『リンカーン/秘密の書』:2012、アメリカ

1865年4月14日。米国大統領のエイブラハム・リンカーンは、友人のヘンリーに託すための日記を綴っていた。それはリンカーンの少年時代からの出来事を記したものだ。1818年、インディアナ州ピジョン・クリーク。リンカーンの父トーマスと母ナンシーは、ジャック・バーツが所有する農場で働いていた。ある日、トーマスと一緒に大工仕事をしていたリンカーンは、黒人が奴隷と誤解されて連行されそうになる様子を目撃した。リンカーンの友人である黒人少年のウィルが止めに入ろうとするが、奴隷商人に突き飛ばされて鞭で叩かれる。リンカーンは父の制止を振り切り、ウィルを助けに入った。
リンカーンも突き倒されて鞭で打たれそうになったため、トーマスが奴隷商人を海に投げ落とした。バーツはトーマスに、「借金を返して、ここを出て行け」と告げられる。返済の当てがないトーマスに対して、バーツは「だったらペッの方法で返してもらおう」と不敵に笑う。深夜、リンカーンはバーツが家に侵入してナンシーのベッドに近付く様子を目撃した。翌日、ナンシーは医者も原因が分からない病気で死亡した。トーマスはリンカーンに、「決して馬鹿な真似はしないと約束してくれ」と告げた。
その9年後、トーマスも死亡し、リンカーンはバーツへの復讐心を抱きながら暮らしていた。ある夜、彼は波止場でバーツを張り込み、弾丸を撃ち込んだ。しかしヴァンパイアだったバーツは死なず、リンカーンに襲い掛かった。そこにヘンリー・スタージスという男が現れ、怪力でバーツを投げ飛ばした。気絶していたリンカーンは、翌朝になってヘンリーの屋敷で目を覚ました。ヘンリーはリンカーンに、ヴァンパイアが実在することを告げた。
リンカーンが「金を払うから奴を殺してくれ。母の仇討ちをしてくれ」と頼むと、ヘンリーは「私は金では動かない。君の思いが復讐だけなら他を当たれ」と告げる。リンカーンが「それなら戦う方法を教えてくれ」と言うと、彼は「復讐を忘れてヴァンパイア・ハンターとして生きろ。死ぬまで友人も家族も持てない」という条件を出す。リンカーンは承諾するが、実際は復讐心を抱いたままだった。武器に使う銃を選ばせようとするヘンリーに、リンカーンは「銃は得意じゃない」と告げ、斧を使うことにした。
ヘンリーは戦い方を特訓するだけでなく、「銀製の武器に弱い」「鏡には映らない」といったヴァンパイアの特徴をリンカーンに教えた。町でヴァンパイアを見つけたリンカーンが襲い掛かろうとすると、ヘンリーは彼を押さえ付けて「標的は私が決める」と告げた。ヘンリーはリンカーンに、バーツと側近のヴァドマ、ヴァンパイアの始祖であるアダムの写真を見せた。そしてヴァンパイアが全国で大勢の人々を犠牲にしていることを話し、全人類のために戦うようリンカーンに説いた。
1837年、スプリング・フィールド。リンカーンは小売店主のジョシュア・スピードと会い、住み込みで働かせてもらうことになった。ある日、メアリー・トッドという女性が婚約者のスティーヴン・ダグラスと共に店へやって来た。ダグラスは議会に立候補しており、奴隷制度についてリンカーンに意見を求めた。ヘンリーから標的を知らせる手紙が届き、リンカーンは薬局を営むアーロンという男を襲撃する。一度は拘束されてしまったリンカーンだが、何とかアーロンを退治した。
後日、リンカーンはスピードに誘われ、メアリー・トッドも来るという舞踏会に赴いた。メアリーはリンカーンを見つけると、ダンスに誘う。リンカーンとメアリーは、互いに相手への好意を抱いていた。リンカーンはヘンリーから手紙を受け取る度に標的を始末していくが、数が多すぎると感じる。疲労感に見舞われる中、リンカーンはメアリーとのデート中に自分がヴァンパイア・ハンターであることを告白した。しかしメアリーは冗談だと受け取り、大笑いした。ある日、ウィルが店に現れ、弁護士になるための勉強をしているリンカーンに助けを求めた。ウィルは兄弟を捜すため、奴隷亡命のための地下組織に参加していた。そのせいで逃亡奴隷として追われる身となっており、法的に自由だという証明が欲しいのだと彼は説明した。
