『私の愛したゴースト』:1990、アメリカ
マルカンド上院議員は娼婦のクリスとペイシャを部屋に呼び、麻薬を楽しむが急死した。クリスたちは元締めのグラハムに連絡し、クラブへ移動するよう指示された。ロス市警風俗麻薬班のジャック・ムーニーと相棒のハリー・ザラは、売春を取り締まるために張り込んでいた。後輩のディルニックは客を装い、娼婦のアニーに声を掛けて車に乗せた。ムーニーはザラを助手席に乗せて車を運転し、ディルニックが向かったモーテルを目指す。しかし途中で黒人弁護士のストーンが運転する車を見つけた彼はザラの忠告を聞かず、そちらを追い掛けた。「個人的な恨みがあるんだろ。クリスを取られたからか」とザラが言うと、彼は「バカ言え」と声を荒らげた。
グレアムと用心棒のテラーはマルカンドの部屋に到着し、クリスたちがいた痕跡を消した。ストーンがクラブからクリスとペイシャと共に出て来る様子を、ムーニーは車内から観察した。ストーンはクリスの手を振り払おうとして、誤って平手打ちを浴びせてしまった。それを見たムーニーは激高し、ストーンたちが乗り込んだ車に向けて発砲した。ストーンはクリスを「足を洗っただろ」と責め、麻薬の入った鞄を持って車を降りた。彼は追って来るムーニーから逃走し、途中で鞄をマネキンの頭に置いた。
ストーンは巡回中の警官を見つけると、「これは明らかな過剰捜査だ。あの刑事に半年も追われてる」とムーニーを指差した。ムーニーはストーンの腹を殴って気絶させ、「この黒人め」と罵った。彼はウェント部長から停職処分を言い渡され、拳銃とバッジを没収された。署を去ろうとしていたクリスは、ムーニーと目が合った。彼女は返しそびれていた家の鍵をムーニーに渡し、カメラのフィルムを握らせて「まだ金魚鉢はある?その中に入れて。もしもの時は現像して、ハリウッド大通りに撒いて」と告げた。
自宅で酒を飲んでいたムーニーは心臓発作で倒れ、必死で救急車を呼んだ。病院に駆け付けたザラは、心臓移植が必要だと知らされた。テレビのニュースでは、反麻薬法案の提案者であるマルカンドが心臓発作で死去したことが報じられていた。ムーニーに移植されたのは、自動車事故で搬送されたストーンの心臓だった。そのことを手術が終わってから知らされたムーニーは、激しい怒りを見せた。10か月のリハビリを終えた彼は、医師のポスナーから健康を意識した生活を指示された。
事務処理専門のデスク担当として復職したムーニーは事務員のテリーに質問し、ザラがクリスを捜査中だと知った。クリスが事情聴取で答えた住所は虚偽だと判明したが、テリーはムーニーに頼まれて再調査を引き受けた。ムーニーがポスナーの指示を無視してハンバーガーを食べようとすると、死んだはずのストーンが現れて注意した。困惑したムーニーが去ろうとすると、ストーンは付いて来た。彼は「車に乗っていたら死んで、次は手術室にいた。自分を殺した車の運転手は見た」と話すが、幻覚だと考えたムーニーはポスナーに相談して薬を処方してもらう。だが、その場にもストーンは出現し、消えてくれなかった。
ストーンが家まで付いて来たので、ムーニーは追い払おうとする。しかしストーンが「クリスの居場所が分かるのは俺だけだ」と言うので、ムーニーは話を聞くことにした。ストーンはグレアムが上流相手の売春をやらせていたこと、クリスから電話で迎えを頼まれたことを、彼に語った。彼は自分を殺したのがテラーだと言い、ムーニーと共に自分が暮らしていた高級マンションへ赴いた。部屋は売りに出されており、ムーニーはストーンの母と会った。彼はストーンの母から、クリスが荷物を取りに来たこと、赤のフェラーリを運転する男と去ったことを話す。赤のフェラーリと聞いて、すぐにムーニーとストーンはグレアムだと確信した。
