『ラストスタンド』:2013、アメリカ

メキシコとの国境近くにあるアリゾナ州の田舎町ソマートン。高校のフットボール部が大会に出場するため、大半の町民が応援に向かう。保安官のレイ・オーウェンズも町長から誘われるが、町を守るために残ることを選ぶ。町長はソマートンで事件など起きないと考えているが、それでもレイは任務を優先した。ダイナーに出掛けたレイは、初めて見るトレーラーの2人組に声を掛けた。まるで避けるように店を立ち去る彼らの態度に、レイは不審を抱いた。
副保安官のフィギーとジェリーは、武器博物館と称する施設を作ったルイス・ディンカムの家で武器の試し打ちを楽しんでいた。そこへレイが現れてフィギーたちを叱責し、トレーラーのナンバー照会を命じた。トレーラーの男たちは農場に現れ、待っていた仲間と合流した。彼らはブレルをリーダーとする悪党一味だった。ブレルは農場の所有者であるパーソンズに、撮影に使わせてほしいと持ち掛けた。パーソンズが荒っぽい態度で追い払おうとすると、一味は彼を射殺した。
保安官事務所では、留守番をしている副保安官のサラが留置されているフランクと話していた。フランクはサラの元恋人で、かつては文武両道の人気者だったが、今では堕落した日々を送っていた。ジェリーはフランクの親友で、「入れておく必要があるのか?」と言う。するとフィギーが、週明けまで留置しろというレイの命令があることを告げた。フィギーのナンバー照会をやってもらったジェリーは、登録者のブレルに犯罪歴が無いことをレイに報告した。ブレルは平和すぎるソマートンでの仕事に辟易しており、かつてロス市警で勤務していたレイに紹介を依頼した。
深夜3時半、ラスベガスではFBIのジョン・バニスターが部下のエレン・リチャーズとフィル・ヘイズを引き連れ、緊急招集を掛けた捜査官たちの前に現れた。バニスターは捜査官たちに、巨大麻薬組織の3代目であるガブリエル・コルテス死刑囚の移送を実行する極秘任務を説明した。FBIは護送車にコルテスを乗せ、移送を開始する。しかし組織の連中は巨大磁石で護送車を吊り上げ、コルテスを奪還した。一味は囚人服と同じオレンジの服を着せた大勢の囮を走らせ、FBIをかく乱した。
コルテスは手下たちの協力で服を着替え、リチャーズと同僚のマッケイが捜索している現場に現れた。コルテスはマッケイを射殺すると、リチャーズを人質に取って逃走した。バニスターは部下に、半径160キロ以内にある飛行場や滑走路の封鎖を部下のコーマンに命じた。早朝、レイはダイナーのウェイトレスであるクリスティーからの電話を受け、パーソンズからの牛乳が届かないことを告げられる。いつも同じ時間に必ず配達されるので心配になったと彼女が話すので、レイはサラとジェリーを派遣することにした。
バニスターたちは監視カメラの映像を入手し、コルテスがリチャーズを連れて乗り込んだ車を確認する。車に詳しいミッチェル捜査官は、モーターショーから盗まれた特別仕様のコルベットZR1だと説明した。農場へ赴いたサラとジェリーは、パーソンズの死体を発見した。10代の頃からレースに出場しているコルテスは猛スピードで車を走らせ、検問を突破してメキシコへ向かった。コルテスは捜査本部に電話を入れ、部下を引き上げさせないとリチャーズを始末すると脅しを掛けた。
