『ラスト・ウィッチ・ハンター』:2015、アメリカ&中国&カナダ

800年前、身内を亡くした男たちの一団が、巨大な木に辿り着いた。一団のリーダーは大きな十字架を握り、「ペストで死んだ者たちの復讐が果たされる。魔女の女王が大地に呪いを掛けた。そやつの死によってのみ、我らの救済がある」木の中へ足を踏み入れた一団は、女王の魔術によって次々に死んでいく。妻のヘレナと娘のエリザベスを亡くしたコールダーは勇敢に戦い、女王の腹に剣を突き刺した。すると女王は不敵に笑い、不老不死の呪いを掛けた。
飛行機に乗っていたコールダーは、古代の呪術道具を持っている若い魔女を見つけた。その魔女は何も知らなかったが、所持している道具には天候を操れる力が備わっていた。彼女が全てまとめて鞄に入れていたせいで、上空では乱気流が発生していた。すぐにコールダーが対策を取ったため、乱気流は消えた。魔女が「魔女評議会に報告するの?」と不安げに尋ねると、コールダーは「いや。ニューヨークを楽しめ」と告げた。
長き戦いの後に協定が締結され、魔女たちは「人間に魔術を使わない」という条件で生存権と自治権を与えられた。しかし暗黒時代に君臨した女王の復活を望む魔女たちも存在しており、コールダーは斧と十字架団に仕えるハンターとして仕事に当たっていた。神父の36代目ドーランもコールダーの相棒として、斧と十字架団に仕えていた。ニューヨークに到着したコールダーは引退を決めた36代目を訪ね、餞別として万年筆を贈った。
コールダーが去った後、36代目は翌日の対面を控えた後任の37代目に、斧と十字架団がコールダーを単なる武器と捉えていることへの懸念を吐露した。彼が「どんなことがあってもコールダーを見守ると誓ってくれ」と頼むと、37代目は「もちろんです。それが仕事です」と約束した。37代目が去る様子を、1人の男が観察していた。翌朝、コールダーは37代目からの電話によって36代目の死を知らされた。教会でドーランの引き継ぎ式が執り行われた後、37代目はコールダーと対面して「以前にも会っています。ずっと昔」と告げた。
コールダーは36代目の死に不審を抱き、彼の書斎を調べる。隠蔽されていた黒魔術の痕跡を見つけた彼は、魔女の仕業だと確信した。彼は魔女が36代目を椅子に拘束し、何かを探していたことを悟った。37代目の左手には火傷の跡があり、彼は「5歳の頃、魔女に家を燃やされ、貴方が僕を抱えて2階から飛び降りてくれました」とコールダーに話した。「奴らに制裁も加えてくれました。それ以来、貴方の力になると誓ってきました」と彼が言うと、コールダーは「いい機会だ。犯人の魔女どもを狩りに行く」と告げた。
コールダーは37代目を引き連れ、魔術道具の売人であるマックスの元へ赴いた。コールダーが書斎にあったグリフィンのヒヨスを見せると、「俺は知らない。そんな物を使う奴は、お前を恐れない」と述べた。しかしコールダーと37代目が詰め寄ると、マックスは「俺の所に来た男から、ヒ素や野生のリンゴの腐った匂いがした」と教えた。危険が待ち受けていると感じたコールダーは37代目を帰らせ、1人で犯人を捜索した。
コールダーはマックスの情報を手掛かりに、ある屋敷へと赴いた。彼は襲い掛かって来たエリックを捕まえ、証拠品の万年筆を見つけた。 評議会へ連行されたエリックは、36代目を殺害したことを得意げに語った。評議長のグレーザーが判決を下そうとすると、コールダーは「尋問しないのか。共犯者がいたのか。尋ねたのか」と意見を述べた。グレーザーはカードを使い、「単独犯ね」と告げる。コールダーはエリックが変身の魔術を使ったことを話し、「あんな魔術は女王の時代の後、見たことが無い」と言う。しかしグレーザーは相手にせず、単独犯としての投獄を決定した。
36代目の遺体を調べたコールダーは、まだ生きていることを知る。彼は疫病バエの呪いを掛けられているだけで、犯人の目的は尋問だった。呪いを解くには黒幕を殺す以外に方法が無く、36代目が死を迎えるタイムリミットは2日だった。コールダーは親指の血に気付き、その跡が残っている書物を調べて「死を思い出せ」というメッセージを読み取る。バーを営む魔女のクロエと相棒のミランダは、コールダーが来たことに気付いた。ミランダはコールダーの残虐な噂を聞いており、すぐに逃げ出した。
強気なクロエは店に留まり、記憶の薬を求めるコールダーに大金を要求した。しかし5万ドルまで引き上げてもコールダーが支払いを承諾したため、彼女は「気が変わった。閉店」と口にした。コールダーが「帰らない。旧友を救うために薬が必要だ」と告げると、クロエは「向こうで死んだら、こっちでも死ぬ」と警告してから薬を与えた。コールダーは過去の記憶に入り込むが、髭面の男が店に現れて彼に襲い掛かった。男は充分に戦えないコールダーを痛め付け、店に火を放った。
身を潜めていたクロエは、薬を使ってコールダーを回復させる。コールダーは男を捕まえようとするが逃げられてしまい、店は全焼した。コールダーはミランダを自宅へ連れ帰り、ベッドで休ませた。翌朝、コールダーは37代目が入手したFBIのデータベースを調べ、髭面の男がベリアルと呼ばれていることを知った。彼は37代目に、「こいつがエリックを雇った」と告げた。コールダーは自分を非難して去ろうとするクロエに、「俺だって組みたくはないが、力を貸すなら、お前を守ってやる」と言う。するとクロエは、薬の調合にヤナギタンポポが必要だと述べた。
クロエはヤナギタンポポを手に入れるため、コールダーと共に友人のミランダを訪ねた。するとヤナギタンポポは全て無くなっており、ミランダは温室で殺されていた。彼女の携帯には、ベリアルの挑発的なメッセージが残されていた。コールダーはヤナギタンポポを手に入れるため、クロエを連れてダニークの元へ赴く。しかしダニークはベリアルと手を組んでおり、コールダーに薬を吸わせて幻覚を見せた。クロエの呼び掛けで幻覚から脱出したコールダーは、ダニークを脅してベリアルの狙いを尋ねた。ダニークが「土を集める手伝いをしただけで、狙いは聞いていない」と答えると、クロエが呪術道具を踏み潰してダニークを老女に変貌させた。
クロエはコールダーに、人の心に潜り込むドリームウォーカーの力があることを教えた。邪悪な力なので目を背けて来たことを彼女が話すと、コールダーは「勇気の要る行動だ」と告げた。彼は魔女の歴史が描かれている壁画をクロエに見せると、ドリームウォーカーは女王に仕える最高の暗殺者だったこと、薬が無くても記憶に潜り込む能力の持ち主であることを語る。協力を要請されたクロエは、その力のせいで弟を傷付けた過去を明かす。しかし「孤独」という言葉に意識を集中し、コールダーの記憶に潜り込んだ。そこで彼女は、女王の心臓が歴代のドーランによって保存されてきたこと、女王が呪いによって自身の心臓とコールダーの心臓を連動させたことを知る…。

