出した。
サマンサとウェイドが図書館でヒントを解読しようとしていると、武装したIOIの連中が乗り込んできた。アルテミスはウェイドに全てを託し、彼を逃がしてIOIに捕まる。ウェイドが図書館を脱出すると、エイチをアバターとして使うヘレン・ハリスが待ち受けていた。2人がドローンに発見されると、ダイトウをアバターにしている日本人青年のトシロウが駆け付けた。彼はドローンを破壊し、「サマンサから伝言を受けて迎えに来た」と言う。
ヘレンは「シクサーズが第3の試練を見つけた」と告げ、2人をバンに乗せて逃亡する。バンにはショウを使う11歳のゾウも乗っていた。ウェイドが「サマンサを助けに行かなきゃ」と言うと、ヘレンは「IOIには入れない。もっといい方法がある。ソレントがアルテミスを返すように仕向けるんだ。そのためには準備が大事だ」と告げる。徴収センターに連行されたサマンサは、アルテミスとしての強制労働を命じられていた。アルテミスが電気ショックを与えられると、その衝撃はサマンサにも伝わるようになっていた。
ハリデーが用意した第3の試練の内容は、アタリ2000用のゲームの特定だった。ソレントはIOI社員に挑戦させていたが、なかなか答えに辿り着けなかった。ソレントはベンとしてアイロックと会い、オジュヴォックスの天球が魔法の呪文で作動することを聞く。アイロックは呪文を使い、アノラックの城にシールドを張った。ウェイドとトシロウはソレントの元へ乗り込んで拳銃を突き付け、サマンサの居場所を教えるよう要求した。ウェイドはトシロウにソレントとの交渉役を委ねて退席し、ラバーマスクを外してパーシヴァルの姿になる。そこは『オアシス』の世界であり、パーシヴァルはエイチたちと共にソレントのギアをハッキングしたのだ。
パーシヴァルはソレントのパスワードを使い、サマンサのオーディオシステムに入り込んだ。するとサマンサは彼に、第3の試練の場所が惑星ドゥームだと教える。さらに彼女は、アノラックの城に魔法を跳ね除ける無敵のシールドが張られ、内側からしか解除できなくなっていることも伝える。パーシヴァルはサマンサに指示を出し、彼女を徴収センターのポッドから脱出させた。サマンサはウェイドにソレントのオフィスとパスワードを聞き、兵隊を集めるよう頼んだ。彼女は「惑星ドゥームで合図を待ってる。シールドを解除するから」と言い、ソレントのオフィスへ向かう…

監督はスティーヴン・スピルバーグ、原作はアーネスト・クライン、脚本はザック・ペン&アーネスト・クライン、製作はドナルド・デ・ライン&クリスティー・マコスコ・クリーガー&スティーヴン・スピルバーグ&ダン・ファラー、製作総指揮はアダム・ソムナー&ダニエル・ルピ&クリス・デファリア&ブルース・バーマン、共同製作はアーネスト・クライン&ジェニファー・メイスローン、製作協力はリック・カーター、撮影はヤヌス・カミンスキー、美術はアダム・ストックハウゼン、編集はマイケル・カーン&セーラ・ブロシャー、衣装はカシャ・ワリッカ=マイモーネ、視覚効果監修はロジャー・ガイエット&グラディー・コファー&マシュー・バトラー、アニメーション監修はデヴィッド・シーク、音楽はアラン・シルヴェストリ。
出演はタイ・シェリダン、オリヴィア・クック、ベン・メンデルソーン、マーク・ライランス、サイモン・ペッグ、リナ・ウェイス、T・J・ミラー、フィリップ・チャオ、森崎ウィン、ハナ・ジョン=カーメン、ラルフ・アイネソン、スーザン・リンチ、クレア・ヒギンス、ローレンス・スペルマン、パーディタ・ウィークス、ジョエル・マコーマック、キット・コナー、レオ・ヘラー、アントニオ・マッテラ、ロンケ・アデコルージョ、ウィリアム・グロス、ギャレス・メイソン、サンドラ・ディッキンソン、リン・ウィルモット、ジェイデン・フォーオラ=ナイト、ギャヴィン・マーシャル他。


アーネスト・クラインのベストセラー小説『ゲームウォーズ』を基にした作品。
監督は『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のスティーヴン・スピルバーグ。
脚本は『X-MEN:ファイナル ディシジョン』『インクレディブル・ハルク』のザック・ペンと原作者のアーネスト・クラインによる共同。
ウェイドをタイ・シェリダン、サマンサをオリヴィア・クック、ソレントをベン・メンデルソーン、ハリデーをマーク・ライランス、モローをサイモン・ペッグ、ヘレンをリナ・ウェイス、アイロックをT・J・ミラー、ゾウをフィリップ・チャオ、トシロウを森崎ウィンが演じている。

