『ラスト・ナイツ』:2015、アメリカ

長きに渡る暗黒の戦国時代、戦闘の中から精鋭の騎士たちが現れた。気高き志と勇気を持ち、正義を行い、主君に忠誠を尽くす男たちだ。血で血を洗う戦いの末に1つの帝国が生まれ、肌の色や信仰に関わらず、あらゆる人間を取り込んでいった。その結果、偉大なる騎士たちの伝統は失われつつあったが、バルトーク卿の騎士団は違っていた。騎士団の隊長を務めるライデンは、不遜な態度を取る皇帝の使者からバルトークへの書状を受け取った。皇帝は書状の中で、都へ行ってギザ・モット大臣に会い、新たな儀礼について話し合うようバルトークに命じていた。
バルトークは「新たな儀礼」が賄賂だと分かっており、茶番だと憤慨した。ギザ・モットは影響力を強めており、次期首相と目されていた。不正を嫌うバルトークは、ライデンに意見を求めた。ライデンは都の腐敗が今に始まったことではないと指摘し、「本気で腹を立てていたのなら、こんな要求が届く前に暴動を起こしていたはず。誇りを傷付けられたことへの怒りなのでは?」と問い掛けた。バルトークが「これは尊厳の問題だ」と否定すると、ライデンは「馬鹿げた税金を課せられたのと同じことでしょう?」と告げる。バルトークは彼に、「公然と賄賂を要求する行為を放置すれば、待っているのは闇の時代だ」と語った。
病気を抱えるバルトークは医者の診察を受けていたが、ライデンには他言しないよう釘を刺した。ライデンはコルテス副官ちに都へ向かう準備を指示し、妻のナオミに任務を伝えた。その夜、バルトークはライデンを呼び出し、一族の墓地へ連れて行く。彼は息子を亡くしており、「私は10代目にして最後の領主となる」と言う。バルトークは20年前、酒に溺れていたライデンを家臣として引き入れていた。彼はライデンを全面的に信頼しており、自分が死んだ後は領地を託すと告げる。ライデンは戸惑うが、バルトークが差し出した正当な後継者の証である剣を受け取った。
翌朝、バルトークは妻のナオミと娘のリリーに別れを告げ、騎士団に護衛されて都へ向かう。新米騎士のガブリエルは都への同行を志願し、ライデンに許可された。一団は雪山で野営し、ガブリエルはコルテスにライデンのことを尋ねた。ライデンは騎士の家系ではなく農民出身で、幼少期に流行り病で家族を亡くしていた。かつては酒を飲んで暴れ、冷酷に人を殺すような男だった。一団は長旅の末に都に到着し、バルトークはギザ・モットを公式訪問した。彼が土産として持参したのは、箱に入れた上質なローブだった。「箱も差し上げます」とバルトークが言うと、ギザ・モットは侮辱されたと感じて腹を立てた。ライデンは「今は強硬な姿勢に出るべきではないと思います」と助言するが、バルトークはギザ・モットへの態度を曲げようとしなかった。
翌日、ギザ・モットはバルトークを邸宅へ招待し、ライデンは外で待機する。ギザ・モットの騎士であるイトーはライデンとチェスで勝負し、バルトークから剣を拝領したことを知って驚いた。ギザ・モットは財宝を集めた自慢の部屋へバルトークを案内し、暗に賄賂を渡すよう要求する。バルトークは「貴方に賄賂を差し出すつもりは無い」と拒否し、「皇帝陛下の命令に逆らうのか」と告げるギザ・モットに「告げ口すればいい。私が背いたのは皇帝ではなく、考え違いをしている貴方にだ」と言い放った。
ギザ・モットは激怒し、「考え違いをしているのはお前だ。お前の領地を取り上げ、バルトーク家は消し去ってやる」と言う。バルトークが発作を起こして苦悶すると、ギザ・モットは罵りながら杖で殴り付けた。バルトークは近くにあった剣を掴み、ギザ・モットの右腕に斬り付けた。バルトークはギザ・モットの首筋に刀を突き付けるが、全てを見ていた側近の報告を受けてイトーが駆け付ける。イトーはバルトークに刀を突き付け、ライデンがイトーに刀を向けた。
皇帝の前で裁判が開かれ、バルトークは申し開きの時間を与えられた。バルトークは自分の犯した行為を認めた上で、「今まで不正に声を上げなかった自分を恥じている。ギザ・モットは国の癌だ。切除するしか無い。私の罪は、彼の命を奪えなかったことにある」と語った。皇帝はバルトークに対し、一族の領土からの追放と家の取り潰し、さらに斬首を通告した。ライデンが抗議すると、ギザ・モットは身分をわきまえぬ行為だと厳しく批判した。皇帝は彼の提案を聞き入れ、ライデンの刀でバルトークを斬首することを決定した。バルトークの命令を受け、ライデンは苦悩しながらも彼を処刑した。
