『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』:2016、アメリカ
1905年、アイルランドのコークにある英国陸軍駐留地。パーシー・フォーセット少佐は部下たちを率いて、舞踏会で大公に献上する鹿狩りに出掛けた。彼は部下たちを置き去りにして馬を走らせ、森に入って鹿を仕留めた。森から戻ったパーシーは、妻であるニーナの元へ戻る。彼は幼い息子のジャックを抱き上げ、笑顔を見せた。しかし舞踏会に出掛ける支度を整えた彼は、不満そうな表情を浮かべた。ニーナに理由を問われた彼は、「今夜の出席者で、私だけ制服に勲章が無い」と述べた。
舞踏会には政務官が来ることになっており、パーシーは彼の評価を望んでいた。ニーナから「なぜ政務官を気にするの?」と尋ねると、彼は「俺たちが上流へ行くための、最後の望みだからだ」と言う。パーシーは自身の年齢を懸念しており、「今までの遅れを取り戻したい。勲章に興味は無いが、チャンスを逃したくない」と述べた。舞踏会に顔を見せた政務官は、鹿を仕留めたのがパーシーと知って晩餐に招待しようとする。しかし側近から「彼は祖先に難があります」と言われると、その決定を取り消した。
1906年3月。パーシーは上官から、王立地理学協会へ行くよう指示された。「探検隊を組むらしい」と言われた彼はロンドンを訪れ、協会の会長であるジョージ・ゴールディー卿と事務局長のジョン・スコット・ケルティー卿に会った。本土から離れた場所への配属が続いているパーシーに、ゴールディーは「我々が持つボリビアの地図は空白だらけだが、アマゾン川流域には多くのゴム農園がある」と語った。その利益は大きいが、国境を巡ってボリビアとブラジルが論戦になっていた。
公平な地理測量のため、ボリビアとブラジルは王立地理学協会に審判役を依頼した。学生時代に協会で在籍していたパーシーは、その役目に適任だと判断されたのだ。パーシーは「今は実戦に加われる立場を目指しています」と断ろうとするが、ゴールディーは「数年掛かりの遠征だが、成功すれば功績が認められる。勲章が貰えて、一族の名誉も取り戻せる」と話す。彼は酒と賭博に溺れたパーシーの父を知っており、「冒険が実を結べば、運命も変えられる」と説いた。
パーシーは任務を受けると決め、ニーナに話した。妊娠を明かすニーナに、彼は「これは家族みんなの試練だ。一緒に乗り越えよう」と語った。1906年4月、大西洋を航行するパナマ号。パーシーは尾行するヘンリー・コスティンに気付き、待ち伏せて捕まえた。コスティンは隊員募集の広告を見たと説明し、「なぜ出航してから1週間も黙っていた?」という質問に「貴方を観察していた」と答えた。パーシーが飲酒に気付くと、コスティンは「酒好きは認めますが、銃の扱いならお任せを」と売り込んだ。パーシーは酒を断つよう約束させた上で、コスティンを採用を決めた。
新たな指令が電報で届き、パーシーはヴェルデ川の水源を探すことになった。ヴェルデ川は国境を成す川で、測量の開始地点はジャコビナ農場だ。1906年7月、ボリビア東部の未開地には言ったパーシーとコスティンは、ゴンドリス男爵が建てたジャコビナのオペラ劇場を目にした。連絡係のアーサー・マンリーがパーシーの元へ来て、国境画定委員会から任務中止を勧める電報が届いたことを伝えた。「既に火種が。危険です」とマンリーが話すと、パーシーは「中止する気は無い」と突っぱねた。
パーシーは先住民の案内人を調達するよう要請していたが、マンリーは逃げたことを明かす。問題はゴム輸出会社を経営するゴンドリスだと聞いたパーシーは、彼と面会した。パーシーはヴェルデ川の探索に部下を貸してほしいと頼み、ゴンドリスと交渉する。ゴンドリスは「君たちの測量は平和のためだ、平和とは、ワシの事業と生活が反映することだ。手は貸すが、何事も変わらないようにしろ」と言った上で、奴隷と4人の隊員を提供した。