もしも貴方が1970年代から1990年代までのサブカルチャー(メインは1980年代)に何の興味も無く、オタク気質が全く無い人だとしたら、この映画は欠点だらけで質が低いと感じるかもしれない。
しかし、その辺りのサブカルチャーが好きでオタク気質のある人なら、欠点を補って余りある魅力に溢れた素晴らしい映画だと思えるだろう。
ただし、オッサン向けのネタが満載なのにジャンル的にはジュブナイルなので、かなり観客を選ぶ作品になっている。
ようするに、「子供向け映画を楽しめるオタク気質のオッサン」であることが求められるわけだからね。

数多くの映画やアニメのネタを持ち込む以上、著作権を獲得する必要がある。その交渉に製作サイドは数年を費やし、大半の作品に関する 著作権を得ることが出来た。
ここは「スピルバーグが監督だから」ってのも、少なからず交渉の好材料になっただろう。
ただし全ての権利を獲得できたわけではないので、予定に無かった作品のネタも使われている。
また、権利以外の理由で使われなかったネタもある。例えば、原作では東映版『スパイダーマン』のレオパルドンが重要な道具として使われているが、日本以外での知名度の低さを考慮して、映画版には登場させていない。

先に欠点を挙げておこう。
まず1つ目の鍵を得る手掛かりに引っ掛かる。「単なる裏ワザ」でしかなく、そこにゲームや映画への愛や知識が全く要らないってのはマズいだろう。
あと、5年間に渡って、誰も「後ろ向きに走る」という方法を取らなかったのは不可解。
ここでパーシヴァルはアルテミスに惚れているのだが、そこからウェイドとサマンサが出会う手順が簡単に訪れるのは、「それは終盤でもいいんじゃないか」と思ってしまう。っていうか、恋愛要素そのものの扱いを、もっと薄めてもいいんじゃないかと。

普通に考えれば、アリスは同情できる哀れな女にしておいて、その同棲相手であるリックだけを悪玉に設定した方がいいはずだ。
しかしアリスもリックの肩を持ち、ウェイドが殴られても「警察なんて呼ばないわ」と鋭く告げたり厳しく注意したりするようなクズ女なのだ。なので、「ソレントの策略でアリスが死亡」という出来事が起きても、悲劇性が薄くなる。
ただ、幾ら悲劇性が薄くなるとは言っても、その事件が起きた後、ウェイドが全く引きずらないのは「それはそれでダメだろ」と言いたくなるぞ。そうなると、アリスの死が全くの無意味になっちゃうでしょうに。
ただ、そもそもリアルの世界で「ソレントが誰かを殺す」という展開を用意したこと自体が間違いだ。
ソレントは悪玉だけど、人殺しには加担させない方が絶対にいいよ。この映画は、死者を出さない方がいい。

アルテミスが指摘するように、ウェイドが安易に本名を明かすのは愚かしい行為でしかない。
ウェイドはアルテミスに「君に恋してる」と告白するが、相手がアバターと同じような女性かどうかなんて分からない。
性別さえ違うかもしれないわけで、そういう意味でもアバターを見ただけで惚れるのはバカまっしぐらな行為でしかない。
これは映画なので「実際にも同年代の可愛い女の子でした」という都合のいい設定になっているけど、ウェイドの行動が軽率で愚かなのは紛れも無い事実だ。

サマンサと会った時、ウェイドは「ちなみに僕、ガッカリしてないよ。前に君は、会ったらガッカリするって言ってただろ」と言う。
顔に大きな痣のあるサマンサが「慣れてるから、無理しなくていいよ」と告げると、彼は「痣があるからって、それが何?」と口にする。
でも、まず「ちなみに」と前置きしてから、そんなことを話している時点でデリカシーが無いでしょ。相手が痣について何か言ったり、「実際に会ったらガッカリしたでしょ」と言ったりして、それに対して「気にしてないよ」と返すなら分かるけどさ。
先にウェイドがそういうことを言うと、上の立場から喋っているように聞こえてしまうのよ。

第3の試練に挑むIOI社員の中には、1人だけ他の面々と異なる扱いになっている女性がいる。彼女は良くも悪くもオタク気質が他の面々とは全く違っている感じがあるのだが、それ以上に「こいつって、ひょっとするとウェイドたちの味方になってくれるんじゃないか」という匂いを漂わせている。
でも実際には、意味ありげなだけで終わってしまう(最終的には試練に挑んでいた全ての社員がパーシヴァルを応援する)。
ただしキャラの扱いに物足りなさを感じるのは、彼女だけではない。
ヘレンやゾウやトシロウたちでさえ、ものすごく中身は薄っぺらいのよね。

では、そろそろオタク向けのネタに触れていこう。
第1の試練となるカーレースのシーンでは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンや『AKIRA』の金田バイク、TVドラマ『怪鳥人間バットマン』のバットモービル、『ジュラシック・パーク』のティラノサウルスや『キングコング』のコングなどが登場する。
エイチの作業場には宇宙空母ギャラクティカ、『エイリアン2』のスラコ号、『サイレント・ランニング』のヴァリー・フォージがある。
アルテミスはパーシヴァルに別れを告げる時に「ゴールして手を振ってあげる、マクフライ」と言うが、マクフライってのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティー・マクフライのこと。

