『わすれた恋のはじめかた』:2009、アメリカ&カナダ&イギリス

バーク・ライアンは3年前に妻を亡くし、その経験を綴った自己啓発本『死別を乗り越えて』がベストセラーとなった。彼は各地を巡り、大切な人を失った人々を相手にセミナーを開いている。バークは「A−オーケイ」というハンドサインを使い、悲しみを乗り越えるよう人々に説いている。そんな中、バークは親友でマネージャーのレーンに呼ばれ、セミナーのためにシアトルへやって来た。バークはシアトル行きを嫌がったが、レインから是非にと頼まれ、あまり乗り気ではないまま訪れたのだった。
バークはホテルに入り、レインと会った。レインはバークに、ユニコムとの契約交渉が控えていることを告げる。バークは準備を整え、3日間のセミナーを開始した。彼は集まった人々に対し、愛する人を失った悲しみに向き合う大切さを語る。写真撮影を行ったバークは、カメラマンの質問を受け、妻の死がきっかけで自分を癒やすために本を執筆したこと、妻は運転中に犬を避けようとして電柱に激突して即死したことを語る。バークは受講者を引き連れて、ワークショップのためにホテルの外へ出た。彼は受講者に、「同じ場所でも見方が変われば景色が変わる。大切なのは、歩き出す勇気です」と述べた。
ホテルに戻ったバークは、セミナー受講をキャンセルしようとしているウォルターという男性を見掛けた。バークが話し掛けると、彼は姉に説得されて仕方なく来たことを口にした。息子を亡くしたという彼に、バークは穏やかな口調で語り、出来れば残ってほしいと告げた。バークは廊下を歩いている途中、ホテルの花を担当している花屋のエロイースとぶつかった。エロイースが立ち去った後、バークは彼女が落としていったペンを拾う。近くの壁を見ると、飾ってある絵の裏に「quidnunc」という難しい単語がイタズラ書きしてあった。バークが辞書で意味を調べると、それは「噂好き」という意味だった。
バークはホテルのバーでレーンと話し、ユニコムのCEOがセミナーに来ることを聞かされる。エロイースが仕事をしている様子を目にしたバークは、声を掛けてコーヒーに誘う。エロイースが手話を使ったので、バークは申し訳なさそうな態度を取る。しかしバークは、エロイースがホテルを去る際に従業員と言葉を交わしている様子を目撃した。エロイースは恋人のタイラーを訪ねるが、彼が浮気していることに気付き、怒って立ち去った。
翌日、バークがセミナーを終えてファンにサインしていると、亡くなった妻の父親がやって来た。彼は「いつまで嘘を続けるつもりだ。この偽善者め」とバークを罵った。エロイースは花屋に赴き、店員で親友のマーティーにタイラーの浮気を話す。マーティーは「貴方はダメな男ばかり好きになる。そして裏切られ、傷付くことの繰り返し」と言う。バークはホテルに来たエロイースを見掛け、聾唖を装ったことを厳しい口調で非難した。バークがトイレへ行くと、エロイースは追い掛けて来て、徹底的に扱き下ろした。
バークはエロイースの店に花を注文し、メッセージカードで彼女をディナーに誘う。ディナーの後、バークはエロイースに別れを告げるが、すぐに追い掛けて呼び止め、「3年ぶりのデートなんだ。それまでは結婚してたから。今日は男として、見栄を張りたかった」と話す。エロイースはバークが妻と死別していることを知らず、「離婚してから最初のデートなのね。花の仕入れに行くけど、一緒に来る?」と誘う。バークはエロイースの店へ行き、彼女が保管している客のメッセージカードを見せてもらった。
次の日、バークはセミナー受講者に、故人への思いを語るよう促した。ウォルターは指名され、建設業をやっていたこと、12歳の息子が助手を務めていたこと、ある建設現場で誤って転落して死亡したことを語る。彼は「俺が目を離さなければ」と自分を責めた。今は建設業を辞めてビルの清掃員をやっており、大工道具が売られている店へ行くことも出来ないという。バークは恐れを克服することの大切さを説き、焼け石の上を歩くカウンセリングを提唱する。バークは自ら実践し、受講者にも挑戦を促した。しかしウォルターは「こんなのは馬鹿げてる」と告げ、部屋から去ってしまった。その様子を見掛けたエロイースは、バークの仕事を知った。
無理をして足の裏を火傷したバークに、レーンは「他人の身代わりになることは出来ない」と言う。バークは足の痛みを我慢し、ユニコムとの商談に赴いた。ユニコムの幹部たちは、バークの自己啓発をブランド化し、ダイエット商品を売り出す計画を語った。エロイースは電話でバークを呼び出し、母親の家に立ち寄った。エロイースの母親はバークのことを知っており、彼の訪問に興奮した。
エロイースは母の恋人のトラックを借り、バークを乗せて移動する。エロイースはバークをクレーンの駕籠に乗せてブームを上昇させ、「ローグ・ウェイヴのチケットが売り切れだったから、頭を捻ったの」と言う。駕籠からは、ローグ・ウェイヴのライヴ会場を見ることが出来た。ライヴを堪能した後、エロイースはバークに「本を読んだわ。どうして奥さんのことを黙っていたの?」と尋ねる。バークが「言いそびれていた」と告げると、彼女は「愛してたんでしょ」と質問する。バークは「ああ。でも、もう3年も前のことだ」と口にする。彼は「今日はとても楽しかった」と言い、エロイースと別れた。
翌日、バークはホテルで絵画の裏を調べ回り、「poppysmis」のイタズラ書きを見つけた。彼は辞書で意味を調べ、「poppysmis」と記したファックスをエロイースの元へ送った。バークはユニコムとの商談を無断で欠席し、エロイースやマーティー、その仲間たちとバーへ遊びに出掛けた。そこへレーンが来て、「ここまで漕ぎ付けるのに、どれだけ苦労したと思ってるんだ」とバークを責めた。「正直に言ってくれ。嫌なのか」と問われたバークは、「契約する。約束するよ」と告げた。
レーンは機嫌を直し、バークやエロイースたちと一緒に楽しい時間を過ごす。店を出たバークたちは、ブルース・リーとブランドン親子が眠る墓地を訪れた。マーティーが「葬儀なんて、お金の無駄だと思うわ」と言うと、バークは「死別の悲しみを癒やすのに、とても大切なプロセスだ」と口にする。それから彼は妻の葬儀について詳しく語り、「3月の聖パトリックの日だった。妻の好きだったダリアの花が一面に咲いていた」と口にする。それを聞いたエロイースが「ダリア?この辺りでは秋に咲くわ」と疑問を呈すると、バークは「早咲きだったのかな」と言い、その場を離れる。「行かなかったのね」とエロイースが呟くと、レーンが「そうだ」と認めた。
次の日、バークは最終日のセミナーを行い、受講者に思いを吐き出すよう促す。発言を求められたウォルターは、「まだ俺はダメだ。人生を取り戻せない」と感情的になって涙ぐむと、バークは「君は過去に縛られている。建設と同じで、1つずつ積み上げていけばいい」とアドバイスした。バークは受講者をバスに乗せ、ホームセンターへ買い物に向かう。ウォルターはバークに説得され、店に入った。彼が「元の自分に気付かせてくれてありがとう」と礼を述べると、バークは「自分で気付いたんだよ」と告げた。
バークはエロイースの元へ行き、「妻の葬儀には行ってないし、妻の両親とはずっと会ってない。妻の思いでの品物は全て捨てた」と告白する。それから彼は、妻に何かあった時には飼っていたオウムを野生に返すよう頼まれていたが、その約束を果たさず、オウムが彼女の両親の元にいることを話す。エロイースは、奥さんの両親と話し、オウムを返してもらうよう促す。バークは難色を示すが、エロイースは彼を車に乗せ、妻の両親が住む家へ向かう。バークは妻の両親に見つからないように侵入し、オウムの入った鳥籠を持ち出した。バークはエロイースの車で森へ行き、オウムを駕籠から出して逃がしてやった…。

