『レイルロード・タイガー』:2016、中国

1941年の中国。素人裁縫師のダーハイが駅にいると、雑用係のシンエルが現れて汽車に同乗した。シンエルが「大仕事に加わりたい」と口にすると、ダーハイは迷惑そうに「大仕事なんか無いよ」と告げた。占い師のバンシエンが蛇の手品で乗客の注目を集める中、ダーハイは汽車の屋根に上がる。線路脇の木で待機していた荷運びの親方のマー・ユエン、荷運びのシャオフウ、列車整備士のルイ、駅員のダークイが、汽車の屋根に飛び乗った。彼らはそれぞれの配置に就き、日本軍の兵士たちを昏倒させた。軍服を脱がせたマーたちは、羽の生えた虎の絵を兵士の腹に描いた。彼らはダーハイとシンエルとバンシエンを汽車に残し、物資を盗んで逃亡した。
憲兵隊長の山口は駅長の佐々木から連絡を受け、部隊を率いて駅へ赴く。副駅長のホアン・イーフェンは、異変を感じながら汽車の到着を待った。駅の倉庫で仕事をしていたマーたちは、山東煎餅売りのチンから「今日は駅長の様子が変だ」と教えられた。マーたちが様子を見ている中、山口の部隊が駅に現れた。山口は通訳の坂本を伴って汽車に乗り込み、倒れている兵士たちの姿を確認した。彼はバンシエンを怪しみ、部下たちに連行させた。
山口は襲撃された兵士に、犯人について尋問する。兵士はマーに視線を向けると、彼と同じぐらいの背格好だったと告げる。山口はマーに不審を抱くが、出勤簿を確認すると全員が夜明け前から勤務していたことになっているので見逃した。バンシエルは山口から「賊について教えろ」と詰め寄られ、「では占います」と告げる。彼が「今日、大事件が起きます」と言った直後、山口に電話が入る。事件発生の報告を受けた山口は、バンシエルを監禁するよう部下に命じた。
マーたちがチンの家にいると、怪我を負って逃亡した八路軍兵士のダーグオが現れた。マーたちがダーグオを匿うと、山口が部隊を率いてやって来た。しかし山口はチンの家を捜索するが、ダーグオに気付かず去った。マーは食堂へ行って仲間たちと会い、橋の爆破を企てたダーグオ以外の兵士が日本軍に殺されたらしいと説明した。彼は店主のファン・チュアンについて、仲間たちに「かつて日本軍と戦った狙撃手だったそうだ」と教えた。
翌朝、マーはホアンから「これ以上は問題を起こすな」と注意されて「あと1回で足を洗う」と約束した。山口たちが憲兵司令官の由子を出迎えて大勢の日本兵が汽車に乗り込む様子を見たマーは、橋の増兵を悟った。マーはダーグオを洞穴に移して介抱し、あと10日は安静にするよう告げる。ダーグオは「4日以内に橋を爆破しないと」と言うが、まだ怪我は治っていないのでマーは反対する。しかしダーグオが「母に会いたい。故郷に帰りたい」と泣き出すと、同情したマーと仲間たちは汽車に乗せてやることにした。
マーはダーグオを貨車に乗せ、途中まで同行することにした。するとダーグオは、「帰りたいというのは嘘だ。必ず組織に戻って橋を爆破する」と話す。「なぜ橋の爆破にこだわる?」とマーが訊くと、彼は「勝つためだ。分かるまい」と述べた。途中で汽車が停まり、日本軍の兵士たちがやって来た。ダーグオは「狙いは俺だ。組織を探し、3日以内に橋を爆破するよう伝えてくれ」とマーに頼み、逃げるよう指示した。マーが隠れていると、日本軍はダーグオを射殺して去った。
マーが大仕事をやるつもりだと知った仲間たちは、一緒にやると言い出した。マーが橋を爆破する考えを明かすと、仲間たちは賛同した。彼らは爆薬を手に入れるため、駅にある日本軍の弾薬庫を狙うことにした。マーたちは弾薬庫に侵入するが見張りの兵士に気付かれたため、爆薬包を1袋しか盗み出せなかった。彼らが汽車で逃亡していると、日本軍が追って来て発砲する。マーたちは日本軍を撃退して列車を降りるが、別の兵士たちが現れた。マーたちは慌てて姿を隠すが、小麦粉を運ぼうとしたダークイが敵に見つかってしまう。マーたちは盗んだ爆薬包の導火線に火を放ち、それを投げて敵を始末した。
爆薬包を使ってしまったマーは計画を断念しようとするが、ダーハイは納得できなかった。由子が中国人に化けて商店を歩いているのを見たダーハイは、背後から蹴りを浴びせた。彼は逃亡を図るが、騒ぎを聞いて駆け付けたマーと共に日本軍に捕まった。シンエルはファンにマーとダーハイの救出を頼むが、「他を当たれ」と断られる。マーとダーハイは山口と由子の尋問を受けるが、坂本の通訳が通じないように装った。代わりの通訳としてバンシエルが呼ばれると、マーたちは協力するよう脅しを掛けた。
バンシエルはマーたちに指示された通り、山口や由子に「彼らは漁師なので、魚を爆破するために弾薬庫から爆薬を盗んだと言っている」と伝える。しかし山口は嘘だと確信し、仲間が助けに来ると推理した。賊の一網打尽を目論んだ彼は檻に入れたマーとダーハイを駅に運び、拡声器を使って「隣駅に移送して処刑する」とアナウンスした。チンが来て「食べ物を渡したい」と煎餅を差し出すと、山口は許可した。汽車が出発した後、山口は睡眠薬が入っていると知らずに煎餅を食べた。
ルイたちがマーとダーハイの救出に来るが、山口は眠り込んでしまい、部下たちに命令を出すことが出来なかった。ファンも助っ人に駆け付け、マーとダーハイは無事に脱出した。ホアンは駅にサンライズを呼んで金を渡し、「チンから煎餅を買え」と告げた。山口はホアンを連行して脅迫し、マーたちが湖にいることを白状させた。マーたちは山口たちが来たのを見ると、日本兵に化けて逃亡した。ファンはマーたちに、「韓荘の大橋は輸送の要だ。日本軍は物資輸送で必ずここを通る」と説明した。
シンエルがサンライズを引き連れ、マーたちの元へやって来た。サンライズはマーたちに、ホアンの手紙を渡した。そこには「明日、軍用 列車が大橋を通る」と書いてあり、マーは「軍用列車なら爆薬が積んである」と口にした。マーは「橋を爆破できても、帰り道は無いかもしれない」と言い、やりたくない者は抜けるよう促した。誰も離脱しようとしなかったが、マーはシンエルの参加を認めなかった。翌日、マーたちは計画を実行するため、韓荘へ赴いた…。

