『ロスト・ハイウェイ』:1997、アメリカ&フランス

ジャズ・サックス奏者のフレッド・マディソンはある日の深夜、インターホン越しに「ディック・ロラントは死んだ」というメッセージを聞く。後日、一本のビデオテープが届く。そこには彼の家の外観が録画されていた。翌日、再びビデオテープが届いた。今度は家の中の様子が録画されていた。
妻レネエと共に知人のパーティーに出掛けたフレッド。そこで怪しげな男が声を掛けてきた。「前に会ったことがあり、今もあなたの家に居る」と言う男。家に電話を掛けてみると、確かにその男が電話に出る。急いで家に帰るフレッド。
家には誰もいなかったが、またビデオテープがあった。今度はレネエが無残な殺され方をしており、その横で自分が叫んでいた。警察に逮捕され、独房に入れられたフレッド。しかし次の日、独房の中にいたのはフレッドではなく、ピート・デイトンという男だった。
釈放されたピートは整備工の仕事に復帰し、馴染み客エディの車を修理する。エディの愛人アリスに誘惑されたピートは彼女と寝るが、ロラントに気付かれる。アリスと共に車で逃亡したピートは道路でセックスするが、終わった時にはフレッドになっていた…。

監督はデヴィッド・リンチ、脚本はデヴィッド・リンチ&バリー・ギフォード、製作はディーパック・ネイヤー&トム・スターンバーグ&メアリー・スウィーニー、撮影はピーター・デミング、編集はメアリー・スウィーニー、美術&衣装はパトリシア・ノリス、音楽はアンジェロ・バダラメンティ。
出演はビル・プルマン、パトリシア・アークエット、バルサザール・ゲティ、ロバート・ブレイク、ナターシャ・グレッグソン・ワグナー、リチャード・プライヤー、ゲイリー・ビジー、ロバート・ロッジア、ルーシー・バトラー、マイケル・マッシー、ジャック・ナンス、ジャック・ケーラー、ヘンリー・ロリンズ、ジョヴァンニ・リビーシ、スコット・コフィ他。


ストーリーを説明するのがバカバカしくなるような映画だ。そもそもデヴィッド・リンチという人は、ストーリーテリングには全く興味が無いのだろう。自分の撮りたいモノだけに異常に執着し、それ以外の部分は適当に処理してしまう。そういう人なのだと思う。

この作品は、まさにリンチ・ワールドである。物語はグチャグチャ。結末は無し。矛盾だらけで、謎を提示しても解決には導かない。音は不条理を表現し、映像は幻夢に誘い込む。奇々怪々な緊張感が続く、魔人リンチのブラックホールだ。

どういう意味なのか、いったい何が言いたいのか。そんなことを考え始めてしまったら、完全に終わりなのだ。それはリンチの罠にハマった証拠だ。考えるだけ、無駄なこと。リンチは現実と幻夢の境界線を塗り潰し、意味を超越してしまったのだ。

この作品を心底から面白いと感じた人は、おそらく頭がイカレている。でも大丈夫、あなたよりもデヴィッド・リンチの方が、ずっと狂っているのだから。この作品は合法ドラッグだ。精神を痛め付ける幻覚剤だ。マゾヒスティックなムービー・トリップに酔いしれるべし。


第20回スティンカーズ最悪映画賞

【最悪の作品】部門ノミネート
【最悪の演出センス】部門(デヴィッド・リンチ)ノミネート

 

*ポンコツ映画愛護協会