『レザーフェイス 悪魔のいけにえ』:2017、アメリカ

ソーヤー農場では三男のジェドが5歳の誕生日を迎え、母のヴァーナ、長男のドレイトン、次男のナビンズ、グランパがケーキで祝福した。その席には、椅子に縛り付けられた男の姿もあった。ヴァーナから泥棒だと決め付けられた男は、「豚なんか盗んでない」と否定する。しかしヴァーナは受け入れず、ジェドに「彼みたいな悪い人は家族を壊そうとするの」と語る。彼女はジェドにチェーンソーをプレゼントし、男を殺すよう指示した。しかしジェドが殺せなかったので、グランパがハンマーで男の頭を殴り付けた。
1955年、テキサス。テッドとベティーのカップルで車で移動していると、豚の皮を頭から被ったジェドが道路に座り込んでいた。テッドは慌ててブレーキを掛け、気になったベティーは走り去るジェドを追い掛けた。ジェドを追い掛けて納屋に入ったベティーは、罠に掛かって深手を負った。罠を仕掛けたドレイトンは囮の役目を果たしたジェドを褒め、ナビンズに命じてベティーを始末させた。ベティーの父で保安官のハル・ハートマンは、現場に急行した。しかし彼はドレイトンを逮捕できず、ジェドを連行することにした。ヴァーナがジェドの解放を要求すると、ハートマンは「彼は保護する。娘を奪われた。俺はアンタの子供を一人残らず奪う」と述べた。
10年後、看護師のリジーは青少年更生施設のゴーマン・ハウスに赴任した。そこは酷い家庭で育った犯罪者の子供が治療を受ける場所で、院長のラングは「入所者の多くは将来、刑務所か精神病院に入る。ここで隔離するのが社会のためだ。油断するな」と語った。病棟へ移動したリジーは、やたらと彼女の名前を呼ぶジャクソンや大柄で寡黙なバドと会った。患者のアイザックがリジーを犯そうとすると、バドが怒って喧嘩になった。患者のクラリスは別の女性患者を風呂場へ連れ込み、ネズミを口に突っ込んで苦しめた。
リジーはラングからジャクソンについて、「里親に犬を取り上げられて、昏睡状態になるまで殴り続けた」と聞かされた。リジーがバドのカルテに目を通すと、「双極性障害」と書かれていた。ジャクソンはリジーに、「電気療法室の真相を教えとく。ラング先生の恐怖の部屋と呼ばれてる」と告げた。ヴァーナはカーソン夫人となり、弁護士のファーンズワースを伴ってラングの元を訪れた。彼女はジェドとの面会を要求し、裁判所の命令書を見せた。するとラングは「犯罪者の一家から身を隠せるように、患者は名前が変わってる。記録を見ないと誰がジェドか分からない。記録の照会には別の裁判所命令が必要だ」と説明し、引き取るよう促した。
電気療法室では2人の看護師がバドを縛って髪を切り、アイザックも椅子に拘束していた。ヴァーナはトイレに行くと嘘をつき、ジェドの捜索に向かった。彼女は看護師を殴り倒して防護柵の鍵を開け、病棟に入ってジェドの名を呼んだ。患者たちは病棟を抜け出し、好き勝手に暴れ始めた。ヴァーナは警備員に捕まり、ゴーマン・ハウスから追い出された。バドは看護師2人を殺害し、アイザックの頼みを受けて拘束を解いた。彼は院長室に乗り込み、ラングを殺害した。
アイザックは恋人のクラリスと合流し、性行為に及ぶ。リジーは身を隠すが、一緒にいた同僚が男性患者に殺された。リジーも窮地に陥るが、ジャクソンが駆け付けて男性患者を始末した。彼はリジーの手を取り、ゴーマン・ハウスから脱出する。アイザックとクラリスは人質にするため、2人を捕まえて車のトランクに閉じ込めた。アイザックはバドを見つけると、車に同乗させた。すぐにガソリンが無くなったため、彼はは車を放棄せざるを得なくなった。
リジーは隙を見て逃亡を図るが、クラリスに捕まった。アイザックはリジーに、「また逃げようとしたら、目の前でジャクソンとバドを殺す」と通告した。アイザックはリジーから行き先を問われ、「メキシコだ。途中で金と車を手に入れる。お袋のいるオースティンに立ち寄る。国境で別れる」と説明した。ハートマンはゴーマン・ハウスへ行き、ソレルズ保安官助手と合流した。彼は「これは子供の暴動じゃない。悪魔の仕業だ」と言い、ニューメキシコまで捜査網を広げるよう命じた。