リンカーンがウィルと共に歩いていると、賞金稼ぎの連中が現れた。ウィルを連行しようとする連中を叩きのめしたリンカーンは、牢に入れられた。メアリーが上院議員のノーランに話してくれたおかけで、リンカーンとウィルはすぐに釈放される。リンカーンはメアリーに、「恐ろしいことが起きて、どうしても一人では止められない時に、君ならどうする?」と問い掛けた。メアリーは「困難でも逃げたりはしない。父が良く言ってた。地に足を据えろ。ただし立つべき大地は選べと」と彼に言う。
リンカーンは奴隷解放のための活動を開始し、街頭で人々に呼び掛ける。ノーランから議員になるよう勧められる中、ヘンリーが街にやって来た。「いつになったらバーツを殺せる?」と訊くリンカーンに、へンリーは「バーツがメアリーを狙っている。時は来た」と言う。リンカーンはバーツと格闘し、銀の弾丸を体に打ち込んだ。すると瀕死のバーツは、「俺たちの仲間は無数に存在する。アダムはこの国を俺たちの物にするつもりだ。今度はお前に襲い掛かるぞ。お友達のヘンリーに訊いてみろ」と告げた。
街に戻ったリンカーンは、ヘンリーが悪党の血を吸っている現場を目撃した。「俺を騙したな」と激昂するリンカーンに、彼はアダムに噛まれてヴァンパイアになったこと、恋人が目の前で殺されたことを打ち明けた。ヘンリーはアダムに襲い掛かろうとするが、触れることさえ出来なかった。アダムは彼に、ヴァンパイアがヴァンパイアを殺せないことを教えた。そこでヘンリーはリンカーンに特訓を積ませ、ヴァンパイア・ハンターに育てたのだ。
「世界と愛する者、両方は救えない。どちらかを選べ」と言うヘンリーに、リンカーンは別れを告げた。リンカーンはメアリーに求婚し、式を挙げる。ヘンリーはパーティー会場に姿を見せ、「奴らは我々の大切な物を簡単に奪い取るぞ」とリンカーンに警告する。リンカーンは「奴らは僕の正体を知らない」と軽く考えていたが、アダムは彼の正体に気付いていた。アダムはリンカーンをおびき寄せるため、ウィルを拉致して舞踏会への出席を要求する招待状を送り付けた。
リンカーンはスピードに全てを話し、共に戦う意志を示した彼とニューオーリンズへ向かう。2人が指定された農場へ行くと、奴隷の姿が見えなかった。2人が屋敷を覗き込むと、白人たちが奴隷と踊っていた。「夕食の時間です」というアダムの言葉と共に、白人たちはヴァンパイアに変貌して奴隷に噛み付いた。リンカーンは屋敷に乗り込み、次々にヴァンパイアを倒していく。しかしヴァドマが彼を制圧し、アダムは自分に逆らう同胞を始末するよう持ち掛けた。リンカーンが協力を拒否すると、アダムはウィルを殺そうとする。そこへスピードが馬車で突っ込み、リンカーンとウィルを救い出した。
リンカーンは政治家となり、奴隷制度の廃止に強い情熱を傾ける。ヘンリーは「奴隷制度があるから、今までアダムたちは鳴りを潜めていた。奴隷を奪えば抑制が効かなくなる」と反対するが、リンカーンの考えは揺らがなかった。リンカーンはヘンリーと袂を分かち、斧ではなく言葉と理想で戦うことを決意した。リンカーンはメアリーやウィルのサポートを受け、大統領に就任した。1861年に南北戦争が勃発し、リンカーンは大勢の犠牲者が出ることに心を痛める。彼は奴隷解放宣言に署名し、黒人奴隷の自由を宣言した。
リンカーンの幼い息子であるウィリーが、ヴァドマに襲われた。部屋に残された懐中時計を見たリンカーンは、何が起きたのかを悟った。ヘンリーはリンカーンの元に現れ、「死者を蘇らせる方法が1つだけある」と告げる。リンカーンの日記を読んで真実を知ったメアリーは、息子を蘇らせてほしいと依頼する。しかし、それはヴァンパイアにする方法だったため、リンカーンは「生き返っても私たちの息子は戻って来ない。怪物になるだけだ」と告げる。「私を信じてくれ」と言うリンカーンに、メアリーは「ずっと騙していたくせに。息子を返して」と泣いて抗議した。
ヘンリーはリンカーンに「アダムに休戦協定を持ち掛ける。あれほど警告したのに。あと何人の子供が犠牲になれば聞き入れるのか」と憤りをぶつけた。しかしリンカーンは、なおも戦いを止めようとしなかった。一方、南軍を指揮するジェファーソン・デイヴィスはアダムと手を組み、ヴァンパイア軍団がゲティスバーグに派遣される。北軍の惨敗を知ったリンカーンは、無力感に打ちひしがれる。しかし、ヴァンパイアの弱点を思い出した彼は、大量の銀を溶かして戦地へ輸送する計画を立てる…。

