『ラヴレース』:2013、アメリカ
1970年、フロリダ州ダヴィー。21歳のリンダ・ボアマンは友人のパッツィーと自宅の庭で水着姿になり、ブラジャーを外した状態でお喋りを楽しんだ。そこへ母のドロシーが来て、格好を注意した。リンダはパッツィーとムーンライト・ローラー・リンクに出掛け、バンド演奏に会わせてゴーゴー・ダンスを踊った。それを見ていたチャック・トレイナーは、「プロにならないか。ベガスで踊れば一晩300万ドルは稼げる」と持ち掛けた。彼がハッパを吸うよう勧めるとパッツィーは喜んで受け入れるが、リンダは断った。
後日、リンダが夜に外出しようとすると、ドロシーが行き先を尋ねた。「海よ」と彼女が答えると、母は「海で何をするの?」と質問した。「パーティーよ」という返答に、ドロシーは「他に誰が行くの?」と問い掛ける。リンダが「パッツィーと恋人のレイよ」と言うと、母は「レイの仕事は?」と訊く。リンダは「知らないわ」と苛立つが、「確かバーテンダーよ。11時の門限までには帰って来る。遅れる時は電話する」と語る。ドロシーは外出を許可し、父のジョンは「行っておいで」と穏やかに告げた。
リンダはビーチでパッツィーたちとパーティーに参加し、チャックとキスを交わした。車で家まで送ってもらった彼女は、「去年、妊娠して出産した。それで、この街に」と打ち明けた。チャックに「赤ん坊は?」と問われた彼女は、「分からない。ママが養子に出したわ。ふしだらな娘と言われた」と話す。チャックは「お前の両親に会うよ。俺を気に入る」と自信を見せ、夕食に招待するよう促した。「お前の両親が、とってもいい人ねと言ったら俺の勝ちだ」と言い出すので、リンダは「賞品は?」と尋ねる。チャックは「お前と一晩過ごす」と答え、「負けたら?」という質問にも「お前と一晩過ごす」と答えた。
夕食に招かれたチャックは「海兵隊にいたが、戦闘は経験していない」と話し、第二次世界大戦で出征しているジョンを称賛した。彼は仕事について、バーを経営していると語った。リンダはキッチンでチャックと2人になり、ペッティングされて快感に悶えた。2人は映画を見に行くと嘘をついて外出し、チャックの家でセックスした。夜遅くになってリンダが帰宅すると、ドロシーが待ち受けていた。彼女は娘に平手打ちを浴びせ、帰りの遅さを咎めた。
チャックはホームパーティーでポルノ映画を上映し、リンダがいない隙にパッツィーに「ポルノが好きだろ」と話し掛ける。彼はキスをして、パッツィーを口説き落とそうとする。拒否して立ち去ったパッツィーはリンダを見つけ、「向こうはヤバいよ」と忠告した。しかしリンダは聞き入れずにチャックの元へ行き、一緒にポルノ映画を見た。チャックは彼女とセックスする際、フェラチオのやり方を指南した。彼はリンダに、奥まで深くくわえるよう指示した。リンダはチャックと結婚し、幸せを感じた。
半年後、リンダはチャックから電話を受け、留置場に収監されていた彼の身柄を引き取りに行った。チャックは捕まった理由を問われると、「店の女が客とヤッたんだ。ストリップバーの給料じゃ、女の子たちも生活できない」と説明した。彼は「どうしても金が要る。国税局と警察に迫られている」と言い、リンダにポルノ映画への出演を頼む。リンダは監督のジェリー・ダミアーノとプロデューサーのブッチ・ペライーノが作ったポルノ映画会社出向いて、面接を受けた。ジェリーとブッチは下手な芝居に呆れ、見た目も普通すぎるので無理だとチャックに告げる。しかしチャックがリンダのフェラチオを撮影した映像を見せると、途端に2人は食い付いた。
リンダは最初の映画撮影に臨み、現場には出資者のアンソニー・ロマーノが挨拶にやって来た。リンダは共演女優のドリーにメイクしてもらい、相手役のハリー・リームスに会った。撮影を見学したロマーノは、ブッチに「チャックが問題だ」と告げた。ブッチはチャックに「フィルムの在庫が無いから、マイアミへ行って取って来てくれ」と告げ、撮影現場から遠ざけた。ジェリーがフェラチオのシーンを撮影すると、ハリーはすぐに射精してしまった。戻って来たチャックは、リンダと部屋でセックスした。
リンダは写真家のトーマスに映画のポスター写真を撮ってもらい、その美しさに感動した。リンダは「リンダ・ラヴレース」という芸名を付けられ、ポルノ映画『ディープ・スロート』の主演女優としてデビューした。映画はヒットし、特別上映会が開かれた。リンダは実業家のヒュー・ヘフナーと会い、「君はポルノスターじゃなく、本物のスターになれる」と絶賛された。6年後、リンダはポリグラフ検査を受けていた。彼女はチャックとの生活を執筆中で、ポリグラフ検査は出版社からの要望だった。