ジャクソンたちは徒歩で街に辿り着き、バーベキュー・レストランを見つけた。アイザックはバドに見張りを命じ、ジャクソン、リジー、クラリスを連れて店に入った。アイザックはクラリスは食事をしながら、背後の男が銃を持っていることを確認した。彼らはウェイトレスと男を次々に殺害し、銃を奪って発砲した。彼らは他の客を脅し、金を奪い取った。リジーは逃亡を図るが、バドに捕まった。生き残った男が発砲し、バドの腹に怪我を負わせた。アイザックたちは車に乗り込み、店から逃亡した。
アイクは古いトレーラーハウスを発見し、そこで一夜を過ごすことにした。彼らが奥に進むと、持ち主が死体になっていた。夜中に逃走を図ったリジーは、アイザックに見つかって強姦されそうになる。そこへジャクソンが駆け付け、アイザックを殴り付けてリジーを救った。ジャクソンがアイザックを殴打していると、ショットガンを構えたクラリスがバドと共に現れた。彼女はジャクソンに銃を向けながら、事情説明をアイザックに要求した。するとアイザックは、ジャクソンとリジーが逃亡を図ったと説明した。
クラリスがリジーを射殺しようとすると、アイザックは「落ち着け。計画通りに進める。2人をトレーラーに連れて行け」と指示した。彼はバドを「最低の見張り役だ」「お前は無価値だ」と罵り、消え失せろと言い放つ。アイザックが1人になると、バドが襲い掛かって殺害した。翌朝、リジーがアイザックの捜索に向かうと、リジーはジャクソンに逃げようと持ち掛けた。しかしジャクソンはバドを心配し、彼の捜索に向かった。ジャクソンはアイザックの遺体の傍らで眠り込んでいるバドを発見し、起こして連れ出した。
クラリスはソレルズに拳銃を突き付けられ、仲間の居場所を明かすよう迫られた。クラリスが「知らない。アイザックがいない」と話していると、ハートマンが2名の助手を引き付けて到着した。ハートマンはクラリスを殴って傷口を痛め付け、「奴らはどこだ」と詰め寄った。クラリスが隙を見て逃げ出すと、彼は脚を撃って捕まえた。その様子を隠れて見ていたジャクソンは、リジーに「奴は問題児を痛め付け、施設に入れる」と説明した。
ソレルズたちはトレーラーを発見し、ハートマンはクラリスを連れて移動した。クラリスに「アンタは哀れな老人よ。いつまでも娘の死を嘆いてる」と馬鹿にされたハートマンは、無言で射殺した。トレーラーの中に誰もいなかったので、ハートマンたちは去った。ジャクソンたちは動物の死骸を利用して匂いを消し、警察犬による捜索を逃れた。しかしパトカーを見たリジーが大声で助けを呼んだため、保安官に気付かれた。バドはパトカーに歩み寄り、保安官が拳銃を構えて「止まれ」と命じても従わなかったので射殺された。
ジャクソンは激高して保安官に襲い掛かり、激しい暴行を加えて殺害した。彼はリジーをパトカーに放り込み、運転させた。ジャクソンが「君のせいでバドが死んだ」と荒れていると、ハートマンが車で追って来た。ジャクソンはリジーにスピードを上げるよう命じるが、発砲を受けて口が大きく裂けた。リジーも肩を撃たれ、パトカーは横転した。リジーが意識を取り戻すと夜になっており、パトカーに手錠で拘束されていた。ジャクソンとハートマンの姿は無く、窓の外には古い納屋が見えた。
ソレルズから無線が入ったため、リジーはゴーマン・ハウスで誘拐された看護師だと訴えた。ソレルズが居場所を尋ねると、彼女は「どこにいるか分からない。パトカーの中にいる。近くに古い納屋がある」と説明した。その直後、ハートマンがリジーを連れ出して納屋に放り込んだ。するとジャクソンが頭から袋を被せられ、吊るされていた。ハートマンはリジーに、「こいつはジャクソンじゃない。ジェド・ソーヤーだ」と告げた。ソレルズはヴァーナの元へ行き、リジーから得た情報を知らせた。すぐにヴァーナは、その納屋はベティーが殺害された場所だと気付いた。ソレルズが約束の金を要求すると、ヴァーナはドレイトンとナビンズに殺害させた…。

