『リープ・イヤー うるう年のプロポーズ』:2010、アメリカ&アイルランド

ボストンで生まれ育ったアンナは、不動産コーディネーターとして働いている。彼女は4年前から交際している恋人のジェレミーと高級アパートで暮らすことを希望しており、ようやく空きが出たので審査を受けた。審査を終えた彼女は、ジェレミーから「ディナーの予約は8時だ。特別な夜だから期待して」と告げられた。友人と会ったアンナは、ジェレミーが宝石店から出て来たのを見たと知らされる。彼女の「アンタのために婚約指輪を買ったのよ」という言葉に、アンナは大喜びした。
バーで父のジャックと会った彼女は、婚約したと口にする。祝福したジャックから「ジェレミーは?」と訊かれたアンナは、「心臓病学会でダブリンに行くから荷作りしてる」と答えた。「ジェレミーが決心しなかったら、お前もアイルランドに付いて行くことになっていたな。今年は、うるう年だから」と言われたアンナは、「またその話」と顔をしかめる。アンナの祖母は祖父が結婚に踏み切らないので、故郷のアイルランドに連れて行った。祖母が2月29日にプロポーズすると、事はトントン拍子に運んだというのだ。
夜、レストランへ赴いたアンナは、ジェレミーから「仕事が不規則で迷惑を掛けるけど、心から感謝してる。これを受け取って欲しい」と小さな箱を渡される。頬を緩ませたアンナだが、箱に入っていたのは宝石の付いたイヤリングだった。同僚から連絡を受けたジェレミーは、「行かなきゃ」とディナーを切り上げて店を後にした。帰宅したアンナは、うるう年のプロポーズについてネットで調べる。うるう年のプロポーズは、5世紀からアイルランドに伝わる風習だ。アイルランドでは2月29日、女性から男性にプロポーズできるのだ。
アンナは荷物をスーツケースに入れて、ジェレミーが出張しているアイルランドへ行くことにした。しかし天候不良でダブリン空港が閉鎖されたため、飛行機はウェールズのカーディフに緊急着陸した。「計画が狂う」と焦るアンナだが、飛行機だけでなくフェリーも運航中止になっていた。アンナは漁船をチャーターするが、激しい時化に見舞われたので船長は「ティングルに行くしかない」と言う。アンナはダブリンに行くことを断念し、ティングルの浜辺で降ろしてもらった。
沿岸の村に辿り着いたアンナは、パブに足を踏み入れた。彼女は常連客のシーマスとジョーにダブリンまで行く方法を尋ねるが、列車もバスの路線も廃線になっていると言われる。アンナは店主のデクランに「ここからタクシーとか呼べるかしら?」と訊き、タクシー会社の番号を教えてもらう。携帯電話のバッテリーが切れそうになっていたので、彼女は店の電話を使わせてもらうことにした。しかし応対した男は、「赤毛の女は乗せない」と告げる。振り向くとデクランが電話に出ており、常連客と一緒になって笑った。デクランが教えたのは、店の電話番号だった。
アンナが「ダブリンまで車で送ってほしいの」と頼むと、デクランは「ダブリンは自分勝手で卑劣な連中ばかりがいる場所だ。どんなに金を積まれても行かない」と断る。アンナは「明日の朝まで待って誰かを捜すわ」と言い、パブがホテルも兼ねていると知って一泊することにした。2階のオンボロな部屋に通されたアンナが携帯を充電するために電源を使おうとすると、ショートして村中が停電になった。腹を立てたデクランに責められた彼女は、「感じが悪い」と不快感を示した。
翌朝、アンナは店の電話でジェレミーに連絡し、アイルランドまで来ていることを話す。ジェレミーが「いつ来る?」と訊くので、彼女は「タクシーが見つかれば、午後にでも」と告げた。外を見たアンナは、デクランが借金取りから10日後までに1千ユーロの返済を迫られている様子を目にした。デクランはアンナが着替えているのも気にせず部屋へ押し掛け、「500ユーロを払うならダブリンまで連れてってやる」と告げた。オンボロ車を見たアンナは、ルイ・ヴィトンのバッグも知らないデクランに呆れた。パブの常連客であるドナルたちは「不吉だから行かない方がいい」と言うが、アンナは全く相手にしなかった。
アンナは恋人のジェレミーに逆プロポーズするつもりだと明かし、アイルランドの伝統について語った。するとジェレミーは馬鹿にして笑い、「そんな話は聞いたことが無い」と言う。アンナが「昔からの慣習よ」と語ると、彼は「そいつが本気でプロポーズしたかったら、とっくにしてるはずだ」と告げる。アンナは腹を立て、茶化すデクランに「貴方とはもう話さない。運転だけして」と告げた。牛の群れに行く手を塞がれたアンナは、必死に語り掛けて移動させた。
