『リキッド・スカイ』:1983、アメリカ

ニューヨーク。モデルのマーガレットが暮らすペントハウスの屋上に、宇宙から飛来した円盤が着陸した。マーガレットはクラブで仲間のジミーから「君の家に行こう」と持ち掛けられ、家に連れ帰った。ドラッグをキメてフラフラと踊るマーガレットに、ジミーは「女とは寝ない」と告げる。マーガレットは「平気よ、私も女が好き」と口にした。ジミーが「ヤクを探して、少し楽しもう」と持ち掛けると、マーガレットは「隠し場所を知らない」と告げる。
ジミーが勝手に部屋を探し始めたので、マーガレットは腹を立てて「さっさと消えて」と言う。捨て台詞を吐くジミーにカッとなった彼女は、乱暴に部屋から追い出した。ジミーが「クラブに戻ろう。彼女の歌が終わる前にショーの準備をしよう」となだめるので、「いいわ」とマーガレットは応じた。クラブに戻った2人はメイクを済ませ、ショーに出演した。同じ頃、リキッド・スカイという麻薬の常習者であるポールは、それを自宅で注射しようとする。妻のキャサリンに止められても、彼は耳を貸さなかった。
ショーを終えたジミーは、マーガレットの同居人である歌手のエイドリアンに、ドラッグが欲しいと要求する。しかし持ち合わせの金が無かったため、断られてしまった。そこへマーガレットが来たので、エイドリアンは「ヘロインをやる?」と尋ねる。「コカインがいい」とマーガレットが言うと、エイドリアンは「女にコカインを勧めてる男がフロアにいるわ」と教えた。フロアに戻ったマーガレットは、そのヴィンセントという男に声を掛けられ、ペントハウスへ連れ帰った。
マーガレットはコカインを求めるが、ヴィンセントはクェルードという別の薬を飲ませようとする。ヴィンセントは「俺はソープ・オペラに出てる。親父はMGMに勤めてる。力になれると思うよ」と告げるが、マーガレットは「陳腐な口説き文句ね」と冷たく告げる。強引に薬を飲ませた彼に、彼女は「たった2錠で股を開かせようなんて、足りないわよ」と馬鹿にした口調で言う。ヴィンセントは彼女に平手打ちを何度も浴びせ、さらに薬を飲ませた。ヴィンセントに暴力を振るわれたマーガレットは、ウイスキーを顔に浴びせて部屋から逃げ出した。しかしヴィンセントは階段で彼女を捕まえ、強姦した。
翌朝、ドイツから来た科学者のヨハンは高層ビルの屋上に望遠鏡をセットし、地上の観察を開始した。マーガレットはエイドリアンが連れて来たポールから「彼女の友達か」と訊かれ、「だから何?」と冷たく告げる。「男より女が好きなのか」と質問された彼女は、「アンタは性別にこだわるのね。その人が魅力的なら、男も女も関係ないわ」と言う。エイドリアンからドラッグを渡されたポールは、「ここでやってもいいか」と尋ねる。エイドリアンは「終わったら、すぐに出て行ってよ」と告げた。
ヨハンは探知機を使って、そのペントハウスを見つけ出した。彼は演劇学科の教授をしている友人のオーウェンに、「宇宙人は最初、ヘロインの周囲に出現し、その後はパンクな連中の周囲に現れ始めた。そして奇妙な死者が出るようになった。興味深いのは、セックスの最中に殺されていることだ」と語る。彼は宇宙人とUFOを撮影した写真を見せ、協力を要請した。だが、友人は「手伝ってやりたいが、女の子と会う約束があるんだ。明日、また連絡をくれ」と告げた。
同じ頃、ジミーは母のシルヴィアとレストランで会っていたが、冷たい態度を取った。エイドリアンと外食に出たマーガレットは、「オーウェンと会う約束を忘れてたわ」と口にした。エイドリアンは「家には連れて来ないで。彼には会いたくない」と言う。オーウェンは元教え子であるマーガレットと会い、「君はエイドリアンに利用されてる。仕事を失ってしまうぞ」と忠告する。マーガレットが「仕事だけが生き甲斐よ。今夜もクラブで会った写真家が撮影に来るの」と言うと、オーウェンは「寝たいだけだ」と告げる。
ヨハンは観測のポイントを得るため、シルヴィアと接触した。シルヴィアの部屋に招き入れられたヨハンは、窓から見える景色に満足する。オーウェンから体を求められたマーガレットは、「帰った方がいいわ」と静かに告げる。だが、オーウェンは「僕を誘惑しておいて、追い払うのか」と言い、彼女を抱いた。ヨハンは壁に飾られているUFOの写真に気付き、「私の研究対象だ」と言う。シルヴィアは「私もよ」と言い、テレビのプロデューサーをしていることを話した。
マーガレットは死んでしまったオーウェンの頭部からガラスの矢を抜き取るが、それは瞬時に消えてしまった。シルヴィアはヨハンに「あの窓から望遠鏡を使うとUFOが見える」と聞かされ、強い興味を抱いた。エイドリアンはオーウェンの頭部に蛍光灯の輪を置き、「地獄へ行け、自業自得よ」と詩を詠んだ。エイドリアンが「死人とやろう」と言い出したので、マーガレットは反対する。2人は激しい言い争いを始め、エイドリアンはナイフを取り出す。マーガレットは彼女を取り押さえた。
ヨハンは望遠鏡をセットし、シルヴィアにペントハウスの宇宙船を見せた。エイドリアンは「街を出て一緒にベルリンへ行こう。私はナイトクラブで歌うわ」とマーガレットを誘う。「この死体はどうするの」とマーガレットが問い掛けると、「私に任せて」と彼女は言う。シルヴィアは望遠鏡を覗いて死体を発見し、「本当にUFOと関係があるの?女が男を殺したのよ」とヨハンに告げた。
マーガレットとエイドリアンが死体を箱に詰める様子を見たシルヴィアは、「警察に届けるべきよ」と口にした。ヨハンは「彼女たちが警察を呼ばないのは、ヘロインを隠してるからだろう」と述べた。「宇宙人から2人の美女を救ってあげたら?」とシルヴィアに言われた彼は、「そうするつもりだ」と答えた。ベッドで寝ていたポールは、キャサリンに「お客が来てるの。起きて」と言われる。しかしポールは「客が何だ。俺は寝る」と拒否し、怒ったキャサリンは「私の仕事も潰す気なのね。だったら出て行って」と告げる。
ヨハンは酒を買いに出掛けたエイドリアンに会い、「君の身が危険だ」と告げるが、相手にされなかった。ポールはマーガレットの元へ行き、「君を喜ばせたい。男と女の違いを教えてあげよう」と口説く。マーガレットは「やりたければ他の男とやるわ」と冷たく告げ、ポールを罵倒した。ポールが犯そうとすると、彼女は「やればいい。ハエにたかられたのと同じようなものよ」と言い放った。
ポールはマーガレットを犯すが、絶頂に達すると同時に死んだ。その頭部からは、オーウェンの時と同じガラスの矢が突き出していた。マーガレットが「誰の仕業なの。これ以上、死体を増やさないで」と空に向かって叫ぶと、死体は消滅した。一方、ヨハンはシルヴィアと夕食を取りながら、「宇宙人がヘロインを求めるのは理由がある。人間の脳には麻薬を感知する箇所があるそうだ。体内で麻薬と同じ成分が分泌されるという説がある」と語った。
さらにヨハンは「麻薬の常習者は、麻薬とオルガズムの感覚は似ていると言う。絶頂の際に、麻薬と同じ成分が作られるのかもしれない。私の考えでは、人間の脳内で麻薬に似た成分が作られ、それに依存する宇宙人がいても不思議ではない。だから宇宙人は、ヘロインを求めるのだ」と語る。一方、マーガレットが帰宅したエイドリアンと一緒にいると、ジミーが撮影クルーや雑誌編集者を引き連れて現れた。マーガレットは不機嫌なまま、撮影の準備に入る…。

