『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』:2019、アメリカ

MI6のハッティー・ショウが率いる急襲隊は、テロ組織の生け捕りとウイルスの確保を命じられた。急襲隊は一味がトラックにウイルスを積み込もうとしているアジトに乗り込み、ロックを解除してウイルスを確保する。そこへブリクストンという男が現れ、急襲隊を次々に倒す。ハッティーはウイルスを自身に注射し、その場から脱出した。ブリクストンは急襲隊を装って本部に連絡を入れ、「女が裏切ってウイルスを強奪した」と告げた。そこへ手下たちが来ると、彼は「女を殺せ。仲間を殺したように見せ掛けろ」と命じた。
デッカード・ショウはロンドンのクラブに乗り込み、ルーク・ホブスはロサンゼルスのカラオケ・パーティー会場に赴いた。ホブスは襲撃してくる連中を始末して標的の男を脅し、ウイルスが闇サイトで売られている情報について詳しく教えるよう要求した。デッカードも同様に襲って来た一味を蹴散らし、標的の男を捕まえた。彼は男を脅し、テクノロジーを悪用する反社会的集団「エディオン」について教えるよう要求した。
ホブスは娘のサマンサから、社会の宿題で家系図を作成したことを聞かされる。サマンサは幼少期のホブスと兄のジョナが並んでいる写真を見つけ、なぜ故郷であるサモアの話をしないのかと尋ねる。ホブスは「起きてはいけないことも色々とあるんだ」と言い、詳しい理由は明かそうとしなかった。ショウは刑務所を訪れ、母のマグダレーンと面会した。マグダレーンから妹のハッティーと疎遠になっていることを指摘されたショウは、「彼女は貴方を愛してる。電話して」と頼まれても首を縦に振らなかった。
ホブスの元にCIAのロックが現れ、「同じ敵を追ってる」と告げる。ロックはプログラムできる生物兵器のCT17ウイルス、暗号名「スノーフレーク」をハッティーが奪ったこと、ウイルス開発者が行方不明になっていることを説明し、ロンドンの協力者と組んで捜査してほしいと要請した。ショウの元にはCIAのローブが現れ、ハッティーがウイルスを奪って逃亡したことを知らせた。彼は「ウイルスを回収すれば女の罪は問わない」と言い、アメリカから来る協力者と組むよう指示した。
ホブスとショウはCIAの秘密施設で対面し、互いに罵り合った。ショウが協力を拒んで立ち去った後、ホブスはハッティーの行方を追った。ハッティーは自分が裏切り者扱いされていると知り、監視カメラの死角を狙って移動していた。ホブスは彼女を見つけ出して格闘になり、制圧して連行した。ショウはハッティーの家に侵入し、パソコンで情報を調べようとした。そこへ銃を持った2人の男たちが現れるが、ショウは撃退した。ブリクストンはエティオン本部に戻り、指導者の指示で医療部へ赴いた。彼は装置を使いながら、「エディオンは人間の弱点を機械で補う。君が先導しろ」という指導者の言葉を聞いた。
ホブスはCIA秘密施設でハッティーを尋問するが、彼女が自分の始末ではなく逃亡を図ったことから、急襲隊の殺害に関しては無実を確信していた。ホブスがサマンサからの電話を受けて席を外している間に、ハッティーは見張りを制圧して拳銃を奪った。彼女はホブスを襲撃して銃を構えるが、そこへショウが現れた。彼はホブスに拳銃を構え、ハッティーを連れ出そうとする。ハッティーは2人に、ウイルスを自分の体内に注入したことを教えた。
そこへブリクストンが部隊を率いて乗り込み、ハッティーを拉致しようとする。ブリクストンはホブスの動きを読み、パンチをかわして吹き飛ばした。ショウはブリクストンの顔を見て、8年前に射殺したはずの元同僚だったので驚いた。ホブス、ショウ、ハッティーは車に乗り、一味から逃亡した。エディオンは通信社のコンピュータに侵入し、ホブスとショウが凶悪なテロリストだという偽情報を流した。ホブスたちはロシア語の新聞を売っている売店を張り込み、ウイルス開発者であるアンドレイコ教授を発見した。ブリクストンは指導者から、ホブスとショウを仲間に引き入れるよう命じられた。
ホブスたちはアンドレイコから、ウイルスの無力化は難しいこと、あと42時間でハッティーが感染して1週間で全世界に広がることを説明した。ウイルスを作った理由を問われた彼は、万能ワクチン開発のためだったがエディオンが生物兵器に改造したのだと語った。ウイルスを体外に出す方法について、アンドレイコはエディオンの研究所にある抽出装置が必要だと述べた。ショウはホブスとハッティーをパブの地下にある秘密基地へ連れて行き、モスクワの友人に手を貸してもらう考えを明かした。
ショウは自分たちの身分や生体情報を書き換え、飛行機でモスクワへ向かった。ホブスとショウは機内で航空保安官のディンクリーから警察官とスパイに間違えられ、「第一線に復帰したい。仲間に加えてくれ」と名刺を渡された。モスクワに着いた3人は、武器ディーラーのマルガリータが仲間と一緒にいる別荘へ赴いた。研究所は広範囲に渡っているため、抽出装置のある場所を見つけ出すのは困難だった。ハッティーは敵も抽出装置を使うと確信し、マルガリータたちは彼女を捕まえたフリをしてブリクストンに引き渡した。
ホブスとショウはバイオ研究所に侵入するが、すぐに捕まった。ハッティーは抽出装置のあるラボで拘束を解き、見張りの連中を撃退した。彼女が抽出装置を持ち去ろうとすると、ラボにいたアンドレイコが協力を申し出た。ブリクストンはホブスとショウを椅子に縛り付けて電気ショックを浴びせ、仲間になるよう要求した。密かに一味の背後へ近付いているハッティーに気付いたホブスは、ショウに合図を送る。アンドレイコは火炎放射器で一味を攻撃し、ホブス&ショウ&ハッティーも戦った。
ホブスたちが車で建物から逃亡すると、ブリクストンはドローンを飛ばして攻撃する。ホブスたちは何とか脱出するが、抽出装置は壊れてしまった。ハッティーはウイルスの抽出を諦めようとするが、ホブスは「当てはある」とサモアへ行くことを決めた。3人はディンクリーの協力でチャーター機を用意してもらい、サモアへ飛んだ。ホブスが実家に着くと、兄のジョナが「一族を裏切った」と殴り付けた。装置の修理を頼まれてもジョナは拒否するが、母のセフィーナが「困っていたら助けるの」と説教した…。