車のサイドブレーキが緩かったため、アンナが体重を掛けると坂を滑り落ちて川に落下した。デクランは「どうしてくれる?」と怒鳴り、、車を引っ張り上げる代金を支払うよう要求した。アンナは憤慨し、歩いてダブリンへ向かおうとする。デクランは「電話を探して牽引車を呼べばいい」と説得を試みるが、アンナは耳を貸さなかった。アンナは通り掛かった車をヒッチハイクし、ダブリンまで送ってもらおうとする。しかし車の男3人組はスーツケースを奪い、その場から走り去った。
アンナはバーに入って電話を貸してもらおうとするが、先程の3人組を見つけてスーツケースを取り戻そうとする。3人組が凄んでいるとデクランが現れ、「そこまでだ」と言う。デクランはパンチを浴びて倒れるが、反撃して3人を撃退した。騒ぎを起こしたので、アンナは電話を貸してもらえず店から追い出された。駅に着いたアンナが次のダブリン行きを尋ねると、駅長のフランクは2時間43分後だと告げた。丘の上にある城まで15分だとデクランが言うと、「列車に乗れなくなる」とアンナは告げて残ろうとする。しかし犬に吠えられた彼女は、慌ててデクランの後を追った。
デクランに仕事を訊かれたアンナは「コーディネーターよ」と言う。「家を売りたい人のために家具を持ち込み、部屋の見栄えを良くする。家を買ってもらったら家具は引き上げる」という説明を聞いたデクランは、「詐欺じゃねえか」と扱き下ろした。城に着いたアンナが「何か言い伝えがあるの?」と訊くと、デクランは城にまつわる男女の伝説を詳しく語った。「もしかして口説いてる?」とアンナが言うと、デクランは「自惚れるな。あくまでも民話だ」と鼻で笑った。
電車が来たのでアンナは急いで駅に戻ろうとするが、突然の雨で足を滑らせて坂を転落した。彼女が起きに駆け込むと、電車は出発した後だった。フランクは自宅で宿も営んでおり、アンナとデクランを連れ帰った。すると妻のアイリーンは、「ちょうど2人を帰らせたところだから部屋は空いてるわ。結婚してなかったのよ。幾ら土砂降りでも、結婚してなきゃダメよ」と言う。そこでアンナとデクランは夫婦を装い、同じ部屋で泊まることになった。
2人は1つしか無いベッドの権利をコインの裏表で競い、デクランが使うことになった。しかしシャワーを浴びたアンナは騙されたことに気付き、ベッドを奪い返した。アイリーンが牛の胃袋を夕食に出そうとしたので、デクランが「面倒を掛けたので僕が料理しますよ」と持ち掛けた。畑へ野菜の収穫に出たアンナは、どんな時でも「何とかなる」という考えを貫くデクランに「ホントに何とかなると思う?」と問い掛ける。彼女は「何とかなる」が口癖だった父が次々に新しい事業に飛び付いて借金を重ね、家が差し押さえられたことを語った。デクランが「ごめん。頼りがいのある親父さんなら良かったのにな」と素直に詫びたので、アンナは何も言えなくなった。
デクランはアンナに手伝ってもらい、チキンに煮込みを完成させた。宿にはイタリア人夫婦も泊まっており、アンナたちは食堂で一緒に夕食を取った。フランクとアイリーンが熱烈なキスをすると、イタリア人夫婦も「夫婦円満の秘訣はキスだ」と長いキスをする。「次は君たちの番だ」とフランクに言われたアンナとデクランは何とか誤魔化そうとするが、逃げ切れずにキスをする羽目になった。部屋に戻ったアンナはデクランに頼まれ、同じベッドで眠ることを承諾した。
次の朝、目覚めたデクランはアンナの肩に自分の手が触れていると気付き、そっと離れた。しかしアンナは既に起きており、そのことに気付いていた。アンナはジェレミーに電話を掛け、入居審査に合格したという知らせがあったことを聞いて喜んだ。彼女が弾んだ声で話す様子を見たデクランは、複雑な表情を浮かべた。アンナはダブリンへ行こうとするが、フランクから「今日は日曜だから列車は動かない」と言われる。アンナが「車で送って。お金は払う」と持ち掛けると、フランクは「女房が車でダブリンまで行ってる」と告げた。
アンナはバス乗り場へ向かうが、急に雹が降り出した。彼女が付いて来たデクランと共に近くの教会へ駆け込むと、結婚式の最中だった。歓迎された2人は結婚式に参列し、アンナは司祭の車で送ってもらえることになった。アンナに「いつも人のことを悪く言う。だから結婚も出来ない」と批判されたデクランは、「結婚はしてた。一度」と口にした。花嫁が参列者の前でスピーチしていると、デクランは逃げるように席を立った。
アンナが追い掛けて「話を聞くけど」と言うと、デクランは「ここはアイルランドだ。酒を飲んで忘れるんだ」と告げる。アンナが「心配してあげてるのよ」と口にすると、彼は「ワケの分からない伝統に従って、逆プロポーズするんだろ。そんなの馬鹿げてる。人の心配より自分の心配をしてろ」と語る。アンナは「馬鹿げてないわよ。ロマンティックよ」と反発し、その場を去った。アンナは結婚式のダンスパーティーでデクランに誘われ、新郎や他の客と一緒に楽しく踊った…。

