『リミットレス』:2011、アメリカ

エディー・モーラは高層マンションの屋上に立ち、飛び降りようとしていた。少し前まで、彼は小説家志望の冴えない男だった。アイデアが全く浮かばず、酒浸りの日々を自堕落な送っていた。恋人で編集者のリンディーは愛想を尽かし、別れを告げた。エディーは大学を卒業した直後にメリッサと結婚し、すぐに離婚した過去があった。小説家を諦めて田舎に帰ろうかとエディーが考えていると、メリッサの弟のヴァーノンに遭遇した。以前のヴァーノンは麻薬の売人だったため、エディーは9年ぶりの再会を喜ばなかった。
エディーがメリットのことを訊くと、ヴァーノンは子供がいるが男に捨てられてシングルになっていることを教えた。エディーがスランプだと聞いたヴァーノンは、「助けてやれるかも」と口にした。彼は製薬会社のコンサルタントをしていると言い、来年には流通するという新薬を見せた。彼は医薬品局の認可は下りていると話し、脳の力を100%引き出す効能がある薬だと説明した。電話を受けたヴァーノンは「1錠800ドルだが、タダでやるよ」と言い、名刺を渡して去った。
帰り道で薬を飲んだエディーがアパートに着くと、大家の若い妻であるヴァレリーが待っていた。滞納している家賃の支払いを求められたエディーは、薬の効果が出て感覚が鋭くなった。彼はヴァレリーが法科の論文で苛立っていると悟り、それを指摘して助言した。エディーは論文の作成を手伝い、ヴァレリーと肉体関係を持った。部屋に戻った彼は散らかっている荷物を整理し、小説のアイデアが湧いて執筆した。翌朝になると、薬の効果が切れて感覚は元に戻っていた。
エディーは編集者のマーラ・スットンを訪ねて原稿を渡し、「3ページだけ読んでくれ」と告げて去った。彼が帰宅すると、留守電に興奮した様子のマーラから「すぐに話したい。電話して」というメッセージが入っていた。エディーはヴァーノンのアパートへ行き、薬のことを尋ねる。ヴァーノンは薬が「NZT48」と呼ばれていることを語り、医薬品局の認可など下りていないことを明かす。エディーは彼の言葉を聞き、違法なラボから盗んだ未試験の危険な薬だと理解した。
エディーが「もっと薬が欲しい」と頼むと、顔を殴られた痕跡のあるヴァーノンは「この顔じゃ外に出られない。クリーニング店でスーツを受け取ってくれ」と言う。エディーがクリーニング店から戻ると玄関のドアが開いており、ヴァーノンは殺されていた。エディーは警戒しながら、警察に追放した。彼は部屋が荒らされているのを見て、殺人犯が薬目当てだと確信した。彼は室内を調べ、ヴァーノンが隠してあった札束や薬の入った袋を発見した。
エディーは金と薬を盗み、警察署で嘘を説明した。メリッサから電話が掛かって来たので「どこかで会って話そう」と言うと、「会えない。落ち着いたら電話する」と告げられた。帰宅したエディーは薬を飲み、4日で小説を書き上げた。彼は3日で習得し、カジノで金を稼ぐ走りながら語学を習得し、女性を口説いてセックスする。病気の伯母を持つ人物に医療の知識で助言し、株式ディーラーが集まる場で投資について意見を述べた。すると株式ディーラーのケヴィン・ドイルがエディーに声をかけ、組んで仕事がしようと誘った。
エディーは株式投資を始めて金を増やすが、ペースが遅すぎると感じる。資金不足だが銀行は貸してくれないので、彼は知人に紹介してもらったゲナディーという男から金を借りた。ケヴィンから教わったレバレッジ法を使い、エディーは短期間で大金を稼いだ。噂は広まり、エディーは上司に話したというケヴィンから大物投資家のカール・ヴァン・ルーンと会うよう促された。エディーはリンディーと復縁し、その頃から短時間の記憶が無くなる現象に見舞われるようになった。
ヴァン・ルーンはエディーに複数の会社の資料を渡し、意見を求めた。エディーはハンク・アトウッドの会社との合併を考えているのだと見抜き、リビアから撤退しないと失敗すると助言した。ヴァン・ルーンは資料を読んで具体的な提案を聞かせてほしいと言い、翌朝10時に会う約束をした。彼と別れたエディーは記憶が飛び、地下鉄の構内で絡んで来た男たちを叩きのめす。また記憶が飛んでバーで飲み、また記憶が飛んでホテルのモデルのマリア・ウィンバーグとセックスした。
エディーが気付くと翌朝になっており、それまでの18時間の記憶は大半が失われていた。帰宅した彼は急いで資料を読もうとするが、缶に入れていた薬を使い果たしたことに気付く。ケヴィンに電話を掛けたエディーは「今日は行けない」と言うが、それは許されなかった。彼は仕方なくホテルのロビーへ出向いてヴァン・ルーンと会うが、具体的な提案など何も出て来なかった。テレビのニュースでマリアが殺害されたことを知った彼は、自分が犯人ではないかと焦った。席を外したエディーは、ホテルの外で嘔吐した。
エディーが帰宅するとメリッサから電話が入り、「ヴァーノンに何か貰った?危険よ」と警告される。エディーは彼女に頼み、会う約束を取り付けた。彼はヴァーノンの手帳を開き、顧客に電話を掛けて情報を得ようと考えた。エディーが外に出て電話すると、3人が死亡しており、1人は重病で会える状態ではなかった。彼が5人目に電話を掛けると、すぐに近くに座っていたコートの男が相手だった。エディーが慌てて逃げ出すと、男は追って来た。エディーは何とか振り切り、メリッサと待ち合わせた食堂へ向かった。
メリッサはエディーに、2年前は自分も薬を飲んでいたこと、いつか精神崩壊すると怖くなって断ったこと、酷い副作用で能力の減退が今も続いていることを話す。彼女は他の顧客が死んでいるとヴァーノンに聞かされたことを話し、少しずつ薬の服用を減らして断ち切るよう助言した。食堂を出たエディーはゲナディーに捕まり、金を返すよう詰め寄られた。彼は落とした薬を拾おうとしてゲナディーに見つかり、「ただの頭痛薬だ」と嘘をつく。しかしゲナディーは信用せず、薬を飲んだ。エディーは銀行で金を下ろし、彼に渡した。
エディーはリンディーの職場へ行き、薬のことを打ち明けた。彼はリンディーの部屋に薬を隠したことを話し、取りに行ってほしいと頼む。リンディーが薬を持ってタクシーに乗り込むと、コートの男が追って来た。リンディーがエディーに連絡して状況を説明していると、車が渋滞に巻き込まれた。コートの男がタクシーに近付いて来たので、リンディーは逃げ出した。追い掛けられるリンディーに、エディーは薬を飲めば逃げ切れると告げる。リンディーは薬を飲んで能力を覚醒させ、コートの男から逃げ切った。
リンディーから薬を受け取ったエディーは、「これを飲めば何でも出来る。一年後には凄い成功者になれる」と告げる。リンディーは冷淡な態度で「1人でなればいい」と言い、彼の元を去った。エディーはゲナディーから薬を渡すよう要求され、数錠を与えて時間を稼いだ。彼は2人のボディーガードを雇い、ルーンに提案書を見せて合併のまとめ役に抜擢された。エディーは薬の服用量守ってアルコールを避け、記憶喪失を防いだ。彼は隠しポケットの付いたスーツをオーダーし、科学者に報酬を払って半年でコピー薬を作るよう指示した…。

