『ラストナイト・イン・ソーホー』:2021、イギリス&アメリカアメリカ

エロイーズ・ターナーは母を亡くし、祖母のペギーと2人で暮らしている。彼女には特別な力があり、母の幻影を見ることが良くあった。ファッションデザイナー志望のエロイーズはロンドン・カレッジ・オブ・ファッションに合格し、ペギーの前で大喜びした。ペギーは彼女に、「貴方のママと行ったロンドン旅行。興奮して色んな店を回ったわ」と語る。ペギーは用心するよう忠告し、「ママはあの街に負けた。貴方みたいに特別な何かを見る能力も無かったし」と話す。エロイーズは「私のためだけじゃなく、ママのためにも夢を叶えたい」と強い決意を語り、荷物を用意した。
エロイーズはロンドンへ飛び、タクシーを拾ってシャーロット通りの女子寮へ向かった。しかしタクシー運転手の言動に不安を覚えた彼女は、途中で「買い物をする」と降ろしてもらう。雑貨店に入ったエロイーズは、しばらく停まっていたタクシーが去るのを確認してから外へ出た。エロイーズはソーホーの女子寮に到着し、玄関で生徒のジョンと出会う。ジョンが「荷物が重そうだ。手伝おうか」と声を掛けると、彼女は「大丈夫」と断った。
エロイーズは部屋に行き、ルームメイトになるジョカスタと挨拶を交わした。ジョカスタはエロイーズの出身がコーンウォールだと聞き、田舎なので「最悪ね」と評した。彼女はマンチェスター出身であること、1年前にロンドンへ来てサヴィル・ロウで実習していることを語った。ジョカスタは部屋で煙草を吸うため、火災報知機の電池を外していた。エロイーズが父を知らず7歳で母を亡くしていると知った彼女は、「やっと共通点が見つかった。私も15歳で母を亡くした」と語った。
ジョカスタは生徒のララたちを見つけ、声を掛けてエロイーズを紹介した。エロイーズが着ている自作の服について、彼女は「みんながオシャレしてるのに、1人だけ独自路線」と語った。ジョカスタは母が白血病で死んだこと、それが自分のエネルギーになったことを話す。エロイーズはララから「貴方のママは?」と質問され、心の病気で自殺したことを語った。エロイーズはジョカスタたちに誘われてパブへ付いて行くが、まるで馴染めなかった。トイレの個室に入った彼女は、ジョカスタたちの陰口を耳にした。
パブを出たエロイーズは、向かいのガールズバーから出て来た銀髪の老紳士と目が合った。寮に戻った彼女がベッドにいると、ジョカスタが男を連れ込んでセックスを始めた。仕方なくエロイーズが部屋を出ると、他の生徒たちがパーティーを開いて騒いでいた。エロイーズはソファーで眠り、翌朝に目覚めると他の生徒は既に登校した後だった。遅刻しそうになった彼女は、慌てて寮を出た。祖母に電話を掛けた彼女は、何の問題も起きていないように装った。
エロイーズは女性専用のワンルームを間貸しする広告を見つけ、大家のコリンズ夫人と連絡を取ってゲージ・ストリートへ出向いた。彼女は「喫煙者ではないこと」「8時以降に男を連れ込まないこと」「夜間に洗濯しないこと」という貸し出しの条件を承諾し、すぐに契約を決めた。その家でコリンズ夫人は以前にメイドをしており、安い内に購入したことを語った。1960年代が好きなエロイーズは、古い家を気に入った。彼女が借りる2階の部屋には固定電話があり、コリンズ夫人は緊急連絡用だと説明した。
エロイーズが引っ越して就寝すると、『007/サンダーボール作戦』が上映されていた頃のロンドンに暮らしている夢を見た。「カフェ・ド・パリ」に入った彼女が鏡を見ると、サンディーという別人になっていた。ステージではシラ・ブラックが歌っており、サンディーはバーテンダーに「ここで歌いたいからオーナーに会わせて」と自信に満ちた態度で告げた。バーテンダーは彼女に、女の子の束ね役であるジャックと話すよう促した。
ジャックはサンディーにシラが元クローク係だと教え、「這い上がる気があるか?」と問い掛けた。サンディーが「あるわ」と答えると、彼は何が売りなのか訊く。サンディーは「歌よ」と返すが、踊れるかと質問されると華麗なダンスを披露した。ジャックは「君はスターだ。だが、この店は敷居が高い。まずは他の店に」と告げ、店の奥に連れ込んでキスをした。サンディーは彼の車に乗せてもらい、暮らしている部屋まで送ってもらう。彼女が住んでいるのは、エロイーズが借りた部屋だった。
