『リトル・マーメイド』:2023、アメリカ

突風で帆船が揺れると、船員のホーキンスたちが人魚の仕業だと言って騒ぎ出した。エリック王子が落ち着くよう諭すと、ホーキンスは「今夜はユーテル・ムーン。海の王が人魚の娘たちを集め、男たちを海の底へ誘い込む」と言う。エリックは迷信だと一蹴し、仕事に戻るよう指示した。大陸へ向かうスペイン船を見たエリックは、何の取引をするのか付いて行こうと言い出した。グリムスビー卿は「もう船は積み荷で一杯です」と告げ、城へ戻るよう促した。
海の王であるトリトンは近況報告を聞くため、人魚の娘たちを呼び寄せた。ペルラ&インディラ&マラ&タミカ&カリーナ&カスピアたちが集まる中、次女のアリエルだけが姿を見せなかった。トリトンから説明を求められた執事長でクリスマスアカガニのセバスチャンは、「集いに出るよう言いましたが、手に負えません」と弁明した。トリトンは彼に、アリエルを捜し出すよう命じた。その頃、アリエルはグリムスビー卿が誤って落とした潜望鏡を拾い、好奇心を示して覗き込んでいた。。
アリエルは初めて見る沈没船に関心を示し、臆病な態度を示すオヤビッチャのフランダーを連れて中を調べた。そこへサメが襲い掛かって来たので、アリエルとフランダーは慌てて逃げ出した。アリエルはシロカツオドリのスカットルと遭遇し、沈没船で入手したフォークを見せて何なのか質問する。スカットルは知ったかぶりをして、人間が髪をセットする時に使う道具だと説明した。彼女は人間に強い関心を持っていたが、父から「人間は野蛮だから海の上には行くな」と厳しく言い渡されていた。
そこへセバスチャンが現れ、アリエルはコーラル・ムーンのことを思い出した。集いの場の元へ急ぐアリエルの姿を、トリトンの妹で魔女のアースラが密かに観察していた。彼女は4年前に宮殿を追放され、トリトンに恨みを抱いていた。復讐心を燃やすアースラは、アリエルを利用しようと企んだ。アリエルはトリトンから「私のルールに従え」と説教され、その高圧的な態度に反発して立ち去った。トリトンはセバスチャンに、アリエルのお目付け役を命じた。
アリエルは音と光が気になって海上に顔を出し、帆船から打ち上げられる花火を目にした。船員たちは宴で盛り上がっており、エリックは楽しそうに歌っていた。グリムスビーは船員と一線を引き、未来の国王にふさわしい振る舞いをするようエリックに苦言を呈した。彼は21年前に両陛下が我が子のように育てたことを語り、成人した今は負うべき責務があるのだと説いた。エリックは「父のように怯えて城に閉じ籠もることは、僕には無理だ」と言い、世界で何が起きているのか知りたいのだと述べた。
船は嵐に見舞われて岩に激突し、座礁して火事が発生した。エリックは船員たちに、船を捨ててボートに移るよう指示した。逃げ遅れた愛犬のマックスを助けに戻った彼は、バランスを崩して海に転落した。アリエルは意識を失って海に沈んだエリックを救助し、岸まで運ぶ。エリックは意識が朦朧とする中、うっすらと女性の存在を認識した。捜索隊が近付いて来たので、アリエルは立ち去った。エリックが城に運ばれる様子を見たアリエルは、必ず会いに行くと誓った。その様子を確認したアースラは、自分の元へ来ると確信した。
セバスチャンは「人間は怖くない」と言うアリエルを心配し、「海の底より楽しい暮らしは無い」と語った。エリックは命の恩人を捜すよう指示するが、全く見つからないことに焦りを覚えた。セリーナ女王は「幻を見たのだ」と告げるが、エリックは自ら近隣の島へ捜索に向かおうとする。セリーナは「その子を口実に、また逃げ出すの?」と言い、海の神々が陸地を浸食していると警告する。彼女は「私たちも殺されかねない」と述べ、今後は船旅も女性捜しも禁じると通告した。
トリトンはアリエルがの様子が変だと感じてセバスチャンを呼び、恋をしているのではないかと問い詰めた。焦ったセバスチャンは、「海の上へ行って人間に恋をした」と口を滑らせてしまった。トリトンはアリエルを叱り付け、「人間がお前の母を殺した。野蛮な連中だ」と声を荒らげた。アリエルは「全ての人間を憎む必要は無い。エリックは何も悪くない」と反論するが、トリトンは「二度とそいつを見に行くな」と告げる。アリエルが「出来ない」と拒むと、彼は娘が集めた人間の所持品を次々に破壊した。
トリトンが「二度と上に行くな」と命じて去った後、アースラがアリエルに話し掛けた。父から「人間と人魚の間に入り込んで揉め事を起こす存在」と聞かされていたアリエルは、警戒心を示した。しかしアースラが「助けに来た」と言うと、アリエルは彼女の元へ向かった。アースラは「人間の世界で生きるには、人間になればいい」と言い、3日間だけ人間になる薬を作ってあげようと持ち掛けた。3日目の日没までに王子様と愛のキスをしなければ、永遠に人間の姿でいられる。しかし出来なければ人魚に逆戻りで、自分の物になるのだと彼女は取引を提案した。
人間の姿に変身している間、人魚の特権は失われる。水中では呼吸が出来ないし、声も失う。そんな条件を突き付けられたアリエルは迷うが、結局は取引を受け入れた。彼女は人間の姿に変身し、海上へ向かった。アースラは声が無ければ失敗すると確信しており、万が一に備えて「愛のキスが必要」という条件が思い出せない魔法を掛けていた。アリエルは魚を獲る網に引っ掛かり、漁船に引き上げられた。漁師のジョシュアは沈没船の生存者だと思い込み、アリエルを城に連れて行った。
メイドのラシャーナやローザたちがアリエルの世話をしていると、エリックがやって来た。アリエルは喜ぶが、声が出せないので気持ちを伝えることは出来なかった。エリックはアリエルに家族や頼れる相手がいないと理解し、城で保護することにした。セバスチャンはキスの約束をアリエルに伝えるが、魔法のせいで直後に忘れてしまった。勝手に城を歩き回ったアリエルは、エリックが旅先で集めた様々な物品を陳列しているコレクション・ルームに入った。そこにあるのは初めて見る物ばかりで、彼女は夢中になった。
エリックが部屋に来たので、アリエルは慌てて隠れた。しかしエリックはアリエルに気付いても全く怒らず、穏やかに話し掛けた。彼はアリエルに、「人を襲って食べてしまう」という人魚伝説を信じていないことを語った。エリックは地図を広げ、自分が旅した場所の情報をアリエルに話した。アリエルが島の地図を広げると、彼は「この港は、昔は栄えていた。いつか復活させたい」と話す。彼は入り江や滝のことを語り、「良ければ案内するよ」と提案する。アリエルが興味を示したので、エリックは「明日、行こう」と誘った。次の日、彼はグリムスビーが用意してくれた馬車に乗り、アリエルと共に漁村へ向かった…。

