『リーサル・バレット』:2022、プエルトリコ&アメリカ&イギリス

1989年、テキサス州ダルハート。ジェームズ・ベッカーは1年前に妻のサラを無くし、悲しみに暮れていた。彼は酒に溺れ。妻の墓前で酔い潰れる毎日を過ごしていた。海兵隊時代の上官であるスタークがベッカーを訪ね、「仕事がある。罪悪感を克服しろ」と告げた。ベッカーが「彼女が死んだのは俺のせいだ。何の罪も無い彼女を、俺が危険に晒した。なのに復讐できなかった」と吐露すると、スタークは「犯人は全員殺した」と言う。ベッカーが「俺が殺さなきゃダメだ」と告げると、スタークは「お前を立ち直らせる薬がある。目的を用意した。以前、パナマで揚陸艦を売っただろ」と語って基地へ来るよう促した。
ベッカーは訪ねて来た義妹のタチヤナと話した後、ネバダ州ネリス空軍基地へ向かう。スタークはCIAのハンク・バーンズとDEAのシンシア・ベニテスから、ベッカーは適任なのかと質問された。「かつては優秀な軍人だった」とスタークが答えると、シンシアは「世界中で問題を起こしてる」と指摘する。バーンズが「奴か問題を起こしても血で手を染めたくない」と難色を示すと、ベッカーは「俺たちもベトナムで暴れたじゃないか」と軽く笑った。
スタークはベッカーの訪問を受け、バーンズを紹介した。彼が「バーンズは特殊作戦軍で、必要な支援をしてくれる」と話すと、ベッカーは「さっさと役割を言え」と生意気な態度を見せる。バーンズが「会ったばかりだが、嫌な奴だな。俺も海兵隊出身だ」と不快感を示すと、ベッカーは侮辱の言葉を浴びせた。険悪な雰囲気に包まれる中、スタークは「一緒に働くんだぞ」と双方を諫めた。スタークは場所を移動し、今回の任務について説明を始めた。
イラン・コントラ事件以来、CIAはパナマの米軍基地を拠点にして、ニカラグアの反共産勢力(コントラ)に武器を提供していた。将軍のノリエガはコカインとウィスキーに溺れているので信用できず、マルコス・フスティネス大佐が実務を仕切っている。アメリカはコントラに直接、武器を売ることは出来ない。そのため、CIAは新しい支援方法を常に模索している。今回の仕事は、ソ連製のヘリコプターを売ることだ。バーンズはソ連の軍曹備品に詳しく、ベッカーは機密情報にアクセスできた。
CIAはノリエガを始末するため、彼からソ連製のヘリコプターを買おうとしている。コントラからの見返りは、ソ連の通信機器だ。取引はパナマで行われ、観光ビザでは長期滞在が出来ないのでスタークはベッカーにカジノ・ナショナルのコンサルタントという仕事を用意した。彼はベッカーに、バナマに着いたら取引の仲介役であるエンリケ・ロドリゲスと会うよう指示した。エンリケは元政府高官の父を12歳の時に亡くしており、名付け親はマルコスだ。そして叔父のビリー・フォードは、ノリエガの対立陣営だ。
バナマに着いたベッカーはホテルへ行き、エンリケと会った。エンリケは3人の女性を婚約者として紹介し、まるで取引の話を始めようとしなかった。ベッカーがカジノ・ナショナルにいると、コントラのブルックリン・リヴェラが声を掛けた。彼は「司令官のステッドマン・ファゴス・ミュラーと話せ」と告げ、「国防総省の厚意で、飛行機を待たせてる。バーンズも来る」と説明した。ベッカーは飛行機に乗り、マイアミへ移動した。
ベッカーの訪問を受けたミュラーは、左翼ゲリラ(サンディニスタ)に両親を射殺されたこと、ノリエガの命令で妻と娘が殺されたこと、12歳だった娘は、母親の目の前で兵士に強姦されこと、妻子の遺体はドブに捨てられたことを語った。彼は「どれだけサンディニスタを殺しても満たされない。ホンジュラスの山中に3000人の部下がいる。目的はサンディニスタを殺すこと。復讐がしたいだけだ」と語ると、ブルックリンと共に難民キャンプを訪ねて現実を知るよう促した。
ベッカーはコントラの難民キャンプへ行き、目の前で両親を惨殺された女性から話を聞いた。ブルックリンは彼に「悪人退治を手伝え」と言い、ライフルを渡した。ミュラーたちはジャングルを移動し、サンディニスタの拠点を襲撃した。ベッカーが医師と看護婦を逃がそうとすると、ミュラーが気付いて2人を射殺した。ベッカーが「一般人を殺した」と怒ると、ミュラーは「これが一般人か」と言う。彼は医師と看護婦に扮した連中が隠し持っていた拳銃と手榴弾を見せ、機器が欲しければヘリコプターを持って来いと告げた。
