『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』:2003、アメリカ

テキサス州。元オースティン大学教授デビッド・ゲイルの死刑日が最高裁で決定し、テレビ番組が大々的に報道している。ゲイルは死刑の 廃止を主張する非営利団体デス・ウォッチの活動家で、ハーディン州知事と激しい討論を戦わせたこともある。だが、彼は7年前にデス・ ウォッチの同僚コンスタンス・ハラウェイをレイプして殺害した罪で捕まり、死刑を宣告されていた。
ニューヨークのニュース・マガジン社に勤務する女性記者ビッツィーは、同僚バーバラからゲイルにインタビューする仕事を説明される。 今回のインタビューは、ゲイルが弁護士を通じてビッツィーを指名してきた。ビッツィーは最近、法廷侮辱罪で収監されていた。取材は 火曜から木曜までの3日間で、1日に付き2時間ずつ。そしてゲイルは金曜に処刑される。
ビッツィーの上司ジョーは、助手として見習い記者ザックを連れて行くよう指示した。テキサスへ向かう車中で、ビッツィーとザックは 事件のことを語り合う。コンスタンスの体内にはゲイルの体液が残っており、犯行現場には指紋が付着していた。ビッツィーは、ゲイルが 犯人だと確信している。しかしザックは、本物のエリートであるゲイルの犯行に疑問を抱いている。ゲイルはハーバード大学を首席で卒業 し、妻シャロンは元スペイン駐在大使の娘だ。
車の警告ランプが光ったが、オーバーヒートした様子は無い。煙の異常な匂いも漂ってこない。気になったビッツィーは、休憩エリアで 車を停めた。ザックは小便をするため、車から離れた。その時、不審なトラックが近くで止まり、カウボーイ姿の運転手がビッツィーを 観察した。不安を覚えたビッツィーがザックを呼び戻すと、そのトラックは走り去った。
刑務所に到着したビッツィーとザックは、弁護士ベルユーと面会した。ベルユーはビッツィーに、録音しないという条件を確認した。取材 はビッツィーだけという条件だったため、ザックはベルユーと共に退出した。最初にゲイルは、妻と息子のことは質問しないよう要求した。 彼はビッツィーに、「自分の人生がどうだったか、どのように終わったかを書いてもらいたい」と説明した。
ゲイルは、自分の過去を語り始めた。かつて彼は、大学の人気教授だった。遅刻してきた女学生バーリンは単位取得が危うく、ゲイルに 「何でもしますから」と言い寄ってきた。ゲイルは勉強するように告げて、その場を去った。帰宅したゲイルは、息子ジェイミーのことを ベビーシッターに任せて仲間とのパーティーに出掛けた。デスウォッチの仲間ジョンからシャロンのことを聞かれたゲイルは、スペイン へ行っていることを告げた。シャロンが浮気していることを、ゲイルだけでなく仲間たちも知っていた。
ゲイルは友人から、バーリンが退学処分になったことを聞かされた。そんなゲイルの前に、そのバーリンが現れた。ゲイルが男子トイレに 入ると、バーリンが来て「本当は単位なんてどうでもいい」と誘惑してきた。ゲイルは彼女の色香に負けて、激しいセックスをした。 数日後、ゲイルはバーリンを強姦した罪で逮捕された。バーリンは訴訟を取り下げ、街から姿を消した。1年後、「何でもする学生より」 という宛名で、バーリンは後悔していることを綴った手紙を送ってきた。
一日目の面会を終えたビッツィーは、ザックと共に犯行現場となったコンスタンスの家を訪れた。現在、そこではニコという女性が生活 し、殺人現場だったことを宣伝して見学スポットにしている。コンスタンスが殺されていたのは、台所だ。彼女はビニール袋で顔を覆われ、 後ろ手に手錠を掛けられて、全裸で死んでいた。手錠の鍵は、コンスタンスの胃袋の中から発見された。そこを離れて休憩していると、 またもカウボーイのトラックが近くで観察していた。
2日目のインタビューで、ゲイルはビッツィーに、コンスタンスはルーマニアの秘密警察の手口で殺されたと語った。誰かにハメられたのか とビッツィーが尋ねると、ゲイルは「そんな甘いもんじゃない」と返答した。「誰の仕業かは分からないが、調べてもらっている。きっと 無実を証明してくれるだろう」とゲイルは言うが、ビッツィーが私立探偵でも雇ったのかと尋ねると、女性ジャーナリストだと答える。 つまり、ゲイルはビッツィーに、自分の無実を証明してくれと求めているのだ。
