『ラットレース』:2001、アメリカ&カナダ

ラスベガスのカジノホテルをチェック・アウトしようとした弁護士のニック・シェーファーは、フロント係から部屋で観賞したポルノ作品の代金を請求される。ニックは「友達のバチェラー・パーティーに行ってた。ポルノは見てない」と主張するが、フロント係は信じようとしなかった。カジノのバーで酒を飲んでいたオーウェン・テンプルトンは、バーテンダーや隣の男性客から「どこが見たことがある」と言われる。オーウェンが適当に誤魔化そうとするが、バーのテレビに彼の大失態を報じるスポーツニュースが流れた。オーウェンはNFLの審判で、コイントスのミスを指摘されて選手たちに突っ掛かっていた。
ドゥエインとブレインのコーディー兄弟はホテルの客を騙し、金を手に入れようと目論んでいた。しかし通り掛かった女性が階段から転落するという予定外の事故が起き、作戦は失敗に終わった。ヴェラ・ベイカーはカジノのウェイトレスたちに、27年間も会っていない娘の写真を見せた。彼女は幼い頃の写真しか持っておらず、プロを雇って捜索してもらったことを話す。ようやく会える喜びを語っていると、娘のメリル・ジェニングスがやって来た。
部下からの電話を受けたメリルが激しく怒鳴り付けて携帯を壊したので、ヴェラは困惑した。メリルは化粧品会社を経営しており、株式上場を控えていた。ヴェラが「占い師から貴方を捜せと言われた。私が必要だって。寂しがってるし、お金の面で心配があるって」と言うと、メリルは「みんなそうでしょ」と告げた。ランディー・ピアは妻のビヴァリー、息子のジェイソン、娘のキンバリーと共に、ホテルにやって来た。家族が部屋に入ると、ランディーは「ちょっとブラブラしてくる」と出掛けようとする。ビヴァリーに「カジノへ行く気じゃないでしょうね」と見抜かれた彼は、慌てて「ただの散歩だ」と誤魔化した。
ニックは友人のリッチーに「もう帰る気か?」と訊かれ、「火曜日に法廷があるんだ」と告げる。「まだパーティーがある。逃げるなよ。何か悪いことしろよ」とリッチーは言うが、ニックは「飛行機の時間だ」と告げて立ち去った。ヴェラがメリルとスロットマシンで遊んでいると、一枚だけ金色のコインが出て来た。ヴェラがコインを手に取ると、「おめでとう。サービスカウンターまでお越しを」と書いてあった。ランディーやブレイン、そしてオーウェンも、スロットマシンで同じコインを手に入れた。
ヴェラとメリルがサービスカウンターに行くと、担当者は「ペントハウスで開かれる特別レセプションで驚くべきチャンスが待っている」という情報しか分からないのだと告げた。メリルは詐欺ではないかと怪しむが、ヴェラは素直に喜んだ。カジノを去ろうとしたニックはスロットマシンを回し、コインを手に入れた。メリルたちがペントハウスに集まっていると、観光客のエンリコ・ポリーニも現れた。そこへホテルのオーナーであるドナルド・シンクレアが登場し、笑えないジョークを飛ばす。最後にニックが現れると、ドナルドは「これから君たちが挑戦するゲームの勝率は6分の1だ」と全員に告げた。
弁護士のハロルド・グリシャムが権利放棄書を全員に渡す様子を、隣の部屋からマジックミラーを通じて多くの金持ちたちが眺めていた。エンリコたちは知らなかったが、ペントハウスに集められた面々は賭けの対象になっていた。ドナルドはエンリコたちに、ラスベガスから905キロ離れたニューメキシコ州にシルヴァー・シティーという小さな町があること、鉄道の駅にロッカーが並んでいることを説明し、グリシャムがコインを入手した6人の鍵を渡した。ドナルドはロッカー赤いダッフルバッグが入っていること、中に200万ドルがあることを話し、最初に着いた者が全額を貰えると述べた。彼は「鍵のキーホルダーには送信機が組み込まれていて、君たちの居場所が分かる」と話すと、そこで説明を終了した。
いきなり「スタート」と言われた面々は困惑し、ルールについて質問する。ドナルドは「ルールは無い」と言い、もうゲームは始まっていると告げた。他の面々が怪しむ中、エンリコはノリノリでスタートした。するとニックを覗く連中は、慌ててエンリコの後を追った。オーウェンはタクシーに乗り、運転手のガスに空港へ向かうよう指示した。ランディーは部屋に戻り、「仕事でニューメキシコへ行く」とビヴァリーに嘘をついた。するとビヴァリーが「ニューメキシコが好きだから一緒に行く」と言い出したので、ランディーは家族を同伴する羽目になった。エンリコはナルコレプシーの症状に見舞われ、ホテルを出る前に眠り込んだ。
コーディー兄弟やランディーは、それぞれ自分たちの車で空港へ急いだ。メリルはタクシーで空港に向かいながら、電話でチャーター機を押さえた。ガスはオーウェンの正体に気付かず、試合で2万ドルも失ったことへの怒りを吐露した。しかし空港でオーウェンを降ろした直後、別の運転手から彼の正体を知らされた。ニックはシカゴへ戻る飛行機を待つため、空港でビールを飲んでいた。近くのゴミ箱に鍵を投げ捨てた彼は、トレイシー・フォーセットという女性に目を留めた。自分と同じリンドバーグの本を読んでいたので、ニックは彼女に声を掛けた。一緒に飲まないかとニックが差そうと、トレイシーは「これから飛ぶの。ヘリコプターの操縦士なの」と断った。
オーウェンとランディーは、アルバカーキ行きの搭乗券を手に入れた。メリルとヴェラは、チャーター機に乗り込んだ。コーディー兄弟はアルバカーキ行きが満席だったため、他の連中の出発を阻止しようと企んだ。2人はレーダーを破壊し、全ての飛行機が出発を中止した。コーディー兄弟は偽造免許証を使い、レンタカーを借りた。オーウェンはタクシーに戻り、ガスの怒りを知らないまま東へ向かうよう指示した。メリルは急いで車を借りようとするが、新人の訓練に当たったせいで時間が掛かってしまった。