ギザ・モットはライデンの復讐を怖がり、厳しい処分を皇帝に求める。首相は「騎士として主君への忠誠心を示したライデンを罰すれば、反発を招くことになる」と反対し、皇帝も厳罰が暴動を誘発することを懸念して「仇討ちが明白になった時には処分を命じるが、それまでは手を出すな」とギザ・モットに告げた。オーガスト卿はギザ・モットに嫁がせた娘のハンナを訪ね、暴力を受けていることを悟った。彼は娘を嫁がせた見返りとして、ギザ・モットから豊かな土地を与えられていた。
ギザ・モットはオーガストに、身辺警備のために援軍を千名ほど寄越すよう求めた。それは家臣の半分以上に当たる数だったが、「誰のおかげで得た家臣だ?」と脅されると従わざるを得なかった。オーガストはギザ・モットから、ライデンを追って動きを監視するよう命令された。ライデンは領地へ戻り、マリアとリリーにバルトークの処刑を伝えた。彼は騎士団から仇討ちすべきだと言われるが、「我々は主君を失った。今後、忠誠を尽くすべきは自分自身だ」と解散を指示した。領地にはギザ・モットの家臣たちが派遣され、ライデンたちは城を出て行く。イトーはマリアに乱暴な行動を取る家臣を見ると、その場で始末した。全員が退出した後、城には火が放たれた。
1年後。騎士団を辞めた男たちは、町人として新たな生活を送っていた。ジョサイヤは金物職人の見習いになり、師匠のトーマスから刻印を貰うほど信頼されていた。ギザ・モットはバルトークに斬られた傷が完治せず、苛立ちを募らせていた。彼は予算を度外視し、鉄の城門を建造していた。イトーはギザ・モットに、バルトークの騎士団が散り散りになっていること、ライデンとは接触していないことを報告する。しかしギザ・モットは何かあるはずだと睨み、企みを暴けとイトーに命じた。
元騎士団のスリム・タリーが営む酒場には、コルテス、ロドリゴ、ファット・ジム、ガブリエルが集まった。コルテスとガブリエルは漁船を任され、漁師をしていた。ファット・ジムは仕事が見つからず、その日暮らしの状態だ。ライデンが店に来ると、タリーは仲間たちに「この店に入り浸りだ」と教える。ライデンは酒に溺れ、すっかり堕落した生活を送っていた。ジムはジョサイヤがギザ・モットの城から出てくる姿を目撃し、ロドリゴに知らせた。「この情報をギザ・モットに知らせれば大金が貰える」とジムが持ち掛けると、ロドリゴは話に乗ると見せ掛けて彼を殺害した。
ロドリゴはコルテスやジョサイヤたちが集まる秘密の会合に出向き、ジムを始末したことを話した。コルテスたちはギザ・モットの城へ侵入し、仇討ちを果たす計画を立てていた。彼らは城の図面を入手し、中に入るための手形を偽造した。シモンやオラフたちは職人として城に潜入し、準備を進めた。ライデンは質素な食事に「飽きた」と文句を言い、ナオミが「働いてくれればマトモな物が食べられる」と告げると不愉快そうな表情で酒を飲んだ。ライデンは妻の嘆願を無視し、その夜も酒場へ出掛けた。彼はバルトークに貰った刀を質屋に売り払い、酒代を工面した。ナオミはライデンに愛想を尽かし、家を出て行った。
皇帝は首相が死去した後、ギザ・モットに「首相は生前、そなたと貴族との関係を不安視し、目を配るようにと進言した。新たな首相になってもらうが、まずは民と貴族の税を軽減しろ。そして今後は貴族へ賄賂を要求するな」と語った。皇帝はライデンへの妄執を捨て去るよう命じるが、ギザ・モットは割り切ることが出来なかった。イトーはライデンが刀を手放したことを彼に報告し、固執する必要は無いと進言する。しかしギザ・モットは納得せず、「鉄の塊に何の意味がある?」と苛立った。彼はイトーに「ライデンを救いようの無い地の底まで落としてやる」と言い、バルトークの家族を捜すよう命じた。
ライデンは娼館に売られたリリーと遭遇するが、助けに来てくれたと思って喜ぶ彼女に冷淡な態度を取った。その様子を見ていたイトーは、ギザ・モットに報告した。「ライデンはどうでも良くなっている」と言われ、ギザ・モットは「これで終わりだ」と喜んだ。ライデンはコルテスたちの会合に姿を見せ、彼らが買い戻した刀を受け取った。彼らは仇討ちを遂行するため、最後の準備に取り掛かる。オーガストはギザ・モットを訪ね、首相就任の祝いとして大鏡を贈った。ライデンは騎士団を集め、ギザ・モットの城へ乗り込んだ…。