監督はブレック・アイズナー、脚本はコリー・グッドマン&マット・サザマ&バーク・シャープレス、製作はマーク・キャントン&ヴィン・ディーゼル&バーニー・ゴールドマン、製作総指揮はアダム・ゴールドワーム&サマンサ・ヴィンセント&リック・キドニー&クイン・ロン、共同製作はジョン・ホーバー&エリック・ホーバー&製作協力はヤン・ロン&マーク・コトーン&F・ヴァレンティノ・モラレス、撮影はディーン・セムラー、美術はジュリー・バーゴフ、編集はディーン・ジマーマン&クリス・レベンゾン、衣装はルカ・モスカ、シニア視覚効果監修はニコラス・ブルックス、音楽はスティーヴ・ジャブロンスキー。
出演はヴィン・ディーゼル、イライジャ・ウッド、マイケル・ケイン、ローズ・レスリー、オラフル・ダッリ・オラフソン、ジュリー・エンゲルブレヒト、ジョセフ・ギルガン、イザック・ド・バンコレ、マイケル・ハルシー、レナ・オーウェン、ロッテ・ヴァービーク、スローン・クームス、ドーン・オリヴィエリ、インバー・ラヴィ、アルマーニ・ジャクソン、エイミー・カレロ、ベックス・テイラー=クラウス、デヴィッド・ウェイレン、ジャック・アーディー、トゥーサント・ラファエル・アベソロ、ローラ・スマイリー、アレグラ・カーペンター、ジョセフ・リッテンハウス、サマラ・リー他。


主演のヴィン・ディーゼルが製作も兼任した作品。
監督は『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』『クレイジーズ』のブレック・アイズナー。
脚本は『プリースト』のコリー・グッドマンと『ドラキュラZERO』のマット・サザマ&バーク・シャープレスによる共同。
コールダーをヴィン・ディーゼル、37代目をイライジャ・ウッド、36代目をマイケル・ケイン、クロエをローズ・レスリー、ベリアルをオラフル・ダッリ・オラフソン、女王をジュリー・エンゲルブレヒト、エリックをジョセフ・ギルガン、マックスをイザック・ド・バンコレ、グロセットをマイケル・ハルシー、グレーザーをレナ・オーウェン、ヘレナをロッテ・ヴァービークが演じている。
ヴィン・ディーゼルはシリーズ化を想定していたが、この映画が惨敗したので続編の企画は潰れた。

