『リトル・シングス』：2021、アメリカ
1990年10月、深夜に運転していたティナ・サルヴァトーレは、一台の車に煽られた。運転手の男は、ティナがスピードを上げても執拗に追い掛けて来た。ティナはガソリンスタンドを見つけ、車を停めて逃げ込む。しかし店は閉まっており、誰もいなかった。男は車を停めてトランクを開け、道具を用意して殺人の準備に取り掛かる。ティナは茂みへ走り、身を隠した。道路に大型トラックが通り掛かったので、ティナは飛び出して運転手に助けを求めた。
現在。カーン郡の巡査を務めるジョー・“ディーク”・ディーコンは、ヘンリー・デイヴィス署長に呼ばれた。ディヴィスはディークに、「強盗犯のケンドリックがロサンゼルスにいる。明後日の予備審問のために、血の付いたブーツを目撃者に確認させるために借りて来い」と指示した。ロサンゼルス郡保安局科学捜査課の血清検査室を訪れたディークは、担当者に書類を見せた。担当者は「持ち出しには殺人課の許可が必要です」と言い、カール・ファリス署長が検査中だと説明した。
ディークは殺人課へ赴き、旧知のファリスと会った。ファリスはディークを歓迎せず、明朝の検査が終わってから帰れと告げた。ディークは元同僚のロジャースと挨拶を交わし、ジム・バクスター刑事の記者会見を見学した。ロサンゼルスでは４人の女性が立て続けに殺される事件が発生しており、捜査に進展が無いため警察は批判を受けていた。ディークが警察署を出ると、元同僚のサル・リゾリが「伝説の男じゃないか」と冗談めかして声を掛けた。サルはディークを誘い、ダイナーに向かった。ジムはロジャースに「サルと一緒にいる男は？」と尋ね、それがディークだと聞いて驚いた。
ジムはダイナーへ行き、ディークに「俺の嫌がらせに来たのか」と鋭い口調で言い放った。ディークは落ち着き払った態度で、「捜査は順調だと世間は騙せても、事件は続くぞ」と指摘した。事件発生の連絡を受けたジムは、ディークに「アンタも来るか。意見を聞きたい」と告げた。ディークたちがアパートへ行くと、ジュリー・ブロックという女性が自宅で殺されていた。遺体は頭から袋を被せられ、何者かに噛まれた跡があった。現場には鑑識が入っており、ディークは旧知のフロ・ダニガンと再会した。「終わるまでいて」と言われた彼は、「分かった」と答えた。
ディークは向かいの建物に行き、空き部屋に入った。彼はジュリーの部屋を眺めながら、サルと共に２人の全裸女性の遺体を屋外で発見した時のことを思い出した。ジムは部下のジェイミー・エストラーダに、覗きの前科者を洗い出すよう指示した。「他に噛まれた子は？」とディークが質問すると、ジェイミーが「キャリー・ホランド」と答える。ジムが「それが？」と訊くと、ディークは「管轄で似た事件があった」と告げた。
翌朝、ジムはディークに、覗きの前科がある性犯罪者のスタン・ピーターズを逮捕したことを伝えた。ジムはディークに見学させ、スタンを取り調べる。ジュリーの写真を見せられたスタンは、殺しを否定する。ジムはディークの指示で、「メアリー・ロバーツの話を」と彼に言う。驚いたスタンは、ディークが見ているマジック・ミラーに近付いた。取り調べの後、ディークはジムから「メアリーとは？」と質問され、「殺された女性だ」と答えた。「奴が犯人？」とジムが訊くと、彼は「さあな。旧友に挨拶しただけだ」と述べた。「以前、顎を砕いたとか」とジムが言うと、ディークは「犯人を見つけるためだ」と語った。
ジムはジェイミーに、メアリー・ロバーツの資料を請求するよう指示した。ジェイミーは行方不明になったロンダ・ラスバンの両親が来ていることを彼に報告し、「娘は死んでるかもと」と告げる。しかし遺体は見つかっておらず、ジムは「だったら行方不明だ」と述べた。ディークは科学捜査課へ出向き、フロからジュリーの遺体に関する情報を聞いた。フロが「似た事件なんて嘘。何をするつもり？」と訊くと、ディークは答えなかった。フロは彼に、「資料は渡すけど、何かあれば次は庇えない」と言う。彼女は「貴方の目に見えるのは善じゃない」と指摘し、かつて自分たちがしたことの戒めに言及した。