ニックはトレイシーからヘリコプターなら飛行機と違って離陸できると聞き、整備でニューメキシコへ向かう彼女に同行することを決めた。ランディーはキンバリーから便意を訴えられるが、「急いでるんだ」と途中で停車することを拒否した。彼は娘に、尻だけ車外に出して排便するよう指示した。しかし警官に見つかり、停止を命じられた。ニックは「姉が重体だ」と嘘をつき、トレイシーのヘリコプターに乗せてもらった。ガスは近道だと嘘をついて道を外れ、オーウェンの上着やズボンを奪って砂漠に放り出した。
メリルとヴェラは路肩でリスを売っている女性を見つけ、高速道路の場所を尋ねる。女性は執拗にリスを売ろうとするが、「要らない」とメリルは苛立つ。女性は「近道がある」と言い、行き方を教えた。バービー・ミュージアムの看板を見つけたキンバリーが「行きたい」と言うと、ランディーは拒否した。しかしビヴァリーが立ち寄るよう要求したため、彼は仕方なく10分という条件で承諾した。すると看板にあったミュージアムはバービー人形の博物館ではなく、ナチス親衛隊員だったクラウス・バルビーの博物館だった。
コーディー兄弟はランディーの車を発見し、動けなくして去った。ランディーは博物館に展示されていたアドルフ・ヒトラーのベンツを盗み、家族を乗せてシルヴァー・シティーを目指す。トレイシーは恋人のショーンが自宅の庭で元カノと浮気しているのを発見し、激怒してヘリコプターを急降下させる。彼女は恋人と元カノを脅かし、車を攻撃する。恋人が車で逃げ出すとトレイシーは執拗に追跡するが、ヘリコプターが不時着して動かなくなった。逮捕を恐れた彼女は、ニックに「私は逃げる」と告げる。彼女はショーンを殴り付けて車を奪うと、ニックは助手席に乗り込んだ。
オーウェンは砂漠を歩き続け、ようやくバス停に辿り着いた。彼はトイレに入っていた運転手を騙し、制服を奪い取った。彼が運転手に化けてバスに乗り込むと、客はルシル・ボールのそっくりさん大会に参加する女性たちだった。ずっと眠り続けていたエンリコは子供たちに触られ、ようやく目を覚ました。道に飛び出した彼は、ザック・マロッツィーが運転するメディカル・サービスの車にはねられてしまう。エンリコは無事だったが、焦ったザックはシルヴァー・シティーまで乗せていくことにした。
コーディー兄弟は二手に分かれてゴールを目指せばチャンスは倍になると考え、合い鍵を作ることにした。ドゥエインが不用意に金のことを喋ったため、鍵屋のロイドが密かに鍵を盗み取った。コーディー兄弟は鍵を盗まれたと気付き、シルヴァー・シティーへ向かうロイドの車を追った。メリルとヴェラは女性に教えられた道を進むが、それは罠だった。女性に騙された2人は崖下に転落し、車は壊れてしまった。オーウェンは煙草を吸っている客を見つけ、消すよう指示した。客は煙草を投げ捨てるが、後ろに座っていた女性のカツラに落ちた。カツラから火が上がり、慌てた他の面々は車を停めるよう頼むがオーウェンは拒否する。客はカツラをトイレに捨てるが、詰まって水が溢れ出す。そこへ倒れた洗剤が注ぎ込み、車内は泡まみれになってしまった。
ニックはトレイシーにゲームのことを説明し、「金が手に入ったら山分けしよう」と持ち掛けた。ザックはエンリコに、移植手術のために心臓を運んでいることを教えた。彼は「見たいか?」と問い掛け、ケースを開けてエンリコに心臓を見せた。その直後、前を走っていたトラックの荷台からガラクタが落下し、それを踏んだ車が揺れて心臓がケースから落下した。ニックはトレイシーに誘われ、警官が仮眠している間にパトカーのガソリンを盗んだ。目を覚ました警官はスピート違反のロイドとコーディー兄弟を追い掛けようとするが、すぐにガソリン切れでバトカーが停まった。
ロイドは気球を奪って逃亡を図るが、コーディー兄弟は追い付いて鍵を取り返した。気球はロープに繋がれた牛を吊るしたまま飛び続け、バスの上を通過した。バスのフロントガラスには牛が激突し、慌てたオーウェンは運転を誤って道を外れる。彼は急いでパンクしたタイヤを直そうとするが、客たちの余計な行動のせいでバスが横転して動かなくなった。エンリコは心臓を拾って袋に入れようとするが、手が滑って窓の外へ飛び出してしまった。
車を停めたザックはエンリコと共に探し、野良犬がくわえていたので急いで追い掛けた。ランディーは不用意な言動で女性バイカーを激怒させてしまい、彼女と仲間たちに襲われる。ランディーは退役軍人が集まっている会場にヒトラーの車で突っ込み、強い怒りを買った。グレシャムはコールガールのヴィッキーを部屋に呼び、細かい注文を出した。それも賭けの対象となっており、ヴィッキーが金額を提示すると隠れていた金持ちたちが飛び出して清算を始めた。
ザックとエンリコは電気フェンスに激突して死んでいる野良犬を発見するが、心臓は損傷していた。ザックは流れ者を殺して心臓を奪おうと目論み、エンリコに身内がいないと知って襲い掛かろうとする。しかしザックの狙いを知ったエンリコは、慌てて逃亡する。ザックは悔しがるが、電気フェンスに触れてしまったおかげで心臓が動き出した。トレイシーはエンジニアに車を見てもらってラジエーターにヒビが入っていると知り、応急処置として砂を使うことにした。メリルとヴェラは砂漠を歩き続け、ロケットカーのテスト現場に迷い込んだ。2人はロケットカーを盗むが、あまりのスピードでフラフラになってしまった…。