バニスターの依頼を受けた州警察は、ブルヘッド・シティーで道路を封鎖してコルテスを止めようとする。しかしコルテスの指示を受けた部下たちが警官隊を全滅させ、装甲車がパトカーを蹴散らした。ジェリーから連絡を受けたレイは、車で農場へ向かった。現場を調べたレイは、パーソンズが外で殺されてから室内に運ばれたことを見抜いた。賄賂を受け取ってコルテスに協力していたリチャーズは、手錠を外すよう要求した。コルテスは彼女に鍵を渡した後、ライトを消して急にスピードを上げ、ヘリの追跡を撒いた。
バニスターは地図を確認し、渓谷が深い国境を渡れる場所はロス・アルゴドネスだけだと知った。バニスターはコーマンに、国境警備の増援を派遣するよう指示した。ロス・アルゴドネスの近くにはソマートンの町があるが、バニスターは谷が深くて渡れないと考える。彼はレイに電話を入れ、「凶悪な脱走犯が国境へ向かった。ソマートンに向かう可能性はゼロに等しいが、念のためにSWATを派遣する。君たちは手出し無用だ」と話す。レイは「悪いが取り込み中だ」と告げ、すぐに電話を切った。
レイは脱走犯と不審なトレーラー、パーソンズの殺害が全て繋がっていると確信し、タイヤの跡を追って近くを調べているサラとジェリーに警告することにした。サラとジェリーは渓谷で不審な灯りを発見し、レイに連絡した。ジェリーが「誰かいるので尋問します」と言うと、レイは「危険だ、すぐに引き返せ」と命じる。しかしブレルの手下がジェリーに近付き、いきなり発砲した。ブレルは手下たちに指示し、ライトを消して暗視スコープを装着させた。
一斉銃撃を受けてジェリーが深手を負い、サラも追い詰められる。そこへレイが車で駆け付け、2人を乗せて逃走した。しかしジェリーはレイたちに看取られ、あの世へと旅立った。午前6時2分、レイはバニスターに電話を掛け、「脱走犯はソマートンに向かっている。橋を架けるつもりだ」と告げる。信じないバニスターに、レイは武装した一味と銃撃戦になったことを語る。脱走犯の正体を尋ねたレイは、それがコルテスだと知って「なぜ最初に伝えなかった?分かっていれば部下を死なせずに済んだ」と憤りを示した。
コルテスはソマートンへ向かうSWATの車を見つけ、余裕の態度で立ち塞がった。コルテスは巧みな運転技術を駆使し、SWATをクラッシュに追い込んだ。レイはフィギーたちに、「SWATは来ない。だが、この町を通るなら見過ごせない」と言う。フィギーは「諦めてコルテスを通過させよう」と告げるが、レイは「それじゃあジェリーが浮かばれない」と口にする。フィギーが「相手が悪すぎる」と言うと、レイは「君たちに無理強いするつもりはない。だが、抵抗もせず見送ることは、俺には出来ない」と述べた。
サラは戦う意思を示し、フランクも「俺も手を貸す」と告げた。レイはフランクを牢から出し、臨時の副保安官に任命した。フィギーも協力を承諾し、これでメンバーは4人になった。バニスターは改めて監視カメラの映像を確認し、内通者がいると確信した。彼はヘイズに、関係者全員の銀行口座を調べるよう指示した。レイはルイスの元を訪れ、博物館にある武器を使わせてほしいと持ち掛けた。ルイスは承諾する条件として、自分を副保安官に就任させた。
バニスターはロス・アルゴドネスを固めている部隊を移動させるため、チャーター機を出す。レイはコルテスが使う道を部下たちに封鎖させ、ダイナーの面々に事情を説明して帰宅を促す。しかし呑気な客たちが帰ろうとしないので、窓に近寄らないよう指示した。ヘイズはバニスターに衛星画像を見せ、ソマートンに橋が作られていることを知らせた。レイの正体が気になったバニスターに、ヘイズは彼が特殊部隊の訓練を受けていること、麻薬課で大きな取引を潰したが7人の同僚を亡くして辞職していることを告げた…。