監督はティムール・ベクマンベトフ、原作はセス・グレアム=スミス、脚本はセス・グレアム=スミス、製作はティム・バートン&ティムール・ベクマンベトフ&ジム・レムリー、製作協力はキャスリーン・スウィッツァー&デレク・フレイ、製作総指揮はミシェル・ウォルコフ&ジョン・J・ケリー&サイモン・キンバーグ&セス・グレアム=スミス、撮影はキャレブ・デシャネル、編集はウィリアム・ホイ、美術はフランソワ・オデュイ、衣装はカルロ・ポッジョーリ&ヴァルヴァーラ・アヴジューシコ、音楽はヘンリー・ジャックマン。
出演はベンジャミン・ウォーカー、ドミニク・クーパー、アンソニー・マッキー、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ルーファス・シーウェル、マートン・ソーカス、ジミ・シンプソン、ジョゼフ・マウル、ロビン・マクリーヴィー、エリン・ワッソン、ジョン・ロスマン、キャメロン・M・ブラウン、フランク・ブレナン、ラックス・ヘイニー=ジャーディン、カーティス・ハリス、ビル・マーティン・ウィリアムズ、アレックス・ロンバード、レイヴィン・スティンソン、ジャクリーン・フレミング他。


セス・グレアム=スミスの小説『ヴァンパイアハンター・リンカーン』を基にした作品。
脚本もセス・グレアム=スミスが担当し、監督は『ウォンテッド』のティムール・ベクマンベトフが務めている。
リンカーンをベンジャミン・ウォーカー、スタージスをドミニク・クーパー、ウィルをアンソニー・マッキー、メアリーをメアリー・エリザベス・ウィンステッド、アダムをルーファス・シーウェル、バーツをマートン・ソーカス、スピードをジミ・シンプソン、トーマスをジョゼフ・マウル、ナンシーをロビン・マクリーヴィーが演じている。
アンクレジットだが、ダグラスをアラン・テュディクが演じている。

『トワイライト』シリーズの大ヒットがきっかけで、アメリカでは映画やドラマ、小説などのジャンルにおいて吸血鬼物が流行り 始めた。また、いつの頃からか、映画界では「既存の物語や史実などをアクション重視で仕立て上げる」という企画が多くなった。
この映画は、その2つをミックスさせている。
そして、そんな映画は「なんでもかんでも吸血鬼物やアクション映画にすればいいってもんじゃねえぞ」と言いたくなる仕上がりになった。
ハッキリ言って、「リンカーンがヴァンパイア・ハンターだった」というところで、ほとんど思考が止まっているのだ。