ディークはジュリーの部屋へ赴き、アパートの管理人から１週間前に冷蔵庫が故障したこと、近くの電器店に修理を依頼したが事件でそれどころではなくなったことを聞いた。翌日、ジムはファリスから、スタンが自殺したことを知らされた。ファリスはジムに、「ディークは５年前に飛ばされた。捜査にのめり込み過ぎて、半年の間に停職と離婚と心臓手術。奴は疫病神だ。関わるな」と警告した。ディークは電器店を訪れ、店主に修理台帳を見せてもらって従業員リストを借り受けた。
夜、ジムは遺体が発見された河原へ赴き、ロンダかどうか確認する。そこへ休暇を取って事件を追っているディークが現れ、「別人だ」と断言した。彼はジムに従業員リストを渡し、調べるよう促した。翌朝、ディークは元妻のマーシャを訪ね、子供について会話を交わした。ジムはジェイミーから、メアリー・ロバーツとペイジ・キャラハンとタマラ・ユーイングが同じ日に同じ場所で薬漬けで刺殺された娼婦だという情報を知らされた。
夜、ジムはディークに、「被害者は６人。ジュリーは自宅だが、他は自宅から離れた場所で発見されている」と話す。ディークは「犯人は車で運んでいる」と言い、犯人は殺人を快楽と捉えているのだと話した。「なぜ５年前の事件を追ってるんだ？」とジムが尋ねると、彼は５年前の事件現場へ連れて行き、遺体を発見した時のことを詳しく語った。ディークはジムに、「証拠を調べたが成果はゼロで諦めるしかなかった。どんな理由であっても被害者への責任を感じ、無念を晴らそうとする。助言する。天使になるな」と語った。
ジムが「アンタの目的は何だ？」と訊くと、ディークは「終わらせるためだ」と答えた。「５年前の犯人は娼婦を狙ったが、今回は違う」とジムが言うと、彼は「５年前は練習だったのかもしれない」と述べた。ジムは彼に、「リストに逮捕歴のある人物が２人いたが、いずれも単純暴行だ。アンタの勘は外れてると思う」と語った。ディークは「ジュリーは何を食べた？」と尋ね、「ローストビーフだ。なぜ？」とジムが告げると「小さなことが重要だ。小さなことが命取りになる」と答えた。
ディークは逮捕歴のあったアルバート・スパーマのアパートへ行き、彼の車を調べた。ゴミを捨てるために外へ出て来たスパーマが声を掛けると、ディークは「売り出し中の紙が」と語る。スパーマが「その車じゃない」と言うと、ディークは車を欲しがっているように装う。彼はスパーマが捨てたゴミ袋を密かに盗み、その場を去った。ディークはサルに電話を掛けてスパーマを調べるよう頼み、ゴミ袋の中身を調べて食べ掛けのピザに着目した。彼はフロにピザを持ち込み、歯型を調べてもらう。フロはディークに、「一部は被害者の噛み跡と合致するけど、充分じゃない」と告げた。
ディークはスパーマを尾行し、ローストビーフの店やストリップクラブに通っていることを知った。彼はスパーマを車で尾行し、高速道路に入った。スパーマは尾行に気付いて車を停め、余裕の態度でディークに声を掛けた。サルはジムに、「スパーマの車は２週間前に撤去されてるが、盗難届は出ていない」と知らせた。ジムはジェイミーに、「ディークと一緒にスパーマを連行しろ」と指示した。ジェイミーから証人のティナが来ていることを知らされた彼は、待たせておくよう告げた。
ジムが指紋を分析してもらうと犯人との合致は11ヶ所で、郡と市警の規定には満たなかった。トイレへ赴いたティナは、手錠を掛けられて連行されてくるスパーマを目撃した。取調室に入ったスパーマは、ジムの尋問に余裕を示して殺人を否定した。ディークは激高して暴力を振るいそうになり、取調室から追い出された。ティナは手錠で先入観を持ったため、面通しは無意味になった。ファリスはジムに、月曜日からFBIが捜査を担当すると通告した。ディークはスパーマが犯人だと断定し、ジムを説得して協力を要請する。ジムはスパーマに電話を掛けて外へ呼び出し、その間にディークが部屋へ忍び込んで証拠を見つけようとする…。脚本＆監督はジョン・リー・ハンコック、製作はマーク・ジョンソン＆ジョン・リー・ハンコック、製作総指揮はマイク・ドレイク＆ケヴィン・マコーミック、共同製作はドナルド・Ｌ・スパークス、撮影はジョン・シュワルツマン、美術はマイケル・コーレンブリス、編集はロバート・フレイゼン、衣装はダニエル・オーランディー、音楽はトーマス・ニューマン。
