『ラストダンス』:1996、アメリカ
弁護士のリチャード・ヘイズは、州知事を補佐する有能な事務局長である兄ジョンに恩赦課の仕事を紹介してもらった。彼は出勤初日から 酒の匂いを漂わせて遅刻し、上司のサム・バーンズから嫌味を言われる。恩赦は州知事の独断で決定され、恩赦課は資料を読んで推薦する だけだ。サムは現在、ジョン・リースという黒人の死刑囚を担当していた。彼は警官を殺して正当防衛を主張しており、書いた本がベスト セラーになっている男だ。リチャードはサムから、シンディー・リゲットという死刑囚を担当するよう指示された。
リチャードは兄の用意してくれた部屋に帰宅し、資料に目を通す。過去12年間で、シンディーに対する3度の死刑執行命令が出されて いる。だが、控訴によって刑は中止されていた。4度目の死刑執行命令が出されたが、彼女は控訴を申請しなかった。リチャードが面会に 訪れると、シンディーは新しい申請書の作成を断った。「もうゲームはいい。あの知事では時間の無駄よ」とシンディーは冷たく言い、 リチャードに対する強い不信感を見せた。
リチャードはジョンに連れられ、州知事夫妻も参加するパーティーに赴いた。リチャードとジョンは、知事について話す。これまで知事は 、死刑囚には一度も恩赦を出したことが無い。有権者の76パーセントが死刑賛成派という事情があるからだ。昔馴染みのジルと遭遇した リチャードは、彼女を部屋に連れ込む。キスしたところで、事件の資料が机から落ちた。その中には、シンディーに殺された被害者の無残 な姿を写した写真もあった。
シンディーが囚人のレジーたちと話していると、看守が封筒を運んでくる。それは死刑執行の日時を知らせる封筒だ。リチャードはサムに 、「またシンディーと会って話がしたい」と申し入れる。サムは彼に、30日後の死刑執行が決まったことを教える。リチャードが面会に 出向くと、シンディーは「恩赦が与えられたところで、どうせ死ぬまで塀の中。死ぬのは怖いけど、でも死ぬ時は好きに死ぬ。私の自由は それだけよ」と声を荒げた。
リチャードはシンディーの裁判で主任弁護士ダフィーの助手を務めていたリンダと会い、話を聞く。リンダの家族は弟のビリーだけで、 味方になってくれるような人物はいない。シンディーが殺害した相手は、学校の友達であるデビーと恋人だ。その恋人は、大手建設会社を 経営するマクガイアの息子だった。リンダによると、マクガイアがシンディーを死刑にするよう圧力を掛けたのだという。
リチャードはシンディーと会い、ビリーのことを尋ねる。シンディーは「私が死んだと思ってるわ。酷い姉だったし」と話す。ビリーとは 父親が異なり、現在は施設に収容されている。シンディーが16歳の頃に母親が死亡し、姉弟は2人きりになってしまった。通信教育で絵を 学んでいるシンディーは、「タージ・マハルを描いてみたいの。写真を持って来てもらえないかしら」とリチャードに頼んだ。
リチャードはジョンに、「警察の記録によれば彼女が2日間、麻薬漬けだったと弟が証言している。しかし弁護人はそのことに全く触れて いない。評決のポイントは意図的な殺人かどうかだった。麻薬のことを出せば、そこの線は崩せた」と語る。「汚い弁護士と被害者の父親 の圧力で死刑なのか」とリチャードが憤りを示すと、ジョンは「いや、殺人を犯したからだ」と告げる。「懲役刑は分かるが、死刑は おかしい」と言うリチャードを、ジョンは「利口になれ。ここで成功してほしいんだ」と諭した。
リチャードはシンディーの叔母が住むトレーラーハウスを訪れて話を聞こうとするが、追い払われてしまう。次に彼はストリッパーと会い 、シンディーのことを尋ねる。彼女によると、シンディーが14歳の時、母親の恋人がドラッグを与えて犯したのだという。シンディーの 母親は、マクガイアの会社で働いていた。母親は計算も出来ないのに帳簿係として勤務していたが、実際は愛人だった。その関係が露見 すると、盗みを口実にしてクビにされた。リチャードが「母親がクビにされた復讐に行ったのでは?」と尋ねると、女は「シンディーは ドラッグで何も分かってなかったわ」と告げた。
リチャードはダグという囚人に会う。ダグはシンディーの共犯者で、押し込み強盗は全て彼女の計画だと証言していた。リチャードが 「取引によってシンディーに不利な証言をしたのではないか」と質問すると、ダグは彼に殴り掛かり、看守たちに制止された。リチャード はサムから叱責され、シンディーの担当を外れてリースを受け持つよう指示された。シンディーの元には、リチャードからタージ・マハル の写真が送られてきた。
リチャードがリースと面会すると、彼は「申請書に追加する手紙がある。マークス博士の手紙だ。著名な心臓外科医で、私の本を読んで 感動し、無料でバイパス手術をしてくれた友人なんだ。エール大学の法務部長とも知り合いで、無罪になる計画を立てている。知事たちは 私を殺せないはずだ。ニューヨークタイムズ紙のベストセラー欄に掲載されるような男を殺したら権力に関わる」とリースは語る。