翌日、エロイーズは授業に出席し、サンディーをモデルにした服をデザインした。ジョカスタは彼女の首筋にキスマークがあると指摘し、「やるわね」と冷やかした。夜、エロイーズは部屋で眠りに就き、昨日の夢の続きを見た。ジャックはサンディーを営業していないクラブ「リアルト」へ連れて行き、「君のために開けた。オーディションだ」と告げた。エロイーズはステージで歌い、「リアルト」のオーナーは「歌は合格だ」と告げた。エロイーズは部屋に戻り、ジャックと肉体関係を持った。
次の日、エロイーズはヘアサロンでサンディーを意識した外見にイメチェンし、授業ではアンティークの布で服を作ることを決めた。講師のトービンは、彼女のデザインを独創的だと褒めた。エロイーズは洋品店へ出掛け、1960年代の服を買おうとする。洋品店の向かいにはタイ式マッサージ店があり、そこが以前は「リアルト」だったことにエロイーズは気付いた。服が高額で買えなかったため、エロイーズはキャロルがオーナーを務めるパブ「トゥーカン」で働くことにした。パブにいた老紳士は、エロイーズに「知ってる顔だ」と声を掛けた。エロイーズが「君の母親は?と訊かれて「死にました」と答えると、彼は「やはりそうか。みんな死んだ」と口にした。
その夜、エロイーズは就寝し、また夢の続きを見た。サンディーはセクシーな格好で踊らされ、ジャックから客との枕営業を要求されていた。サンディーが嫌がると、ジャックは「自分は特別だとでも思ってるのか。みんなやってる。こういう業界だ」と告げた。エロイーズは抵抗虚しく、客を取らされるようになった。翌日、夢の内容が気になったエロイーズは授業中に「デザインをやり直す」と言い出し、トービンから「自信喪失は誰にでもある。このまま続けて」と励まされた。
エロイーズがパブで働いていると、心配したジョンが尋ねて来た。彼は「居場所が無い気持ちは分かる。悩みがあれば、いつでも聞くよ」と言い、店を去った。エロイーズはパプの外に出て、祖母と電話で話した。電話を終えた彼女は、老紳士から名前を呼ばれる。「なぜ私の名前を?」とエロイーズが言うと、老紳士は「仕事柄、この辺りの女の子は全員知ってる。悩みも全て」と答えた。彼が去った後、パブの従業員はエロイーズに「スケベな男だ。昔はモテたらしい。たぶん口説こうとしてるんだ」と語った。
その夜、エロイーズが夢の世界に入ると、サンディーはジャックに脅されて客を取る日々を過ごしていた。彼女は元警官だという客から名前を問われ、アレクサンドラだと嘘をついた。男が「こんな場所は似合わない。早く足を洗え」と言うと、サンディーは「断ったら?」と問い掛けると、彼は「手遅れってことだ」と答えた。男は「君はいい子だ。鏡を見ろ」と促すが、彼女は従わなかった。エロイーズは「私を見て」と叫び、鏡を激しく叩いた。鏡が割れると彼女はサンディーに抱き付くが、そこで夢から覚めた。
エロイーズが天井を見ると、「私はここよ」と呼び掛けるサンディーの声が聞こえた。サンディーの客が顔の分からない状態で部屋に現れ、エロイーズに歩み寄った。慌てて部屋を出たエロイーズが部屋を覗くと、幻影は消えていた。しかしエロイーズが振り返ると、別の幻影が大量に出現していた。部屋に帰りたくない彼女が学校の服飾室にいると、ジョンが来て「学生自治会の開くパーティーに行かないか」と誘った。2人がクラブ「インフェルノ」に着いて酒を注文しようとすると、ジョカスタたちが近付いて「ここにあるわ」とグラスを渡した。エロイーズは酒を飲み、ジョンと一緒に踊った。
エロイーズはサンディーやジャックの幻影を目撃し、顔を強張らせた。彼女がサンディーの名を呼ぶと、幻影は消えた。エロイーズは店を出るが、外にも幻影は現れた。彼女は心配で追い掛けて来たジョンを部屋に誘い、セックスしようとする。しかしサンディーがジャックに刺殺される幻影が出現したため、エロイーズは悲鳴を上げた。その声を聞き付けたコリンズが部屋のドアをノックし、男の存在を指摘した。エロイーズは固まって動けず、ジョンは慌てて逃げ出した。
翌朝、エロイーズが部屋を出ると、廊下にジャックの幻影が現れた。彼女が学校にいると、血まみれのサンディーが現れた。エロイーズが学校を飛び出して街を走っていると、サンディーやジャックの幻影が出現した。彼女は警察署に飛び込み、「過去の殺人の幻影を見た」と訴えた。彼女は犯人がジャックだと言い、今は自分に付きまとう老紳士になっていると説明する。男性刑事は全く相手にしなかったが、女性刑事は調べることを約束した…。