監督はアナンド・タッカー、脚本はデボラ・カプラン&ハリー・エルフォント、製作はゲイリー・バーバー&ロジャー・バーンバウム&ジョナサン・グリックマン&クリス・ベンダー&ジェイク・ワイナー、共同製作はレベッカ・ラッド&キャシディー・ラング&モーガン・オサリヴァン&ジェームズ・フリン、製作総指揮はJ・C・スピンク&スー・アームストロング、撮影はニュートン・トーマス・サイジェル、美術はマーク・ゲラティー、編集はニック・ムーア、衣装はイマー・ニー・ヴァルドウニグ、音楽はランディー・エデルマン。
出演はエイミー・アダムス、マシュー・グッド、アダム・スコット、ジョン・リスゴウ、ノエル・オドノヴァン、トニー・ローア、パット・ラファン、アラン・デヴリン、イアン・マッケルヒニー、ドミニク・マッケリゴット、マーク・オリーガン、マギー・マッカーシー、ピーター・オメーラ、マクダラ・オファザータ、ケイトリン・オルソン、ライザ・ロス、マーシア・ウォーレン、マイケル・J・レイノルズ、ベン・キャプラン、キャサリン・ウォーカー、マイケル・フィッツジェラルド、ブライアン・ミリガン他。


『星の王子さまを探して』『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』のアナンド・タッカーが監督を務めた作品。
『フリントストーン2/ビバ・ロック・ベガス』『近距離恋愛』のデボラ・カプラン&ハリー・エルフォントが脚本を担当している。
アンナをエイミー・アダムス、デクランをマシュー・グッド、ジェレミーをアダム・スコット、ジャックをジョン・リスゴウ、シーマスをノエル・オドノヴァン、フランクをトニー・ローア、ドナルをパット・ラファン、ジョーをアラン・デヴリンが演じている。

始まってから3分に満たないアヴァン・タイトルで、多くの情報を観客に伝えようとしている。
具体的には、「アンナはジェレミーと交際している」「不動産コーディネーターとして働いている」「高級アパートに入ることを希望しており、審査を受けた」「ちょっと性格に問題のありそうな女」ってことだ。
ただ、その程度の情報なら、たぶん上手く整理すればスンナリと頭に入って来ただろう。
しかしカットの繋ぎ方で無駄にゴチャゴチャさせているから、「やたらと慌ただしいなあ」という印象になっている。

そのアヴァン・タイトルの構成を、具体的に表記してみよう。
まずアンナが町を歩き、外にいる男たちに挨拶するシーンがある。次に酒場のカウンターに彼女がいるシーン。アパートの審査シーン。仕事で客と会うシーン。
再び酒場で、アンナがカウンターの汚れを気にしているシーン。アパートの審査シーンの続きがあって、さっきの客のためにインテリアを部屋へ運び込むシーンが挟まれる。
アンナがドレスを仕立てているシーンがあって、また酒場のシーン。審査のシーン、酒場、審査と繋げて、インテリアを揃えた場所に客が戻っる。
そして審査を終えたアンナがジェレミーと外へ出るシーンで、アヴァンが終了する。