監督はディン・シェン、脚本はヒー・クークー&ディン・シェン、ストーリー・コンサルタントはチャ・シージエ、製作はチョウ・マオフェイ&チャオ・レイ、共同製作はワン・セン&ユー・リャン&トー・ヤン&ワン・クー、製作総指揮はジョー・タム、撮影はディン・ユー、美術はフォン・リーガン、編集はディン・シェン、衣装はワン・イー、アクション・コレオグラファーはホー・ジュン、音楽はラオ・ツァイ。
主演はジャッキー・チェン、共演はファン・ズータオ、ジェイシー・チェン、ワン・カイ、池内博之、サン・ピン、ン・ウィンラン、シュイ・ファン、ワン・ダールー、ジャン・ランシン、ナー・ウェイ、ホー・ユンウェイ、耿長軍(浅野長英)、矢野浩二、チャン・イーシャン、高木貞佑、リウ・ハイロン、リウ・ディー、ディン・イーチェン、コン・チェンギ、シー・ファン、ウー・シェンリン、チュン・デン、ハオ・ユンミン、ディン・シェン他。


『ラスト・ソルジャー』『ポリス・ストーリー/レジェンド』のディン・シェンが監督&脚本&編集を務めた作品。
マーをジャッキー・チェン、ダーハイをファン・ズータオ、ルイをジェイシー・チェン、ダーグオをワン・ダールー、チンをシュイ・ファン、ファンをワン・カイ、山口を池内博之、ダークイをサン・ピン、シャオフウをン・ウィンラン、由子をジャン・ランシン、坂本を耿長軍(浅野長英)、佐々木を矢野浩二、シンエルをチャン・イーシャンが演じている。

冒頭、現代の列車博物館に子供たちのグループが現れ、引率の教師らしき女性が解説を始める。1人の少年が集団から離れ、機関車の火室の扉に羽の生えた虎の落書きがあるのを見つける。少年が眺めていると扉が勝手に開き、火室の中で火が燃えているのを見て驚く。ここでタイトルロールに突入し、それが終わると1941年の物語が始まる。
このオープニング、全く要らないでしょ。
勝手に火室の扉が開いた理由も、展示されている汽車の火室が稼働していた理由もサッパリ分からないし。
そこから回想のように1941年の物語へ入っていくけど、そこも全く繋がっていないし。