ヴィン・ディーゼルは昔から『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のようなTPRGが大好きで、そういう系統の映画を作りたいと熱望していたらしい。
それなら純粋に「剣の魔法の世界」を舞台にしたファンタジー・アクションを作ればいいばすなのに、舞台の大半は現代だ。これは、たぶん予算的な問題が大きいんじゃないかと思われる。
とは言え、「現代社会に大勢の魔女がいる」ってのも、それはそれで面白く出来そうな可能性を感じさせる。
しかし残念ながら、魔術の視覚的な表現が弱くて、そこに引き付ける力が感じられない。話もつまらないし、キャラの魅力も乏しい。

ヴィン・ディーゼルが主役なんだから、マッチョ系のアクションが存分に用意されているんだろうと期待するのは普通の感覚だろう。
だが、そういうのを期待すると、間違いなく失望させられることになる。
オープニングシーンではコールダーと女王&手下の戦いが描かれるが、薄暗い上にゴチャゴチャしているので何がどう動いているのか良く分からない。
それ以降も、コールダーのアクションに映画の見せ場となるような高揚感は感じられない。

女王はコールダーに、不老不死の呪いを掛ける。
コールダーは死んだ妻子の元へ行きたがっていたし、それは「安息を得られない。この世を一人で彷徨い続ける」という呪いだから、もちろん彼にとっては辛すぎる呪いだ。
ただし問題は、それが魔女サイドから見た時に厄介な呪いになっているってことだ。
女王を殺すほどの能力を持ったコールダーが永遠に生き続けるってことは、こいつがハンターとして魔女を狩り続けることが出来るってことでもある。こんな奴が不老不死ってのは、魔女からしても邪魔になるんじゃないかと。色んな呪いがある中で、よりによって、なぜ不老不死を選ぶのかと。
女王がアンポンタンにしか思えない。

現代のシーンになると、まずはコールダーが呪術道具を見つけて乱気流を消す出来事が描かれる。
だけど、「コールダーが魔女ハンターとしての活動を続けている」という設定があるのなら、まずは魔女をハントするシーンから入るべきじゃないのか。
冒頭で女王殺しを描いているから、魔女退治が続くことを避けたかったのかもしれないけど、だったら「女王を殺すシーンから始まる構成を変える」という手も考えられる。いきなり現代から始めて、コールダーの魔女退治を描く。そして、後から「過去にこういうことがありまして」という回想として、コールダーが女王を殺して不老不死の呪いを掛けられた経緯を説明するのだ。
映画の大半は現代パートで占められているんだし、そっちの方がいいんじゃないかと。コールダーが記憶の薬で過去を見るシーンもあるんだし、そこで初めて「大昔にこういうことが」と説明する流れでも、そんなに支障は無いんじゃないかと。

コールダーは少女に変身していたエリックについて、「あんな見事な魔術は女王の時代以降、、しばらく見たことが無い」と言う。
だけど、こっちからすると、どの魔術が凄いのかという判断基準が全く分からないんだよね。
「変身の魔術は凄い」と言われても、そういう設定であることは伝わるけど、今一つピンと来ないのよ。視覚効果で「これは他の魔術とレベルが段違いだな」と分かりやすく伝わるわけではないし、現代パートではエリックより前に他の魔術が示されていないしね。呪術道具の乱気流は、魔女が仕掛けたわけではないし。
っていうか、天候を自由自在に操れるのなら、そっちの方が変身より凄そうな気もするし。

36代目は殺されたわけではなく、疫病バエの呪いて死んだように眠っているだけという設定だ。疫病バエが体内に入ると意志が挫かれて、何を質問されても答えるようになるらしい。つまり自白剤みたいな効果があるってことだね。
で、疫病バエを取り除いても犯人を退治するまで呪いは解けず、2日後には死を迎える。
見事なぐらい、都合の良すぎる設定である。
もちろん、そういう設定を用意するからには、「コールダーが黒幕を倒して36代目が復活する」という展開が待ち受けていることも、あらかじめ分かるわけだ。
簡単に先読み出来ることが必ずしも悪いとは言わないが、この作品の場合、少なくともプラスには作用していない。

「36代目を救うためにコールダーが行動する」という形を取ったことの弊害で、37代目の扱いが悪くなっている。
ホントは「コールダーと37代目が協力して36代目を救おうとする」という話になってもいいはずだが、途中からコールダーの相棒がクロエになってしまう。
そしてコールダーも37代目のことなんて全く考えちゃいないし頼りにもしていないので、相棒としての存在感は全く示されていない。極端なことを言ってしまえば、こいつがいなくてもストーリー展開には何の問題も起きないのである。
そもそも36代目ドーランからして、具体的にどういう役割を担っていたのかサッパリ分からないし。