そこって、そんなに短いシーンを交差させる必要性が無いよね。
まず酒場のシーンは、絶対に要らない。客と会ってインテリアを運び込むシーンも、ここで無理に放り込む必要はない。審査を終えた後で、仕事へ行く流れにしても成立する。
っていうか、実はアパートの審査シーンも全く要らないんだよね。どうせ彼女は、そこで暮らすわけじゃなくてアイルランドへ飛ぶんだし。
つまりアヴァンで見せておくべきなのは、「アンナが不動産コーディネーターをしている」ってことか、「アンナがジェレミーと付き合っている」ってことか、どっちか1つなのよ。
どちらかを処理して、それから残り1つを示せばいい。そして「ジェレミーからプロポーズされると早合点する」という展開に移行すれば、それで充分なのだ。

ジェレミーと結婚したいアンナは、父から聞かされて辟易した表情になっていた「うるう年のプロポーズ」を実行しようと決める。でも、アイルランドまでジェレミーを追い掛けるという思い切った行動に彼女を駆り立てるには、「うるう年のプロポーズ」の観客に対する序盤のアヒールが弱すぎる。
まずジャックがアンナに語る時点で、その説明が薄い。後からアンナがネットで調べるシーンを入れているが、それを合わせても物足りない。
なぜなら、「そんな風習に頼らなくても、自分から求婚すりゃ良くねえか?」と思ってしまうからだ。
男性からの求婚が多数派だとは思うけど、「アメリカでは女性からの求婚が許されない」ってわけでもないでしょ。ハッキリとした求婚じゃないにしても、もう少し匂わせる程度の言動は取ってもいいだろう。
そういう手順を全く用意せず、いきなり「ジェレミーのプレゼントが指輪じゃなかったのでアイルランドへ飛ぶ」という展開になるのは、突飛な行動にしか思えないのだ。

天候不良でウェールズに降ろされたアンナは、「計画が狂う」と焦る。彼女はグランドスタッフに計画を説明して「どうしても今日中にダブリンへ行かなきゃ」と訴えたり、フェリーの受付係に文句を言ったりする。
そこまでなら、まだ分からなくもない。
しかし、嵐の中で漁船をチャーターしてまでダブリンへ向かおうとするのは、さすがに「キャラの動かし方に無理があるだろ」とツッコミを入れたくなる。
どんだけ計画に執着するのかと。
そこまでアンナが必死で行動しなきゃいけない動機が見当たらないのよ。

そりゃあ、「どうしてもジェレミーと結婚したい」ってことなんだろうとは思うよ。だけど、その行動を納得させるだけの説得力は皆無だ。
うるう年だから4年に1度のチャンスではあるけど、「嵐だから諦めざるを得ない」ってことになるんじゃないかと。
「今回のチャンスを逃したらジェレミーと結婚できない」というぐらいの、切羽詰まった感じになっちゃってんのよね。
だけど、そこまでの状況には到底思えないのよ。

アンナは逆プロポーズするためにアイルランドへ飛ぶが、ダブリンに行けず別の村でデクランと出会う。
この時点で、「アンナとデクランが惹かれ合うようになり、最後はカップルになる」という展開を、たぶん多くの観客が予想するだろう。そして本作品は、その予想通りに展開する。
もう少し細かいトコまで分け入っても、「たぶんこうなるだろうな」という要素がズバズバと的中する。
何しろ、どこにでも転がっているようなオーソドックスなラブコメなので、予定調和で覆い尽くされているのだ。

「都会で暮らす女と田舎育ちの男」「上級志向の女と下品な男」「高慢な女と無愛想な男」という風に、アンナとデクランのキャラクターも分かりやすく作ってある。
「2人の第一印象は悪く、しばらくは相手に腹を立てて言い争いが続く。しかし相手の優しさなど意外な一面を見て印象が変化し、少しずつ惹かれ合っていく」ってのを出会いのシーンから予想するのは、そう難しくない。
そして、その予想通りのストーリーが進行する。
良くも悪くも、この映画に裏切りは無い。

この映画は、オーソドックスなプロットにベタな飾り付けを施し、何の捻りも用意せずに仕上げている。
では「予定調和だけど質は高い」という出来栄えなのかというと、そうではない。
この映画の問題点は「ベタであること」ではなく、「ベタとしての質が低いこと」にある。
「どこかで見たような」という既視感の連続なのだから、既存の映画と比較されることは確実だ。だからこそ、今までの映画に負けない品質が必要になる。
それが、この映画には無い。