監督は紀里谷和明、脚本はマイケル・コニーヴェス&ドーヴ・サスマン、製作はルーシー・キム&紀里谷和明、製作総指揮はケイト・ホン&イ・ジェウ&チェ・ピュンホ&亀山敬司&ヒロシ・マツムラ&カン・ヨンシン&アンドリュー・マン&ジム・トンプソン&ペ・ヨンク&ラッセル・レヴィン&チップ・ディギンズ&ジェイ・スターン&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ&ニック・サーロウ&ゲイリー・ハミルトン、共同製作総指揮はライアン・ブラック&チュン・チャウォン&サミュエル・イェンジュ&ヤン・ハースー、共同製作はケヴァン・ヴァン・トンプソン&ジョイス・ヒーヤン&ミッチェル・チュバロフ・マッキントッシュ、撮影はアントニオ・リエストラ、美術はリッキー・エアーズ、編集はマーク・サンガー、衣装はティナ・カリヴァス、音楽はマーティン・ティルマン&サットナム・ラムゴートラ、音楽監修はアンディー・ロス。
主演はクライヴ・オーウェン、共演はモーガン・フリーマン、アン・ソンギ、クリフ・カーティス、アクセル・ヘニー、アイェレット・ゾラー、ペイマン・モアディー、ショーレ・アグダシュルー、伊原剛志、パク・シヨン、ダニエル・アデグボイエガ、ジェームズ・バブソン、ジョルジョ・カプート、ローズ・カトン、マイク・ロンバルディー、ヴァル・ローレン、デイヴ・レジェノ、ノア・シルヴァー、ロバート・ラッセル、リー・イングレビー、ピーター・ホスキング、アナ・リンハルトヴァ、ダニエル・ブラウン、ナイジェル・ゴア、クリス・コンシルヴィオ、パヴェル・クリツ、ブライアン・キャスプ、スチュワート・ムーア他。


『CASSHERN』『GOEMON』の紀里谷和明が、初めてハリウッドで手掛けた作品。
脚本は『バーニーズ・バージョン』『ローマと共に』のマイケル・コニーヴェスと、これがデビュー作のドーヴ・サスマンによる共同。
ライデンをクライヴ・オーウェン、バルトークをモーガン・フリーマン、オーギュストをアン・ソンギ、コルテスをクリフ・カーティス、ギザをアクセル・ヘニー、ナオミをアイェレット・ゾラー、皇帝をペイマン・モアディー、マリアをショーレ・アグダシュルー、イトーを伊原剛志、ハンナをパク・シヨン、ロドリゴをダニエル・アデグボイエガ、ジムをジェームズ・バブソン、タリーをジョルジョ・カプート、リリーをローズ・カトン、ジョサイヤをマイク・ロンバルディー、シモンをヴァル・ローレン、オラフをデイヴ・レジェノ、ガブリエルをノア・シルヴァーが演じている。

架空の世界観を用意した映画で、ナレーションに語らせる前口上が長いのに中身がボンヤリしている場合、駄作である可能性は濃厚だと私は勝手に思っている(具体的じゃなくても、短く切り上げていればいい)。
それって、たぶん製作サイドが細かい部分までディティールを設定していないんじゃないかと思うんだよね。
例えば「肌の色や信仰に関わらず人間を取り込む」と説明しているけど、そんなことが実際に可能なのか。人種や宗教による対立は必ずと言っていいほど起きるはずで、それを回避して「みんな仲間」としてまとめ上げるための策は何だったのか。
圧倒的なカリスマ性やリーダーシップを持ったリーダーがいたのか、それとも強権的な支配で不満分子を粛清したりして恐怖政治を敷いたのか。そういうのが気になっちゃうんだよね。