監督はロブ・マーシャル、脚本はデヴィッド・マギー、製作はマーク・プラット&リン=マニュエル・ミランダ&ジョン・デルーカ&ロブ・マーシャル、製作総指揮はジェフリー・シルヴァー、共同製作はベン・ハワース&マイケル・ジマー&ラッセル・アレン、製作協力はジェニファー・レーン&マイケル・グーセン&キャロライン・ロバーツ&ミーラ・ジョガニ、撮影はディオン・ビーブ、美術はジョン・マイヤー、編集はワイアット・スミス、衣装はコリーン・アトウッド、視覚効果監修はティム・バーク、振付はジョーイ・ピッツィー、共同振付はタラ・ニコール・ヒューズ、伴奏音楽はアラン・メンケン、音楽監修&製作はマイク・ハイアム、ダンス音楽&追加音楽アレンジはデヴィッド・クレーン、追加伴奏音楽はマイク・ハイアム&アーロン・ケニー&ジェフ・モロー、音楽指揮&追加伴奏音楽はジュリアン・カーショー、ミュージカル・シークエンス着想はロブ・マーシャル&ジョン・デルーカ、歌曲・作曲はアラン・メンケン、歌曲・作詞はハワード・アッシュマン、歌曲・新規作詞はリン=マニュエル・ミランダ。
出演はハリー・ベイリー、メリッサ・マッカーシー、ジョナ・ハウアー=キング、ハヴィエル・バルデム、ノーマ・ドゥメズウェニ、アート・マリック、マルチナ・レアード、ジェシカ・アレクサンダー、ジョン・デグレッシュ、クリストファー・フェアバンク、ジュード・アクウディケ、エミリー・コーツ、マシュー・カーヴァー、ロレーナ・アンドレア、シモーヌ・アシュリー、カロリナ・コンチェット、シエナ・キング、カイサ・モハマー、ナタリー・ソレル、ジョディー・ベンソン他。
声の出演はダヴィード・ディグス、オークワフィナ、ジェイコブ・トレンブレイ。


1989年に公開されたディズニーの同名アニメーション映画を実写でリメイクした作品。
監督は『イントゥ・ザ・ウッズ』『メリー・ポピンズ リターンズ』のロブ・マーシャル。
脚本は『オットーという男』『メリー・ポピンズ リターンズ』のデヴィッド・マギー。
アリエルをハリー・ベイリー、アースラをメリッサ・マッカーシー、エリックをジョナ・ハウアー=キング、トリトンをハヴィエル・バルデム、セリーナをノーマ・ドゥメズウェニ、グリムスビーをアート・マリックが演じている。
セバスチャンの声をダヴィード・ディグス、スカットルをオークワフィナ、フランダーをジェイコブ・トレンブレイが担当している。

色彩の調整に問題があるのか、海中シーンの生き物と背景が上手く馴染んでいない。背景の作り物感が強くて、本物の海中には見えない。
そんなことをしても何のメリットも無いけど、何しろディズニーだから大勢の人間が関わっており、それがダメだと感じたら誰かがNGを出して修正するはず。
ってことは、ディズニー的には「これでOK」ってことなんだろう。
でも仮に地上シーンとの差異を図るという狙いがあったとしても、デメリットの方が圧倒的に大きいと思うんだけどなあ。

