『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』:2019、アメリカ

ギャツビー・ウェルズは前の大学を辞めて、ヤードレー大学に通っている。評判の良い上品な大学で、母は気に入っている。最初に通った大学よりアカデミックで、教育ママが選んだアイビーリーグの学校だ。ギャツビーはポーカーで2万ドルを稼いだが、大学には数ヶ月で挫折した。彼は大学新聞作りの中で、恋人のアシュレー・エンライトと出会った。父親はアリゾナ銀行の経営者で、ギャツビーの母は結婚を期待している。ギャツビーもアシュレーに夢中で、結婚を考えている。
アシュレーは映画監督のローランド・ポラードに取材できることになり、ギャツビーに喜びを語る。取材するはずだった学生が風邪になり、代役がアシュレーに回って来たのだ。マンハッタンで取材すると聞いたギャツビーは「君と行きたかった」と言い、ピアニストが名曲を弾き語るカーライルを予約すると告げた。彼は「街を案内するよ。ラスベガスにも行こう」と語るが、アシュレーはローランドに取材することで頭が一杯だった。
ギャツビーとアシュレーは、最初のデートでローランドの監督作『冬の思い出』を観ていた。鋭い質問を考えるアシュレーに、ギャツビーは本で読んだ知識を基に助言した。ギャツビーは窓からセントラルパークが見える高級ホテルの部屋を予約し、アシュレーとチェックインした。彼はアシュレーをローランドの宿泊するホテルまで送り届け、時間を潰すために街へ出た。ローランドはアシュレーの挨拶を受け、最初の妻も綴りが異なる「アシュレー」だったと話す。彼は「スクープをあげよう」と言い出し、「今回の映画に不満で、監督を降りようかと思っている」と告白した。
アシュレーが「一般受けしないわ。売るための譲歩をしなかった。自由な魂の芸術家なのよ」と話すと、ローランドは礼を述べた。彼は新作を見せてあげようと言い、「脚本家のテッド・ダヴィドフに試写を見せる」と告げた。アシュレーは喜び、ランチの予定を変更すると述べた。ギャツビーは高校時代に嫌いだった同級生のトロラーと遭遇し、「ジョシュは?」と質問した。トロラーは「映画を撮ってる。ニューヨーク大学の課題さ。エイミーの妹のチャンもいる」と名門ヴァッサー大学だ」と話し、会うよう勧めた。
ギャツビーが「彼女が大学新聞の取材でローランド・ポラードに会ってる」と話すと、トロラーは「恋人を大物監督と2人きりにするとマズいぞ」と忠告した。ギャツビーはアシュレーの元へ戻り、ランチのキャンセルを告げられた。「今かに新作を見る。スクープが取れるチャンスなの」とアシュレーは説明し、会う時間を午後1時から3時に変更してもらった。ギャツビーはジョシュの撮影現場に足を運び、「現代版フィルム・ノワールを撮ってる。エキストラが足りないから出演してくれないか」と頼まれた。
一度は断ったギャツビーだが、台詞は無いと言われて承諾した。彼はチャン・ティレルの恋人役を任され、キスシーンの撮影に臨んだ。かつてギャツビーは、チャンの姉のエイミーと交際していた。「どうせならホットなキスをしない?」とチャンが言うと、彼は了解した。しかしキスの時に目を閉じてNGになり、「彼女がいるから迷った」とチャンに言い訳した。テイク3でOKになり、ギャツビーはチャンの生意気な言動を感じながら撮影現場を去った。
ギャツビーは兄であるハンターの様子が気になり、家を訪れた。ハンターが「母のパーティーの件か」と訊くと、彼は「来たのは内緒だ」と答えた。ハンターは同居している婚約者のリリーに、「こいつは社交嫌いで、母の文学サロンを呪ってた」と話した。ギャツビーは文学サロンについて、「金持ちの妻たちの文学遊びだ」と扱き下ろした。リリーがシャワーを浴びに行くと、ハンターはギャツビーに「式を挙げたくないが、大勢を招待しておいて、今さら引き返せない」と漏らした。
ギャツビーが「何があった?」と尋ねると、ハンターは「笑い声に耐えられない。完全に萎えるんだ」と明かす。「愛してるんだろ。我慢しろよ」とギャツビーが言うと、彼は「頑張ったが、無理だった」と吐露する。ローランドは試写室で新作を観ている途中で席を立ち、「やっぱり無理だ。耐えられない」と口にした。テッドが「まだ完成していない」と告げると、彼は「僕のやったことはクソだ」と吐き捨てた。ローランドは「1人になりたい」と言い、試写室を出て行った。テッドが「彼と理性的に話すために、最後まで観る」と言うと、アシュレーは付き合うことにした。