レイプ訴訟は取り下げられたが、シャロンはジェイミーを連れてスペインへと去った。家は売りに出され、仕事も失い、ゲイルは酒に 溺れるようになった。ゲイルはリハビリ施設に出向き、仕事を探した。コンスタンスの家を訪れると、ダスティー・ライトが庭仕事をして いたので、ゲイルは挨拶をした。ダスティーは、ビッツィーをトラックから観察していたカウボーイ姿の男だ。
デス・ウォッチの事務所を訪れたゲイルは、ジョンが自分を排除するようコンスタンスに求めていることを知った。事務所を飛び出した 彼はシャロンに電話を掛けるが、すぐに切られた。荒れたゲイルは、禁酒の誓いを破った。翌朝、彼は酔いが残った状態でコンスタンスの 前に現れた。コンスタンスが倒れたため、ゲイルは救急車を呼んだ。ゲイルは医者から、彼女が白血病で余命わずかだと知らされた。 コンスタンスは、そのことを知りながらゲイルに隠していたのだ。
2日目のインタビューを終えたビッツィーは、ザックからベルユーが無能で三流の弁護士だと知らされた。ベルユーは一審でヘマをしたが 、それでもゲイルは彼を雇い続けたのだという。夜、ビッツィーとザックは用事を済ませ、モーテルへ戻った。コンスタンスの部屋のドア が開いていたため、彼女はザックを呼び寄せた。2人が警戒しながら部屋に入ると、一本のビデオテープが置かれていた。そこには、 コンスタンスが死ぬ場面を撮影した映像が記録されていた。
3日目の朝、ビッツィーはザックに、真犯人が単にコンスタンスを殺すだけでなく、ゲイルを苦しめようとしているのではないかという 推理を述べた。ビッツィーはベルユーの弁護士事務所を訪れ、テープのことを話した。しかしベルユーは、「証拠にならないし、死刑の 延期は難しい」と、そっけなく告げた。事務所が入っているビルを去ろうとしたビッツィーは、ロビーでダスティーを目撃した。彼女は ザックに、ダスティーを尾行するよう指示した。ザックはダスティーのトラックを追跡するが、途中で見失った。
ビッツィーは刑務所を訪れ、ダスティーのことをゲイルに尋ねた。ゲイルは、ダスティーがコンスタンスの前任のデス・ウォッチ支部局長 で、過激なアジテーターだったと説明した。ダスティーは解任されたが、コンスタンスがスタッフとして引き止めてくれたため、彼女を 信奉しているのだという。ゲイルは、裁判で自分が不利になるような証言をダスティーがしたことも告げた。
ゲイルはビッツィーに、コンスタンスと関係を持った時のことを語った。それはレイプではなく、双方が同意して体を重ねたものだった。 ビッツィーはゲイルに、ダスティーが犯人に違いないと告げた。するとゲイルは真相を解き明かすことを依頼し、「僕は救わなくていい。 息子の父の思い出を救って欲しい」と告げた。彼は死刑から逃れることは望んでおらず、甘んじて受けるつもりだった。
ビッツィーとザックがモーテルに戻るとベルユーが来ており、死刑延期の申し立てが却下されたことを告げた。ビッツィーはベルユーから 、コンスタンスとダスティーが親密な仲だったという噂を聞いた。夜、ビッツィーはビデオテープを何度も見直した。翌朝、目を覚ました 彼女は、ザックが床に放り出していたタオルを見つけ、あることに気付いた。
ビッツィーはザックを叩き起こし、急いで犯行現場の家へ向かった。ビッツィーはニコにも協力してもらい、犯行シーンを再現することに した。その結果、ビッツィーは自分の推理が正しいと確信した。テープの映像では、ゴム手袋が裏返しにして洗い場に置いてあった。その 手袋は、ビニール袋や手錠に指紋が付かないように使ったものだ。もしコンスタンスが使ったのなら、わざわざ裏返して丁寧に置くことは ないはずだ。ザックが放り出したタオルのように、無造作に脱ぎ捨てるだろうとビッツィーは考えたのだ。
ビッツィーは、ダスティーがオリジナルのテープを所持しているはずだと考えた。ダスティーは、森の中にある小屋に一人で暮らしていた。 ビッツィーはザックに電話でダスティーを誘い出してもらい、その隙に小屋を調べることにした。ダスティーが外出し、ビッツィーは必死 でテープを探す。死刑執行の時刻が、目の前に迫っているのだ。何とかテープを発見したビッツィーの元に、ザックが現れた。ダスティー は来なかったというのだ。ビッツィーとザックは車に乗り込み、急いで刑務所へ向かう…。