「リンカーンがヴァンパイア・ハンターだった」ってのは、かなり安易だし、中学生でも思い付きそうなアイデアにも思えるが、しかし面白味は感じる。
だから、そのアイデアの段階では、「幼稚でバカバカしい」と扱き下ろそうとは思わない。大切なのは、そのアイデアをいかに膨らませて、いかに充実した物語として構築するかという部分だ。
しかし本作品は、そこが雑で明らかに手抜き仕様。
「リンカーンが吸血鬼と戦う様子さえ描けば、それでいいんじゃね?」みたいな、それこそ安易な考えしか無いように感じる。

リンカーンが戦い方の特訓を開始すると、まずヘンリーは太い木を倒すよう指示する。「それを憎い相手だと思え」とヘンリーは言い、憎しみを高めさせると、リンカーンは怪力で木を切り倒す。
何度か斧を入れた後ではあるが、最後の一撃は「厳しい特訓で力の出し方を会得した」という状態であるかのようだ。しかし実際には、まだ特訓に入った直後である。
で、ヘンリーは「母親を守れなかったから死んだのだ」とリンカーンが言うように持って行き、「力が出るのは憎しみからではなく、真実からだ」と諭すんだけど、どっちにしろリンカーンの復讐心を煽っていることには変わらんわけで。
「復讐心を捨てろ」と言っていたのに、そこはOKなのかよ。

リンカーンは町で鏡に写らない男を見つけると襲い掛かろうとするのだが、なんでだよ。テメエはバーツを殺したいだけだったはずだろ。
そこだけ急に「ヴァンパイアなら誰でも殺したい」みたいな感じになってんのは変だろ。
で、「我々は全人類の幸福のために戦うのだ」とヘンリーが言うと、次は1837年のスプリング・フィールドに場面が飛ぶ。時間の都合で、特訓シーンは思い切り端折っている。
それ自体も「もう少し何とかならんかったのか。時間はともかく見せ方は」と思うが、それ以上に感じるのはヘンリーの「ヴァンパイアが北部へも進出して大勢の人を殺している。我々は全人類の幸福のために戦うのだ」という言葉。
そんな風に説いても、そこにリンカーンを「全人類のために戦おう」と決意させる説得力はゼロだぞ。

「多くの観客を引き付けるには恋愛劇が必要でしょ」ってのはハリウッドの基本的な考え方であり、本作品にもリンカーンとメアリーの恋愛劇が盛り込まれている。
この映画の場合、恋愛劇はそんなに無理をしなきゃ盛り込めない要素ってわけでもないし、持ち込むことは別に悪くない。ただし、そこの処理が上手くないもんだから、結果としては「入れなくても良かったのに」という印象になっている。
メアリーは店に来た時点でリンカーンに興味を抱いている様子だし、舞踏会でも彼を見つけて自分からダンスに誘っているのだが、どこに惚れたのかサッパリ分からない。一方のリンカーンも、メアリーが店に来た時点で興味があったようだが、こちらも良く分からん。どっちも「見た目で惚れた」ということぐらいしか理由が思い付かない。
その後も恋愛劇はサッパリ膨らまず、サッパリ盛り上がらない。

メアリーとダグラスの関係性は、いつの間にか立ち消えとなっている。
リンカーンが略奪する形になるわけだから、ホントならメアリーがダグラスから叱責されるとか、ダグラスがリンカーンを非難するとか、ともかく何らかの形で絡んできてもおかしくないのだが、何も無い。リンカーンとメアリーが惹かれ合ってからは、ダグラスの存在は消されてしまう。
そんなテキトーな扱いにしてしまうなら、もう最初からメアリーに婚約者がいる設定なんて排除してもいいぐらいだ。
まあ史実をなぞらなきゃいけないってことなんだろうけど。