監督はエドガー・ライト、原案はエドガー・ライト、脚本はエドガー・ライト&クリスティー・ウィルソン=ケアンズ、製作はナイラ・パーク&ティム・ビーヴァン&エリック・フェルナー&エドガー・ライト、製作総指揮はダニエル・バトセク&オリー・マッデン&ジェームズ・ビドル&レイチェル・プライアー、製作協力はレオ・トンプソン、撮影はチョン・ジョンフン、美術はマーカス・ローランド、編集はポール・マクリス、衣装はオディール・ディックス=ミロー、視覚効果監修はトム・プロクター、音楽はスティーヴン・プライス。
出演はトーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイ、マット・スミス、テレンス・スタンプ、リタ・トゥシンハム、マイケル・アジャオ、シノヴェ・カールセン、ポーリーン・マクリン、ダイアナ・リグ、ジェシー・メイ・リー、カシウス・ネルソン、レベッカ・ハロッド、エリザベス・ベリントン、リサ・マクギリス、マイケル・ジブセン、ベス・シン、アンドリュー・ビックネル、マーガレット・ノーラン、コリン・メイス、テレンス・フリッチ、ジャニー・ウィッシーズ他。


『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライトが監督を務めた作品。
脚本はエドガー・ライト監督と『1917 命をかけた伝令』のクリスティー・ウィルソン=ケアンズによる共同。
エロイーズをトーマシン・マッケンジー、サンディーをアニャ・テイラー=ジョイ、ジャックをマット・スミス、銀髪の老紳士をテレンス・スタンプ、ペギーをリタ・トゥシンハム、ジョンをマイケル・アジャオ、ジョカスタをシノヴェ・カールセン、キャロルをポーリーン・マクリンが演じている。

冒頭でエロイーズは母親の幻影を見ており、特別な能力があることが説明されている。母親がエロイーズと同じデザイナー志望だったことや、心の病気で自殺したことも序盤で語られている。
そんな風に母親の存在をアピールしているのだから、後の展開に繋がるのだろうと思っていた。
ところが、これが見事なぐらい無関係なのである。
エロイーズが夢の世界で実際にあった出来事を体験するのは、起きている時に幻影を見る特殊能力とは別物だ。そして夢で見る内容は、母親とは関係が無いのだ。

エロイーズが1960年代を好きなことは、自室の様子やロンドンへ持って行く荷物などで最初に示している。
だから彼女がコリンズ家の部屋を気に入るのも、1960年代の夢を見るのも、そんなに不自然さは感じさせない。
とは言え、「なぜそんな夢を見るのか」とエロイーズが全く感じないとか、翌日も確実に夢の続きを見られると確信したかのように帰宅するとか、その辺りに関しては、ちょっと良く分からない。
あと、エロイーズはデザイナー志望でサンディーは歌手志望なので、ここの繋がりも今一つ。エロイーズが、サンディーに自分を重ね合わせるような生活を送っているわけでもないし。

エロイーズは歌わないが、BGMとしての歌は何度か挿入され、ミュージカル映画的な演出が施されている。
ただ、それならエロイーズも歌手志望にしておけば良かったんじゃないかと。
サンディーの服からデザインを着想しているので、設定を全く活用できていないわけではない。ただ、1960年代の歌を幾つも流したり、エロイーズを踊らせたりする演出とは、そんなにマッチしている感じを受けない。
監督が1960年代の歌を好きなのは分かったけど、その思いと作品の内容が上手く噛み合わずに上滑りしちゃってる感じだ。