監督はジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ、キャラクター創作はキム・ヘンケル&トビー・フーパー、脚本はセス・M・シャーウッド、製作はレス・ウェルドン&カール・マッツォコーネ&クリスタ・キャンベル&ラティ・グロブマン、製作総指揮はトビー・フーパー&ケヴィン・グルタート&ジョン・ラッセンホップ&ロバート・クーン&キム・ヘンケル&アヴィ・ラーナー&トレヴァー・ショート&ジョン・トンプソン&ボアズ・デヴィッドソン&マーク・ギル&ベス・ブラックナー・オブライエン、共同製作はスコット・ミラム、共同製作総指揮はロニー・ラマティー、撮影はアントワーヌ・サニエ、美術はアラン・ベイニー、編集はセバスティアン・ドゥ・サンテ・クロワ&ジョシュ・イーザー、衣装はイマ・ダミヤノワ、音楽はジョン・フリッゼル。
出演はスティーヴン・ドーフ、リリ・テイラー、サム・ストライク、ヴァネッサ・グラッセ、フィン・ジョーンズ、サム・コールマン、ジェシカ・マドセン、ジェームズ・ブルーア、クリストファー・アダムソン、ディモ・アレクシエフ、ネイサン・クーパー、デヤン・アンジェロヴ、ボリス・カバクチエフ、ロリナ・カンブローヴァ、リスト・ミレフ、シモーナ・ウィリアムズ、ヴェネリナ・ギャウローヴァ、ヴェリザール・ビネフ、ウラジミール・ウラディミロフ、ウラジミール・ミハイロフ、エデュアルド・パーセヒアン、ジュリアン・コストフ、イアン・フィッシャー、ニコール・アンドリュース他。


1974年の映画『悪魔のいけにえ』に登場するレザーフェイスの幼少期から青年期を描いた作品。
監督は『リヴィッド』『恐怖ノ白魔人』のジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ。
脚本は『エンド・オブ・キングダム』にアンクレジットで参加していたセス・M・シャーウッドで、正式作品としては初めての長編。
ハートマンをスティーヴン・ドーフ、ヴァーナをリリ・テイラー、ジャクソンをサム・ストライク、リジーをヴァネッサ・グラッセ、ソレルズをフィン・ジョーンズ、バドをサム・コールマン、クラリスをジェシカ・マドセン、アイザックをジェームズ・ブルーア、ラングをクリストファー・アダムソンが演じている。

ザックリと言うなら、これは「有名なホラー・モンスターの名前を借りた全くの別物」である。
そもそもソーヤー家の農場が主な舞台になっておらず、無関係な連中とジェドの逃避行をメインに据えている時点で間違っている。
しかも「無関係な連中とジェドの逃避行」と書いたけど、その中にジェドがいることは明言されない形で話が進むからね。つまり表面的には、「ソーヤー家と何の関係も無い連中の逃避行」を見せられているわけで、コレジャナイ感が強すぎるわ。
今回はジェドがレザーフェイスになった出来事を描くわけだが、そのきっかけになるのがソーヤー家と無関係な連中との逃避行で発生するってのは、どういうセンスなのか。
『悪魔のいけにえ』に対する愛もリスペクトも無いのかよ。

映画の冒頭では、家族から男を殺すよう促されたジェドが出来ずにチェーンソーを落としてしまう様子が描かれる。
しかし、その表現には大いに引っ掛かる。
ジェドは「家族全員が猟奇殺人者」という環境で暮らしており、外部の情報が耳に入ることも無いはずだ。つまり彼にとって、「人を殺す」というのは「当たり前の行為」という感覚になっているはず。
殺人に対する罪悪感や恐怖の感覚は備わっていないはずなので、そこで躊躇するのは違和感が強い。

