『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』:2003、アメリカ
ワーナー・ブラザースの短編アニメーション『ルーニー・テューンズ』シリーズで、ダフィー・ダックはバッグス・バニーの引き立て役ばかりを要求されてきた。腹を立てた彼は重役会議に出席し、社長たちに抗議する。そこへバッグスが現れ、「ダフィーの言う通りだ。僕は休暇でも取るよ」と余裕の態度を示した。コメディー部の部長を務めるケイトは、「バッグス・バニーがいないとシリーズの製作は無理です」と口にする。彼女は重役たちにデータを示して、バッグスの人気が絶大でダフィーとは比較にならないことを説明した。ダフィーは憤慨し、「どちらを取るか選んでくれ」と社長に迫る。社長は迷わずバッグスを選び、ダフィーにクビを通告した。
一方、ワーナー・ブラザーズで警備員とした働くDJ・ドレイクは、スタントマン採用試験を受けていた。しかし彼は大失態をやらかし、不合格を確信した。DJの父親はスパイ映画の主演を務める人気俳優のダミアンで、先輩警備員は「仕事なら父親に頼めばいいのに」と口にする。しかしDJは彼に、「コネじゃなくて自分で勝ち取りたい」と告げる。ケイトは抵抗するダフィーの腕を掴み、DJを見つけると「このカモを追い出して」と告げる。ダフィーが隙を見て逃亡すると、ケイトはDJに捕まえるよう指示した。
ダフィーは『バットマン』の撮影現場に入り込み、バットモービルを勝手に動かそうとする。DJは彼を捕まえるが、バットモービルが動き出したことに全く気付かなかった。バットモービルがセットに激突して大きな被害が出てしまい、DJはクビを通告された。ケイトはバッグスに、ブランド価値を高める戦略について話そうとする。するとバッグスは「ダフィーは必ず戻ってくる」と言い、彼女にダフィーの必要性を語った。
DJが父と同居している家に戻ると、鞄に隠れていたダフィーが飛び出した。DJは出て行くよう要求するが、ダフィーは耳を貸そうとしなかった。リモコンから電話の呼び出し音がしたので、DJは困惑しながらボタンを押した。すると壁の絵が開いてモニターにダミアンが現れ、「ラスベガスに来て、ブルー・モンキーという特別なダイヤの在り処をダスティー・テイルズに聞け」と語る。ダミアンは誰かと戦っており、DJが「警察に電話しようか?」と尋ねると「警察は駄目だ」と言う。彼は「今まで内緒にしていて悪かった」と述べ、映像は切れてしまった。
DJは父の危機だと察し、すぐに出掛けることにした。ダイヤで金持ちになれると目論んだダフィーは、彼が運転するオンボロ車に同乗した。DJはダフィーを追い出そうとするが、何度ゃっても戻って来るので諦めた。ダフィーがいなくなったバッグスの主演作を見た社長は、ケイトにクビを通告する。ケイトが反論すると、社長は月曜までにダフィーを連れ戻すよう命じた。バックスはダフィーに電話を掛け、「君の仕事が取り戻せそうだ」と言う。しかしブルー・モンキーのことで頭が一杯のダフィーは、話を聞かずに電話を切った。
電話を盗聴していたアクメ社のスミスは、会長のチェアマンに報告した。チェアマンは重役たちに、「ダミアンの息子を捕まえて、ダイヤの力で陰謀を実現する」と語った。彼は本物のスパイであるダミアンを捕まえ、情報を聞き出そうとしていた。ケイトがダフィーの居場所を聞くためDJの家を訪れると、先にバッグスが来ていた。DJがダミアンの息子だと知ったケイトは、自分の失敗を理解した。バッグスはDJとダフィーがラスベガスへ行ったことをケイトに教え、一緒に追い掛けようと提案した。バッグスはダミアンのスパイカーを発見しており、ケイトと共にラスベガスへ向かった。
ラスベガスにはヨセミテ・サムが経営するカジノがあり、歌手のダスティーがショーをやっていた。チェアマンはサムの元へスミスを派遣し、DJとダフィーを捕まえるよう頼んだ。ダスティーに接触したダミアンは、事情を説明する。ダスティーは自分がCIAの殺し屋だと明かし、ダミアンの任務はチェアマンより先にブルー・モンキーを見つけることだと教える。ブルー・モンキーには超自然パワーがあり、悪の手に落ちれば大惨事が起きるのだと彼女は説明した。