監督はジェリー・ザッカー、脚本はアンディー・ブレックマン、製作はジェリー・ザッカー&ジャネット・ザッカー&ショーン・ダニエル、製作総指揮はリチャード・ヴェイン&ジェームズ・ジャックス、撮影はトーマス・E・アッカーマン、美術はゲイリー・フラットコフ、編集はトム・ルイス、衣装はエレン・ミロジニック、音楽はジョン・パウエル、音楽監修はボニー・グリーンバーグ。
出演はローワン・アトキンソン、ラネイ・チャップマン、ジョン・クリース、ウーピー・ゴールドバーグ、キューバ・グッディングJr.、セス・グリーン、ジリアン・マリー・ヒューバート、ウェイン・ナイト、ジョン・ロヴィッツ、ブレッキン・メイヤー、サイラス・ウィアー・ミッチェル、キャシー・ナジミー、ポール・ロドリゲス、エイミー・スマート、ブロディー・スミス、デイヴ・トーマス、ヴィンス・ヴィーラフ、ディーン・ケイン、グロリア・オールレッド、コリーン・キャンプ、ブランディー・レッドフォード、トリスティン・レフラー、ランス・ハワード、ジュニア・レイ、キャリー・ダイアモンド、ジェニカ・ベルジェール、リック・クレイマー、ポール・ヘイズ他。


