『レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者』:2007、アメリカ

あるネイティブ・アメリカンの村には、「足が速く雪のように白い生き物が現れた時、世の中が嵐のように変わる」という言い伝えがあった。雪の積もった日、その村の女性は白馬を目撃し、その後を追って難破船を発見した。ヴァイキングと奴隷たちの死体が転がる中で、一人の少年が剣を構えながら怯えた様子を見せていた。女性が軽く触れただけで少年は剣を落とし、その場に泣き崩れた。背中に幾つも傷を追っている少年を、女性は優しく抱き締めた。
女性が少年を村に連れ帰ると、長老たちは「ここに置くことは出来ない。この肌、そして瞳。まるで太陽の下で生きたことの無いような邪悪な存在だ」「悪魔の血を受け継いでいる。いずれ父親のように化け物になる」と厳しい意見を口にする。しかし女性は「この子を外で凍死させたら、私たちが悪魔になる」と告げ、村の長である彼女の夫は少年を息子として育てることに決めた。その夜、少年は悪夢を見た。彼は父親と仲間たちが大勢の人々を惨殺するのを目撃していた。父親は彼に剣を渡し、母を殺された少女を始末するよう命じた。少年が拒否すると、父親は少女を惨殺した上で、彼の背中に何度も鞭を振り下ろした。
時は過ぎ、ゴーストと名付けられた少年は、たくましい青年へと成長していた。ある日、隣村の導師であるパスファインダーが、若者たちを引き連れてやって来た。ゴーストは彼の娘であるスターファイアーを見て、心を奪われた。そんな彼に、隣村の青年ブラックウィングは強い敵対心を示した。パスファインダーはゴーストの養父に、冬の狩りで自分の後継者が死んだことを話す。養父は彼に、勇者入りの儀式を取り仕切るよう依頼した。パスファインダーは占いを行い、ゴーストに視線を向けて「お告げは叶うことになっている」と言う。
その夜、パスファインダーは儀式を仕切るが、ゴーストには「ここにいる権利は無い。過去を引きずる悪霊と対峙した時、自分が何者か分かるだろう」と告げる。ゴーストは「自分で道を見つけます」と口にした。彼が剣を振っていると、養父が歩み寄った。「勇者になることが出来ないのなら、僕は何者なんですか」と尋ねるゴーストに、養父は「生まれはヴァイキングだが、今は私の子だ」と告げた。彼はゴーストを強く抱きしめた。
翌朝、ゴーストの幼い義妹は、隣村のウィンド・イン・ツリーから笛を貰って喜んだ。森へ出掛けた義妹はヴァイキングの一団に襲われ、必死で村へ逃げる。後を追ったヴァイキングは村を襲撃し、容赦なく殺戮を繰り広げる。狩りに出ていたゴーストが村へ戻ると、村人たちは惨殺されていた。少し離れた場所に移動したヴァイキングは、一人だけ残した養父に決闘を強要していた。首領のガナーは、ウルファーという男に決闘の相手を任せた。そこに駆け付けたゴーストは、養父が殺されるのを目撃した。
ガナーはゴーストに対しても、決闘を要求した。ゴーストはウルファーを殺し、森へ逃げ込んだ。彼は追い掛けて来たヴァイキングの2人を始末し、馬を奪って雪山へ逃走する。さらに1人を殺したゴーストは、雪山を滑降して逃亡を図る。敵の攻撃を受けて傷付いた彼は、滝壺へ転落した。崖を這い上がったゴーストは、森を移動した。パスファインダーと隣村の若者たちは、洞窟でゴーストを発見した。ゴーストは「出て行け」と告げた後、力尽きて倒れた。そこへ熊が襲い掛かって来るが、パスファインダーが退治した。