当然のことながら、『忠臣蔵』と比較しながら見ることになる。『忠臣蔵』には何作もの映像化があるので「どれと比較するのか」という問題にもなってくるが、その辺りは「ザックリと全体的に」ってことでいいかな。
ともかく、この映画より出来栄えの悪い『忠臣蔵』は、ほぼ無いんじゃないかな。
この映画って、『忠臣蔵』から大事な要素をゴッソリと削ぎ落して改変したかのような仕上がりなのよね。
上映時間が115分なのは尺が足りないかなあと思うけど、それを考慮しても改変の失敗は明白だ。

「ライデンは広く名を知られた偉大な騎士」ってのをアピールしたかったんだろうけど、使者が不遜な態度を取るのは不自然極まりない。
まずライデンが応対に出て来た時点で、使者から「名を名乗れ」と要求される前に自己紹介するだろ。
そんでライデンが書状を預かるけど、バルトークの所へ行く時は使者も一緒なんだよね。だったらライデンが預かる意味って何なのかと思っちゃうぞ。
ライデンはバルトークの所へ案内して、書状は使者が渡す形でいいんじゃないかと。

都へ出発する時にコルテスの妻が泣いているんだけど、なぜなのかサッパリ分からないんだよね。
都へ行くことが今生の別れになるなら、泣くのも分かるのよ。でも、こっちが与えられている情報だと、ただ「都へ行ってギザ・モットと会う」ってだけの旅なのよ。それで二度と会えないかのように、あるいは何年間も会えないかのように泣くのは、どういうことなのかと。
あと、そもそも構成として、「書状を受け取り、準備を整えて都へ向かう」というトコに手間と時間が掛かり過ぎている。
『忠臣蔵』がモチーフであることを考えると、「不正を嫌うバルトークが腐敗したギザ・モットに怒って」というエピソードから入っても良かったんじゃないかと。

都へ向かう道中で休憩ポイントを作っているが、そんなタイミングでコルテスのガブリエルの会話に時間を割くとか、どういう計算なのかと言いたくなるわ。
これが旅そのものを描く内容なら、それでもいいのよ。でも最初に「ギザ・モットと会う」という目的は提示されていて、旅はそのための手段に過ぎない。そして大臣と会うことは最終目標じゃなくて、会ったトコから物語が転がり始めるのだ。
なので、そこまでにダラダラと時間を浪費している場合じゃないのよ。
設定としては「長旅の末に都に到着」ってことになっているけど、実際は3分も経たない内に着いているので、余計に「旅の道中は要らんなあ」と感じるわ。既にバルトークたちが都を訪れているトコから物語を始めれば良かったじゃねえか。

バルトークが領民や家臣のことなど何も考えない愚かしい領主にしか見えないのは、大きなマイナスだ。
彼は「不正を許せない」などと強い口調で言うけど、ライデンが指摘するように変なプライドが高いだけなのよね。彼は「下手に出ていれば、この先も要求を断れなくなる」と言うが、謙虚さと賢明さが足りないだけにしか見えない。
バルトークは浅野内匠頭と違って、「ネチネチしたイジメを必死に耐え忍んでいたが、ついに我慢できなくなって爆発した」というわけではない。最初からギザ・モットに対して生意気で、馬鹿にするような態度を取る。
そのせいで怒りを買っているので、「自業自得じゃね?」と言いたくなる。

ライデンは忠臣蔵の大石内蔵助と違い、バルトークを自らの手で処刑している。
だが、これが後の展開に大きく関わって来ることは無い。彼の眼前でバルトークが処刑されるという設定だったとしても、話の中身は何も変わらない。
忠臣蔵の場合、大石は赤穂家の存続を最優先に考える。それが叶わなくなったことを受けて、仇討ちに踏み出すのだ。
しかしライデンの場合、バルトーク家の存続なんて全く考えない。残されたバルトークの家族の今後について、全く配慮しない。

ライデンはバルトークが死んで領地に戻った後、騎士団から仇討ちを求められても認めずに解散を命じている。
これが忠臣蔵だと、大石は家臣の覚悟を確かめるために籠城と殉死を提案し、「御家再興を願い出た後、その首尾を待って主君の恨みを晴らす」という考えを明かす。そして御家再興の返答が出る前の間、敵を欺く目に放蕩三昧の芝居を続ける。
でも本作品だと、忠臣蔵と違って「仇討ちの意思が無い」と相手に思わせる必要性が見えて来ないんだよね。どうせギザ・モットは、疑心暗鬼になって城の警備を厳重にしている。一方、騎士団は城に侵入して計画を進めている。
それって、ギザ・モットが「ライデンは仇討ちを企んでいる」と確信している間に起きている出来事だ。
だから、当日にギザ・モットが安心していようがいまいが、あまり関係ないんじゃないかと。

