『LUCY/ルーシー』:2014、フランス

台北で暮らすルーシーは恋人のリチャードから、「ホテルでミスター・チャンに会って、ケースを渡してくれ」と頼まれた。アタッシェケースに何が入っているのか見せるようルーシーが要求すると、リチャードは「鍵が掛かってる。コードはチャンが知ってる」と説明する。ケースを届けるだけで千ドルが貰える仕事だと話した彼は、その半分を渡すとルーシーに持ち掛ける。ルーシーが断って立ち去ろうとするとリチャードは彼女に手錠を掛けてケースと繋いでしまった。
仕方なくルーシーはホテルへ行き、受付係にチャンを呼び出してもらう。マフィアの連中がフロントに現れ、リチャードは射殺された。ルーシーはマフィアに捕まり、エレベーターで部屋へ連行する。すると人を殺したばかりのチャンが現れ、血で汚れた手を拭った。「私は何も知らない。ケースを届けるようリチャードに言われただけ」とルーシーが必死に訴えると、チャンはコードの番号をメモして渡した。チャンに脅されたルーシーがケースを開けると、中には4つの袋に詰められた青いドラッグが入っていた。
チャンは連れて来た男にドラッグを吸わせ、その効果を確かめた。彼は男を射殺し、死体を手下たちに始末させる。意識を失ったルーシーが目を覚ますと、ホテルのベッドにいた。彼女が痛む下腹部に目をやると、血が滲んでいた。そこへマフィアの手下が現れ、早く服を着るよう命じた。チャンは英国人の闇医者にルーシーの手術を指示し、下腹部にCPH4という新型ドラッグの袋を埋め込んだのだ。彼女の他にも、3人の男たちが同様の処置を施されていた。
ルーシーと3人の男はパスポートと航空券を渡され、指定されたヨーロッパの都市までドラッグを運ぶよう指示される。しかし監視役の男に腹を蹴られた際、ルーシーの体内にあった袋が破れてドラッグが漏れ出した。これにより、ルーシーは脳内領域の20%が使用できる状態に覚醒した。それは脳の権威であるノーマン博士の仮説を実証する変化だった。ルーシーは監視役の男を始末し、外にいた残りの連中も軽く射殺した。
街に出たルーシーはタクシーの運転手に銃を突き付けて脅し、運転を強要した。病院へ乗り込んだ彼女は手術中の医師を脅し、ドラッグの袋を取り出すよう要求した。ルーシーは「麻酔は要らない」と告げて執刀させ、携帯を借りて母に電話を掛けた。彼女は袋を取り出した医師にCPH4のことを尋ね、自分の命が長くないだろうと悟った。ルーシーは手下を殺してチャンの元へ乗り込み、彼の両手にナイフを突き刺した。彼女はチャンの脳内を読み取り、3人の運び屋がベルリンとパリとローマへ向かったことを知った。
ルーシーはルームメイトのキャロラインがいる部屋へ戻り、パソコンを操作してノーマンの論文を読んだ。彼女はノーマンに連絡を入れて事情を説明し、協力を要請する。ノーマンが困惑しながらも助言を与えると、ルーシーは彼の元へ行くことを告げた。病院での一件で警察に追われる身となったルーシーは、髪をブロンドから黒髪に変えて変装した。彼女は刑事のデルリオに電話を掛け、3人の運び屋に関する情報を教えた。
デルリオはベルリンとパリ、ローマの警察に連絡を入れ、運び屋たちは次々に逮捕された。飛行機に搭乗したルーシーの覚醒が40%に到達すると、歯が抜け落ちて皮膚が崩壊を始める。トイレに駆け込んだルーシーは、慌ててドラッグを顔に擦り付けた。意識を失った彼女が目を覚ました時、覚醒は50%に達していた。空港に駆け付けたデルリオは拳銃を構え、彼女を拘束しようとする。ルーシーは他の刑事たちを一瞬にして昏倒させ、運び屋たちがパリに移送されたことをデルリオから聞き出した。マフィアは手術のために運び屋たちが送られた病院へ赴き、警護の警官たちを射殺した。彼らは運び屋たちの腹を裂いて袋を取り出すが、そこへルーシーが現れた…。

脚本&監督はリュック・ベッソン、製作はヴィルジニー・ベッソン=シラ、製作総指揮はマーク・シュミューガー、撮影はティエリー・アルボガスト、美術はユーグ・ティサンディエ、編集はジュリアン・レイ、衣装はオリヴィエ・ベリオ、シニア視覚効果スーパーバイザーはニコラス・ブルックス、音楽はエリック・セラ。
出演はスカーレット・ヨハンソン、モーガン・フリーマン、チェ・ミンシク、アムール・ワケド、ジュリアン・リンド=タット、ピルー・アスベック、アナリー・ティプトン、シン・チャンス、ソ・チョンジュ、ニコラ・フォンフェット、ポール・ルフェーヴル、ヤン・オリヴァー。シュローダー、ルカ・アンジェレッティー、ピエール・ポワロ、ピエール・グラモン、ベルトラン・クオニアム、ロイック・ブラバン、パスカル・ロイゾン、ピエール・ジェラール、イザベル・カニャ、フレデリック・チャウ、クレア・トラン他。