パスファインダーはゴーストを村へ連れ帰り、治療を施した。矢じりを見つけたパスファインダーは、村人たちに「彼を追っているのはヴァイキングだ」と告げた。意識の回復したゴーストは、「ここへ奴らが来たら、皆殺しにされる。ただし一人だけ逃がして、別の村まで泳がせて尾行する。しかも舌を切っておくから、自分たちのことは知られずに済む」と語る。自分の村が全滅したことを話したゴーストは、「出て行けと言ったはずだ。なぜ連れて来た?」と口にした。
ブラックウィングが「俺たちは戦う」と言うと、ゴーストは自分の持っている剣の威力を見せて「敵はこの剣を持っている。そして石の矢を通さない革で身を守っている。逃げれば助かるかもしれない」と述べた。パスファインダーはスターファイアーとブラックウィングに、村人たちを先導して避難させるよう指示した。ゴーストは彼に「どうする?」と問われ、「殺せるだけ殺します」と答えた。彼が出発すると、ツリーが同行した。ゴーストが「戻れ」と怒鳴っても、ツリーは付いて来た。
谷に辿り着いたゴーストは、そこでヴァイキングと戦うことに決めた。一方、村の面々はスターファイアーがいないことに気付いた。ブラックウィングは「スターファイアーを連れ戻し、ヴァイキングを倒す」と力強く宣言し、数名の若者が賛同した。ジェスターという男は、「ヴァイキングは建前で、本当は焼き餅じゃないのか」と指摘した。彼はパスファインダーの指示に従い、他の面々を率いて湾を目指すことにした。
ゴーストが洞窟で休息を取っていると、パスファインダーが現れた。彼は「お前には定めがある」と言い、いきなりゴーストの剣を自分の腹に突き刺した。だが、それはゴーストが見ていた夢だった。目を覚ました彼の元に、スターファイアーが現れた。驚くゴーストに、彼女は「人の心の中では、愛と憎しみが戦っている」と言う。「どっちが勝つんだ?」とゴーストが訊くと、彼女は「多く意見した方よ」と答えた。2人はキスを交わし、そして体を重ねた。
「あいつらは何の目的で来たの?」というスターファイアーの問い掛けに、ゴーストは「殺戮と略奪が生き甲斐なんだ」と告げた。敵の接近を悟ったゴーストは、「いよいよだ」と彼女に告げた。ゴーストはゲリラ戦法を駆使し、次々に敵を倒していく。スターファイアーとツリーも、協力して戦う。ゴーストは2人に「洞窟で会おう」と言って別れ、ヴァイキングの一団の前に姿を見せる。そして生首を掲げ、敵を挑発した。それは仕掛けた罠に敵をおびき寄せるための作戦だった。
そこへブラックウィングの率いる一団が駆け付けて敵に襲い掛かろうとしたため、ゴーストの仕掛けた罠に次々と転落した。ゴーストはブラックウィングを引っ張り上げて馬に乗せ、その場から避難させる。「俺はいい。スターファイアーを頼む」とブラックウィングが口にしたので、ゴーストは彼を残して洞窟へ向かう。ヴァイキングの分隊は洞窟にも入り込んでおり、スターファイアーは必死に逃げていた。ツリーは敵に襲われた彼女を助けに入るが、腹を突き刺されて命を落とした。
スターファイアーが岩の隙間に潜り込んで身を潜めていると、ゴーストが駆け付けた。ヴァイキングに追われ、2人は必死に洞窟の中を逃げ回る。洞窟の外へ出て様子を窺っていると、敵はブラックウィングを逆さ吊りにして火あぶりにしていた。ゴーストが飛び出そうとするのをスターファイアーが制すると、そこにパスファインダーが現れた。彼は矢を放ってブラックウィングを絶命させ、ゴーストに「復讐には満足できたかな?」と問い掛けた。ヴァイキングに気付かれた3人は戦うが、すぐに捕まってしまう…。