アニメ版の上映時間は83分で、今回の実写版は135分。大幅に上映時間が増えている。
しかし、それに見合う分のドラマが厚くなっているとは到底思えない。ただ時間を稼ぐために、やたらとダラダラしているようにしか感じない。
例えば浜辺で佇んでいたエリックが走り出し、アースラの化けたヴァネッサを見つけるシーン。そこに2分も使っているのは、時間の無駄遣いにしか思えない。
そこだけなら「わずか2分」かもしれないけど、そういう少しずつの浪費の積み重ねで時間稼ぎをしているように感じる。
ミュージカルシーンも増えているが、それが見せ場の増加とイコールでは繋がっていないし。

アリエルがジョシュアに連れられて城に行くと、彼女の歌が流れてミュージカルシーンに突入する。
しかしアリエルは声を失っている状態なので、彼女が歌う様子をストレートに描くことは出来ない。
そのため、歌声はBGMとして流れる形になっている。
だが、そんな形で歌を使うぐらいなら、むしろ無くても良かったんじゃないか。
アリエルが声を取り戻すまでは彼女が歌うミュージカルシーンを入れない方が、「アリエルは得意の歌声を魔法で封じられている」という印象に観客に強く伝えることが出来るんじゃないかと。

ディズニーはポリティカル・コレクトネスと多様性を過剰に意識したせいで、どんどん変な方向へ傾いている。
多様性を大事にするのは、決して悪いことじゃない。だから「舞台となる国の出身者を多く起用する」みたいな配役に関しては、基本的に賛同する。
だけどアリエルが黒人ってのは、そういうことじゃないと思うのよ。
1989年版の『リトル・マーメイド』におけるアリエルは、誰がどう見ても黒人ではなかったはずで。
それなのに、なぜ実写化されたら黒人に変化するのかと。

出演者が白人だらけだったり、別の人種のキャラを白人に演じさせたりすると、ホワイト・ウォッシングだと批判されることも少なくない。
それになぞらえるならば、これはいわばブラック・ウォッシングになるんじゃないか。
「ハンス・クリスチャン・アンデルセンの原作では黒人だった」というわけでもないし。
「そもそも人魚だから人間のような白人や黒人という概念は無い」という主張も出来なくはないけど、それは下手な言い訳か屁理屈にしか聞こえないし。

かつて『ドラキュラ』の黒人版で『吸血鬼ブラキュラ』とか、『フランケンシュタイン』の黒人版で『ブラッケンシュタイン』とか、そういう作品がブラックスプロイテーション映画として作られたことがあった。
この映画って極端に言うと、それに近いことをやっているんじゃないか。
パロディーじゃあるまいし、ディズニーが正規の実写版として作っているのに、それじゃあマズいでしょ。
白人を起用しても全く問題にならないようなポジションに、無理して黒人を起用しているように思えるのよ。

しかもアリエルが黒人なら人魚は全て黒人なのかと思いきや、多人種で構成されている。そうなると娘たちは異母姉妹ってことになり、トリトンは一夫多妻制か複数の妾がいるってことになるわけだ。だけど、そこは綺麗にスルーしているのよね。
それと、アリエルだけじゃなくセリーナも黒人で、従えているのは白人ばかりなのよね。どういう世界観なのかと。
ここに「黒人の女王が白人のエリックを育て、大勢の白人を部下に従えている」という設定を盛り込むことで、余計に話をややこしくしているんじゃないか。
そういう過剰な「多様性を重視しています」のアピールは、ノイズにしかなってないのよ。
ディズニーが本気で「多様性は大事」と考えているわけじゃなくて、周囲の目を気にしてポーズを取っているようにしか見えないのよ。

エリックが里子で王家の出自じゃないとか、とにかく多様性を気にし過ぎて色んな要素を乗っけすぎているんだよね。
その全てを丁寧に掘り下げ、全ての問題に答えを提示できるのであれば、そりゃ前例の無い傑作になったかもしれない。だが、そんなことを実現できるクリエーターは、たぶん世界中を探しても1人もいないだろう。
そして本作品の場合、そもそも問題提起すらマトモに出来ていない。
いや、問題提起する気さえ最初から無かったんじゃないかと思えるほどだ。
とりあえず世間への「やってますアピール」として多様性を意識した設定を幾つも持ち込んだものの、そこで「仕事は終わり」という感覚で思考停止しちゃってるんじゃないかと。

終盤の展開には、大いに違和感を覚える。
ヴァネッサが「エリックを助けた女性」を装って登場すると、セリーナは2人の結婚に大賛成で早く事を進めようとするんだよね。
それってキャラの動かし方として、なんか変じゃないか。
エリックが幻の女に夢中だった時は説教していたのに、幻じゃなくて実在すると分かった途端に「じゃあ結婚ね」と祝福するって、どういうことなのよ。
相手の出自も分からないのに、そんなに簡単でいいのか。相手が人魚じゃなくて人間だったら、誰でもいいのかよ。

(観賞日:2025年11月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会