パーシーたちは筏で川を進んでいる最中に原住民の襲撃を受けるが、何とか助かった。奴隷はパーシーの「近いのか?」という質問を受け、「まだ数週間掛かる。かつては人が群れで暮らしていた。黄金と食物に溢れた都市だ。英国人の文明より古い。森の奥深くで、白人には決して見つからない」と語った。探検が続く中で食糧が残り少なくなり、隊員たちは疲弊した。隊員のダンは仲間のウィリスが持っていた食糧を奪い取り、パーシーが諫めるとナイフを突きつけた。コスティンはダンの右耳を撃ち、パーシーを助けた。
筏が水源に辿り着くと奴隷は逃亡するが、パーシーは追い掛けずに放置した。森の中で黒豹を仕留めたパーシーは、土器の破片が幾つも落ちているのを見つけて「奴隷が言っていた集落は存在したんだ」と興奮した。帰国したパーシーは、港で大勢の人々の喝采を浴びた。ニーナも出迎えに来ており、パーシーは次男のブライアンと初めて会った。莫大な資産を持つジェームズ・マリーはパーティーを主催し、バーシーを招待した。マリーは生物学が専門だが、南極探検で副隊長としてシャクルトンを支えた実績があった。
マリーはパーシーに、アマゾン探検が長年の夢だと語った。パーシーは王立地理学協会が引き続いて支援してくれることへの希望を口にした後、「白人にとって未開の地に土器があった」と告げた。同席していたケルティーが「突飛な発想は皆の頭を苦しめるだけだ」と言うと、パーシーは「私の頭は正常です」と返した。
1911年2月6日。パーシーは王立地理学協会で講演し、「アマゾンには失われた文明が眠っている」と発表した。会員たちから嘲笑が起き、ウィリアム・バークレーが「黄金郷の議論を蒸し返すのか」と告げた。パーシーは「この目で古代文明の痕跡を見た」と言い、物証としてジャングルから持ち帰った土器の破片を取り出した。「ただの鍋と窯が見つかっただけだ」と馬鹿にする声が上がると、パーシーは「ジャングルから戻った後、征服者時代の文書に出会った。失われた都市との遭遇が書かれていた。ダブリン大学で妻が発見した。書き主は1753年のポルトガルの兵士だ」と述べた。
パーシーは失われた古代都市を「Z」と呼び、「必ずある。だから探すのだ」と熱く語った。マリーが「一緒にアマゾンへ戻って栄光を掴もう」と立ち上がり、パーシーはコスティンも誘った。ニーナも同行を希望し、「星座や航海術を学んだ。現地の歴史にも詳しくなった。文書を見つけたのも私」と訴える。しかしパーシーは「あの地は女には向かない」と認めず、ニーナが反発しても受け入れなかった。ニーナは身勝手な主張に腹を立てるが、パーシーの考えは変わらなかった。
1912年5月。パーシーたちはアマゾンの未開地を移動するが、マリーは体力不足で簡単に音を上げた。探検隊は人食い部族に襲われるが、パーシーが族長と交渉して集落に受け入れてもらう。しかしマリーは集落に入ることを嫌い、別行動を取った。古代都市についてパーシーが尋ねると、族長は上流の住民に助けてもらうよう勧めた。集落を出たパーシーたちは、道に迷って足に怪我を負ったマリーを発見した。マリーは家族から探検隊に届いた差し入れの食糧を、全て食べ尽くしていた。
マリーは「しばらく休む」と言い出すが、パーシーは身勝手を許さず筏に乗せた。マリーが軽率な行動を取ったせいで、食糧の3分の1が川に落ちてしまった。パーシーは足手まといのマリーに我慢できず、「野営地まで退却しろ。案内人と最後の馬、分割した食糧を与える」と通告した。マリーと別れた後、探検隊は先へ進もうとする。しかしマリーが立ち去る際、残った食糧を油まみれにして台無しにしていた。パーシーはコスティンたちに説得され、これ以上の探検を断念した…。脚本&監督はジェームズ・グレイ、原作はデヴィッド・グラン、製作はデデ・ガードナー&ジェレミー・クライナー&アンソニー・カダガス&ジェームズ・グレイ&デイル・アーミン・ジョンソン、製作総指揮はブラッド・ピット&マーク・バタン&マーク・ハッファム&フェリペ・アルジューレ、製作協力はルカ・ボルゲーゼ、撮影はダリウス・コンジ、美術はジャン=ヴィンセント・プゾス、編集はジョン・アクセルラッド、衣装はソニア・グランデ、音楽はクリストファー・スペルマン、音楽監修はジョージ・ドラクリアス&ランドール・ポスター。