監督はデヴィッド・リーチ、原案はクリス・モーガン、脚本はクリス・モーガン&ドリュー・ピアース、製作はドウェイン・ジョンソン&ジェイソン・ステイサム&クリス・モーガン&ハイラム・ガルシア、製作総指揮はダニー・ガルシア&ケリー・マコーミック&イーサン・スミス&エインズリー・デイヴィス&スティーヴ・チャスマン、製作協力はニコール・フリア&キャシー・チェイセン=ヘイ、撮影はジョナサン・セラ、美術はデヴィッド・シューネマン、衣装はサラ・イヴリン・ブラム、視覚効果監修はン・グラス、音楽はタイラー・ベイツ。
出演はドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、イドリス・エルバ、ヘレン・ミレン、ヴァネッサ・カービー、エイザ・ゴンザレス、クリフ・カーティス、ジョー・“ローマン・レインズ”・アノアイ、エリアナ・スア、エディー・マーサン、ジョン・ツイ、ロリ・ペレニーズ・ツイサーノ、ジョシュア・モーガ、ロブ・ディレイニー、アレックス・キング、トム・ウー、ジョン・マクドナルド、ジョージー・ミーチャム、ローラ・ポータ、アイマ・カリル、シロー・コーク、ジョシュア・クームベス、ミーシャ・ガーベット、ハリー・ヒックルズ、ルーシー・マコーミック、スティーヴン・ミッチェル、アキエ・コタベ他。