チャックはリンダとのセックスで荒っぽい行動を取り、「すごく痛かった」と言われると「情熱だよ」と告げた。彼は「どうしても金が必要だ」と言い、バーへ連れて行って売春させた。リンダは深夜に実家を訪れ、ドロシーに「しばらく家に戻りたい」と告げる。ドロシーは「ダメよ。嫁いだ娘が実家がどう思うか」と認めず、「彼、殴るの」とリンダが言うと「何をして怒らせたの?」と訊く。「たぶん服従しないから」とリンダが答えると、彼女は「お前は神聖な誓いを立てた。夫の言葉を聞いて従うの」と厳しい言葉を浴びせた。
ドロシーはチャックから電話を受けると、リンダを帰らせることを伝えた。リンダはチャックからポルノ映画への出演を命じられ、嫌がると暴力を振るわれた。チャックと外出したリンダは、久々にパッツィーと再会した。パッツィーはリンダを心配しており、試着室へ連れて行く。「アンタを助けたい」と言われたリンダは、近くにチャックがいたので「結婚できて幸せよ」と嘘をついた。チャックはギャラを管理し、リンダはマリブに引っ越しても無一文だった。チャックはアダルグッズで儲けようと目論み、ロマーノから金を借りた。2万5000ドルの返済を求められた彼は、「俺は西海岸のアダルトショップの半分を持ってる男と交渉してる。リンダがそいつのナニをしゃぶれば、商売は成功する」と自信を見せた…。監督はロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマン、脚本はアンディー・ベリン、製作はハイディ・ジョー・マーケル&ローラ・リスター&ジェイソン・ワインバーグ&ジム・ヤング、製作総指揮はアヴィ・ラーナー&ダニー・ディムボート&トレヴァー・ショート&ボアズ・デヴィッドソン&ジョン・トンプソン&マーク・ギル&メリット・ジョンソン&アマンダ・セイフライド&ピーター・サースガード、共同製作はロバート・J・ドーマン&ベンジャミン・スコット&マーヴィン・アクーナ、共同製作総指揮はマイルス・レヴィー&ヴィンセント・ジョリヴェッテ&ロニー・ラマティー、撮影はエリック・エドワーズ、美術はウィリアム・アーノルド、編集はロバート・ダルヴァ&マシュー・ランドン、衣装はカリン・ワグナー、音楽はスティーヴン・トラスク。
出演はアマンダ・セイフライド、ピーター・サースガード、ハンク・アザリア、ウェス・ベントリー、アダム・ブロディー、ボビー・カナヴェイル、ジェームズ・フランコ、デビ・メイザー、クリス・ノース、ロバート・パトリック、エリック・ロバーツ、クロエ・セヴィニー、シャロン・ストーン、ジュノー・テンプル、ロナルド・プリチャード、フランク・クレム、オースティン・ウィリアムズ、トレヴァー・ファリス、ガストン・ウィリグ、ブライアン・ガッタス、コリー・ハードリクト、ピーター・ホールデン、ソフィア・カーステンス、リサゲイ・ハミルトン、ドン・マクマナス他。
ポルノ映画『ディープ・スロート』の主演女優であるリンダ・ラヴレースの人生から着想を得た作品。
ドキュメンタリー映画『セルロイド・クローゼット』を手掛けたロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマンが監督を務めている。
リンダをアマンダ・セイフライド、チャックをピーター・サースガード、ジェリーをハンク・アザリア、トーマスをウェス・ベントリー、ハリーをアダム・ブロディー、ブッチをボビー・カナヴェイル、ヘフナーをジェームズ・フランコ、ドリーをデビ・メイザー、ロマーノをクリス・ノース、ジョンをロバート・パトリック、ドロシーをシャロン・ストーン、パッツィーをジュノー・テンプルが演じている。ジェリーとブッチはチャックが撮影したリンダの映像を見て「凄い」と興奮し、即座に起用を決める。
だけどディープ・スロートの何が凄いのかが、これっぽっちも伝わって来ないんだよね。
それまでのポルノ映画やポルノ女優とリンダのディープ・スロートは、何がどのように違っていたのか。そこを分かりやすく観客に説明するのは難しいかもしれないけど、ものすごく重要なポイントでしょ。
ポルノ女優としてのリンダに主眼を置いていないとしても、そこをフワッとさせているのは手落ちにしか思えない。撮影現場を見学していたロマーノが、ブッチに「チャックが問題だ」と告げて遠ざけるよう促すシーンがある。しかし具体的に、チャックの何が問題だと思ったのかが良く分からない。