騎士団の連中はが忠臣蔵と違って、ほぼ個人としての存在感をアピールできていない。大半の騎士は、誰が誰なのかも良く分からない。
城を明け渡した後になって、ようやく数名は判別できるようになる。しかし、それまではライデンとコルテス、ガブリエルの3人しか把握できない。それ以外の連中は、「騎士団」という集団に過ぎない。
だから1年後になって刻印を打つ仕事をやっている男が登場しても、こいつが誰だか分からない。騎士団にいた奴だろうってのは分かるが、名前も分からない。
しばらく経ってジムがセリフで「ジョサイヤ」と言うので、ここで初めて名前が分かる。っていうか、そのジムにしても、その時点で名前も分かっていないからね。
酒場で集まるシーンの時点で、まだコルテスとガブリエル以外は名前も分かっちゃいないのよ。

忠臣蔵の場合、大石は赤穂城を出て遊興三昧に入ってから妻と離縁している。それは仇討ちに妻を巻き込むことを避けるためだ。
しかしライデンの場合、酒浸りの暮らしに愛想を尽かした妻が家を出て行く。
もちろんライデンも仇討ちを企てており、妻にも悟られないように芝居を打っていただけだ。ただ、これって印象として大きく違ってくるんだよね。
忠臣蔵の場合、そこは「涙の別れ」になる。でも、この映画だと「ナオミがライデンを信じられなくなって出て行った」というだけなのよね。

リーダーと家臣たちとの関係性も、忠臣蔵とは異なっている。
大石の場合、家臣たちに仇討ちの計画を明かした上で、敵を欺くための芝居を初めている。しかしライデンの場合、騎士団の面々は酒浸りのライデンを見て露骨に不快感を示している。
ってことは、仇討ちの計画はコルテスたちが独自で考えている計画ってことになる。ここで「ライデンと騎士団の絆や信頼」は完全に失われていることになる。
ただ、ライデンが会合の場に姿を見せると、コルテスたちは刀を取り戻しているんだよね。
これは何なのかと。

もしかすると、「最初からライデンも仇討ちの計画に関わっていて、コルテスたちは芝居だと分かっていた」ってことなのか。でも、それだとコルテスたちがライデンに憤慨するシーンは筋が通らないだろ。
もし「敵の見張りがいることを考えて芝居をしていた」ってことだとしても、まるで伝わらないよ。
っていうかさ、もう最初から「ライデンの堕落した生活は芝居です」と明かした上で進めりゃ良かったんじゃないかと。
そうすればライデンとナオミの関係描写も、印象を大きく変化させることが可能だ。ナオミが批判したり愛想を尽かして出て行ったりした後、ライデンの苦悩を観客に見せることが出来るでしょ。

リリーが娼婦として売られたのを知ってもライデンが冷淡に突き放すのは、もちろん敵に仇討ちを悟られないための戦略だ。ただ、それは分かっているけど、「だからって酷くないか」と言いたくなる。
ライデンの中にバルトークへの忠誠心や熱い思いがあれば、仇討ちよりもリリーを助けることを優先するだろ。仇討ちのためにはバルトークの家族が酷い目に遭っても無視するって、完全に本末転倒じゃねえか。
ここも大石の場合、浅野の家族が酷い目に遭っても仇討ちのために無視するようなことは決して無かったからね。そもそも、そんな状況が用意されていなかったからね。
そんな展開を用意するのは、シナリオとして失敗だろ。

ライデンと騎士団が結集すると、「騎士が娼婦の背中に城の図面を描いていた」ってことが明かされる。ギザ・モットの城へ乗り込んだ後、「実は大鏡に騎士が隠れていた」ってことが明かされる。
でも、そういうのが「隠されていた真実」として高揚に繋がっておらず、ただの後出しジャンケンになっている。仇討ちに向けた準備の数々は、全て明示しちゃった方がいいと思うんだよね。
あと、ギザ・モットを殺害しても、それがカタルシスに繋がらないという問題もある。
何しろ忠臣蔵と違って、この作品だとギザ・モットは「腐敗した政府」の一部に過ぎず、そのトップに皇帝がいるのよね。
皇帝もクズ野郎なので、こいつが何の咎めも受けないままで終わっているのは消化不良になっちゃうのよ。

(観賞日:2021年11月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会