監督はアラン・パーカー、脚本はチャールズ・ランドルフ、製作はニコラス・ケイジ&アラン・パーカー、共同製作はリサ・モラン、 製作総指揮はモリッツ・ボーマン&ガイ・イースト&ナイジェル・シンクレア、共同製作総指揮はノーム・ゴライトリー、撮影はマイケル ・セレシン、編集はジェリー・ハンブリング、美術はジェフリー・カークランド、衣装はレニー・アーリック・カルファス、音楽は アレックス・パーカー&ジェイク・パーカー。
出演はケヴィン・スペイシー、ケイト・ウィンスレット、ローラ・リニー、ガブリエル・マン、マット・クレイヴン、ローナ・ミトラ、 レオン・リッピー、メリッサ・マッカーシー、クレオ・キング、ジム・ビーヴァー、エリザベス・ガスト、ノア・トゥルーズデイル、 リー・リッチー、マイケル・クラブトゥリー、チャールズ・サンダース、コンスタンス・ジョーンズ、ジュリア・ケイ=ラスコウスキー、 ドナルド・ブラスウェル、シンディー・ミシェル他。


『エビータ』『アンジェラの灰』のアラン・パーカー監督が、1991年の『ザ・コミットメンツ』以来、12年ぶりに他人の脚本でメガホンを 執った作品。
元々、ニコラス・ケイジの製作会社がシナリオの映画化権を取得していたため、アラン・パーカーは自分に撮らせてほしいと 頼みに行ったらしい。
そのシナリオを書いたチャールズ・ランドルフは、これが初の映画脚本。
ゲイルをケヴィン・スペイシー、ビッツィーをケイト・ウィンスレット、コンスタンスをローラ・リニー、ザックをガブリエル・マン、 ダスティーをマット・クレイヴン、バーリンをローナ・ミトラ、ベルユーをレオン・リッピー、ニコをメリッサ・マッカーシー、バーバラ をクレオ・キング、シャロンをエリザベス・ガスト、ジェイミーをノア・トゥルーズデイルが演じている。

インタビューの途中、ゲイルは「自分は真犯人にハメられた」という旨のことを口にする。
これはミスディレクションとしては、かなりアンフェアなものだ。
というのも、ゲイルにとっては、「全て計画通りだった」ということを明らかにするところまでが計画の内だからだ。
だったら、ビッツィーに対して「真犯人が他にいる」と見せ掛けるのは、ちょっと違うんじゃないかという気がする。
そうではなくて、「これは冤罪である」という程度の発言に留めて、ビッツィーが自発的に「他に真犯人がいるのでは」と疑うように 持って行くべきではなかったか。

死刑制度について考えさせるというテーマを掲げた社会派映画とした見た場合、この作品は論理が破綻している。
ゲイルの行動に基づけば、「冤罪が起きる可能性もあるから死刑制度には反対だ」というのが彼の主張だ。
しかし、冤罪の問題と死刑制度は、切り離して考えるべきではないか。
死刑に関わらず、どんな刑罰であろうとも冤罪が起きる可能性はあるのだから。
そのことは、ゲイルが逮捕されるレイプ事件によって実証されている。

しかも正確に言えば、ゲイルの死刑は冤罪ではない。
本人が全て計画し、レイプ殺人犯を演じ、死刑を宣告された。
全て本人が望んだ通りの結果になったのだ。
死刑制度に疑問を呈し、糾弾しているつもりかもしれんが、これだと死刑制度に問題があるんじゃなくて、自作自演を見抜けない警察や 法廷に問題があるってことになるんじゃないか。

ゲイルは偽装殺人で捕まり、自ら望んで死刑になったのだから、ある意味では自殺だ。
自分の主張を通すために死刑になるなんて、かなりグロテスクだ。
殉教者の如き描き方になっているけど、ただのキチガイだよ。
そのイカれた行動を皮肉っているなら分からんでもないが、マジだよな、この監督(ちなみにアラン・パーカーは死刑制度に反対 している)。
社会派に見せ掛けた純然たる娯楽サスペンスとして解釈するにしても、メッセージ性の強い社会派映画だと思わせた時点で(それさえ ミスディレクションだったとしても)、戦略として失敗していると思う。
そちらのメッセージやテーマの描き方に対する違和感に捉われて、娯楽サスペンスへの意識が散漫になってしまう。

あと、ケヴィン・スペイシーをゲイル役に据えたのも失敗だろう。
クセ物役者の彼がゲイルを演じることによって、「これは単純な殺人犯じゃなくて、何か裏があるな」と観客に思わせてしまう。
さらに、ゲイル自ら「誰かにハメられた」と言い出すからには、それも嘘で、何か別の真相があるんだろうなと思わせてしまう。
そういうリスクを孕んでいる。

社会派であれ、純然たる娯楽サスペンスであれ、前半部分の多くは必要性を感じない。
バーリンの存在やレイプ捏造事件が、後の展開に関与してくるわけでもないし。
好意的に解釈するなら、妻子も地位も失ったからこそ、ゲイルは命を懸けた計画を実行する気になったのだという理由付けのために、 そういった要素の意味があるとも言える。
でも、無くても支障は無い。

(観賞日:2008年10月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会