出演はチャーリー・ハナム、ロバート・パティンソン、シエナ・ミラー、トム・ホランド、アンガス・マクファーデン、フランコ・ネロ、エドワード・アシュレイ、クライヴ・フランシス、イアン・マクダーミド、マシュー・サンダーランド、ヨハン・マイヤーズ、ダニエル・ハットルストーン、ハリー・メリング、ペドロ・コエロ、アレクサンダー・ヨヴァノヴィッチ、エレナ・ソロヴェイ、ボビー・スモールドリッジ、トム・マルヘロン、ナサニエル・ベイツ・フィッシャー、マーレイ・メルヴィン、マイケル・ジェン、マイケル・フォード=フィッツジェラルド、フランク・クレム、ビーサン・クーンバー、デヴィッド・カルダー他。
デヴィッド・グランのノンフィクション書籍『ロスト・シティZ 探検史上、最大の謎を追え』を基にした作品。
脚本&監督は『トゥー・ラバーズ』『エヴァの告白』のジェームズ・グレイ。
パーシーをチャーリー・ハナム、ヘンリーをロバート・パティンソン、ニーナを シエナ・ミラー、コスティンをトム・ホランド、マリーをアンガス・マクファーデン、ゴンドリスをフランコ・ネロ、マンリーをエドワード・アシュレイ、ケルティーをクライヴ・フランシス、ゴールディーをイアン・マクダーミドが演じている。製作したパラマウント・ピクチャーズとプランBエンターテインメントから監督のオファーを受けた時、ジェームズ・グレイは戸惑ったそうだ。
冒険映画の監督経験が無いため、なぜ自分を起用しようと思ったのかが理解できなかったのだ。
結果としてジェームズ・グレイの起用は、ある意味では正解だし、ある意味では間違いだった。
この作品のような内容やテイストを望んでいたのなら、彼で正解だろう。
しかし興行的なことを考えると、大きな間違いだったと言わざるを得ない。改変の必要はあるが、原作は冒険活劇に出来そうな題材でもある。しかし「出来る限り事実に忠実な映像化」という方針を採用した場合、ハッピーエンドは無い。
どうやら製作サイドは、「冒険映画」よりも「伝記映画」の部分に重きを置いて映像化することにしたようだ。
ただし全てが事実に即しているわけではなくて、かなり多くの改変が行われている。
パーシーが古代文明の存在を確信するようになる経緯からして、事実とは異なる。Zを探すための最初の探検は、事実では1912年ではなく終戦後の1920年。マリーが参加した探検は、実際にはZの捜索ではなく地図作成が目的だった。だからなのか、冒険映画では付き物と言ってもいいワクワク、ハラハラ、ドキドキも、本作品では皆無に等しい。活劇の爽快感や楽しさも無い。
ただ、それにしたって、あまりにも重苦しくて陰気だ。
パーシーが土器を見つけて「黄金都市は実在したんだ」と確信するシーンでさえ、ちっとも高揚感が伝わって来ないのである。パーシーは土器を見つけて興奮しているはずだが、すぐに「黒豹を目撃して避難する」という行動に入るので、あっという間に興奮が冷めちゃうし。
船や帰路のシーンを描いて、そこでパーシーの興奮を改めて表現するような作業も無いし。パーシーは「勲章には興味が無い」と言っているが、実際は勲章が欲しくてたまらない人だ。勲章そのものが欲しいと言うより、栄誉が欲しいのだ。そんな野心のために、パーシーは探検の任務を引き受けている。
ただ、前提となる「父のせいで良い仕事を与えてもらえず、正当な評価が得られていない」「自分のせいではないのに理不尽な扱いを受け、忸怩たる思いを抱えている」という描写が弱い。