監督はブランドン・キャンプ、脚本はブランドン・キャンプ&マイク・トンプソン、製作はスコット・ステューバー&マイク・トンプソン、製作協力はアレクサ・フェイゲン、製作総指揮はJ・マイルズ・デイル&リック・ソロモン&ライアン・カヴァナー、撮影はエリック・エドワーズ、編集はデイナ・E・グローバーマン、美術はシャロン・シーモア、衣装はトリッシュ・キーティング、音楽はクリストファー・ヤング、音楽監修はキャシー・ネルソン。
出演はアーロン・エッカート、ジェニファー・アニストン、ダン・フォグラー、ジュディー・グリア、マーティン・シーン、ジョー・アンダーソン、ジョン・キャロル・リンチ、フランセス・コンロイ、サッシャ・アレクサンダー、クライド・クサツ、アン・マリー・デルイーズ、タイラー・マックレンドン、パノウ、マイケル・コスパ、ミシェル・ハリソン、ダーラ・ヴァンデンボッシェ、トム・ピケット、パトリシア・ハーラス、アウレリオ・ディヌンツィオ、ダニエル・ダン=モリス、マキシーン・ミラー他。


『コーリング』の原案&脚本を担当したブランドン・キャンプが、初監督を務めた作品。
ちなみに「ベンジー」シリーズで監督&脚本&プロデューサーを務めたジョー・キャンプは、彼の父親。
バークをアーロン・エッカート、エロイースをジェニファー・アニストン、レーンをダン・フォグラー、バークの義父をマーティン・シーン、マーティーをジュディー・グリア、タイラーをジョー・アンダーソン、ウォルターをジョン・キャロル・リンチ、エロイースの母をフランシス・コンロイが演じている。