ベッカーはカジノ・ナショナルで、パナマ最大のカジノ経営者であるジャッキー・“ザ・ファットマン”・コルドサから「このカジノの収益を上げるのが君の仕事だ。将軍も期待してる」と告げられた。マルコスはエンリケを訪ね、「コルドサを儲けさせろ。今夜、カジノへ行け」と10万ドルを渡して使い果たすよう命じた。「ベッカーもカモにするのか」と彼が尋ねると、エンリケは軽く笑って「いつも通りに金額を吊り上げて、搾り取る」と述べた。
シンシアはベッカーに接触し、互いに協力しようと持ち掛けた。彼女は「大金がカジノを通ってる。大規模なマネーロンダリングよ」と言い、関係者リストを入手すれば金の行方が分かると話した。見返りについてベッカーが尋ねると、シンシアはオフショア口座に金を振り込むと約束した。エンリケはカジノ・ナショナルに現れ、ギャンブルを始めた。ベッカーは彼に声を掛けた後、バーに来たカミラという女に目を奪われた。エンリケは「あの女は危険な連中と通じてる」と忠告するが、ベッカーは構わずにナンパした。彼はカミラに誘われてホテルの部屋へ行き、肉体関係を持つ。カミラは14歳で親に売られたこと、コロンビアのギャングに所属していたことを話した。
次の日、エンリケはベッカーを誘い、ヘリコプターでジャングルへ案内した。彼はダートコースを作ったと話し、バイクレースでの対決を持ち掛けた。「お前が勝ったらヘリコプターをやる。負けたら他の買い手に売る」と言われたベッカーは、勝負を承諾した。ベッカーが惜しくも敗れると、エンリケは「ここまで来た奴は初めてだ。友達になれる」と微笑んだ。その夜、ベッカーは電話を受け、エンリケが他の買い手にヘリコプターを売ることを知らされた。彼はエンリケの元へ乗り込むが、「レースで負けただろ」と言われた。
ベッカーが手付金の100万ドルを返すよう要求すると、エンリケは「払い戻しは不可能だ」と一蹴する。ベッカーは銃を突き付けて脅しを掛け、金を取り戻した。彼はシンシアにリストを渡し、「エンリケから当初の額でヘリコプターを買いたい」と話す。シンシアは「そんな取引は無意味よ。侵攻が迫ってる」と言うが、ベッカーは納得しなかった。彼はスタークからの電話で「パナマは一触即発だ。アメリカが侵攻するだろう」と告げられ、空爆するなら知らせてくれと頼んだ。
ベッカーはスタークから、「DEAに頼んだ件だが、手を引け。エンリケは任せろ」と言われた。「味方がヘリコプターを必要としてる」と訴えるベッカーに、スタークは「いずれ彼らには手を貸す」と語った。エンリケはマルコスの訪問を受け、「叔父が襲撃された」と話す。マルコスは笑みを浮かべ、「単なる芝居だ。事前に計画していたPR活動だ。彼は今や国民的英雄になった。俺が考えた」と語る。驚いたエンリケが「分からない。エンダラと叔父は反ノリエガ派だ。政権に就けばアンタの邪魔になる」と言うと、彼は「俺は安全のため、両方に賭けてる」と明かした。
説明を求めるエンリケに、マルコスは「アメリカが侵攻すれば、エンダラたちが政権に就く。侵攻しなければ、ノリエガが残る。いずれにしても、俺が勝つ」と話す。彼はコルドサとベッカーが知り過ぎたと言い、エンリケに始末を命じた。エンリケが「ベッカーは好きだ」と難色を示すと、マルコスは「私情を挟むな。奴と周りの人間を消して、100万ドルを取り戻せ」と命じた。エンリケの差し向けた刺客は、カジノ支配人のパブロとコルドサを殺害した。ベッカーはカミラの家にいる時、刺客に襲われた。彼は返り討ちに遭わせて尋問し、命令したのがエンリケだと聞き出した。
カミラは姿を消しており、ベッカーはシンシアに連絡して「カミラの家に死体がある。片付けてくれ」と依頼した。シンシアは「どっちの家?」と質問し、生活用と接待用があることを伝えた。ベッカーは「たぶん接待用だ」と言い、生活用の家の住所を教えてもらった。彼はカミラの家へ乗り込み、「俺を騙したな」と詰め寄った。カミラが「家族を殺すと脅された」と釈明すると、彼は「そんなの作り話だ」と言う。しかし結局はカミラの話を信じて、彼女を許した。1989年12月20日、アメリカ軍がパナマに侵攻した。エンリケの元へ押し掛けたベッカーは、「数時間で米軍はパナマを制圧する。エンダラは大統領に就任し、叔父は副大統領になる」と聞かされる…。