なぜエロイーズの母が心の病気になったのかは、サッパリ分からない。
それが物語において、大きな意味を持っているとも思えない。
また、老紳士がエロイーズの母の死について「やはりそうか。みんな死んでしまった」と意味ありげなことを言うが、これが「実はこんなことがあった」という種明かしに繋がることは無く、ただ意味ありげなだけで終わってしまう。
老紳士はエロイーズの母を知っている口ぶりだったが、その真相は明かされないままで終わっているし。

映画開始から1時間が経過した辺りで、サンディーはジャックに脅されて客を取らされているが、エロイーズが肉体的にダメージを受けることは無い。周囲に異変が起きているわけでもないし、夢の内容がエロイーズの暮らしに侵食してくるわけでもない。
嫌な夢が続くので精神的には疲弊しているが、スリラーとしては弱い。
もう少し展開が早くても良かったんじゃないかなあ。
もちろん、「ジワジワと忍び寄る」的な構成が功を奏すこともあるだろうけど、この映画はジワジワと忍び寄る力が弱い。

開始から1時間10分辺りで、エロイーズは目を覚ましている状態でもサンディーやジャックを見るようになる。
ここに来て、「エロイーズは幻影を見る特殊能力を持っている」という設定と繋がるわけだ。
っていうか、そもそも夢の中でサンディーたちを見ていたのも、彼女の能力の一環という設定だったわけね。
でも、それは上手く表現できていない。
そもそも、「エロイーズが死者の幻影を見る」という能力も、ちゃんと前半で説明できていたとは言い難いのよ。だって、彼女が見ていたのは鏡に映る母親の幻影だけなんだから。

あと、クラブや学校でサンディーたちの幻影を見るようになるのは、単純に「恐怖や不安から来る幻覚」ってことじゃないのかと感じてしまうんだよね。実際、それでも成立するし。
ぶっちゃけ、エロイーズに特殊能力が無くても、彼女が幻影を見る展開って何の問題も無く成立しちゃうんだよね。
ようするに、エロイーズの特殊能力の設定を、上手く機能させられていないのよ。
結局、最後まで母親の幻影は何も物語に関わって来ないし。

エロイーズが起きている間も幻影を見るようになると、現実と幻覚の境界線が曖昧になる。
そりゃあ、常に幻影を見るようになるんだから、精神的にはキツいだろう。ただ、エロイーズが幻影に襲われて、実際に酷い目に遭うような展開は無い。警察に話したり調べ始めたりして、そのせいでエロイーズに危険が及ぶわけでもない。
そんな中、エロイーズは老紳士がジャックだと断言するが、根拠が乏しすぎるよ。
そんでネタバレだが、そいつはジャックじゃなくて元警官のリンジーなのよ。でもエロイーズが犯人と決め付けて追い込んだせいで、車にひかれて死んじゃうのよ。
エロイーズ、ただの酷い奴になってるじゃねえか。

さらにネタバレを書くと、サンディーは死んでいない。コリンズはエロイーズに対し、自分がサンディーでジャックや客を殺していたことを明かすのだ。
だけどエロイーズが真相に近付いたわけでもなく、それどころかロンドンを去ろうとしているのに、なんで自分から真相をバラすのか。
そんでバラした上で口封じのためにエロイーズを始末しようと目論むけど、自分からベラベラと喋らなきゃ殺す必要も無いわけで。
それはどういう類のマッチポンブなのかと。

あとさ、「サンディーがジャックと客を殺していて、口封じでエロイーズも始末しようと目論む」という展開にすることで、終盤に入って急にサンディーを「残忍な殺人鬼」という悪役に仕立て上げているんだよね。
そんなドンデン返しなんて、まるで要らないよ。
そもそも、サンディーがジャックのせいで酷い目に遭ったのも、客を取らされて辛い日々を送っていたのも、紛れも無い事実なわけで。
だから彼女がジャックと客を殺していたことに関しては、別に責めようとも思わない。
「口封じでエロイーズを殺そうとする」という行動だけが彼女を悪役に仕立て上げる要因なわけで、なんでそんな誰も得をしない展開を用意したかなあ。

(観賞日:2025年3月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会