映画のラスト、再び現代に戻ると、少年の父親が「集合の時間だぞ」と言って現れる。少年は「秘密にしようね」と言うけど、父親は火室が動いていたのを知らないんだから秘密もへったくれも無い。
あと、オープニングて父親は登場していなかったので、繋がりもギクシャクしている。
少年が「みんな空に昇ったの?」と尋ねると父親が説明するんだけど、これも整合性が取れていない。オープニングで、そんな会話なんてしていなかったでしょうに。
父親役がカメオ出演のアンディー・ラウなんだけど、彼を登場させるためだけに用意されている現代のシーンが全く本編と繋がっていないのよ。

1941年の物語に入ると、新しい主要人物が登場する度に「ダーハイ 素人裁縫師」といった具合に名前と役職が紹介される。ただ、これがマーの一味に限定されたスーパー・インポーズなのかと思いきや、「山口 憲兵隊長」とか「坂本 通訳」とか「チン 山東煎餅売り」という表記も出るのだ。
そりゃあ名前が文字で出た方がキャラを把握しやすいという利点はあるけど、そこはマーのグループだけに留めておいた方がいいんじゃないか。
あと、マーの仲間に関しては役職の表記にも問題があって、それって冒頭シーンにおける役割を示しているだけなのよね。彼らの技能を紹介しているわけじゃないのよ。実際、「素人裁縫師」なんて何の技能でもないしね。
そもそも、ダーハイが裁縫師である意味も乏しいし。それが計画に不可欠な要素かというと、答えはノーだからね。
それどころか、果たしてダーハイが計画に必要な人材なのかという部分からして疑問が浮かぶし。

主要キャラクターの全員に対してスーパーインポーズを使っていると、「どこまでがマーの盗賊団なのか」ということも分かりにくくなる。
日本人が違うのは言わずもがなだし、チンが違うだろうってのも分かる。
でも、例えばエルパンなんかは、ただ鍛冶屋として登場するだけなのに名前が出るので、「ひょっとすると仲間なのか」と思ってしまう。
サンライズなんかは序盤で登場した後、ホアンが仕事を頼むまで全く出て来ないので、わざわざスーパーインポーズを出すほどのキャラに思えない。

最初にバンシエルが登場した時点では、彼もマーの仲間だと思っていた。
ところがバンシエルが日本軍に連行されても、マーたちは全く気にしていない。
しばらくして「ひょっとしてバンシエルってマーの仲間じゃないのか?」という推測が浮かび、さらに場面が進んで、それが事実ってことが明らかになる。
でも、バンシエルのスーパーインポーズは3番目に入るし、彼が手品で注目を集めている間にダーハイが汽車の屋根に上がっているので、そういう描写があれば仲間だと誤解するのも仕方が無いでしょ。

マーたちが乗り込んだ時点では、それが日本軍の管理する汽車だということが分かりにくい。
兵士が日本語(かなり怪しい日本語だが)を喋った時に、初めて「日本軍が乗っている汽車なのね」ってことが伝わる。ただ、まだマーたちの狙いが何なのかは分かりにくい。
彼らは袋を荷車に積んで逃亡しているが、その中身が何なのかはサッパリ分からない。兵士を襲って落書きするのが一番の目的じゃないかとさえ疑ってしまうぐらいだ。
あと、マーたちが駅で荷物を運んでいる様子が写るのだが、ここも「そもそも表向きの彼らは駅の労務者だ」という設定が分かりにくくなっている。
何から何まで描写が雑で、処理がヘタクソなのだ。

山口が事件発生の電話連絡を受けた後、マーは遠くで爆発が起きるのを目撃し、仲間に見て来るよう指示する。
その後、マーがチンの家にいると、逃げて来たダーグオが現れる。ダーグオを匿った後、マーは食堂で仲間と会って会話を交わす。
この流れの中で、「爆破の様子を見てきた仲間たちが戻ってマーに報告する」という手順が抜け落ちている。
マーが橋の爆破を知るのは、そこも省略されているが、たぶんダーグオから話を聞いたってことだろう。

っていうか、実は「ダーグオと仲間たちが橋の爆破を狙って失敗した」ということも、無駄に伝わりにくくなっている。
食堂のシーンに移る直前、タイトルロールと同じテイストのアニメーションが入るのだが、これが「橋を爆破して失敗した」という出来事の映像になっているのだ。
でも、何の説明も無くアニメーションが挿入される上、その直後に「こういうことがあったらしい」という台詞での補足があるわけでもないから、それがダーグオの関わった出来事であることが分かりにくいのだ。マーの仲間から「なぜ八路軍は橋を爆破しようと思ったのか?」という台詞が飛び出しても、何のことやらサッパリ分からないのだ。
凝ったことをやろうと思ったのかもしれないけど、完全に空回りしている。