『アーサーとミニモイの不思議な国』『マラヴィータ』のリュック・ベッソンが脚本&監督を務めた作品。
ヨーロッパ・コープ作品では御馴染みのことだが、登場する面々の台詞は英語であり、英語圏の市場を主なターゲットにして作られている。
ルーシーをスカーレット・ヨハンソン、ノーマンをモーガン・フリーマン、チャンをチェ・ミンシク、ピエールをアムール・ワケド、麻薬の袋を埋め込む英国人をジュリアン・リンド=タット、リチャードをピルー・アスベック、キャロラインをアナリー・ティプトンが演じている。

リュック・ベッソンの脚本には、綿密な計算や正確な考証、繊細なディティールや丁寧な構成といった要素は存在しない。
テキトーな設定とデタラメな展開、それこそがリュック・ベッソンの真骨頂だ。
リュック・ベッソンは最初のハッタリと勢いだけで、何とか最後まで乗り切ろうとする。
稀に上手く行くこともあるが、大抵のケースではボロが多すぎて失敗する。荒唐無稽の面白さを、支離滅裂なシナリオが凌駕してしまうのだ。
っていうか、そもそも荒唐無稽を履き違えているのだ。

アイデアが子供じみていても、「だからダメ」というわけではない。厚みや深みのある虚構でキッチリと肉付けすれば、それは立派に「素晴らしきフィクションの世界」へと昇華する。
ところがリュック・ベッソンは、それなりの理屈やディティールを用意せずに放置し、肉づけの作業を雑に済ませているので、浅くて薄い、陳腐な虚構になってしまうのだ。
こういう話には本来なら、ファンタジーな世界観におけるリアリティーや、荒唐無稽な設定における説得力ってのが大切なのだ。
そのために必要なのが、奥行きのあるディティールであり、細部にまで気を配った綿密な計算だ。

ヒロインが魔法使いやエスパーという設定であれば、そこに理屈なんて要らない。魔法使いやエスパーという超人設定は、理屈の壁を軽々と飛び越えてしまうモノだからだ。
しかし「脳の領域が覚醒することによってヒロインの能力が向上する」という、一応は空想科学的な要素を持ち込んでいる以上、そこには「何がどうなったから、こういう結果になった」という方程式が求められる。
それは決して、正確な科学考証や計算を要求する事柄ではない。尤もらしい詭弁があれば、それでいいのだ。
ひょっとするとリュック・ベッソンは、ノーマンの講義が説得力に繋がると思っているのかもしれない。しかし残念ながら、充分な効果は得られていない。
それは入り口の部分をなぞっているだけだし、ストーリー展開の中で生じる様々な疑問からは遥かに遠い場所での詭弁に過ぎない。

のっけから色々と無理がある。
マフィアはリチャードを射殺した後、ホテルの受付係に口止め料の金を渡しているけど、他にも大勢の目撃者がいるわけで。
そもそも、そんな目立つ場所で始末しなくても、リチャードを殺す機会は幾らでもあるはずで。
「リチャードの殺害を見たルーシーが驚く」というショッキングなシーンで観客を引き付けたいのは分かるけど、だったら「リチャードと共にルーシーが部屋へ行くことになり、そこでリチャードが殺される」という形でも良かったわけで。

舞台となるのは台北で、ヒロインは英語しか話せないアメリカ人で、マフィアの連中は韓国人。
マフィアが韓国人なら舞台は韓国にした方が分かりやすいし、あるいはヒロインがスカーレット・ヨハンソンってことから逆算するなら英語圏でもいいと思うが、なぜか台北だ。
それなりの理由が必要になりそうな設定だが、もちろん何の説明も無い。「そういうモノだから」ってことで、観客は受け入れるしかない。
ルーシーがどういう女性なのか、なぜ台北に住んでいたのかは、最後まで教えてもらえないのだから。

チャンの一味はルーシーの腹部を切り裂き、そこにドラッグを埋め込んで運び屋にしようとする。
誰がどう考えても、阿呆丸出しの方法だ。
それでも、せめて「すぐにルーシーを出発させる」ってことにしておけば、まだ分からないでもない。
ところが、なぜかチャンの一味は、他の連中がすぐに出発する中でルーシーだけは部屋に監禁しているのだ。
しかもボンクラなチンピラを監視役に付けるミスまでやらかし、そんなボンクラが腹を蹴ったせいでルーシーの体内にドラッグが漏れ出してしまう。