何より厳しいのは、メインの2人に「応援したい」とか「カップルになってハッピーになってほしい」という魅力が乏しいことだ。最初にアンナが「鼻持ちならない女っぽいな」という印象を抱かせるのだが、デクランが出て来ると「こっちの方が問題だな」と感じる。
アンナは自慢げな話ぶりが少し鼻に付く部分もあるものの、そんなに印象は悪くない。それに対してデクランの方は、何かに付けてアンナを馬鹿にする嫌な奴なのだ。
アンナが腹を立てるのも、明らかにデクランの言動に非がある。決して「アンナが土地のルールに従わないから」とか、「アンナが身勝手だから」というわけではない。
そして前半で抱かせた好感度の低さを、後半で取り戻せるわけでもない。
後半で彼が見せたやった好感度アップの行動って、せいぜい料理を作ったことぐらいだよね。

たぶん「アンナは中身ではなく肩書きで判断しようとする女で、それがデクランとの旅によって大きく変化する」ってのを描きたい脚本なんだろうと思う。
それはアンナがデクランから「特別な奴か?」とジェレミーについて問われ、「そうよ。だって心臓外科医だもの」と自慢げに話すシーンなどから伝わってくる。
でも、それなら序盤のキャラ紹介の部分で、そういうことに触れておくべきだよ。その時点では、そういうタイプってことが全く伝わって来ない。
あと、「じゃあジェレミーは肩書きよりも中身を重視する男なのか」っていうと、そういうわけでもないしね。こいつは単純に、口が悪くて性格の曲がった男でしかないのよ。

アンナとデクランが惹かれ合う筋書きに見合うようなエピソードが用意されていないので、「キスをしたことで気持ちが燃え上がった」という風にしか見えないのね。
そもそも「キスせざるを得なくなる状況に追い込まれる」という筋書きそのものに無理があるのは、ひとまず置いておくとしよう。
そんなシーンを用意するのなら、そこまでに「アンナとデクランは何となく相手が気になっている」という状態まで持っていくべきだと思うのよ。
でも、直前に「一緒に料理を作った」というシーンがある程度でしょ。その料理シーンの直前まで、2人は完全にいがみ合っていたわけでね。

終盤に入り、デクランは身の上話をアンナに語る。親友に奪われた元妻がダブリンにいることや、母の形見の指輪を彼女が持っていることを話す。
でも、それって「だから何なのか」という内容なんだよね。
それを知ったからって、デクランの好感度に繋がるわけではないのよ。せいぜい、同情心を誘う程度のことだ。
つまり、それは「アンナがデクランに同情する」という要素に使うなら間違っちゃいないが、「恋をする」というトコで使うには不向きなのだ。
同情心と恋愛感情は、全くの別物だからね。

っていうか、それまでにアンナはデクランを好きになっていて、両思いってことが態度に出まくっている。
だけど、「ジェレミーの存在はどうなるのか」ってのが大いに引っ掛かるのよ。
これが「ジェレミーはアンナのことを本気で愛していない」ってのが観客にもハッキリと分かるようになっていたり、「アンナとジェレミーの関係は円満とは言い難い」という状態だったりすれば、問題は無いだろう。
だけど序盤の描写だけだと、ジェレミーは本気でアンナを愛していて、結婚に関して煮え切らないだけにしか見えないのだ。

ジェレミーと再会したアンナは、プロポーズされてOKする。しかしジェレミーのプロポーズが保守的な入居審査に合格するためだったと知り、ショックを受ける。ジェレミーは「どうせいつかと思ってたしね」と軽く言うが、アンナの気持ちは完全に彼から離れる。
アンナはジェレミーが火事の時に何を持ち出すのか調べるため火災報知機を鳴らし、貴重品を持ち出そうとする彼の姿を見る。アンナはジェレミーとの結婚を撤回し、デクランの元へ走る。
だけど、「どうせいつかと思ってたし」ってのは、そんなに悪いことでもないでしょ。つまり彼は、アンナと結婚したがっていたわけなんだからさ。
火事の時に貴重品を持ち出そうとするのも、間違っているとは思えない。
ジェレミーを悪者にすることでアンナとデクランの恋物語をハッピーエンドに持ち込んでいるけど、「アンナが旅先で他の男を好きになり、自分に都合の良い言い訳を用意して恋人を捨てる話」になっちゃってんのよね、これって。

(観賞日:2020年2月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会