監督はマーカス・ニスペル、オリジナル版脚本はニルス・ガウプ、脚本はレータ・カログリディス、製作はマイク・メダヴォイ&アーノルド・W・メッサー&マーカス・ニスペル、共同製作はヴィンセント・オスター&バーバラ・ケリー&ルイス・フィリップス、製作総指揮はブラッドリー・J・フィッシャー&リー・ネルソン&ジョン・M・ジェイコブセン、製作協力はジョン・A・アミカレラ、撮影はダニエル・C・パール、編集はジェイ・フリードキン&グレン・スキャントルバリー、美術はグレッグ・ブレア、衣装はレネー・エイプリル、音楽はジョナサン・イライアス。
出演はカール・アーバン、ムーン・ブラッドグッド、ラッセル・ミーンズ、クランシー・ブラウン、ラルフ・モーラー、ジェイ・タヴァレ、ナサニエル・アルカン、ケヴィン・ロリング、ウェイン・C・ベイカー、ミシェル・スラッシュ、ニコール・ムニョス、バークリー・ダフィールド、レイ・G・サンダーチャイルド、デュアン・ハワード、ブランドン・オークス、アラン・ハドン、サイラー・ポイント、ステファニー・マシアス、ジョン・マン、ケン・ジョーンズ他。


1987年のノルウェー映画『ホワイトウイザード』をハリウッドでリメイクした作品。
監督は『テキサス・チェーンソー』のマーカス・ニスペル、脚本は『アレキサンダー』『ナイト・ウォッチ/NOCHNOI DOZOR』のレータ・カログリディス。
ゴーストをカール・アーバン、スターファイアーをムーン・ブラッドグッド、パスファインダーをラッセル・ミーンズ、ガナーをクランシー・ブラウン、ウルファーをラルフ・モーラー、ブラックウィングをジェイ・タヴァレ、ツリーをナサニエル・アルカンが演じている。

ヴァイキングにアイスランド語を喋らせているのは、「言葉の通じない野蛮な連中」というイメージを与えることには貢献している。
ただ、彼らが何を言っているのかは、当然のことながら観客にも分からない。
どうせネイティヴ・アメリカンには英語を喋らせているんだし、ヴァイキングに英語を喋らせても別に良かったんじゃないかという気がするけどね。そこに正確な歴史考証を求めるような映画でもないし。
ただ、ヴァイキングの言葉が分からなくても、そんなに不便は無いけどね。単純明快な話だから。
それに、ヴァイキングの会話が理解できなくても、「まあ、どうでもいいか」と思えるレベルの映画だし。

ヴァイキングにアイスランド語を喋らせているので、ゴーストと彼らが交わす会話の内容も分からない。
ゴーストはヴァイキングの血を引く男なので、「自分のルーツである種族と戦うことになる」という展開がある。ヴァイキングとの会話劇によって、ゴーストの苦悩や葛藤、あるいはヴァイキングの主張や理念に対する反発や怒り、揺らぎや迷い、そういったモノを表現することも出来るだろう。しかし言葉が分からないので、会話劇で物語を盛り上げたり、厚みや深みを持たせたりすることが出来ない。
これは大きな痛手だ。
っていうか、英語で喋られたとしても、どうせ会話劇で厚みを持たせるつもりなんて最初から無いんだろう。
で、そこを放棄したことによって、やはり薄っぺらい中身に仕上がっている。
まあ薄っぺらく仕上がった理由は、それだけじゃないけど。

幼いゴーストの回想シーンで彼の父親が幼女を惨殺する様子があったり、ゴーストの幼い妹がヴァイキングに襲われて必死に逃げる様子があったりと、ヴァイキングの残虐性をアピールするのに幼い子供を利用しているのが、どうにも不愉快だ。
さすがに殺された幼児の姿を直接的に描くような酷さは無いが、それでも嫌悪感は拭えない。
別に「健全な映画を作れ」って言ってるわけじゃないのよ。この映画の中身を考えた時に、そんなの無理な相談だし。
ただ、子供を利用する手口が、どうにも安直で卑怯に感じられたものでね。

っていうかさ、この映画、そこまで過激な残虐描写がホントに必要なのかと、ちょっと疑問も抱いてしまうんだよな。
そりゃあ『テキサス・チェーンソー』のマーカス・ニスペルを起用している時点で、そういうことを製作サイドは期待していたんだろうけどさ。
ただねえ、ちょっと下品に見えてしまうんだよなあ。
その原因は、たぶん残虐描写以外に何も見所が無いスッカラカンな映画だから。中身が無いのを、残虐描写だけで誤魔化そうとしているように思えてしまうんだよな。
まあ『テキサス・チェーンソー』のマーカス・ニスペルを起用している時点で、それは覚悟すべきなのかもしれないが。

たぶんアクション・シーンもセールス・ポイントの1つにしたかったんだろうけど、MTV出身監督にありがちな「やたらと細かくカットを割る」「引きの絵が極端に少ない」「カメラを無闇に揺らす」という演出をしているために、絵がゴチャゴチャしていてキャラクターの動きが分かりにくい。
引きの絵が少ないのはアクションシーンに限ったことであり、場面転換で風景を写す時にはロングショットも盛り込まれる。
っていうか、まあ風景を写すのに引きの絵で撮るのは当然っちゃあ当然だが。