監督はマーク・ネヴェルダイン、原案はウィリアム・バーバー、脚本はダニエル・アダムズ&ウィリアム・バーバー、製作はショーン・サングハーニ&フランシス・ラウセル&アリアンヌ・フレイザー&ジョーダン・イェール・レヴィン&ジョーダン・ベッカーマン&ミシェル・チュドシック・ゾーバ&ミシェル・リーヘル、製作総指揮はウィリアム・V・ブロミリー&シャナン・ベッカー&ジョナサン・サバ&ネス・サバン&デルフィーヌ・ペリエ&ライアン・ウィンタースターン&ネイサン・クリンガー&ポール・W・ヘイゼン&コール・ハウザー&リー・ブローダ&ジョエル・マイケリー&アン・クレメンツ&ルーク・タイラー&マシュー・ヘルダーマン&フィル・ハント&コンプトン・ロス&ブラント・アンダーセン&ケアリー・アンダーソン&ジル・ブラッドリー&リチャード・スウィッツァー&イアン・ナイルス&コールマン・ランナム&クリスティン・ランナム&ブライアン・カヴァラロ&ルーベン・イスラス&スタンリー・プレシュッティー&サビーネ・ステナー&スティーヴン・モーゲンスターン&ラッセル・ポスターナク&ジジ・ラックス&ウィリアム・バーバー&ロバート・レヴィン&フィリス・レヴィン&アラン・リーボウィッツ&スー・エイキンス、共同製作はジョン・キーズ&ジェシー・コーマン&ゾーラ・エルガート・グラスマン、共同製作総指揮はヘンリー・ウィンタースターン&セバスチャン・オーサル、撮影はP・J・ロペス、美術はマイナ・マグルーバー、編集はクリストファー・シベリ、衣装はグラディリス・シルヴァ、音楽はミック・フューリー。
出演はコール・ハウザー、メル・ギブソン、チャーリー・ウェバー、ケイト・カッツマン、ジャッキー・クルス、マウリシオ・エナオ、キアラ・リズ、ヴィクター・ターピン、ネストール・ロドルフォ、ジュリオ・ラモス、ジュニオール・アルヴァレス、サイモン・フィリップス、ジェイ・ステファン、ヨクサン・ラモス、ホルヘ・アンタレス、ジェレミー・チコ・モヤ、アリソン・サリナス、アレクサ・クルス、プリシラ・グギンス、レベッカ・ヴァレンティン、ジュリア・サンドストロム、ハイディー・ディアス他。


ブライアン・テイラーと組んで『アドレナリン』や『ゴーストライダー2』を撮っていたマーク・ネヴェルダインが、単独で監督を務めた作品。
単独での監督は2015年の『バチカン・テープ』に続いて2作目。
ベッカーをコール・ハウザー、スタークをメル・ギブソン、バーンズをチャーリー・ウェバー、タチヤナをケイト・カッツマン、シンシアをジャッキー・クルス、エンリケをマウリシオ・エナオ、カミラをキアラ・リズ、ブルックリンをヴィクター・ターピン、マルコスをネストール・ロドルフォ、ミュラーをジュリオ・ラモス、コルドサをジュニオール・アルヴァレスが演じている。