ダスティーはDJに「ダミアンへの預かり物よ」と言い、トランプのクイーンを見せた。そこへサムたちが来て襲い掛かったため、DJはカードを持ってダフィーと共に楽屋から脱出する。彼らはカジノを飛び出すが、オンボロ車は壊れて使えなくなった。DJとダフィーが必死に走っていると、ケイトとバッグスに遭遇した。DJはスパイカーを運転し、追跡するサム一味から空を飛んで逃走する。しかし車は急降下してガス欠になり、地面に激突して破損した。一行は野営し、DJはケイトに事情を説明した。
翌朝、DJたちは無人の荒野を歩き、ウォルマートに立ち寄った。チェアマンはサムから報告を受け、砂漠工作員のワイリー・コヨーテを使うことにした。コヨーテはネットでミサイル・ランチャーを購入するが、配送された箱の下敷きになり、攻撃にも失敗して自滅した。DJたちは秘密施設のエリア52に迷い込み、マザーと呼ばれる科学者に会う。マザーはDJを知っており、ダミアンから聞いていたと言う。チェアマンはエリア52にいるマービン・ザ・マーシャンに通信を入れ、カードを奪うよう命じた。
マザーはDJから「ブルー・モンキーのことを知りたい」と言われ、ダミアン宛てに作られたビデオテープを見せる。その映像を見たDJは、チェアマンがブルー・モンキーを使って全人類を奴隷に変えて粗悪なアクメ製品を買わせ、再び人間に戻して購入させようと目論んでいることを知る。ダイヤを破壊してチェアマンの陰謀を阻止する任務を、ダミアンは命じられていた。DJが父の任務を引き継ぐ意思を口にすると、マザーはスパイ道具を渡した。
カードについてDJが尋ねると、マザーは「微笑みの向こうにある物への窓」という暗号を教えた。マービンは捕まっていた複数の異星人を解放し、DJたちを襲わせる。DJたちはエリア52から脱出し、カードの意味について考える。クイーンはモナリザの顔になっており、一行はパリのルーブル美術館へ向かう。美術館に着いたDJはカードが二重になっているのに気付き、表面の部分を剥がす。するとカードは窓のようになっており、それをかざしてモナリザの絵を見るとアフリカの地図が浮かび上がった。
DJたちは携帯で地図を写真に収めるが、そこへ猟銃を持ったエルマー・ファッドが来てカードを渡すよう要求した。バッグスとダフィーはエルマーを翻弄するが、その隙にスミスがケイトを麻袋に入れて連れ去った。DJはスミスはエッフェル塔へ行き、ケイトから携帯電話を奪ってヘリコプターで逃亡した。DJが落胆していると、バッグスは密かに確保してあった地図のカードを差し出す。一方、チェアマンの手に入れた映像にはダフィーが大きく写っており、地図が示すブルー・モンキーの在り処は分からなかった。
チェアマンはブルー・モンキーを手に入れるため、獰猛なタスマニアン・デビルを使うことにした。DJたちがアフリカの密林を進んでいると、グラニーたちが旅行に来ていた。DJたちはグラニーの象に乗せてもらい、遺跡に辿り着いた。遺跡に入った彼らは罠を回避し、ブルー・モンキーを手に入れる。するとグラニーたちに化けていたチェアマン&スミス&タスマニアン・デビルが正体を現し、転送装置を使ってアクメ社へ飛ばす…。監督はジョー・ダンテ、脚本はラリー・ドイル、製作はポーラ・ワインスタイン&バーニー・ゴールドマン、製作総指揮はクリス・デファリア&ラリー・ドイル、撮影はディーン・カンディー、美術はビル・ブルゼスキ、編集はマーシャル・ハーヴェイ&リック・W・フィニー、衣装はメアリー・フォクト、アニメーション・プロデューサーはアリソン・アバーテ、アニメーション・ディレクターはエリック・ゴールドバーグ、視覚効果監修はクリス・ワッツ、音楽はジェリー・ゴールドスミス。