キャラの描き分けが不充分なので、誰が誰なのか良く分からないまま話が進んでいく。
マーのチームのメンバーを揃えるための数合わせでしかなく、ほぼ中身の無いキャラもいる。
っていうか、そもそもマーの盗賊団って、そんなに人数が必要なわけでもないのよね。
どうせ各人の特技を生かして活動するわけでもないし、せいぜい4人もいれば事足りるんじゃないか。「チーム・アクション」としての面白さなんて、ほとんど感じられないんだし。

ダーグオから「組織を探して橋を爆破するよう伝えてくれ」と頼まれたマーだが、組織を探そうとせず自分で橋を爆破すると決める。
でも、なぜ組織を探さないのかも、なぜ自分で爆破しようと決意したのかもサッパリ分からない。
そもそも、ダーグオは橋を爆破する目的を「勝つため」と言っているけど、それが戦争の勝利に繋がる具体的な根拠が何も示されていない。
つまりマーも良く分かっていないわけで、なのに「橋を爆破しよう」ってのは動機が弱くなっちゃうし、観客の共感も誘いにくくなる。

映画はチャプター形式で構成されており、「列車襲撃」「負傷兵の救助」「爆薬の調達」という流れで進行する。
だが、そうやって章で分割している意味は全く無い。
一応はチャプターごとに新たなエピソードへ移行しているが、例えば視点が切り替わるとか、舞台が変するとか、そういうことでもない。
ずっとストーリーとしては繋がっているし、わざわざ章のタイトルを出すことの効果は何も見えない。
何かしらの映画を見て、それに感化されちゃったのかな。

各章ごとに必ず1つはアクションが用意されているが、まるで盛り上がらない。テンポが悪くてモタついているし、見せ場になるようなアクションシーンは無い。
コミカルなテイストで演出されているシーンが多いが、内容と全く合致していないってのも痛い。
例えば爆薬を投げて日本兵を始末したマーたちは「凄い威力だ」と軽くノリで言うんだけど、人を殺した直後にしては、あまりにも能天気だ。
それまで彼らは、盗みはやっても殺しはやらなかった連中のはず。つまり初めての殺人だろうに、まるで気にしている様子が無いし。
山口が滑稽な役回りを請け負うシーンも多いのだが、これも違和感を拭えないし。

商店に来た由子をダーハイが背後から蹴り飛ばして逃亡を図るシーンは、唐突さが強い。
まず、なぜ由子が変装して商店を見に来たのかが良く分からない。
それを見つけたダーハイは背後から蹴り飛ばすけど、何がやりたいのかと言いたくなる。ただ単に、蹴りを入れてスカッとしたかっだけなのか。ただのボンクラにしか見えないぞ。
ダーハイは駆け付けたマーと共に捕まるが、そこが先にあったとしたら逆算が下手すぎるし、そもそも「マーたちが捕まるが仲間の助けで脱出する」という展開自体も上手いとは言えないし。

大橋を計画する前夜、マーは父と妻が日本軍に殺されたことを仲間たちに明かし、「その恨みは今も忘れていない」と言う。
でも、それにしては行動や態度が全く伴っていなかったでしょ。
そこまでのマーには、日本軍への復讐心に燃えている様子なんて皆無だったぞ。本気で日本軍を恨んでいたのなら、彼らを相手にしても軽妙な態度を取り続けていたのは違和感しか無いぞ。
物資を盗むだけで済ませていたのも、それだと父と妻を殺された恨みを晴らすことにならないだろうし。

大橋を爆破するアクションシーンでも、次々に人が死んでいく様子とコミカルなテイストの演出が全く合っていない。「死ぬのは日本兵だから、何も気にせず能天気に笑えるでしょ」という感覚だったりするのか。
実際、マーの仲間に犠牲者が出ると、一気にシリアス度数が高まるんだよね。相手が日本兵だったら、そこに「殺人に対する恐れ」みたいなモノは全く無いのね。抗日運動を描いた中国映画だから、日本軍が悪者なのは一向に構わないんだけど、「じゃあシリアスにやれよ」と言いたくなっちゃうんだよな。
あと、もちろん最終的に橋の爆破は成功するけど、それによって具体的に日本軍がどんなダメージを負ったのかはサッパリ伝わって来ないんだよね。
そこがハッキリしないとカタルシスに繋がりにくいはずなんだけど、中国人の感覚からすると橋が爆破された時点でOKなのかね。

(観賞日:2018年12月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会