ルーシーがチャンから仕事を依頼されて断ると、「1%」という文字が表示される。
これは「ルーシーが使っている脳の割合が1%」という意味だ。
「恐怖で頭が回らないので、1%しか利用できていない」ってのがリュック・ベッソンの考えなんだろう。
そしてノーマンが講演会で話しているシーンが映り、「10%」と表示されると、彼は「人類は脳の10%を使うことが出来る」と話す。その後はルーシーの能力が上昇する度に、パーセンテージが表示される。
それが効果的かどうかはともかく、分かりやすさは生じている。

ただし、ノーマンが「人類は脳の10%を使うことが出来る」と話した直後に「イルカは20%を使う」と言うので、「他の生物に比べて人間は優れている」とは言えなくなる。
その上、ルーシーが20%に到達した段階では「まだイルカと同レベルになっただけだし」と思っちゃうのよね。
だから、20%になったルーシーが超人的な能力を発揮する様子を見せられると、「イルカと同レベルなのに、そんなことまで出来るのかよ。じやあイルカって、どんだけ凄いんだよ」と言いたくなるぞ。
っていうか、むしろ「20%でもその程度ってことは、そもそも100パーセントの能力が低すぎるだろ」ってことかな。

20%に到達したルーシーは、宙に浮かんで天井に張り付いている。
「何がどうなって、そういうことになるのか」という説明は無い。ただ「脳の領域が20%まで覚醒したから」というだけだ。それを説明とは呼べないだろう。
で、20%になると、それまでの怯えていた様子が完全に消え去る。そして監視役の男を怪力で吹き飛ばし、残る奴らを拳銃で一掃する。
初めて人を殺すのに全く迷いが無いし、射撃の能力も見事なモノだ。20%になった途端、そういう能力まで会得できてしまうらしい。
いやあ、凄いね。

病院へ乗り込んだルーシーは、手術中の患者に関して「もう助からない」と言い、その根拠について説明する。
20%に到達すると、医療の知識まで急に会得することが出来るらしい。
さらに彼女はチャンの元へ乗り込み、額を指で押さえただけで心を読み取る能力も発揮する。
家に戻った彼女は、驚異的なスピードでパソコンを操る。しかもパソコンの処理能力まで、ルーシーのスピードに平気で付いて来るのだ。
ようするに20%を超えたルーシーは、パソコンの処理スピードを上げる能力まで会得したってことなんだろう。

ルーシーはノーマンに電話を掛け、彼のテレビをジャックして画面に登場する。
もちろん今さら言うまでも無いが、「どうやってノーマンのテレビを電波ジャックしたのか」という説明など用意されていない。「脳の覚醒で、そういう能力を手に入れた」というだけで済ませている。
ちなみにテレビだけじゃなくて、ラジオや電話も遠隔操作することが出来るようになっている。
あと、いつの間にか彼女は中国語もマスターしているし、キャロラインの体を外から見ただけで弱っている臓器を言い当てる能力も会得している。

30%まで覚醒したルーシーは、瞬時にして髪をブロンドから黒いロングに変化させたり、警察署にいるデルリオの近くに赤いペンがあることを透視したりする能力を発揮する。
50%に達すると、触れなくても大勢の人間を一瞬にして昏倒させるパワーを発揮する。
街に出ると、周囲で使用されている全ての携帯電話の通話を解析する能力を披露する。
病院のマフィアたちが殴り掛かろうとすると、ルーシーは平然と歩いて行き、次々に敵を宙へ浮かせる。

終盤、ルーシーはノーマンたちの協力で残りのドラッグを全て体内に取り込み、70%まで覚醒する。
その途端、彼女は口からまばゆい光線を発射する。続いて黒いウネウネとした無数のコードが体から伸び、コンピュータを取り込む。
ノーマンを含む科学者たちとルーシーは、真っ白な空間へ瞬間移動する。そこにルーシーが自分のコンピュータを作り始めると、90%に到達する。
この辺りになると「どういう映画を見ているんだっけ?」と首をかしげたくなるが、真面目に考えても意味は無いので思考は放棄すべし。

で、ルーシーは世界各地を巡った後、時間を遡って宇宙の起源へと辿り着く。そして最後は全ての記憶を詰め込んだUSBメモリを残し、姿を消す。
ちなみに、70%に覚醒した辺りでチャン一味が乗り込んで来るんだけど、戦うのはデルリオと刑事たちで、そこにルーシーは全く関与しない。
クライマックスのバトルにヒロインが関与せず、別のトコで別の作業をしているだけってのは、なかなか思い切った構成だよね。
ああ、勘違いする人がいるかもしれないけど、もちろん全く褒めてないからね。

(観賞日:2016年3月19日)


2014年度 HIHOはくさいアワード:第2位

 

*ポンコツ映画愛護協会