ギャツビーは兄から「今夜、ホテルでポーカーがある。ギャンブル好きだろ。ジョーに連絡しておくか」と持ち掛けられ、「軍資金はあるが、アシュレーと約束がある」と断った。実際にリリーの笑い声を聞いたギャツビーは、ハンターの心情を理解した。彼が兄の家を出ると、アシュレーから電話が掛かって来た。「30分以内に連絡すると言ってただろ」とギャツビーが文句を言うと、アシュレーは「特ダネが掴めそうなの。だから行けない。テッドと一緒にローリーを説得しなきゃ。終わったら連絡する」と電話を切った。
テッドはアシュレーに説得役を頼み、ローランドの捜索に出た。バーに入った彼は、バーテンダーからローランドが「スタジオに行く」と言っていたことを聞かされた。テッドはアシュレーを車に乗せて、撮影所に向かう。その途中、彼は妻のコニーがラリー・リプシッツのアパートへ向かう姿を目撃した。「妹と買い物に行くと言っていたのに。ラリーは大親友だ。まさか親友と浮気なんて」とテッドは嘆き、「ここで待って、出て来たら問い詰める」と言う。帰るよう促されたアシュレーは、「貴方を1人に出来ない」と返した。
ギャツビーがタクシーを停めると、同時にチャンが拾おうとしていた。ギャツビーが譲ろうとすると、彼女は「途中まで一緒に」と告げた。チャンはギャツビーに、五番街の自宅へ向かうと言う。ギャツビーが「アシュレーと一緒に週末を過ごすはずだったのに、取材で多忙だ。1時間だと言っていたのに」と漏らすと、チャンは「口説かれてるかもよ。割り込んで自己主張すれば?」と提案した。ギャツビーが電話を掛けると、アシュレーは「予期せぬ展開で取り込み中なの。電話じゃ説明できない」と話す。ギャツビーが「たかが映画の取材で、コソコソ隠すな。やましいことでもあるのか」と言うと、彼女は「また後でね」と電話を切った。
アシュレーはテッドからギャツビーについて訊かれ、「彼はエキセントリックなの。たぶん母親との不仲が原因だと思う。もしかすると、アスペルガーかも」と述べた。ギャツビーはチャンと一緒にタクシーを下車し、「予定は?暇潰しにMoMAでウィージー展を見ようかと」と言う。チャンが「暇だから付き合えと?」と口にすると、彼は「いつも突っ掛かって来るね。もういい」と不機嫌になって去ろうとする。チャンが「見たい絵があるから、付いて来てもいいわよ」と言うと、彼は承諾した。チャンは着替えるために家へ戻り、ギャツビーを招き入れた。ギャツビーはピアノを弾かせてもらい、ラブソングを歌った。
テッドはアパートから出て来たコニーに駆け寄り、ラリーとの浮気を非難した。コニーはテッドがアシュレーと一緒にいたと知り、「15歳の愛人と尾行?」と嫌味っぽく告げる。「愛人じゃなくて記者だ。21歳のジャーナリストで、ローランドの取材に来てる」とテッドが説明すると、彼女はアシュレーに夫の度重なる浮気を暴露した。テッドはアシュレーに撮影所の住所を渡し、タクシーを拾って「ローリーを捜せ」と向かわせた。
MoMAを訪れたチャンは、ギャツビーに将来の夢を尋ねた。ギャツビーが「もがいてる。自分が何になりたいのか分からない」と答えると、彼女は「平凡な人生が似合わない貴方に熱を上げてた。エイミーから話を聞いて、密かに応援してたのよ」と打ち明けた。母のパーティーに出席する叔父と叔母を目撃したギャツビーは、慌てて隠れた。アシュレーから電話が入ったので、彼は話しながら叔父と叔母を避けようとする。しかし見つかってしまい、母に電話してパーティーに参加する約束をする羽目になった。
アシュレーが撮影所に到着すると、ローランドはいなかった。撮影所にいた人気俳優のフランシスコ・ヴェガは、「彼は帰った」と言う。アシュレーは大物スターとの出会いに興奮し、ディナーに誘われると喜んで承諾した。ギャツビーはチャンに母のパーティーへの嫌悪感を漏らし、「富豪セレブの寄せ集めはウンザリだ」と口にした。するとチャンは、「親のスネをかじってるくせに。嫌なら家を出て、自分を学費を稼げば?」と告げた。
ヴェガは大勢のファンとマスコミに囲まれながら、アシュレーを車に乗せてレストランへ向かった。アシュレーは恋人の有無について質問され、「厳密にはいない。ヤードレー大学の男友達がいるけど、ただの男の子」と答えた。ギャツビーは兄の代役としてポーカーに参加し、アシュレーのことを気にしながら1万5千ドルを稼いだ。部屋に戻った彼はテレビのニュースを見て、アシュレーがヴェガと一緒にいると知った。ショックを受けたギャツビーがラウンジで飲んでいると、娼婦のテリーが声を掛けた。商売を持ち掛けられた彼は、アシュレーとしてパーティーに同行してほしいと頼んだ…。