そりゃあチャックはメイクに関して細かい注文を付けていたけど、彼のせいで撮影に支障をきたすような様子も全く無かったし。
しかも、じゃあチャックをマイアミへ行かせている間にロマーノが何か行動を起こすのかというと、特に何もしないんだよね。
なので、何のための手順なのかがサッパリ分からないのよ。リンダはチャックと出会い、あっという間に恋に落ちている。チャックに騙されたり、脅されたりしたわけではない。普通に好きになって、結婚して喜んでいる。
チャックは口が上手いが、いかにも胡散臭い匂いをプンプンと撒き散らしているチャラい男だ。それでもリンダは簡単に惚れて、すぐに肉体関係を持っている。
ポルノ映画にしても、チャックに頼まれたという経緯はあるが、リンダは脅されて仕方なく出演したわけではない。前向きな態度を示しているし、映画がヒットしてチヤホヤされると嬉しそうにしている。
なので冷たい言い方だが、その後の展開も含めて「バカな尻軽女がヤクザな男と結婚し、調子に乗っていたら痛い目を見ただけ」に見えてしまう。「リンダがチャックと結婚したりポルノ業界に入ったりしたのは、恵まれない家庭環境が原因」みたいな形で、同情を誘おうという狙いも乏しい。
一応は「両親は厳格なカトリック教徒」という設定があるのだが、そこの表現も弱い。
そのため、「両親からの抑圧に反発して云々」みたいな色付けも見えない。
門限はあるけど、そんなの別に珍しくもない。母が行き先や交友関係を気にするのも、未婚で出産しているリンダの過去を考えれば当然と言えるだろう。そもそも、その出産にしても、リンダに同情できる余地が全く見当たらないんだよね。
「赤ん坊を母が養子に出して、どうなったのかは分からない」という説明があるけど、「自分の子供に会えなくて不憫」なんてことは微塵も感じないのよ。相手については言及が無いので、「父親の分からない子供を産んだ」という風に見えるし。
そうなると、ドロシーが「ふしだらな娘」と批判するのも仕方が無いでしょ。もしも相手がちゃんとした男だったら、妊娠が先でも両親は結婚を認めてくれたんじゃないかと思うし。
ここの詳細が分からないけど、たぶん分かったとしても、リンダへの同情心が湧くことは無いんじゃないかな。リンダはポルノ業界に騙されたわけでもなければ、都合良く利用されて搾取されたわけでもない。
彼女は決して、ポルノ業界の被害者でも犠牲者でもない。
実際のリンダ・ラヴレースはともかく、少なくとも本作品の主人公であるリンダに関しては、そういう印象を受ける。
本物のリンダは『ディープ・スロート』が大ヒットしたのに少ないギャラしか受け取れなかったようだが、それもチャックが搾取していただけで、それが無ければ充分な報酬を得られていたようにも見えるし。リンダがチャックの支配と暴力に耐え切れなくなった時、助けを求めるのはロマーノだ。そしてロマーノはリンダを助けてくれるし、それに対して見返りを求めることも無い。
ポルノ業界の人間が、全て卑劣だったり横暴だったりするわけではない。
むしろ、チャックは酷い男だが、リンダがポルノ業界で知り合った面々に関しては、親切な人間や優しい人間が少なくない。
実際にどうだったのかは知らないけど、少なくとも本作品では、諸悪の根源はチャックだけに絞り込まれているように感じる。この映画のリンダはチャックという男と結婚したことで不幸になるのであり、彼と無関係な形でポルノ業界に入っていれば、まるで異なる人生を送っていただろう。
なので、最後に「リンダはポルノと家庭内暴力に対して反対運動を続けた」というテロップが出た時に、大いに引っ掛かるのだ。
最初は楽しくポルノの仕事をしていたはずなのに、途中から宗旨替えしてポルノ批判を始めるのは、自分をスターにしてくれた業界や世話になった関係者への裏切り行為にも見えるのだ。
彼女が批判すべき対象はチャックだけで、ポルノ業界は加害者ではないはずなのに。リンダはポルノスターになって浮かれていたはずなのに、引退してから「抹消したい黒歴史」として全否定するのも、なんだかなあと。
全てのポルノ女優が、そのキャリアを後悔することになるとは限らない。自ら望んでポルノ女優になり、その仕事に誇りを持っている人もいるだろう。
なので、「ポルノ業界の全てが女性を酷い目に遭わせる醜悪な場所」みたいに着地するのは、どうにも受け入れ難い。
あとさ、根本的な問題として、リンダ・ラヴレースという「人物」を描きたいのか、彼女が関わった「出来事」を描きたいのか、作品の焦点がどこにあるのかも分からないんだよね。(観賞日:2024年1月16日)