『ワイルド・スピード』シリーズのスピン・オフ映画。
監督は『アトミック・ブロンド』『デッドプール2』のデヴィッド・リーチ。
脚本は『ワイルド・スピード』シリーズに3作目から連続で参加しているクリス・モーガンと、『アイアンマン3』のドリュー・ピアース。
本家シリーズからはホブス役のドウェイン・ジョンソン、ショウ役のジェイソン・ステイサム、マグダレーン役のヘレン・ミレンが登場。
ブリクストンをイドリス・エルバ、ハッティーをヴァネッサ・カービー、マダムMをエイザ・ゴンザレス、ジョナをクリフ・カーティス、サマンサをエリアナ・スア、アンドレイコをエディー・マーサンが演じている。

アンクレジットだが、ロック役でライアン・レイノルズ、ディンクリー役でケヴィン・ハートが出演している。
ライアン・レイノルズは、デヴィッド・リーチ監督の『デッドプール2』で主演を務めていた。
一方、ケヴィン・ハートは『セントラル・インテリジェンス』と『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』でドウェイン・ジョンソンと共演している。
あと、エディオン指導者の声を担当した俳優は「Champ Nightengale」と表記されるが、これはライアン・レイルノズの変名だ。

ブリクストンは急襲隊を装って本部に連絡を入れる時、「女が裏切ってウイルスを強奪した」と説明する。しかし彼が本物の急襲隊なら、ハッティーのことを「女」と呼ぶことは無いだろう。
その時点で怪しさ一杯なのに、なぜかMI6はブリクストンの嘘にコロッと騙される。どんだけボンクラなのかと。
一応、エディオンはテクノロジーを悪用する組織なので、そういうスキルを駆使してMI6を騙している設定なんだろうとは思う。だけど、実際にテクノロジーを使ってデータを改ざんしたり、証拠を捏造したりする描写は全く無いのよね。
なので、バレバレの嘘にMI6やCIAが簡単に騙されているようにしか見えないのよ。

あと、エディオンがハッティーを組織の裏切り者に仕立て上げのなら、秘密施設を襲撃して拉致しようとするのはアホすぎるんじゃないか。
せっかくハッティーに罪を着せた作戦を進めていたのに、自分たちで台無しにしているだろ。
それとさ、エディオンってテクノロジーを悪用している組織のはずなのに、急襲隊を襲う時も、秘密施設を襲う時も、真正面からの力押しばかりなんだよね。
ちっとも巧妙な作戦を取らず、まるで知的じゃないのよね。

本家シリーズも充分に荒唐無稽ではあったが、こちらのスピン・オフは、それを遥かに上回っている。
もはやSFかファンタジーの世界に片足を突っ込んでいると言ってもいい。いや、ジャンル的にはアメコミ・ヒーロー物に近いノリかな。
そんな風に感じさせる一番の原因は、ブリクストンのキャラクター設定だ。
こいつはエディオンのテクノロジーによって肉体を改造されており、ザックリ言うと「機械人間」みたいな状態になっているのだ。

ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムがタッグを組んだら、生半可な敵では全く相手にならない。なので現実離れしたようなキャラクター設定にするのは、分からなくもない。
物量作戦で「さすがの2人でも多勢に無勢」という状況を作り出す方法もあるけど、量より質を選んだったことなんだろう。
ただ、そのせいで『ワイルド・スピード』シリーズとは別の世界線のような状態になっている。
本家シリーズとは、リアリティー・ラインが大きく違っている。