リンカーンはメアリーとデートして、自分の正体を簡単に明かす。
メアリーが冗談として受け止めてくれたから良かったものの、あまりに軽率すぎる行動だ。
そんでデートの最後になってヘンリーの「死ぬまで友達も家族も持てない」という言葉を思い出し、急に「どうして彼女を引き込める?悪魔の渦巻く世界に」と心で呟くのだが、今さら遅いだろ。
「君に興味がある」とメアリーにアプローチし、デートした上に正体まで明かしておいて、今さら後悔しても後の祭りだわ。

「ヘンリーはヴァンパイアだから同族であるアダムを殺せなかった」ということが回想シーンで明らかにされるんだけど、それと矛盾する描写が序盤にあるんだよね。
リンカーンがバーツに襲われた時、ヘンリーが助けに入って彼を怪力で投げ飛ばしているのだ。確かに殺害することは出来ていないけど、怪力で投げ飛ばしている。
アダムの時は触れることさえ出来なかったのに、そこは引っ掛かるぞ。
怪力で投げ飛ばすことが出来るのなら、例えば「銀の棒が突き出している場所に目掛けてヴァンパイアを投げ飛ばし、串刺しにする」という方法で倒すことは可能ってことになるんじゃないのか。

リンカーンと言えば奴隷解放運動で有名な人であり、この映画でもそこの筋は追っている。
しかし、その運動とヴァンパイア・ハンターとしての活躍の絡ませ方には、あまりにも無理があり過ぎる。
まず「リンカーンをヴァンパイア・ハンターとして活躍させる」というアイデアが先にあって、後から「どうやって史実と関連付けようか」という順番になっているのは仕方が無いっちゅうか、理解できるよ。
だけど、そこを上手く関連付けるかどうかは本作品にとって何よりも重要な部分のはずなのに、そこを雑に処理しちゃってるのよ。

リンカーンはヴァンパイア・ハンターとして生きることを決めており、特にバーツへの復讐という目的も残っているわけで。
その中で彼がウィルと再会した後に奴隷解放運動へと走り出すってのは、「お前のやるべき仕事は、それじゃないだろ」と言いたくなるのよ。
そもそも、ウィルを助けて収監された後、メアリーの言葉で奴隷解放運動に走り出すってのも、きっかけとして貧弱で、説得力に乏しいし。
そんな風に、「最初に思い付いたアイデアと史実の融合」という作業を丁寧にやっていないから、「主人公がリンカーンである意味が薄い」という状態になっているのだ。

へンリーは街に来て「バーツがメアリーを狙っている。時は来た」と言うけど、別にメアリーを狙う前でも標的にすることは出来たはずでしょ。
今までバーツを標的に選ばず、そのタイミングで狙わせる理由にはならんぞ。むしろ、さっさとバーツを倒させちゃった方が話としてはスッキリするでしょ。
「復讐は果たしたが、その後もリンカーンがヴァンパイア・ハンターを続ける意欲や目的意識を持ち続けることが出来るのか」というところで話を作ればいいでしょ。
「バーツを倒して一度は達成感を覚えたが、別の目的意識や使命感に目覚めてハンターとして他の連中も退治しようと立ち上がる」というストーリーテリングにでもした方がいいでしょ。

ただし、そういった諸々を描いて行く上では、リンカーンにまつわる史実が色々と邪魔になるんだよな。
特に邪魔なのが奴隷解放運動や南北戦争との関連付けで、ここを本作品は全く上手い形で消化できていない。
それなら、例えばリンカーンが奴隷解放運動を始める前の物語として構築しちゃった方がいいんじゃないかと思うぐらいだ。
それだとリンカーンである意味がゼロになっちゃうけど、どうせ本作品だって実質的にはリンカーンがある意味がゼロに近いんだよな。