出演はデンゼル・ワシントン、ラミ・マレック、ジャレッド・レト、クリス・バウアー、マイケル・ハイアット、テリー・キニー、ナタリー・モラレス、イザベル・アライザ、ジョリス・ジャースキー、グレン・モーシャワー、ソフィア・ヴァジリーヴァ、ジェイソン・ジェームズ・リクター、ジョン・ハーラン・キム、フレデリック・コーラー、ジュディス・スコット、マヤ・カザン、ティファニー・ゴンザレス、アナ・マッキトリック、シェイラ・ホーラハン、エボニー・Ｎ・マヨ、マット・モリソン、オリヴィア・ワシントン、キフ・ヴァンデンホイヴェル、Ｊ・ダウニング、ショーン・スパン他。
『アラモ』『しあわせの隠れ場所』のジョン・リー・ハンコックが脚本＆監督を務めた作品。
ディークをデンゼル・ワシントン、ジムをラミ・マレック、スパルマをジャレッド・レト、サルをクリス・バウアー、フロをマイケル・ハイアット、ファリスをテリー・キニー、ジェイミーをナタリー・モラレス、ジムの妻のアナをイザベル・アライザ、ロジャースをジョリス・ジャースキー、デイヴィスをグレン・モーシャワー、ティナをソフィア・ヴァジリーヴァが演じている。ファリスはディークを歓迎しておらず、早く帰るよう要求している。その一方で、「明朝の検査が終わってから帰れ」と指示する。
自分が再確認のために命じた検査だから、それが終わってからブーツを引き渡すってのは当然っちゃあ当然だ。ただ、そもそも再確認する理由も良く分からないんだよね。
もっと言っちゃうと、それって今回の一件に何の関係も無いのよ。それは「ディークが翌日まで留まる」という理由を用意するために使っているだけの設定だ。
そのせいで、ファリスの行動の整合性に問題が生じている。
だったら、ディークが翌日まで留まらなきゃいけなくなる理由は、他のトコで用意した方がいいでしょ。ディークは血清検査室を訪れた時、勝手に証拠品を調べようとしている。最初から捜査に首を突っ込む気が満々なのだ。ジムから「アンタも来るか」と言われた時も、全く迷わずに同行しているし、自ら率先して向かいの建物を調べに出向いている。
でも、それよりは「最初は事件の捜査と距離を置こうとするが、半ば巻き込まれる形で過去と向き合うことに」みたいな流れの方が良くないか。
どうやらディークは今でも５年前の事件を追っている設定みたいだけど、そうなると「なんで今までは動かなかったのか」と言いたくなるし。
連続事件の発生は知っていたのに、上司の命令でロスへ行くまでは何も行動を起こしていなかったんだよね。ジムはディークを歓迎しておらず、伝説の男とは知っているが尊敬の念も抱いておらず、傲慢な態度で挑発的な言葉も浴びせる。でも翌日になると、ディークの能力を信頼して捜査に協力を求めるようになっている。
だったら最初から、「ディークを知っていて尊敬しており、協力を求める」みたいなキャラにしておいた方がいいだろ。
「大卒のインテリだが現場の経験は乏しく、捜査の指揮に危うい部分がある」みたいな設定でもいい。
ディークとの対比としても、コンビネーションとしても、そっちの方が良かったんじゃないか。ディークがジムを導くという、ある種の師弟関係みたいなコンビになるんだし。ディークがジュリーの部屋を向かいの建物から眺めて過去を振り返った後、シーンが切り替わるとジムがジェイミーに覗きの前科者を洗うよう指示する。
もちろん、それはディークが向かいの建物を調べ、「そこから性犯罪者が覗いていたはず」という結論に至ったからだ。
でも、それをディークの行動だけで終わらせるんじゃなくて、ジムに「こういうことだろう」と話すシーンを用意した方がいい。
むしろ、行動は無くてもいいぐらいだし。ジムが「メアリーとは？」と質問し、ディークが「殺された女性だ」と答えるシーンがある。これ、何のことか分かりにくい。
「ディークが過去に担当した類似事件があって、その被害者がメアリー」ってことなんだろうってのは何となく分かるし、実際にその通りだ。ただ、どういう事件なのか、詳しいことは教えてくれない。
そして、そこの情報を隠したままで話を進めていくメリットが、何も見えない。
早い内に情報を出した方が、絶対に得策だわ。どうせディークが類似事件を担当していたことは、ジュリーの部屋を眺めるシーンの回想パートだけでも伝わるんだし。ディークはスタンについて、殺人犯ではないと断言している。そうであるならば、彼が取り調べで精神的に追い詰められて自殺したのは、明らかにディークのせいだ。しかしディークは、スタンの自殺に対して何の罪悪感も抱かない。