監督はニール・バーガー、原作はアラン・グリン、脚本はレスリー・ディクソン、製作はレスリー・ディクソン&スコット・クルーフ&ライアン・カヴァノー、製作総指揮はタッカー・トゥーリー&ブラッドリー・クーパー&ジェイソン・フェルツ、共同製作はケネス・ハルスバンド、撮影はジョー・ウィレムズ、美術はパトリツィア・フォン・ブランデンスタイン、編集はナオミ・ジェラティー&トレイシー・アダムズ、衣装はジェニー・ゲリング、音楽はポール・レナード=モーガン、音楽監修はハッピー・ウォルターズ&シーズン・ケント。
出演はブラッドリー・クーパー、アビー・コーニッシュ、ロバート・デ・ニーロ、アンドリュー・ハワード、アンナ・フリエル、ジョニー・ホイットワース、トーマス・アラナ、ロバート・ジョン・バーク、パトリシア・カレンバー、ダーレン・ゴールドスタイン、ネッド・アイゼンバーグ、T・V・カーピオ、リチャード・ベキンス、シンディー・カッツ、ブライアン・A・ウィルソン、レベッカ・デイアン、アン・マリー・グリーン、ダマリ・メイソン、メグ・マクロッセン、トム・ブルーム、ニーナ・ホドラク、トム・テティー、ステファニー・ハンフリー、ジョー・マッカーシー、ピーター・プライヤー、ダニエル・ブレーカー、クリス・マクマリン、デイヴ・ドロクスラー他。


アラン・グリンの小説『ブレイン・ドラッグ』を基にした作品。
監督は『幻影師アイゼンハイム』『それぞれの空に』のニール・バーガー。
脚本は『ヘアスプレー』『ライラにお手あげ』のレスリー・ディクソン。
エディーをブラッドリー・クーパー、リンディーをアビー・コーニッシュ、ヴァン・ルーンをロバート・デ・ニーロ、ゲナディーをアンドリュー・ハワード、メリッサをアンナ・フリエル、ヴァーノンをジョニー・ホイットワース、コートの男をトーマス・アラナが演じている。

「人間は脳の20%しか使っていない」というのは、完全に否定されたトンデモ学説だ。
なので、それを「科学的根拠」として使っている時点で、かなり厳しいモノがあると言わざるを得ない。
「脳の全てを使えるようになる薬が存在する」という嘘をつくために、その前提となる部分はリアルじゃないと、ホントはダメなのよ。物語の肝となる大きな嘘をつくために、下地の部分は真実で固めておくべきなのよ。
そこに科学的に正しい情報が無いってのは、大きなマイナスだ。