未熟な37代目がコールダーの指導で少しずつ成長していくとか、最初は能力に疑問を抱いていたコールダーが37代目の献身を見て認めるようになるとか、とにかく何かしらのコンビネーションが描かれるってのは、本来あるべき形だろう。
37代目はコールダーの新しい相棒として登場するんだから、そういうトコを重視すべきだろう。
しかしコールダーにとっての37代目は、たまに情報を提供する程度の役割だ。
それに、そんな作業なんて、コールダーが自力で何とか出来そうに感じるし。

さらに厄介なのは、完全ネタバレになるが、終盤に入って37代目が「実は女王側」と明らかになることだ。彼の両親が魔女で、コールダーを恨んでいたという設定なのだ。
だけど、そんな余計なトコで存在感を発揮させようとしてどうすんのよ。裏切りが唐突で、全く面白味を感じないし。
しかも、裏切ったと思ったら、すぐ女王に始末されるし。
あとさ、なんで魔女の子供がドーランを引き継いでいるんだよ。36代目は後任を決める時に、ちゃんと調べていないのかよ。

ミランダを殺されたクロエがショックを受けていると、コールダーは彼女を優しく抱き寄せて「可愛そうに」と言う。一方のクロエも、彼に身を委ねる。
だけど、その直前までクロエはコールダー激しく拒絶していたし、コールダーにしても「俺も組みたくはないが」と言っていた。なので、そこで急に「信頼し合う2人」「これから恋に落ちる予感さえ匂いそうな2人」という描写にするのは違和感が強い。
その後、ダニークの薬で幻覚を見たコールダーがクロエの呼び掛けで我に返るってのも、これまたギクシャクしているんだよね。
幻覚の中には愛する妻と娘が出て来るわけで、それよりクロエの方が強い存在ってのは不自然でしょ。「ドリームウォーカーの力があるから」というだけで、腑に落ちるモノではない。

もちろん、「コールダーがヒロインの呼び掛けで幻覚から脱出する」ってのが流れとして間違っているわけじゃなくて、大まかな段取りとしてはベタ中のベタをやっているだけなのよ。
ただ、クロエが基本的にはベタベタなヒロインの役回りを担当するのなら、コールダーに反発している設定が邪魔じゃないのかと。
そりゃあ、「反発しながらも少しずつ心を開いて」みたいなキャラ描写と上手く連携していれば魅力的なドラマになっただろう。
だけど、そこを上手く消化できていないのよね。

後半、女王の呪いが単なる不老不死ではなく、自分の心臓とコールダーの心臓を連動させることだったってのが判明する。
だけど、その呪いが発動した直後に騎士団が容赦なく女王の心臓を始末しておけば、それで済んだ問題でしょ。
コールダーを救うため、女王も殺さずに心臓を保存するという方法を選んだから、厄介な問題が延々と持ち越されたわけで。そんな大きなリスクを選んでまで、コールダーを救うことを選ぶ意味が全く分からない。
どう考えたって、人類の滅亡を防ぐためならコールダーを犠牲にすべきでしょ。そもそもコールダーは死を望んでいたんだから、それを叶えてやることにも繋がるし。

っていうか、そもそも女王が自分の心臓とコールダーの心臓を連動させる呪いを掛けているのもバカにしか思えない。
もしも騎士団が容赦なく心臓を始末していたら、それが全て終わりになっていたんだぞ。その行動は「騎士団がコールダーを救うことを選ぶ」ってのが確実じゃないと、絶対に選んじゃダメな方法でしょ。でも、それが確定しているわけでないんだからさ。
仮にドーランが救おうとしても、他の騎士たちが「コールダーを死なせても女王を殺すべき」ってのを選んだら、それでオジャンなわけで。
そんなギャンブル性の高すぎる呪いを選ぶより、もっと利口な手口は思い付かなかったのか。

コールダーは女王の心臓に関する秘密を知った後、女王の復活を知って「決着を付ける」と戦いに出向く。
だけど前述したように、こいつの心臓と女王の心臓が連動しているんでしょ。ってことは、女王を殺そうとしたら自分も死ぬわけで、だから戦って倒すことなんて不可能でしょ。
そして裏を返せば、コールダーの心臓が止まれば女王の心臓も止まるんでしょ。だったら、本気で女王を退治したいのなら、自分が死ねば済むことじゃないのかと。
それで愛する妻と娘の元へ行けるんだし、ずっと不老不死の呪いに苦しんできたんだから、そろそろ死んでも構わないと思えるんじゃないかと。

(観賞日:2018年11月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会