監督はキム・ジウン、脚本はアンドリュー・クノアー、製作はロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、共同製作はハーナニー・パーラ、製作総指揮はガイ・リーデル&マイキー・リー&エドワード・フィー&マイケル・パセオネック&ジョン・サッキ、撮影はキム・ジヨン、編集はスティーヴン・ケンパー、美術はフランコ・カルボーネ、衣装はミシェル・ミッチェル、音楽はモーグ。
主演はアーノルド・シュワルツェネッガー、共演はフォレスト・ウィテカー、ジョニー・ノックスヴィル、ロドリゴ・サントロ、ジェイミー・アレクサンダー、ルイス・ガスマン、エドゥアルド・ノリエガ、ピーター・ストーメア、ザック・ギルフォード、ジェネシス・ロドリゲス、ダニエル・ヘニー、ジョン・パトリック・アメドリ、リチャード・ディラード、クリスティーナ・リューカス、ケント・カークパトリック、ロイス・ギアリー、クリス・ブラウニング、ティトス・メンチャーカ、クリステン・レイクス他。


カリフォルニア州知事を退任したアーノルド・シュワルツェネッガーが、『ターミネーター3』から10年ぶりに主演復帰したアクション映画。
『グッド・バッド・ウィアード』『悪魔を見た』のキム・ジウンが、ハリウッドでの初監督を務めている。
バニスターをフォレスト・ウィテカー、ルイスをジョニー・ノックスヴィル、フランクをロドリゴ・サントロ、サラをジェイミー・アレクサンダー、フィギーをルイス・ガスマン、コルテスをエドゥアルド・ノリエガ、ブレルをピーター・ストーメア、ジェリーをザック・ギルフォード、リチャーズをジェネシス・ロドリゲス、ヘイズをダニエル・ヘニー、ミッチェルをジョン・パトリック・アメドリが演じている。
アンクレジットだが、パーソンズ役でハリー・ディーン・スタントンが出演している。

監督としてキム・ジウンが招聘されたのは、映画を見れば良く分かる。
この映画、舞台は現代だが、やっていることは明らかに西部劇だ。
最も近いのは、『リオ・ブラボー』辺りだろう。『グッド・バッド・ウィアード』で西部劇を演出したキム・ジウンに白羽の矢が立つというのは、分かりやすい人選だ。
ハリウッドでのキャリアを持たない外国の監督を起用するってのは挑戦的にも思えるが、そう考えると、むしろ無難な起用という見方も出来る。

『エクスペンダブルズ』にアンクレジットでゲスト出演していたものの、ちゃんとした形での映画復帰、しかも主演は10年ぶりというわけで、この映画は言ってみれば「お帰りなさい、アーノルド・シュワルツェネッガー」という意味合いの強い作品になっている。
そんな彼が復帰作として選んだのは、自身がバリバリに活躍していた1980年代の映画を思わせるような、「細かいことはいいから、とにかく派手にドンパチやってパワーで押し切っちゃえ」というタイプの作品だった。
同年代のアクション俳優であるシルヴェスター・スタローンは、『エクスペンダブルズ』にしろ、『バレット』にしろ、「まだまだ現役でバリバリ活躍できるぜ」というキャラクターを演じていた。
しかし本作品のシュワルツェネッガーは、「腹が気になるから」という理由でダイナーのオムレツを遠慮したり、死体を調べる時には老眼鏡を使ったりと、明らかに老齢を感じさせるキャラクターを演じている。劇中で「年のせいかな」というセリフもあって、意識的に「老い」をアピールする向きが見られる。

だから、てっきり「かつては凄腕だった主人公が、年のせいで運動能力が落ちてしまったので苦労するが、経験値や知恵で若い悪党たちに対抗する」という内容にでもするのかと思っていたのだが、そうではなかった。
いざ戦いが始まってみると、前述した「年のせいかな」というセリフはあるものの、レイは大して苦労することも無く、大勢で攻めて来る悪党一味相手に対しても圧倒的な力を見せ付ける。昔のシュワルツェネッガーと変わらず、やはり「マッチョなパワーで押し切る」というタイプのキャラクターなのである。
そのため、せっかく「圧倒的な戦略を誇る大量の敵に対して、リーダー以外は経験値の少ない5名だけで立ち向かう」という図式なのに、緻密な作戦や巧妙な罠によって敵を駆逐するという描写が薄い。ブレル一味がソマートンに乗り込んでからは、ひたすら銃撃戦が展開されるだけだ。
結局は「なぜか善玉サイドは、なかなか弾が命中しない」という御都合主義や、「シュワルツェネッガーは圧倒的に強い」というパワーで押し切ってしまう。小が大を制す面白味や醍醐味が、まるで味わえない。
まあシュワルツェネッガー主演作だから、それが当たり前っちゃあ当たり前なんだけどね。