新薬の効果も、超が付くほど適当な設定になっている。「感覚が鋭敏になる」という一言で簡単に片付けて、何でも有りの御都合主義に満ちた新薬になっている。
ヴァレリーと会った時には、シャーロック・ホームズのような推理力が湧く。なぜか女性をメロメロにする能力まで向上し、肉体関係を持つ。部屋を綺麗に片付けるのも新薬の効果ってことになっているが、理屈はサッパリ分からない。
薬の効果で文章をスラスラと書けるようになるのは覚醒剤みたいなモンだと捉えれば分かりやすいが、それと面白い小説を書く能力は全く別でしょ。
そもそも文章力が高かったり面白いアイデアが無かったりしたら、編集者を唸らせるような小説なんて書けないはずで。

もっと問題なのは、エディーが小説家として成り上がるために薬を使うわけではないってことだ。
彼は全く芽が出ない中で何年間も諦めず小説家を目指していたはずなのに、そこへの執着は皆無なのだ。1冊を書き上げただけで、「もういいや」って気持ちになっちゃうのだ。そして株式投資に手を出して、「楽して大金を稼ぐ」ってことに夢中になるのだ。
そんなに簡単に「エディーが小説家として売れっ子に」という展開を捨てるのなら、そもそも「小説家志望だけど何年も燻っている」という設定が要らないでしょ。
「酒浸りで自堕落に暮らしている」という設定だけでいいでしょ。

エディーは地下鉄の構内で襲われた時、なぜか高い格闘能力まで発揮する。
「ブルース・リーの映画を見たことがあり、その記憶が蘇る」ってことなのだが、「ブルース・リーの真似をしたから強い」ってのは、なかなかの御都合主義だ。
映画で見た時と、全く同じように敵が攻撃してくるわけでもないし。
あと、「新薬の効果で見た動きを忠実に再現できる能力が生じた」と解釈するにしても、それなりに基礎的な運動能力が高くなかったら、脳の指示に体が付いて来ないでしょ。

ヴァーノンが違法なラボから簡単に新薬を盗み出せた理由は、サッパリ分からない。
ヴァーノンを殺した犯人が、盗まれた新薬を発見していないのに立ち去った理由も全く分からない。
新薬を盗まれた組織はヴァーノンを殺したんだからエディーの存在も把握しているはずだが、なかなか彼に接触しないまま時間が過ぎて行く。
ようやくコートの男が現れるが、いきなり襲い掛かることは無く、顧客として近くで電話に出て、エディーが逃げたら追い掛けるという無駄な手順を踏む。

エディーは薬の効果で感覚が鋭敏になっているはずなのに、「盗んだ薬が無くなったら終わりなので、まずは確実に薬を入手できるルートを確保しよう」という考えには至らない。
リンディーが幻滅して去った後、ようやくコピーを作り始めるが、「それよりも元々の薬を製造した会社を突き止めて、そこで何とかしようと考えた方が良くないか」と思ってしまう。
そっちを放置していたら、いつまでも襲われたり殺されたりするリスクは続くんだし。

エディーがどういう経緯で金融業界の面々が集まるような場所に参加できたのか、それは全く分からない。彼は何の実績も無いのに、なぜケヴィンが組んで仕事をしようと持ち掛けたのかも分からない。
エディーは缶に入れてあった薬が無くなって焦っていたのに、ゲナディーに詰め寄られた時は薬を持っている。だったら、それを飲まずにルーンと会った理由は何なのか。
「薬無しでもやれる」と思ったとしても、まるで無理だったんだから薬は飲むだろ。
短期間の記憶を失うリスクはあるにしても、飲まずに行く選択肢なんて、エディーのキャラを考えれば絶対に無いでしょ。

エディーは薬を飲み始めてから短期間の記憶喪失が続き、顧客が何人も死んでいることを知る。しかし彼はメリッサに警告されても薬の服用を続け、「服用量を守り、食事を取り、アルコールを避ける」というだけで副作用の問題は起きなくなる。
そんなに簡単なのかよ。だったら、後は敵さえ排除してしまえば何の問題も無いってことになるぞ。
強烈な副作用の部分は、もうちょっと丁寧に扱った方がいいんじゃないか。
とにかく、何から何まで粗さだらけのシナリオなのだ。

完全ネタバレだが、エディーはゲスいクズ野郎でしかないのに、最終的には「邪魔な連中を全て排除し、薬を飲まなくても驚異的な能力を発揮できる体になり、リンディーとはヨリを戻し、成功者としの道を順調に進んで行く」という結末になっている。
そんなの、ちっとも痛快な結末とは言えないだろ。
どう考えたって、エディーが殺されたり再起不能になったりというバッド・エンディングの方がふさわしいだろ。
ピカレスク・ロマンとしての面白さがあるような内容でもないんだし。

(観賞日:2022年5月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会