あと台詞からすると父だけでなく祖先にも問題があるみたいだが、その辺りは詳細が分からないし。
だったら最初から、そんな要素は丸ごとカットで触れなくてもいいよ。もっと言っちゃうと、測量と水源調査を目的とする最初の探検が終わるまでに、多くの時間を使い過ぎなのよね。
肝心なのは、黄金都市を見つけるための探検のはずで。そして最初の探検は、黄金都市の伝説を知り、それが実在すると確信するための手順であって。
言ってみりゃプロローグみたいなパートなんだから、もっと短くまとめてしまえば良かったんじゃないかと。
トータルの上映時間から逆算すると、何なら黄金都市を目指す冒険から話を始めて、最初の探検には回想で触れるような形にしてもいいだろうし。パーシーはパナマ号で移動中、荷物を盗もうとした男に気付いて銃で脅す。尾行するコスティンに気付いて捕まえ、出航1週間後に声を掛けて来た理由を尋ねる。
ゴンドリスのオペラ劇場に足を踏み入れ、隊員の貸し出しについて交渉する。筏で移動中は原住民に襲われたり、隊員が食糧を巡って反旗を翻したりする。
そういう諸々の手順って、必要性に疑問を覚えるんだよね。
どうせ後の展開には繋がらないし、前述したようにプロローグ的なパートで起きる出来事ばかりなんだから。物語の焦点を絞り切れていないんじゃないかと。講演のシーンでは、ニーナが「妻として一緒に壇上に」と希望し、会員に「上がれるのは男性のみ」と却下される様子が描かれる。この後、そんな女性差別の状況が変化することは無い。
ニーナが探検への同行を希望し、パーシーに却下されるシーンもある。パーシーが「君は妻だ、残ってくれ。そもそも子供たちはどうなる?常識で考えてくれ」と言い、ニーナは「貴方に言われたくない。遠征中、私一人で家族を養ったのも常識なの?私だって女性として活躍したい」と反発する。
それに対し、パーシーは「男と女は昔からずっと、役割を分担して来た」と古い価値観を押し付ける。この後、パーシーが謝罪したり、考えを改めたりすることは無い。
何の着地もさせずに放り出すのなら、中途半端にジェンダー問題を持ち込まない方がいいだろ。2度目の探検は、ザックリ言うと「足手まといのマリーのせいで失敗しました」ってことが描かれるだけ。何の成果も得られず、徒労感で終わっている。
そしてパーシーが帰国すると、マリーは「置き去りにした」と主張して公式な謝罪を要求する。
真実が露呈してマリーが痛い目を見ることは無いので、ただストレスが溜まるだけの展開だ。
その後で「マリーは北極探検に参加して音信不通になった」ってことが語られるけど、溜飲が下がるようなモノではない。パーシーは謝罪を拒否し、マリーの肩を持つ協会を抜ける。そこから「パーシーが3度目の探検に出発する」という展開に入ることはなく、戦争に突入する。
戦争が終わると、パーシーはジャックに誘われて3度目の探検に行くことを決める。
しかしコスティンは「今は妻と幼い子供がいる」と同行を断り、「そこまでの価値があるのか」と口にする。
そして実際、「そこまでの価値があるのか」という言葉に納得できる結果になっているんだよね。実話なのでネタバレもクソも無いだろうが、パーシーは3度目の探検で行方不明になっている。何の達成感も無いままで、映画は終わっている。
映画の最後で「彼の仮説は百年近く、一笑に付された。しかし21世紀初頭、アマゾンのジャングルから道路網や濃厚集落の遺跡が見つかった。その内の1つは、彼がZと呼んだ場所だった」とテロップを出して、「やはりパーシーの探検は間違いじゃなかった。意味があった」と思わせるようにしている。
でも、そんなテロップを出しても、パーシーが偉大で立派な人物だったという印象は全く受けないよ。
パーシーは簡単に言うと、幻の黄金都市に取り憑かれて人生を狂わせた人間なのよ。(観賞日:2024年4月7日)