リチャードはシンディーと会い、自分の過去を話す。彼は法科大学院を出た後、父の会社の給料で自由に放浪したり、遊んだりしていた。 不況で会社の経営が悪化したため、彼は必死で働くようになった。利益が少しずつ出始めた矢先、多額の債務の返済期限が来た。帳簿を 誤魔化して金を借りたものの、会社は潰れて全てを失った。リチャードはサムから、「リゲットの件もやっていいぞ。ただし、絶対に 深入りはするな」と釘を刺された。
リチャードはデビーの母と妹に会うが、供述への署名を断られた。続いてマクガイアの元へ行くと、彼はシンディーへの強い怒りと憎しみ を示す。リチャードは刑事のヴォローから、「彼女を最初に飲酒と暴行で逮捕した時、14歳だった。事件の夏もバーンズと一緒に何度も 押し込み強盗をやっていた。ダグが検事と取引して、シンディーとヤクの売人を売った」と聞かされる。そこへラスク検事が来て、「彼女 は変わったらしいが、被害者は変わらない。私が起訴した。君がどれだけ頑張っても死刑は執行される」と述べた。
リチャードはシンディーの元へ行き、事件の夜について語るよう求めた。シンディーは「私は自分に無い物を持ってるデビーを憎んでた。 だから殺した。過去は変えられない。この世には許されないことがある」と目を潤ませながら話した。「君が変われば、許されるさ」と リチャードが言うと、彼女は「許す側も変わってくれればね」と口にした。
知事は記者会見を開き、リースに恩赦を与えて終身刑に減刑することを発表した。その様子を見学したリチャードが「再選のために黒人票 を狙ったな」と漏らすと、サムは「考えすぎだ」と告げる。記者からシンディーについて質問された知事は、恩赦が無いことを告げる。 リチャードはシンディーから、「弟に渡して」と手紙を託される。リチャードはビリーの元を訪れ、手紙を渡す。「姉の命を救うためと 言われて密告した。死刑になるとは思わなかった」と漏らすビリーに、リチャードは「彼女は恨んでないよ」と告げた。
リチャードは、シンディーの麻薬漬けを隠していたダフィー弁護士の弁護に問題があるという線で上訴しようと考える。彼はリンダと会い 、協力を要請した。パーティーに赴いたリチャードは、大勢の人々がいる前で知事にシンディーの恩赦を要求した。「死刑を許せば我々も 殺人者になる」とリチャードは大声で訴えるが、知事から「不服なら法律を変えるしかない」と冷たくあしらわれる。リチャードはジョン に「俺まで巻き添えになる」と激怒され、言い争いになった。リチャードは恩赦課を辞職し、なおも恩赦のために行動する…。監督はブルース・ベレスフォード、原案はスティーヴン・ハフト&ロン・コスロー、脚本はロン・コスロー、製作はスティーヴン・ハフト 、共同製作はチャック・ビンダー、製作総指揮はリチャード・ルーク・ロスチャイルド、撮影はピーター・ジェームズ、編集はジョン・ ブルーム、美術はジョン・ストッダート、衣装はコリーン・ケルサル、音楽はマーク・アイシャム。
出演はシャロン・ストーン、ロブ・モロー、ランディー・クエイド、ピーター・ギャラガー、ジャック・トンプソン、ドン・ハーヴェイ、 ジェイン・ブルック、パメラ・タイソン、ケン・ジェンキンズ、スキート・ウーリッチ、ジョン・カニンガム、クリスティン・カッテル、 ミミ・クレイヴン、ダイアン・セラーズ、パトリシア・フレンチ、ジェフリー・フォード、デイヴ・ヘイガー、ペグ・アレン、ペギー・ ウォルトン=ウォーカー、ディーナ・ディル、ダイアナ・テイラー、ランディー・フレスコ、シャーロット・ハックマン他。
『ドライビング Miss デイジー』『グッドマン・イン・アフリカ』のブルース・ベレスフォードが監督を務めた作品。
シンディーをシャロン・ストーン、リチャードをロブ・モロー、サムをランディー・クエイド、ジョンをピーター・ギャラガー、州知事を ジャック・トンプソン、ダグをドン・ハーヴェイ、ジルをジェイン・ブルック、リンダをパメラ・タイソン、ビリーをスキート・ ウーリッチ、マクガイアをジョン・カニンガムが演じている。
アンクレジットだが、リース役はチャールズ・S・ダットン。シャロン・ストーンは前年に、『カジノ』でゴールデングローブ賞ドラマ部門の女優賞を獲得している。
本人としては『氷の微笑』からの「セクシー女優」というイメージを脱却し、演技派女優と呼ばれるような存在になりたいという願望が あったのだろう。
そんなわけで、1996年には本作品と『悪魔のような女』の2作品でシリアスな演技を披露したわけだ。
ただ、残念ながらイメチェンは上手くいかなかったようで、10年後の2006年には『氷の微笑2』に主演している。この映画に関して言えば、シャロン・ストーンの出演作選びがマズかったんじゃないかなあと感じる。
というのも、この前年には、同じ題材を扱ったティム・ロビンス監督の『デッドマン・ウォーキング』が公開されている。