ゴーストがヴァイキングの息子だという設定は、物語において全く意味を成していない。
彼はネイティヴ・アメリカンの息子として成長しており、そのアイデンティティーは完全に「ネイティヴ・アメリカン」で確立されている。
「自分はヴァイキングなのか、ネイティヴ・アメリカンなのか」という迷いは全く見られない。また、ヴァイキングとしての凶暴性に怯えたり悩んだりしているわけでもない。
12歳のゴーストが「ヴァイキングとしての血」に悩み、それを乗り越えて成長する過程が描かれるわけでもない。養父母に引き取られると、すぐに青年へと成長している。

そりゃあ、成長の過程を細かく描いていたら、そこだけで映画が終わってしまうから、全てを懇切丁寧に示せとは言わない。
ただ、大人になってからのゴーストが完全にネイティヴ・アメリカンとしての自身を確立しているのであれば、そこへ至るまでの「恐れや迷いを断ち切り、一歩踏み出す」というところは何か描写を用意すべきだろう。
そういうことが無いのであれば、むしろ彼がヴァイキングの子供であることは観客に明かさないまま、映画を進めた方が良かったんじゃないか。
で、ヴァイキングの襲撃があって復讐心を抱いた後で、「実は自分がヴァイキングの血筋であることを知る」という展開にしたら良かったんじゃないか。
そうすれば、そこでゴーストに苦悩や葛藤を生じさせることが出来るし、何かと都合がいいんじゃないかと。

ゴーストはヴァイキングに養父母や村の人々を惨殺された後、何の迷いも無く復讐心を燃え上がらせる。
「ヴァイキングの血」が、彼に迷いや揺らぎをもたらすことは全く無い。ヴァイキング側にゴーストの知り合いがいるわけではないので、そこでも「知り合いを殺すことになる」という苦悩や葛藤は生じない。
ガナーをゴーストの父親にでもしておけば、何かしらのドラマが産まれた可能性はあるけど。
で、そうなると、「だったらゴーストは最初からネイティヴ・アメリカンの青年ってことでいいんじゃないのか」と思うんだよな。

ゴーストは村人たちを皆殺しにされて、目の前で養父を殺され、激しい怒りを燃やしている。
タイマンを要求されてウルファーを始末した時点で、既に復讐心がメラメラだ。
ところが、その一方で、「多勢に無勢だから必死に逃亡を図る」という行動も取っている。
追い掛けて来る敵の数名は殺しているんだけど、それは復讐のための行動なのか、逃げ延びるための行動なのか、ちょっとボンヤリしている。

後半に入り、ゴーストが谷で罠を仕掛けて敵を待ち受けても、それは「復讐のための戦い」のはずなのに、やはり「大勢の敵から必死で逃げ回る」という行動も含まれる。
「強大な敵からの逃亡劇」というサスペンスに気持ちを向けるべきなのか、「怒りの復讐」に向けるべきなのか、見ている側の感情が難しい。
前半は「必死の逃亡劇」に絞り込んでおいて、後半に入ったら「復讐に燃えるゴーストの逆襲」に移るという流れでも良かったんじゃないかと思うんだけどね。

メインの物語は単純で一本調子なので、それだけじゃ厳しいだろうってことなのか、恋愛劇の要素も盛り込まれている。
ただ、そこも薄っぺらいので、「薄っぺらいトコに薄っぺらいモノを足しただけ」になっている。
両方を足しても、大した厚みには仕上がっていない。
「ゴーストがヴァイキングの血筋である」ってのは恋愛の障害として全く機能していないし、ライバル的存在であるはずのブラックウィングは2人の仲を全く妨害できず、情けない姿をさらして退場する。

前述したように、谷に罠を仕掛けて「復讐のための戦い」を始めたゴーストだが、ブラックウィングたちの愚かな行動のせいで、あえなく劣勢に立たされて逃げ回る羽目に陥っている。
さらには、ゴーストとスターファイアーが隠れているのに、なぜかパスファインダーが矢を放って居場所を敵に教えるという意味不明な行動を取る。
その辺りは、グダグダになっている印象を受ける。
メインの物語は単純明快だが、それがダメなんじゃなくて、そういうトコだと思うぞ。あと、一本調子でメリハリに乏しい演出とね。
谷での作戦に失敗した後の展開は、ダラダラしているようにしか感じないし。

(観賞日:2014年3月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会