『ゴースト ニューヨークの幻』『トゥルーナイト』のジェリー・ザッカーが監督を務めた作品。
脚本は『ミスター・アーサー2』『星に想いを』のアンディー・ブレックマン。
エンリコをローワン・アトキンソン、メリルをラネイ・チャップマン、ドナルドをジョン・クリース、ヴェラをウーピー・ゴールドバーグ、オーウェンをキューバ・グッディングJr.、ドゥエインをセス・グリーン、ザックをウェイン・ナイト、ランディーをジョン・ロヴィッツ、ニックをブレッキン・メイヤー、ビヴァリーをキャシー・ナジミー、トレイシーをエイミー・スマート、グリシャムをデイヴ・トーマス、ブレインをヴィンス・ヴィーラフ、ショーンをディーン・ケイン、ロイドをサイラス・ウィアー・ミッチェル、ガスをポール・ロドリゲスが演じている。

1963年の映画『おかしな、おかしな、おかしな世界』から着想を得ている作品だが、『キャノンボール』を連想する人もいるだろう。
その2作に共通するのは、「オールスター・キャスト」ってことだ。
内容の良さやコメディーとしての面白さは二の次で、豪華スターの競演を楽しむべき映画だった。
そして本作品も、一応は「豪華キャストがカーレースに挑む」という話ではある。
しかし前述の2作に比べて、その顔触れは明らかに弱い。

『おかしな、おかしな、おかしな世界』では、まず2年連続でアカデミー賞の主演男優賞を獲得したスペンサー・トレイシーが出演していた。
プライムタイム・エミー賞を受賞しているミルトン・バール、エミー賞受賞者のシド・シーザー、人気コメディアンのバディー・ハケットといった面々もいた。
「ブロードウェイの女王」の異名を持つトニー賞受賞者のエセル・マーマン、『町の人気者』や『戦塵』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたミッキー・ルーニー、2年連続でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたピーター・フォークもいた。
底抜けコンビのジェリー・ルイス、三大喜劇王のバスター・キートン、人気トリオの三ばか大将もいた。

『キャノンボール』では、『ロンゲスト・ヤード』『トランザム7000』のバート・レイノルズ、3代目ジェームズ・ボンドのロジャー・ムーア、当時のセックス・シンボルだったファラ・フォーセット、シナトラ一家のディーン・マーティンやサミー・デイヴィスJr.などが出演していた。
こちらの方は、正直に言って「オールスター・キャスト」と呼ぶには無理がある。
ただ、それでも本作品に比べれば、まだ豪華な印象はあるぞ。