ハッティーが自分にウイルスを注射して逃亡するのは、幾ら切羽詰まっていたにしても、後のことを全く考えない軽率な行動に思える。
実際、ウイルスを体内に取り出すことは難しく、そのせいで苦労する羽目になっているし。
じゃあ「自分が死んでもウイルスを敵から守ることが出来ればOK」と考えているのかというと、そうじゃないし。
その時点では裏切り者に仕立て上げられるなんて予想していないから、本部に戻れば何とかしてもらえると思っていたのかもしれない。ただ、それを含めても、やっぱり甘すぎるんじゃないかと。

ホブスはショウとハッティーに、アンドレイコを見つけ出す手掛かりとして「ロシア語の新聞だ」と言う。それを売っている売店が1件しか存在しないので、そこを張り込めば発見できるというわけだ。分かりやすい御都合主義だね。
ショウは自分たちの身分や生体情報を書き換えて、飛行機でモスクワへ飛ぶことが出来ている。たった1人で、あっという間に3人の情報を書き換えているので、大勢で情報を書き換えているエディオンの凄さが薄まっている。
しかもエディオンは、ショウたちの情報変更に全く気付いていないし。
自分たちで偽の情報を流すことは出来るけど、情報網は脆弱なのね。

本家シリーズと同じで、もはや当初のコンセプトだったカーアクション映画というジャンルからは大きく外れている。ただし本家と違ってスピン・オフなので、こっちの方が余裕で言い訳が成立する。
ただ、一方で、「ホブスとショウのコンビ」がメインのはずなのに、実際はハッティーの活躍がかなり目立つってのは、どうなのかねえ。
もはや3人目の主役と言ってもいいぐらいの扱いだからね。
ひょっとすると、「最近は色々とうるさいから女性も活躍させないと」というバランス感覚が働いたのかねえ。

前半の内に「かつてショウはブリスクトンと組んでいたが、撃ち殺した(はずなのに生きていた)」ってことが明らかにされる。しかし、なぜショウがブリクストンを殺そうとしたのか、その事情については全く説明されない。
「その時点では詳細が不明だが、後で回想を挟むなどして説明する」という手順はあるんだろうと思っていた。ところが、一向に説明の手順が訪れないまま、どんどん話が進んで行くのだ。
そして結局、最後まで詳細は分からないままだった。
それは明らかに手落ち、もしくは手抜きだぞ。

ホブスは抽出装置が壊れた時、「当てがある」と言い出してサモアへ戻る。
しかし、なぜジョナなら抽出装置が修理できると思ったのか、その根拠は全く分からない。
そこまでに、ジョナがどういう人物なのかという説明は何も無かったからね。その辺りは、ものすごく適当なシナリオだと感じる。
「今さら」ってことなのかもしれないけど、本家シリーズと同じで繊細さや丁寧さは全く無いよね。
ホブスやショウのキャラ設定と同じで、力ずくのゴリ押しで正面突破を仕掛ける作品なのだ。

ホブスが何の迷いも無く「抽出装置が修理できる」と確信してサモアへ飛ぶぐらいだから、ジョナには特別な経歴でもあるのかと思いきや、「かつて父の泥棒を手伝っていて、今はカスタムショップを経営している」というだけ。
ホブスたちがサモアへ行く展開は、たぶん大半は「アフリカの広大な土地で、銃火器を使わないアクションシーンを撮って変化を付けよう」ってことが大きかったんじゃないかな。
でも、銃火器を使わない格闘戦は、あっという間に終わっちゃうんだけどね。

もちろん最後はホブス&ショウとブリクストンとの対決が用意されているが、「敵を退治する」という形での結末ではない。
ネタバレだが、ブリクストンは指導者から廃棄処分の判断を受け、崖から落ちて海に沈む。
ただ、まだ指導者は生きていてホブスたちに宣戦布告するし、「どうやらロックが悪党らしい」ってことも匂わせる描写が用意されている。
スピン・オフ映画だが1作だけで終わらず、こちらだけでシリーズ化を想定している意欲が満々ってことだね。

(観賞日:2022年8月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会