製作&監督はスラヴァ・ツッカーマン、脚本はスラヴァ・ツッカーマン&アン・カーライル&ニーナ・V・ケローヴァ、製作協力はニーナ・V・ケローヴァ、製作総指揮はロバート・フィールド、撮影はユーリ・ネイマン、編集はシャーリン・レスリー・ロス&スラヴァ・ツッカーマン、美術&衣装はマリーナ・レヴィコワ=ネイマン、特殊効果はユーリ・ネイマン、メカニカル・デザインはオレグ・チチルニツキー、音楽はスラヴァ・ツッカーマン&ブレンダ・I・ハッチンソン&クライヴ・スミス。
主演はアン・カーライル、共演はポーラ・E・シェパード、ボブ・ブレイディー、スーザン・ドゥーカス、エレイン・C・グローヴ、スタンリー・ナップ、ジャック・エイダリスト、オットー・フォン・ヴァーンヘル、ロイド・ジフ、ハリー・ラム、ロイ・マッカーサー、サラ・カーライル、ニーナ・V・ケロヴァ、アラン・プレストン、クリスティン・ハットフル、カルヴィン・ハウゲン、デボラ・ジェイコブズ他。


カルト映画として、一部のマニアから高く評価されている作品。
監督を務めたスラヴァ・ツッカーマンはロシア人で、それまではドキュメンタリー畑で活動していた人。
っていうか、これ以降もドキュメンタリー畑での活動を続けているようだから、この映画だけが彼の経歴の中で異質な作品なのだろう。
アン・カーライルがマーガレットとジミーの2役を演じており、他にエイドリアンをポーラ・E・シェパード、オーウェンをボブ・ブレイディー、シルヴィアをスーザン・ドゥーカス、キャサリンをエレイン・C・グローヴ、ポールをスタンリー・ナップ、ヴィンセントをジャック・エイダリスト、ヨハンをオットー・フォン・ヴァーンヘルが演じている。