とは言え、「実際にオールスター・キャストなのか否か」という部分はひとまず置いておくとして、少なくとも演出としては、そういう捉え方で進めているようだ。
コミカルに誇張された主要キャストの写真がオープニング・クレジットで使われていることから考えても、明らかに本作品は「出演者の顔触れを楽しんでね」というスタンスを打ち出している。
ジェリー・ザッカーはZAZトリオとして幼稚なギャグやパロディーてんこ盛りの映画を作った経歴の持ち主だが、ここでは「古いノリのユルい喜劇」の演出に徹している。
まあ脚本を書いたのがZAZトリオでもなきゃパット・プロフトでもないしね。

序盤、ゲーム参加者がスロットマシンでコインを手に入れるシーンがある。メリル&ヴェラ、ランディー、コーディー兄弟、オーウェン、ニックが順番にスロットマシンで遊び、コインが出てくる様子が描かれる。
でも、スロットで遊ぶシーンに笑いがあるわけでもないので、基本的には同じことの繰り返しに過ぎない。
なので、そこは時間と手間の無駄に思える。
どうせエンリコはスロットでコインを手に入れるシーンが無いんだし、他のメンメンも律儀に1人ずつ描く必要は無いんじゃないかと。

っていうか、もっと根本的なことを言っちゃうと、「スロットマシンで遊んだらコインが出てくる」という手順自体、あまり上手くない方法に思えるんだよね。
前述のように、そういう方法を取ると「同じことの繰り返し」になっちゃうわけで。出来れば、1人ずつが異なる方法で招待状となる物(この映画ではコインだが、コインである必要は無い」)を手にする形の方がいい。
そうでなけけば、いっそのこと招待状を受け取る手順を省いてしまえばいい。
具体的には、「謎の招待状を受け取った面々がホテルに集まって来る」という形にでもしておけばいいのだ。そうすれば、問題は一気に解決されるはず。

ランディーはギャンブル好き、コーディー兄弟はケチな詐欺で稼ごうとしていた男なので、こいつらが大金目当てのゲームに乗るのは理解できる。
だが、再会を果たしたばかりのメリル&ヴェラや、失態を犯したばかりのオーウェンが、最初から必死になって大金を手に入れるゲームに乗るのは、スムーズな進行とは言い難い。
もちろん大金が手に入るとなれば、多くの人間は頑張るだろうと思う。だけど映画としては彼らを動かすために、もっとハッキリとしたモチベーションが欲しいのよ。
ニックに至ってはメリルやオーウェンたちにも増して、ますます動機が分からないんだよね。

そんなトコで変に疑問を抱かせるぐらいなら、最初から「金を欲しがっている」という共通項を持つ連中として参加メンバーを集める設定にしておけば良かったんじゃないか。
その方が腑に落ちるだけでなく、ストーリーを進める上でも何かと都合がいいような気がするぞ。
「醜い争いをしていた銭ゲバの連中」ってことにしておけば、オチの部分も変なヒューマニズムに落ちちゃうんじゃなくて、シニカルな喜劇としての結末になった可能性もあるだろうし(結末のヌルさについては後述する)。

いざゲームが始まると、まずは全員が空港へ向かう。
最初から「車でゴールを目指す」という展開になっていない時点で「それは余計な手間になっていないか」と言いたくなるが、それでも1組ずつ「飛行機で出発できない理由」を別で用意しているなら、喜劇として細工に凝っているのでOKだったかもしれない。
でもコーディー兄弟の策略で一気に全員がダメになるので、「やっぱり余計な手間だな」という印象になる。
しかもコーディー兄弟がレーザーを壊すシーンも、モタモタしていてテンポが悪いんだよね。もっとクッキリと緩急を付けて描けば、ベタであってもスラップスティックな笑いに繋がったかもしれないのに。