出演はブレンダン・フレイザー、ジェナ・エルフマン、スティーヴ・マーティン、ヘザー・ロックリア、ティモシー・ダルトン、ジョーン・キューザック、ビル・ゴールドバーグ、マーク・ローレンス、ビル・マッキニー、ジョージ・マードック、ロン・パールマン、ロバート・ピカード、レオ・ロッシ、ヴァーノン・G・ウェルズ、メアリー・ウォロノフ、ドン・スタントン、ディック・ミラー、ロジャー・コーマン、ケヴィン・マッカーシー、ジェフ・ゴードン、マシュー・リラード、アーチー・ハーン他。
声の出演はジョー・アラスキー、ジェフ・グレン・ベネット、ビリー・ウエスト、エリック・ゴールドバーグ、ブルース・ラノイル、ジューン・フォーレイ、ボブ・バーゲン、ケイシー・カセム、フランク・ウェルカー他。
ワーナー・ブラザースが製作した短編アニメーション『ルーニー・テューンズ』シリーズの人気キャラクターが集合する映画。
監督は『グレムリン2/新・種・誕・生』『スモール・ソルジャーズ』のジョー・ダンテ。
脚本は『おまけつき新婚生活』のラリー・ドイル。
DJをブレンダン・フレイザー、ケイトをジェナ・エルフマン、チェアマンをスティーヴ・マーティン、ダスティーをヘザー・ロックリア、ダミアンをティモシー・ダルトン、マザーをジョーン・キューザック、スミスをビル・ゴールドバーグが演じている。
アクメ会の重役として、ロン・パールマンやメアリー・ウォロノフが出演している。ワーナー・ブラザースは1996年、マイケル・ジョーダンとバッグス・バニーがダブル主演を務める実写とアニメの合成作品『SPACE JAM』を公開した。
個人的にはポンコツ映画だと思っているが、興行的にはヒットした。どうやらワーナー・ブラザースは、それに気を良くしたらしく。
ってなわけで、とても分かりやすく2匹目のドジョウを狙って作ったのが、この映画だ。
アンクレジットだが、『SPACE JAM』に続いてマイケル・ジョーダンも本人役で出演している。この映画は、『ルーニー・テューンズ』のキャラクターと人間たちが同じ世界で暮らしている世界観になっている。
つまり、バッグスとダミアンは、同じように「ワーナー・ブラザーズの大スター」ってことになるわけだ。
ただ、劇中で引用される『ルーニー・テューンズ』は2Dのベタ塗りセルアニメなのに対し、DJたちと絡むキャラクターは陰影を付けた3Dとして表現している。
実写の人間と出来るだけ馴染ませるための工夫ではあるのだが、それに伴ってセルアニメとの違いが生じてしまい、やや不自然さが出ている。ジョー・ダンテは『グレムリン2/新・種・誕・生』を撮った時、本編と何の関係も無いのにオープニングとエンディングでバッグス・バニーやダフィー・ダックを使って自由に遊んでいた。
そのアニメーション製作を、彼はワーナー・ブラザースで多くのアニメを手掛けたチャック・ジョーンズに頼んでいた。
それぐらい、彼は『ルーニー・テューンズ』が大好きな人なのだ。
だからワーナー・ブラザーズが「彼なら本作品の監督に適任」と考えたとしても、充分に理解できる。しかし1つワーナーが大きな考え違いをしていたのは、ジョー・ダンテはマニア魂をコントロールできない人ってことだ。
ジョー・ダンテが『ルーニー・テューンズ』の大ファンであることは、紛れも無い事実だ。
しかし、彼は『グレムリン2/新・種・誕・生』でも分かるように、白紙の委任状を渡してしまったら好き放題に遊びまくる人だ。好きな物を与えて野放しにすると、簡単にタガが外れてしまうのだ。
だから本作品でも、全体のバランスやストーリー展開、話のまとまりを完全に無視し、マニアックな趣味に走っている。普通に人気キャラと俳優たちの共演を描けばいいんだけど、そこは何しろジョー・ダンテなので、一筋縄ではいかない。
彼の愛情表現はひねくれているし、脱線したって全く気にしない人だ。
だから自分の好きなキャラを使ったりパロディーを放り込んだりして、好き放題にやっている。
「いかにもカートゥーンっぽいギャグやドタバタを実写でやる」ってのも1つの趣向として持ち込まれているが、そんなことよりもジョー・ダンテのマニアックな情熱が存分に溢れ出しているってのが観賞ポイントだね。ケイトは『Lethal Weapon Babys』という映画をヒットさせているが、これはワーナー・ブラザーズが製作した『リーサル・ウェポン』を子供でも見られるようにした作品という設定だ。