前述のように、アン・カーライルがマーガレットとジミーの2役を演じているのだが、そのことに何か意味があるのかというと、全く意味は無い。別の俳優が演じていても支障は無いし、変化も無い。
そもそも、ジミーの存在自体に意味が無いと言ってもいい。
冒頭から登場するぐらいだから、重要な役割を果たすのかと思いきや、そこを過ぎると、いてもいなくても構わない存在に成り下がる。
終盤に再登場し、マーガレットに喧嘩を吹っ掛けた後でフェラチオされて消滅するという展開があるが、その役回りは他の奴でもいいし。

マーガレットとエイドリアンが外食する場面では、ヨハンとオーウェンが会話をする様子、ジミーがシルヴィアと会う様子がカットバックで描かれている。
でも、そのカットバックには特に効果があるわけじゃないし、それぞれのシーンも、そんなに重要性は無い。
あと、ジミーの母親がヨハンを家に入れるシルヴィアだとか、ヨハンの友人がマーガレットの恩師で腹上死するオーウェンだとか、そういった人間関係の設定も、特に意味は無い。
っていうか、究極を言っちゃうと、「そもそも、この映画に意味なんてあるのか」ってことになってしまうんだけどさ。

一言で表現するなら、サイケデリックな映画である。
脚本に携わった3人がドラッグをやっていたんじゃないかと思ってしまうぐらい、キテレツな内容だ。
いちいち「どういうことなのか」「何を描こうとしているのか」と、そこに意味や理屈を求めていたら、頭が疲れてしまう。
何しろ、最初から最後まで、ホントにワケの分からないことだらけなのだ。
脚本を書いた本人も良く分かっていないんじゃないか、っていうか最初から意味なんて考えてなかったんじゃないかと邪推したくなってしまうぐらい、デタラメ放題、やり放題だ。

冒頭、宇宙から飛来した円盤がペントハウスに着陸する。カメラが円盤にズームしていくと、なんだか良く分からないサイケな映像の中に眼球が浮かび上がる。
何かを捉えたらしい眼球の視点でカメラはズームしていくが、色彩をいじっているので、何を写しているのか良く分からない。
仮面(これはちゃんと判別できる)が写し出され、それがボンヤリして周囲の色と溶けていって模様になり、それが少しずつ変化していき、小さくなって暗闇の中に消える。
これ、何を表現しているのか理解できる人がいたら、天才だと思う。
たぶん、そんなに具体的な意味は無くて、「何となく抽象的なイメージ」というだけの映像じゃないかと私は推測しているのだが。

その後、マーガレットとジミーが部屋にいる様子とのカットバックで、エイドリアンがクラブで歌う様子が描かれる。
「歌う」と書いたが、実際はリズムに合わせて歌詞を喋っているだけ。ただしラップというわけではない。
それが終わると、無表情のモデルたちが変な動きをしたり突っ立ったままだったりするファッションショーのシーンがある。
不協和音で全くノレない感じの音楽に合わせて、ドラッグをキメているらしい若者たちが体を前後に動かしているシーンもある。
クラブの様子は、とにかく「サイケデリック」に尽きる。

その後、マーガレットたちの様子が描かれていき、たまに「ペントハウスを観察している宇宙人の視点」による映像が挿入される。
だが、宇宙人や円盤の存在意義は、まるで分からないままだ。
序盤はミステリーにしておいて、話が進む中で次第に明らかにされていくのかと思っていたのだが、最後まで分からないままだった。
いや、分からないっていうか、たぶん存在意義は特に無いんだと思う。

登場人物は色々な会話をするが、その内容に何の意味があるのか、何を伝えようとしているのかは良く分からない。
無作為に思える場面がダラダラと続き、無意味に思える時間が過ぎて行く。
マーガレットやエイドリアンは、宇宙人や宇宙船の存在には全く気付かない。
ヨハンが登場することで、宇宙人の存在に気付いている人物が劇中に介入してくる。
しかし、だからと言って、それによってマーガレットたちの話と宇宙人の距離が近くなるわけではない。

っていうか、実を言うと、最初からマーガレットたちと宇宙人の距離は近いのだ。
と言うのも、「宇宙人は人間がドラッグやセックスによって絶頂に達した時に分泌される物質を求めている」という設定だからだ。オーウェンが腹上死したのも、それが原因だ。
だけど、まあ分かりにくいわな。そして、それが分かったところで、「だから何?」と言いたくなるし。
それが分かろうと分かるまいと、つまらないものはつまらないんだから、どっちでもいいんだよな。
話が支離滅裂であろうと、デタラメであろうと、面白ければ構わないんだけど、単純に面白くないってのが、この映画の致命的な欠点だ。

(観賞日:2013年7月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会