レイが大活躍する一方で、FBIは全くの役立たずに終わっている。色んな行動を取っているが犯人逮捕や事件解決には全く貢献できておらず、全てが解決してからソマートンに駆け付けるという体たらく。
まあ主人公との対比でボンクラ扱いになっちゃうのは、ある程度は仕方が無いんだけど、それにしても役立たずっぷりがヒドい。
悪党一味が巨大磁石を装着したクレーンを準備しているのに、それに全く気付いてないし。
SWATチームも、コルテスの運転技術だけでクラッシュに追い込まれるって、どんだけアホなのかと。

悪党一味は橋の無い場所に橋を架けてまで国境を超える準備を整えたり、巨大磁石を準備したり、大勢の囮を走らせたり、捜査官を買収して人質に偽装したりと、ものすごく手間と時間を掛けて用意周到に脱走計画を進めているのに、いざコルテスが護送車から抜け出すと、自分で車を運転して逃走するという行動を取るのが「なんでやねん」と言いたくなる。
それはリスクがデカすぎるでしょ。
そこに「プロの大会にも出たことがあるレーサーだから」「刺激を求める自信家だから」という理由を用意しているけど、何の説得力も無いわ。
そんなに刺激が欲しいのなら、脱走や国境を超える計画だって、もっとリスクが高くてギャンブル性の高い内容にすべきでしょ。そこはバランスが取れていないと感じるぞ。

ジェリーがブレル一味に撃たれて命を落とすという展開には、大いに引っ掛かりを覚える。
それを「レイたちが立ち上がるきっかけ」として使っているんだけど、ジェリーが死ななくても同じ展開にすることは出来る。
それに、レイたちが戦いを決意した後、作戦に参加するルイスの軽妙なキャラや、ダイナーの客たちのノンビリした態度、住民である老女の存在など、色んなトコでユーモラスな雰囲気が挿入されていて、それが「ジェリーの死」というシリアスすぎる出来事とのバランスを悪くしていると感じる。
それに、最終的に「全て解決して大団円」というハッピーエンドに着地することから考えても、無駄に善玉サイドの死者を出すのは避けた方がいい。

そもそも、ジェリーって死ぬ前の存在アピールが薄いから、彼の死によって発生する悲劇性も弱いんだよね。
「この町は平和で退屈だから都会で働きたい」と言っていたのも、まるで活きない形で死んじゃうし。
っていうか、そこを活用するには、むしろ死なせない方がいいでしょ。
怪我をさせるぐらいはいいけど最後まで生き残らせて、「やっぱり都会へは行かずソマートンでの勤務を続ける」というところへ着地させた方がいいでしょ。

レイたちは町で悪党一味を待ち受け、激しい戦いの末に退治する。
しかし、これで話は終わりじゃない。なぜなら、まだコルテスが残っているからだ。戦闘が繰り広げられている時、まだコルテスは町に到着していないのだ。
そしてコルテスが町に現れると、レイが彼を追跡するカーチェイスがあり、橋の上での格闘によって決着が付けられる。
しかし、構成としては悪党一味と町で全面対決を繰り広げたシーンがメインとなっており、その後のコルテスとの対決は付け足しにしか感じないのだ。

これが例えば「コルテスがジェリーを殺した張本人」ということでもあれば、最後の最後に残った敵を追い掛けて退治するという流れも受け入れやすいだろう。
しかし、それまでの悪事に関しては全てブレルが陣頭指揮を担当しており、コルテスは離れた場所で車を走らせていただけなのだ。
もちろん一味のボスではあるのだが、作戦を展開していた実質的なリーダーはブレルであって、コルテスという存在自体が「レイたちと悪党との対決」という構図に上手く馴染んでいないのだ。だから、町での戦闘が終わった後で絡んできても、付け足しにしか感じないのだ。
そうではなく、町で戦闘が開始された時には関わっている形にした方が良かったんじゃないかな。

(観賞日:2014年11月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会