全員が飛行機の利用を諦めると、それぞれのグループの様子が並行して描かれることになる。同じコースを同時に走っているわけではないからね。
もちろん同時進行で描く以外に方法は無いのだが、「どのタイミングで別のグループに切り替えるか」という判断がマズいのよ。
例えばメリル&ヴェラがリスおばさんに道を尋ねるシーンがあるが、そこから「2人が崖下に転落する」という展開までに幾つものシーンが挟まり、15分ぐらい掛かっている。
でも道を尋ねるシーンは何の笑いも無いまま終わっているのだから、だったら「崖下に転落」というオチまで一気に繋げた方がいい。一気に描くのが無理でも、せめて1シーンを挟むぐらいで片付けた方がいい。

オーウェンが砂漠に放り出されるパートも、無駄に分割していると感じる。
まずガスに放り出されたオーウェンが砂漠を歩き出して、ここで1つ区切りを付ける。続いてメリルとヴェラがリスおばさんから道を尋ねるシーンを挟み、砂漠を歩くオーウェンの様子がチラッと映る。
その短いカットを挟んでいる意味は、全く無い。ストーリー展開に変化があったわけでもないし、もちろん笑いも無いし。
砂漠を歩くシーンからバス停に着くシーンまでを一気に描かないのは正しい判断だけど、途中の短い1カットは完全なる無駄。

心臓が落ちるギャグも、無駄に分割したせいでテンポが悪くなり、笑いも薄くなっている。
心臓がケースから落下したら、そのまま一気に片付けちゃった方がいい。でも「心臓が落ちました」ってトコでシーンを区切り、しばらく経ってから「エンリコが心臓を外に飛ばしてしまい、野良犬がくわえていたので追い掛ける」という様子を描く。
ここでも心臓を巡るパートは終わらず、「心臓を見つけたザックがエンリコを殺そうと目論んで」というトコは分割してしまう。
でも、分割したことで得られるメリットなんて何も無いのよね。せめて、分割は2つで済ませるべきだよ。
「心臓が床に落ちてしまい、エンリコが拾って袋に入れようとしたけど外に飛ばしてしまう」というトコまでは一気に片付けちゃった方がいい。

逆に、分割しなかったことでスッキリと上手く描けている箇所を具体的に挙げるなら、バービー・ミュージアムのパートだ。
ランディーが家族にせがまれ、仕方なく博物館へ行くことを承諾する。キンバリーが喜ぶ様子からカットが切り替わると、博物館の従業員がクラウス・バルビーについて解説している。
「バービー人形の博物館だと思って喜んでいたら、クラウス・バルビーでした」というオチが、綺麗な形で決まっている。
でも綺麗に決まっているのって、そこぐらいなのよね。

たぶん多くの人が予想できるんじゃないかと思うが、この手の映画では誰か1人が賞金をゲットして終わりなんてことは無い。
この映画も御多分に漏れず、参加者は誰も賞金を手に入れることが出来ない。そして金持ちの道楽に参加者を利用していた面々も、そのままで終わることは無い。
それは別にいいのだが、その落とし所が「それは違う」と言いたくなる内容になっている。
ニックたちはチャリティー会場に迷い込み、恵まれない子供たちのために賞金を寄付することになるのだ。最初は「仕方なく」という形だが、結局は「喜んで寄付する」という形になる。
でも、そこでハートフォーミングに持ち込むヌルさは、この映画ではダメでしょ。

(観賞日:2021年2月9日)


第24回スティンカーズ最悪映画賞(2001年)

ノミネート:【最悪の助演男優】部門[キューバ・グッディングJr.]
ノミネート:【最悪の助演女優】部門[ウーピー・ゴールドバーグ]
<*『モンキーボーン』『ラットレース』の2作でのノミネート>
ノミネート:【最も苛立たしいグループ】部門[ルシル・ボールに全く似ていないルーシーのソックリさんたち]

 

*ポンコツ映画愛護協会