ダミアンは『License to Spy』というスパイ映画の主演スターの設定だが、もちろんティモシー・ダルトンが主演していた007シリーズのセルフ・パロディーだ。
ひょっとすると他にも色々な映画のネタが持ち込まれているのかもしれないし、ボンクラな私が見落としている可能性は充分に考えられる。ケイトがDJの家で浴室のシャワーカーテンを開けた時、バッグスがシャワーを浴びている。
このシーンはモノクロのアニメーションで描かれ、『サイコ』のパロディーになっている。
カメラワークやカット割りは『サイコ』と同じにしてあり、バッグスが浴槽に倒れ込んで血の代わりにチョコシロップを排水溝に流している。
ちなみに『サイコ』はワーナー・ブラサーズ製作じゃなくてパラマウント映画の作品だけど、そこは別にこだわっていないようだ。ケイトがバッグスと話す食堂では、ポーキー・ピッグがスピーディー・ゴンザレスと話している。隣のテーブルでは、マシュー・リラードが『スクービー・ドゥー』のシャギーから「君の演技は何だよ。続編でも同じだったら承知しないぞ」と怒りをぶつけられ、スクービーも同席している。
DJの家の隣人はグラニーで、飼われているトゥイティーをシルベスター・キャットが狙っている。ダスティーのショーでは、フォグホーン・レグホーンが司会を務めている。
DJがケイトを拉致したスミスを追い掛ける時、ペペ・ル・ピューやパパ・ベア&ベイビー・ベア(熊の親子)にも会う。スミスはケイトから携帯を奪い、ビーキー・バザードの操縦するヘリコプターで逃亡する。
このように、『ルーニー・テューンズ』のキャラクターが色んな場所で登場している。『ルーニー・テューンズ』以外にも、著名人や映画のキャラクターが登場する。
サムたちはカジノから逃げ出したDJたちを追う際、当時はNASCARドライバーだったジェフ・ゴードンの車を奪う。
DJたちがエリア52に入ると、マザーは『禁断の惑星』のロビー・ザ・ロボットを連れている。
施設では『宇宙水爆戦』のメタルーナ・ミュータント、『惑星Xから来た男』の宇宙人、『人類SOS!』のトリフィド、『顔のない悪魔』の脳、『ドクター・フー』のダーレクが捕まっており、『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』のマイルズ・ベネルを演じるケヴィン・マッカーシーが連行されていく。
ダミアン宛てに作られたビデオテープには『スパイ大作戦』のピーター・グレイブスが登場し、任務を説明する。DJはワーナー・ブラザーズの警備員で、スタントマンを目指している。バッグスはワーナーのスターで、ダミアンも同じくスター。
そこまでのキャラクター設定が揃っているのだから、ワーナー・ブラザーズの映画やドラマを作っている撮影現場を舞台にして話を構築すればいいんじゃないか。そうすればワーナー・ブラザーズのネタを使った楽屋落ちもやりやすいし、多くの役者や監督など映画関係者を本人役でゲスト出演させることも難しくない。
色んなことを考えると、メリットしか思い付かない。
「ダイヤを巡って悪と戦う活劇」ってことで、簡単に撮影現場から離れてしまうのが、ものすごく勿体ないと感じるのよ。撮影現場であっても、活劇やドタバタ喜劇を描くのは決して難しい作業じゃないよね。
これが「もう『SPACE JAM』でやってるから」ってことならともかく、そうじゃないんだし。
ルーブル美術館のシーンでは「バッグスたちが絵の中に入り込む」というドタバタをやっているけど、それよりも「ワーナーの実写映画にバッグスたちが入り込む」とか「ワーナーのアニメにDJたちが入り込む」ってのをやった方が面白いんじゃないかと思うし。
もちろん、ルーブルでバッグスたちが逃げ込むのもダリの『記憶の固執』やムンクの『叫び』のように有名な絵画ではあるけど、この映画を見る人からするとワーナー作品の方が馴染み深いはずだし。(観賞日:2020年6月16日)