しかも、そっちはスーザン・サランドンとショーン・ペンという実力派俳優が出演している。
その翌年に、『デッドマン・ウォーキング』から男女のポジションを入れ替えたような映画を公開しても、そりゃあ厳しい勝負を迫られる のは仕方が無いだろう。リチャードが熱心にシンディーのことを調べ、救ってやろうと燃えているのが、どうにもすんなりと受け入れられない。
初日から酒の匂いをさせて遅刻しているという登場なので、その態度も含めて、正義感の強い真っ直ぐな男には見えなかった。テキトーな 奴に見えた。
だったら、そういう奴がシンディーと何度か会う中で気持ちに変化が生じていく、という変遷が見えるべきなのに、そういうのが全く無い 。最初から、詳しく調べたいとか、また会って話したいとか言っている。
だったら、冒頭のリチャードの見せ方を間違っている。最初から正義の心を持つ熱血漢として登場させるべきでしょ。一方のシンディーは、最初の面会でも2度目もシンディーはリチャードに対して冷淡で拒絶するような態度だったのに、なぜか3度目に 訪れた時は、自分から饒舌に語り、すっかり心を開いている。
頼みごとまでするほどだ。
どういう心境の変化なのか、サッパリ分からん。
死刑執行が決まって心情が変化したのか。私は『デッドマン・ウォーキング』を観賞した時、「ものすごく偽善的な映画だなあ」と感じたのだが、この映画でも同じような気持ちに させられた。
『デッドマン・ウォーキング』にしろ本作品にしろ、死刑囚は無実の罪を着せられているわけではない。
実際に、凶悪な犯罪を実行している。
自分や身内を陥れたり傷付けたりした相手に復讐したとか、クソみたいな奴を殺したとか、そういうわけでもない。
何の罪も無い弱者を、無残な目に遭わせている。『デッドマン・ウォーキング』の完全ネタバレになるが、あの映画の場合、「レイプはしたけど殺してない」ということが終盤に判明する。
ただし、そんなのは何の言い訳にもなっていなかった。
本作品の場合、そういう無駄な言い訳さえ用意されていない。強盗も殺人も、どっちもヒロインがやっている。
一応、「家庭環境が悲惨だった」とか「心神喪失状態なのに有力者の圧力で死刑が適用された」という設定が用意されており、それを ヒロインに対する情状酌量の余地に使おうとしている。
だけど、家庭環境が悲惨だったってのは、ストリッパーのセリフで軽く触れるだけ。
そこに関して補足するための映像も無いし。「シンディーの家庭環境が荒れていて、だから可哀想な人なんです」というアピールが薄いので、後半に入ってリチャードが「彼女は悲惨 な境遇で育ち、刑務所で変わりました」と熱く訴えても、まるで心に響かない。
「悲惨な境遇だったから、犯罪に走るのも情状酌量の余地がある」とは思えないのよ。
っていうか、そもそも「境遇が不憫なら人殺しも許されるのか」「心神喪失なら人殺しもOKなのか」ということを考えると、そんな設定 があるからって、ヒロインに同情を寄せたい気分になれないしね。『デッドマン・ウォーキング』でもそうだったんだけど、たぶん製作サイドが同情させようとしている死刑囚よりも、被害者や遺族に 対する同情心ばかりが沸いてしまうんだよね。
被害者遺族が登場するシーンは少なく、映画としては圧倒的にシンディー寄りの立場を取っているのだが、それでも被害者遺族の怒りや 憎しみに共感したくなる。
マクガイアが圧力を掛けて、麻薬漬けだったことが隠されたままシンディーの死刑判決が出ているのだが、そんなマクガイアを批判する気 になれない。
ヤク中の女に息子が惨殺されて、「本来なら死刑だけど、ヤク中だから懲役刑」って、そんな判決に納得できるはずもないし、だから 「汚い手を使っても死刑にしてやる」というマクガイアに共感できる。たぶん製作サイドとしては、「シンディーは同情の余地がある人だし、死刑にするのは可哀想じゃないかな」という方向で感じてほしいん だろうと思うけど、ヒロインに対する同情心が全く沸かないので、結果的には「身勝手な凶悪犯罪を犯した人間であっても、果たして死刑 を適用するのは正しいことなのだろうか」という問題を提起する映画に感じられる。
どっちにしろ、死刑の是非に関して言えば、声高に訴え掛けることはやっていないけど、明らかに「死刑反対」というメッセージが透けて 見えてくる。
で、反対の理由としては、「残酷な刑罰だから」ということだ。
でも、この映画を見て、それまで死刑賛成派だった人が、果たして反対に回るだろうかと考えると、ちょっと厳しいんじゃないかな。
「そんなメッセージなんて無いよ」と言われたら、「そりゃすんません」と謝るだけだ。(観賞日:2013年3月9日)
第17回ゴールデン・ラズベリー賞(1996年)
ノミネート:最低新人賞[目新しい“お堅い”シャロン・ストーン]
<*『悪魔のような女』『ラストダンス』の2作でのノミネート>