リンカーンがアダムに正体を知られた上で、それでもメアリーとの結婚生活を続けるどころか息子まで作っちゃうのが、かなりのアホにしか思えない。いや、それどころか、そもそも大統領になっていることもアホにしか思えない。
そんなに目立つ行動ばかり取っていたら、そりゃあアダムたちに狙われるのは当たり前でしょ。居場所はバレバレなんだし。だからウィリーを襲われて悲嘆に暮れても、「テメエが軽率な行動ばかりとっているからだよ」と言いたくなるのよ。
家族を作っちゃダメって、あれだけヘンリーに言われていたでしょ。「アダムは僕の正体を知らない」とリンカーンは高を括っていたけど、正体を知られていたこともウィルの誘拐事件で理解したはずでしょ。
それなのに、その後も不用意な行動を続けるんだから、そりゃあ学習能力が無いとしか思えないのよ。
その辺りは内容を史実と合致させるために、リンカーンがアホの子になっちゃってるのよ。

ただし、アダムがメアリーを襲わないのは、かなり不自然だよな。
リンカーンの息子を殺して苦しめるなら、それより前にメアリーを襲うべきじゃないかと。その気になれば、幾らでもチャンスはあったはずだし。
っていうか、リンカーンが政治家としてのキャリアを積み、大統領に就任する中で、なぜアダムは何も仕掛けずに放置していたのかと言いたくなる。
そこにキッチリとした説明が無いから、物語として完全に破綻している。

息子が殺された後、ヘンリーに非難されてもリンカーンが戦いを止めようとしないのは、まるで反省や悔恨が無いようにしか思えない。
そこを「強い信念で真っ直ぐに突き進む指導者」という風に、好意的には受け取れない。
そこは苦悩や葛藤を表現させた方が、人間的に魅力が出ただろうに。
そこでリンカーンの行動や心情に何の変化も起こさせないのなら、息子の死は完全に「無駄死に」だろうに。

ゲティスバーグで惨敗した後、ようやくリンカーンは「銀を武器に使えばいいんだ」と思い付くけど、あまりにも遅すぎるだろ。
ヘンリーから特訓を受け始めた初期の段階で「ヴァンパイアの弱点は銀」と教えられていたのに、すっかり忘れていたのかよ。だとしたら、テメエは痴呆かと言いたくなるぞ。
そもそも戦いを開始した時点で、もっと銀の武器を大量に用意しておくべきだろ。
やっぱりリンカーンがアホの子になってるぞ。

この映画におけるヴァンパイアは日光の中でも平気で行動し、銀の武器以外で倒すことは出来ないという設定だ。身体能力も人間より遥かに高いし、銀の武器で対抗したとしても退治するのは至難の業だ。
そういう圧倒的な力の差を考えると、なぜ今までアダムたちが米国を支配していなかったのかと思ってしまう。その気がないならともかく、アダムは支配者になりたがっているんだし。
バーツが死の間際に「アダムはこの国を俺たちの物にするつもりだ」と言ってるけど、その気になれば、とっくに支配できているんじゃないか。
人間に比べて数は少数だろうけど、そんなハンデは屁にもならんぐらい強いんだから。

そこは「ヴァンパイアがアホだから」というのが理由かもしれんけどね。銀を輸送する列車を襲撃するシーンにしろ、銀が届いてからの戦闘にしろ、計略がボンクラすぎて退治されちゃってると感じるし。
ゲティスバーグの戦いに関しては、銀の武器があればヴァンパイアを退治できるけど、その驚異的な身体能力を打ち消すことは出来ないんだぜ。
ってことは、まだ戦力の差は圧倒的にあるはずなのに、まるで無力になったかのようにヴァンパイア軍団は惨敗するんだから、どんだけボンクラなのよ。
リーダーのアダムが死んで指揮系統が消えたら、ただのデクノボーになっちゃうのかよ。

(観賞日:2014年11月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会