脚本&監督はウディー・アレン、製作はレッティー・アロンソン&エリカ・アロンソン、製作総指揮はロナルド・L・チェズ&アダム・B・スターン&ハワード・フィッシャー、撮影はヴィットリオ・ストラーロ、美術はサント・ロカスト、編集はアリサ・レプセルター、衣装はスージー・ベンジンジャー。
出演はティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメス、ジュード・ロウ、ディエゴ・ルナ、リーヴ・シュレイバー、アナリー・アシュフォード、レベッカ・ホール、チェリー・ジョーンズ、ウィル・ロジャース、ケリー・ロールバッハ、スキ・ウォーターハウス、グリフィン・ニューマン、ベン・ウォーヘイト、メアリー・ボイヤー、テッド・ニュースタッド、ジョナサン・ジャッジ=ルッソ、ジョナサン・ホーガン、スザンヌ・スミス、オリヴィア・ボレアム=ウィング、フランク・マズーロ、ガス・バーニー、イライジャ・ブース、ディラン・プリンス他。


『カフェ・ソサエティ』『女と男の観覧車』のウディー・アレンが脚本&監督を務めた作品。
ギャツビーをティモシー・シャラメ、アシュレーをエル・ファニング、チャンをセレーナ・ゴメス、テッドをジュード・ロウ、フランシスコをディエゴ・ルナ、ローランドをリーヴ・シュレイバー、リリーをアナリー・アシュフォード、コニーをレベッカ・ホール、ギャツビーの母をチェリー・ジョーンズ、ハンターをウィル・ロジャース、テリーをケリー・ロールバッハが演じている。

実在する人物や物の固有名詞を多用しているのは、いかにもウディー・アレンらしいと感じる。
ミュージカル『ハミルトン』、ホテルのザ・カーライルとザ・ピエール。イラストレーターのベーメルマンス、叙事詩『ベオウルフ』に登場するベーオウルフとグレンデル。画家のルノワールやゴッホやロスコ、映画監督の黒澤明。
小説家のヴァージニア・ウルフやヘンリー・ジェイムズ、小説『失われた時を求めて』や『変身』。映画『風と共に去りぬ』や『恋の手ほどき』、ミュージカル『ガイズ&ドールズ』の登場人物であるスカイ・マスターソン。
画家のヒエロニムス・ボスやサージェント、百貨店のバーグドルフやアパレル企業のプラダ、ジャズ・ミュージシャンのチャーリー・パーカーなど。
ウディー・アレンはインテリで物知りなので、その知識をひけらかしたがっているのだろう。

21世紀以降のウディー・アレンは、ほぼ同じことを繰り返している。
かつてのウディー・アレンは、下品なギャグ映画や人種差別をテーマにした小難しい映画、哲学的な映画なども撮っていた。
しかし21世紀以降は、ザックリ言うと『アニー・ホール』の系譜に属する作品ばかりを撮り続けている。
複数の男女がトラブルに見舞われる恋愛劇が都会を舞台にして繰り広げられ、それをオシャレな雰囲気に包んで饒舌&上品に仕上げるのだ。