どうやらベッカーを狙う連中が妻を殺し、その復讐は海兵隊が遂行したという過去があるようだ。ただ、回想シーンは皆無で会話だけで片付けているし、詳細は全く分からない。
しかも、そんな経験が今回の物語に大きく絡んで来るのかというと、それは全く無いんだよね。「喪失感を引きずっている」という心境が、ベッカーの行動や考えに影響を及ぼしている様子は全く見られない。
それどころか、カミラに一目惚れし、すぐに口説いてセックスするんだから、どういうつもりなのかと。
そもそも、大事な任務を任されているのに、危険だと警告された女をナンパしている時点でアホすぎるだろ。

1989年のパナマが主な舞台となっており、ある程度は当時の国際情勢を知っておかないと、話に付いて行くのが難しいかもしれない。
ただ、わざわざ予習してまで情報を頭に入れておくべきなのかと問われたら、「そんな必要は全く無い」と断言する。そこまで価値のある映画でもないしね。
そして不幸中の幸いで、当時の国際情勢、政治情勢を知らない状態だと分かりにくいと感じるような箇所は、作品を堪能する上で、そこまで大きな意味を持っていない。
そんなことはどうでもいいぐらい、話はグダグダなのだ。

実際の国際情勢を反映させているので、硬派なポリティカル・サスペンスになっているのかというと、そんなことは全く無い。
いかにもC級な、ガバガハで大雑把なサスペンス・アクション映画だ。
当時の政治情勢を投影しなくても、完全にフィクションの設定でも、大して変わらないんじゃないか。
むしろ、まるで効果を得られていないどころか邪魔になっていることを考えると、完全なるフィクションの方が少しはマシに仕上がったかもしれないぞ。

ベッカーはノリエガからソ連製のヘリコプターを買う仕事を指示され、パナマへ向かう。
だが、そこから任務遂行のための作業が描かれていくのかと思いきや、なかなか話が先へ進まない。エンリケは取引の話を全く始めないし、取引と無関係なカジノの仕事でも話を広げようとするし。
ベッカーがコントラと一緒にサンディニスタの拠点を襲撃するエピソードも、ただの寄り道にしか見えない。
そこでの体験が、ベッカーの考え方や行動に影響を与えるわけでもないからね。

エンリケがマルコスの指示を受けてカジノで金を使うのも、「何の話を見せられているんだろうか」と言いたくなる。ヘリコプターを購入する任務とは、何の関係も無いからね。
ベッカーがシンシアから協力を求められるのも、任務とは繋がっていないし。
ダートコースでのバイクレースにしても、ヘリコプターを手に入れるための行動ではあるけど、「何を見せられているのか」と感じる。
RPGだと「何かを得るために課題をクリアする」というのは良くあるパターンだけど、これはゲームじゃないしコントローラーも付いてないからね。
一応はバイクでのアクションシーンになるけど、必要性が乏しいから全く引き付けられないし。

しかも、そのバイクレースに挑むことでヘリコプターを入手できるのかというと、そうじゃないんだよね。
エンリケを脅して金は取り戻すけど、「ヘリコプターを手に入れる」という任務に関しては、全く進展しないままなのだ。
しかもベッカーがシンシアに協力を要請すると、すぐにスタークから「手を引け」と言われてしまう。
そうなると、ベッカーがパナマで行動する意味が完全に消えるでしょ。カジノの仕事は、ヘリコプターを手に入れるための隠れ蓑に過ぎないんだし。

その後、マルコスとバーンズが結託していることが明かされたり、タチヤナが誘拐されたり、カミラが殺されたりと色んな展開があるが、物語の中心を貫く芯がグニャグニャで全く定まっていない。だから、ちっともハラハラしたりワクワクしたりってのを味わえない。
退屈な話を無駄に混乱させて、観客の気持ちを萎えさせるシナリオなのだ。ダメなB級映画にありがちな失敗をやらかしているのだ。
話を変にコネくり回さず、シンプルにアクションを連ねる構成にでもしておけば少しはマシになったかもしれないのに。
あと、主人公は国家規模の戦争に関わる任務を請け負っていたのに、終盤に入ると「100万ドルの奪還を目指す悪党との戦い」になっており、ものすごくスケールが小さな話になってんのも「なんだかなあ」と言いたくなるわ。

(観賞日:2024年4月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会