バークはセミナー受講者に明るく話し掛け、悲しみと向き合って前に踏み出すよう訴え掛ける。
だが、そんな態度とは裏腹に、実はバーク自身、妻を失った悲しみと全く向き合えていない。
その辺りの表現が、序盤でボンヤリした形となって表れている。バークがセミナーやワークショップを行う様子が描かれる中で、「ああ、この人は死別から全く立ち直れていないんだろうな」ってのが、何となく伝わって来るという感じなのだ。
だけど、そうではなく、もっとメリハリを付けて表現した方がいいと思う。

ひょっとするとブランドン・キャンプは、中盤、妻の葬儀についてバークが語るシーンと、墓地を離れた彼が妻を回想するシーンで、彼が立ち直っていないことを初めて明らかにしているつもりなのかもしれない。
でも実際には、序盤でバレバレだからね。
義父がホテルへやって来るシーンがあるが、そこを上手く利用すればいいんじゃないだろうか。
具体的には、「セミナー受講者の前でバークが明るく振る舞っている様子だけを描き、すっかり立ち直っているように見せる」→「義父の登場シーンを早めて、バークを『娘の死を金儲けの道具に使っている偽善者め』と糾弾させる」→「一人になったバークの様子を描き、彼が妻の死を金儲けの道具にしていないどころか、妻の死を今も受け入れられずにいることを提示する」という流れにするのだ。

バークは今も妻の死から立ち直れずにいるはずなのに、エロイースと遭遇した途端、彼女に好意を抱いたような反応を示している。作業しているエロイースを見つけると、すぐに声を掛けてコーヒーに誘う。
その積極的な行動には、違和感が否めない。
例えば、エロイースが死んだ妻に良く似ているとか、そういう理由でもあれば別だけど。
バークがエロイースだけにスペシャリティーを感じ、積極的にデートに誘う理由が良く分からない。
あと、聾唖を装ったエロイースを厳しく批判するのも、バークというキャラクターの動かし方として、なんか違うんじゃないかと思う。

バークとエロイースを親しくさせるのは、バークがナンパするんじゃなくて、彼が妻の死から立ち直れていないことを知っている友人が、強引にエロイースとデートさせようとしたり、彼女に声を掛けたりするという形でも良かったんじゃないか。
っていうか、この映画の主題は「バークが妻の死から立ち直る」という話であり、そのために他の女性に惚れる必要性は無いんだよね。
妻の死を受け入れて前に踏み出すのと、他の女性に恋をするのは、全く別の問題だ。

繰り返しになるが、この映画の主題はバークが死別を受け入れて立ち直る話にあるだから、彼に「積極的に女性と仲良くなろう」という行動を取らせる必要は無い。
立ち直ろうとするドラマの中で、その過程において、1人の女性と知り合い、惹かれるようになる、という形にでもしておいた方が、スムーズだったのではないか。
そう考えると、エロイースよりも、序盤で写真撮影を担当していたカメラマンの方が、ポジション的にはヒロインに向いていたかもしれない。

それと、そんなに物語の序盤から恋愛劇を前面に押し出す必要も無くて、バークが死別を受け入れて立ち直ろうとするドラマの中で女性と親しくなり、終幕を迎える辺りで「これから2人は交際するようになるだろう」という予感を抱かせる程度でもいいんじゃないかな。
恋愛劇を強く押し出しのは、失敗じゃなかろうか。
そこを強く押し出すのであれば、バークが積極的に行動するのではなく、エロイースが彼と出会って好意を抱く、という形にした方がいい。その場合、バークではなくエロイース側から物語を描くべきだが。
っていうか、ホントは恋愛劇が無くてもいいんだけどね。バークとウォルターの関係を中軸に据えて、バークがウォルターを立ち直らせる中で、自分も変化していく、という2人の人間ドラマで作品を構築してもいいだろう。

物語も終わりに近付いた辺りで、実はバークが運転していた時に事故を起こし、同乗していた妻を死なせていたことが明らかにされる。
でも、それを終盤まで隠しているこうの効果を、あまり感じないのよね。
妻が運転していて事故死したのであっても、バークが死なせたのであっても、どっちも「バークが妻の事故死を受け入れられず、未だに引きずっている」ということに変わりは無いんだし。
早い段階で事故の真相を観客に明かして、その上でバークの苦悩を描けば良かったんじゃないかと。

その真実をバークがセミナーで告白した時、密かに聞いていた義父が「あれは事故だった、君のせいじゃない」と擁護し、バークと2人で抱き合って涙を流す。
その和解シーンは感動的なんだから、もっと義父の出番を増やした方がいいのに。
義父もそうだけど、マーティーにしろ、エロイースの母親にしろ、もう少し意味のある使われ方をするのかと思ったら、いてもいなくても大差が無いような扱いなのよね。
タイラーに至っては、たった1シーンで出番は終わりだし、何のために登場したのかサッパリだ。

(観賞日:2013年6月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会