しかも、そんな環境で過ごしていながら殺人を躊躇していたジェドが、更生施設で暴動が起きた時には平気で人を殺しているし、逃避行の終盤になるとレザーフェイスに変貌するんだよね。それは変だろ。
ジャクソンは途中まで、リジーを守ろうとする男として動かされている。そんな奴が急にレザーフェイスへの変身するのは、展開として無理があるぞ。
ほとんどグラデーションが無くて、唐突に変貌するのよね。
幾らオッペケペーなスプラッター映画だからって、何でも許されるわけじゃないぞ。

ドレイトンは罠を仕掛けてベティーを殺したのに、何の罪にも問われていない。
一応は「証拠が無いから」ってことなんだろうけど、それは無理があり過ぎるだろ。なんで「死体を見つけただけ」という主張が平気で罷り通ってしまうんだよ。
今回が初めてじゃなくて今までに何度も殺人を重ねていたのに、それも全て逮捕されずに済んでいるみたいだけど、証拠を残さない巧妙な隠蔽工作を施している様子も全く見られないし。
あと、ハートマンは「ヴァーナの子供を全て奪う」と言っているけど、ナビンズはどうなったんだよ。ジェドは保護されてゴーマン・ハウスに送られているけど、「その後のナビンズ」が完全に無視されているのは、どういうことだよ。

リジーはゴーマン・ハウスでラングと会った時、「ここで働きたかった」と晴れやかな表情で口にする。でも、そのモチベーションの高さは疑問しか無いわ。
マザー・テレサ的な慈愛と使命感に満ちた性格で、「可哀想な患者を救いたい」と意欲に燃えている設定なのか。でも、ただ不可解で不自然なだけだわ。
「慈愛に満ちたヒロインが地獄絵図に巻き込まれ、力になろうとしていたジャクソンに惨殺される」という形で残虐性を強めようという狙いがあったなら、ものすごく悪趣味ではあるけど、やり方として理解できなくはない。
ただ、そのためのキャラ設定を成立させるための背景が、ものすごく弱いのよ。

リジーがバドのカルテを見るシーンがあるが、他の患者については病名が明かされていない。
バドは大柄だし、その見た目からしても「彼がレザーフェイスになる男。つまり成長したジェド」と観客に思わせたいんだろう。
だけどジャクソンの存在感が不自然に大きいので、彼が本命ってのはバレバレになってんのよね。
そりゃあ今までのシリーズで登場したレザーフェイスと同一人物の印象は皆無だけど、冒頭で「ジェドが男を殺せずにチェーンソーを落とす」という様子も見せているしね。

「レザーフェイスの誕生」を描く映画だから、なかなかレザーフェイスの猟奇殺人を描けないってのは、理屈としては分からんでもない。それを前半から描いたら、「もう誕生しちゃってる」ってことになるからね。
でも、だからってレザーフェイスと何の関係も無いアイクやクラリスたちの猟奇殺人ばかりを描いて時間を消費するのも、それはそれで違うだろう。
何の映画を見せられているのかと言いたくなるぞ。
まだソーヤー家の面々の殺人が描かれて、その中でジェドが立派な猟奇殺人鬼に変貌していく経緯を見せるのならともかく、愛の他人による殺人の連続だし。

終盤に入るまでは、「逃避行を続ける殺人カップルと、それを追う執念の保安官を描く犯罪映画」みたいになってんのよね。ソーヤー家の面々が脇役と化しているのよね。
「リジーが逃亡を図るが捕まる」という手順が何度も繰り返されるのも、「もういいよ」と辟易するし。
最終的にジャクソンっていうかジェドがレザーフェイスとしてリジーを殺すのは想定内だけど、腑に落ちる結末とは到底言い難い。
ホラー映画におけるバッドエンドとは全く異なる意味で、嫌な後味が残る作品に仕上がっている。

アイザックはヤバい奴だが、バドに殺される。クラリスもヤバい奴だが、ハートマンに殺される。バドは保安官に殺され、その保安官をジャクソンが殺す。ハートマンはジャクソンを殺そうとするが、返り討ちに遭う。
ようするに、イカれた殺人鬼どもが殺し合う話になっているわけだ。
これが『悪魔のいけにえ』と無関係なホラー映画なら、そういうプロットも有りだろう。
だけどレザーフェイスの誕生を描く作品で、それは違うでしょ。「そもそもレザーフェイス誕生編なんて要らない」という問題は置いておくとしてさ。

(観賞日:2024年1月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会