これはジムも同様で、彼もディークの言葉を伝えた以上は同じ穴のムジナと言えるわけだが、スタンの自殺を知らされても全く気にしていない。
「どうでもいい奴が消えただけ」とでも言わんばかりに、軽く流している。それはダメだろ。
そりゃあスタンは前科持ちで覗きという罪は犯しているけど、死がふさわしいほどの悪党とは言えないだろ。ティナは冒頭で「犯人に狙われたが助かった女性」として描かれるが、後半になるまで全く登場しない。
しかも「手錠のスパーマを見たせいで面通しが無駄になる」という流れなので、「何のために登場したのか」と言いたくなる。
そんな扱いに留まるのなら、冒頭は犯人が女性を殺すシーンを描いた方が良かっただろ。
わざわざ女性が殺されずに助かるシーンを描いておいて、存在意義が皆無に等しいような雑な扱いで終わらせるってのは、どういうセンスなのかと。ディークが車でスパーマを尾行して気付かれるエピソードは、「どういうシーンなのか」と困惑してしまう。
少し具体的に流れを書くと、スパーマが停車したのでディークは尾行がバレないように通過する。しばらく走ってからバックすると、スパーマは向かいの道路に停車している。
ディークは車を走らせるが、そこには辿り着かない。するとスパーマがディークの隣に車を移動させ、声を掛けてから走り去る。そういう流れだ。
このシーン、ホントに必要なのかと。
たぶん「いかにもスパーマは怪しい」ってのをアピールする狙いがあるんだろうけど、それよりも「何を描きたいのか良く分からない」という印象が強いわ。あと、スパーマが走っていたのは２人目の被害者が殺された現場なのだが、そんな風に犯人の疑いが濃くなる行動を、わざわざ取る意味がサッパリ分からない。
「絶対に捕まらない自信があり、警察を挑発して嘲笑う」というキャラとして描くのなら、もう少し早いタイミングから挑発的な行動を取っていても良くないか。
捜査線上に浮上するまでは姿を晒したり名前を出したりする必要は無いけど、犯人として何か挑発的なメッセージを出しても良くないか。
なんかディークがスパーマを犯人と決め付けて動き始めてから、急にシフトチェンジしたような印象を受けるんだよね。終盤のネタバレを書くと、ジムはスパーマに誘われて空地へ案内され、「ここに遺体があるから掘ってみろ」と促される。ジムは指示通りに複数の場所を掘るが遺体は見つからず、スパーマは彼を馬鹿にするような態度を取る。
家族の話題で挑発されたジムはカッとなり、彼を殴り付けて殺してしまう。そこへディークが駆け付け、殺人を隠蔽して「スパーマは無罪で町を離れた」ということにする。
田舎に戻ったディークはジムにロンダの髪留めを送るが、それは捏造した証拠品。
そして最後に、５年前の事件で保護を求めた被害者の１人をディークが誤って射殺し、その証拠をフロたちが協力して隠蔽していたことが明らかになる。スパーマがジムに殺されるシーンについては、何となく『セブン』を連想させるモノがある。
まあ厳密に言うと全く違うんだけど、質の悪い模倣に思えてしまう。
ただ、ジムがスパーマの要求に応じて地面を何ヶ所も掘るのは「なんでだよ」と言いたくなるし、スパーマがやたらとジムを馬鹿にして挑発するのは「殺してください」と言っているようにしか見えないし、どっちもバカにしか見えない。
スパーマには「底の見えない不気味な犯罪者」としての魅力が乏しく、ただ調子に乗ったバカが殺されただけにしか思えない。５年前の事件の真実が明らかになると、「ってことは、ディークは自分の犯罪を隠蔽して犯人に全て押し付けるために追っていただけじゃねえか」と呆れてしまう。
ジムには「被害者の無念を晴らすために云々」とか偉そうなことを言っていたが、保身のために動いていただけなのだ。ジムの殺人を隠蔽して偽造した証拠品を用意するのも、彼のためじゃなくて「自分の保身のため」にしか思えないし。
ディークは「天使になるな」とジムに忠告していたけど、被害者を射殺して隠蔽したくせに、自分が天使だと思っていたのかよ。クソじゃねえか。
だったらディークを「正義の皮を被った卑劣な男」として描いているのかというと、どうやら「罪は犯したが善良な男」として描いているらしく、すげえモヤッとするわ。（観賞日：2023年2月11日）