かつてのウディー・アレンは監督と脚本だけでなく、自身で主演も務めていた。
彼が演じる主人公の性格設定は、どの映画でも共通していた。自己中心的で神経質で、口が悪くでお喋りだった。小柄で見た目が良いとは言えない上に性格にも問題があるのに、女性にはモテるキャラクターだった。
それがウディー・アレン本人を投影したキャラクターであることは、言うまでもないだろう。
年を取って恋愛劇の主人公が難しくなると、二枚目俳優を主演に据えて自身を投影したキャラを演じさせるようになった。

今回の主人公であるギャツビーも、やはり自己中心的で神経質な男だ。良くも悪くも、ウディー・アレンは全くブレていない。
見た目だけだったら、ジョシュが何となくウディー・アレンを連想させる。自主映画を撮っている設定だしね。
しかし実際には、若手イケメン俳優のティモシー・シャラメが演じるギャツビーこそがウディー・アレンの分身なのだ。
そういう投影を堂々とやれる感覚が、ウディー・アレンをウディー・アレンたらしめているのだろう。

簡単に言ってしまえば、主人公が恋人と別れて他の女性と付き合うことを決めるまでの話である。
ローランドが新作を巡って悩んでいるとか、テッドが何とか気持ちを変えさせようとするとか、そういう映画関連の問題にアシュレーは関わるが、それがギャツビーとの恋愛に上手く絡んでいるかというと、それは全くだ。
アシュレーが1人で関わっているだけで、ギャツビーが何も知らない所で問題が起きており、いつの間にか解決に至っている。
ギャツビーはアシュレーのことで、不安になったり焦ったりするだけだ。

一方、ギャツビーはチャンと再会したり、ハンターから結婚への悩みを吐露されたりするが、そういった諸々をアシュレーは全く知らない。つまり、ギャツビーとアシュレーのストーリーは全く交差せず、最後まで平行線のままだ。
終盤に入り、ギャツビーは母から「若い頃は娼婦だった。父と出会って恋に落ちた。高級な物を過度に好むのは、田舎者の元娼婦が必死にもがいているせいだ」と告白され、気持ちが変化する。
ただし、それは「母への気持ちが変化する」というだけであり、アシュレーとの関係や恋愛に関する考えが変化するわけではない。
「それはそれ、これはこれ」なのだ。

最終的に、ギャツビーは「見ている物が違う」「望む物が違う」ってことで、アシュレーに別れを告げる。そしてチャンと会い、キスを交わす。
しかし、そこに至るまでのギャツビーの行動が、その決断に影響を及ぼしているのかと考えた時、そこが上手く連動しているとは言い難い。
アシュレーの行動にしても、「彼女は尻軽の浮気性だからギャツビーは別れて正解」と観客に思わせるための描写に過ぎない。
さらに言うと、チャンとの再会がギャツビーに気持ちの変化をもたらしたわけでもない。

なお、アメリカでは2017年に始まった#MeToo運動の高まりを受けて、ウディー・アレンの過去のスキャンダルが再び大きく扱われ。本作品を製作したアマゾン・スタジオは、これを受けて上映の中止を決定した。
出演者の中には、本作品への参加を後悔するコメントを出したり、出演報酬を寄付したりする俳優も現れた。
その後、ウディー・アレンは自身の会社で国際配給権を獲得して各国で公開した。
だが、アメリカでは未公開のままでDVDやBlu-rayの販売に至っている。

知っている人も多いだろうけど、ウディー・アレンの過去のスキャンダルについて軽く説明しておく。
それは1992年に交際中だったミア・ファローから、養女スン・イーへの性的虐待で訴えられた事件。
そして、この一件を2017年に入って改めて批判したのは、ジャーナリストで弁護士のローナン・ファロー。#MeToo運動の発端となる記事を雑誌『ニューヨーカー』に寄稿した人物で、2018年にピューリッツァー賞を受賞している。
そして彼は、ウディー・アレンとミア・ファローの息子である。
ちなみにウディー・アレンは、2014年に養女のディラン・ファローから「子供時代に性的虐待を受けていた」という告発も受けている。
ま、そういう人なのだね。

(観賞日:2024年4月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会