ハリデー年鑑の映像では、若い頃のハリデーが「後ろに進んじゃダメなのか。たまには猛スピードで逆戻り。アクセルを踏んでさ。ビルとテッドみたいに」と言っているが、これは『ビルとテッドの大冒険』『ビルとテッドの地獄旅行』に登場するコンビのこと。
ソレントがアイロックと会う場所は、『宇宙戦争』のウォー・マシーンに破壊されている。
アルテミスは変装してハリデー年鑑からパーシヴァルを連れ出す時、『エイリアン』に登場するチェストバスターのパペットを右腕に装着しており、『スーパーマン』のクラーク・ケントの眼鏡を渡す。
ウェイドはキーラの存在について「物語のローズバッド(バラの蕾)なんだ」と言うが、これは『市民ケーン』から。

パーシヴァルはアルテミスとのデートに行くために、『スリラー』のマイケル・ジャクソンやデュラン・デュランの衣装を試し、最終的に『バカルー・バンザイの8次元ギャラクシー』のバカルーのコスプレをする。
彼はダンスクラブへ行くと、映画『サタデー・ナイト・フィーバー』のステップを披露する。
ソレントはウェイドを仲間に引き入れるために「ミレニアム・ファルコンも手に入る」と言うが、これは『スター・ウォーズ』に登場するハン・ソロの宇宙船。
ウェイドがジョン・ヒューズのファンだという情報を得た彼は、『ブレックファスト・クラブ』や『フェリスはある朝突然に』に言及する。

惑星ドゥームでの戦いでは、『ニンジャ・タートルズ』のタートルズや、『ストリートファイター』の春麗、『アルゴ探検隊の大冒険』の骸骨剣士たちが参加する。
エイチはアイアン・ジャイアントを操り、パーシヴァルに『チャイルド・プレイ』のチャッキーを武器として渡す。
ベンがメカゴジラを操ると、ダイトウは「俺はガンダムで行く」と日本語で言ってTVアニメ『機動戦士ガンダム』のRX-78を操縦する。
ウェイドは『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』の聖なる爆弾を使い、敵を一掃する。
この他にも『グレムリン』や『ビートルジュース』など、大量のネタが盛り込まれている。

「1970年代から1990年代のサブカルてんこ盛り」ってのは、音楽に関しても徹底されている。
2045年という近未来が舞台なのに、冒頭で流れて来るのはヴァン・ヘイレンの『JUMP』。
それは「主人公が好きな音楽だから」という『バック・トゥ・ザ・ヒューチャー』的な意味で使っているわけではなく、単に当時のサブカルネタの1つとして採用しているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。
それ以外にも、ビー・ジーズの『Stayin' Alive』やプリンスの『I Wanna Be Your Lover』、ニュー・オーダーの『Blue Monday』やトゥイステッド・シスターの『We're Not Gonna Take It』など、1970年代から1980年代のヒット曲が使われている。

劇中に登場するサブカルチャー関連の要素は、その大半がザック・ペンとアーネスト・クライン、VFX担当のスタッフたちによって持ち込まれた物だ。
監督はスティーヴン・スピルバーグだが、彼はそういうサブカルに対する愛や情熱なんて、ほとんど無いだろう。
製作にも参加しているし、さすがに「ただの雇われ仕事」と割り切っているわけではない。
だが、ザック・ペンやアーネスト・クラインに比べると熱量は圧倒的に違う。

スティーヴン・スピルバーグのサブカルに対する熱量が決して大きくなかったことは、『シャイニング』のシーンを見ればハッキリ分かる。
このシーンは原作には無く、当初は『ブレードランナー』が盛り込まれる予定だった。しかし『ブレードランナー 2049』の製作期間と重なっていたため、スピルバーグ監督の意向で『シャイニング』が持ち込まれている。
他の映画やアニメ関連のネタとを比較すると、このシーンだけ明らかに力の入り具合が違うのだ。
たぶんスピルバーグが本気で情熱を持って演出したのは、このシーンぐらいだろう。
何しろ、自分の大好きなキューブリックの映画だからね。

ただ、そこが大きな見せ場となっていることは、映画のバランスを考えると、あまり望ましいこととは言えない。
なぜなら『オアシス』の中で登場する映画やアニメは全て、ハリデーが大好きな作品のはずだからだ。
彼のキャラ設定を考えると、スタンリー・キューブリックや『シャイニング』が大好きには思えないのだ。
「原作はスティーヴン・キング」という部分で考えれば趣味に入るかもしれないけど、同じキング作品でも『クリープショー』とか『バトルランナー』の方が納得できるんだよね。
あと、「実はオタクホイホイなネタを全て排除してしまったら、超つまらない映画になる可能性が高い」ってのは、ここだけの秘密だ。

(観賞日:2019年7月8日)


2018年度 HIHOはくさいアワード:第2位

 

*ポンコツ映画愛護協会