ムーニーはストーンの指示を受け、客を装ってグラハムと連絡を取った。彼はグレアムに「ステッドマンから聞いた。クリスという女を世話してくれないか」と言い、承諾を得た。ストーンが「クリスと会い続けろ」と言うと、ムーニーは金が無いと漏らす。ストーンは自分がオーナーを務めるボウリング場へ行き、レーンの裏に隠しておいた20万ドルを渡した。するとストーンの弟であるアルキメデスや従業員のババたちに包囲され、金を没収される。ストーンは弟が5万ドルを盗んでいたと知り、そこをムーニーに突かせた。アルキメデスに脅しを掛けたムーニーは、15万ドルを取り返した。
ストーンはムーニーにジョギングを強要し、身だしなみを整えさせた。美大に通いたいというクリスの夢をムーニーが「才能も無いのに馬鹿な夢だ」と一蹴すると、ストーンは「決め付けるな。彼女の夢を聞いてやれ」と諫める。「いつも聞いてた」とムーニーが反論すると、彼はクリスの個人情報について立て続けに質問した。彼はムーニーの答えが全て間違っていることを指摘し、「縛りたがるばかりで何も聞いてこなかった」と批判した。ストーンはムーニーに、「美大へ行くにも金が掛かる。現実から逃げるな」と告げた。
夜、ムーニーはホテルのレストランでクリスと会い、ストーンも同席した。ムーニーはストーンの指示に苛立ちを覚え、トイレに行って「俺のデートだ。引っ込め」と怒鳴り付けた。ストーンは自分が全てお膳立てして金も払っていることに言及し、殺人のあった夜について質問する約束を果たせと要求した。しかしムーニーはクリスに質問せずにディナーを終わらせ、プールバーでもデートを楽しんだ。彼はホテルの部屋に入っても全く質問せず、クリスとベッドインした。
クリスが部屋を去ろうとした時、ムーニーはストーンから早く質問するよう要求された。渋々ながらも承諾した彼は、クリスに「弁護士が君を迎えに来る前、何があった?」と問い掛けた。クリスが逃げるように走り去ったので、ムーニーはストーンのベンツで追い掛けようとする。しかし不審を抱いて張り込んでいたザラとディルニックに見つかり、署へ連行される。ムーニーはウェントに「ベンツは犯人探しのために、死んだ弁護士から貰った」と説明するが、全く信じてもらえなかった。
ウェントは「今は無理でも必ず捕まえる。明朝8時、精神鑑定のために出頭しろ」と告げた。帰宅したムーニーは金魚鉢に沈めておいたフィルム取り出して現像し、買春中のマルカンドが映っているのを知った。彼はテリーに電話を掛け、ザラの名前でマルカンドの検視報告を調べてほしいと要請する。何を調べてほしいのかと問われた彼は、コカインだと答えた。ムーニーはクリスを見つけ出すが、ストーンの子供を産んでいると知って立ち去った…。脚本&監督はジェームズ・D・パリオット、製作はスティーヴ・ティッシュ、共同製作はマリー・カンティン&バーニー・ゴールドマン、製作総指揮はロバート・シェイ、撮影はアーサー・アルバート、美術はジョン・ムトー、編集はデヴィッド・フィンファー、衣装はルイーズ・フロッグリー、音楽はパトリック・レナード。
出演はボブ・ホスキンス、デンゼル・ワシントン、クロエ・ウェッブ、レイ・ベイカー、キーラン・マローニー、ジェフリー・ミーク、ロジャー・E・モーズリー、アラン・レイチンス、ジャネット・デュボワ、ダイアンシヴィータ、エヴァ・ラルー、ロン・テイラー、ケンダル・マッカーシー、モンテ・ランディス、ロバート・アピサ、フランク・R・ローチ、チック・ハーン、リサ・スタール、ディーン・ウェイン、ボビー・バス、グレッグ・バーネット、トム・ハフ、リック・マーザン、ジョージ・カイル、ビル・アップルバウム、ゲイリー・サックス他。
1986年の『モナリザ』でカンヌ国際映画祭の男優賞やゴールデン・グローブ賞の主演男優賞など様々な映画賞を受賞したボブ・ホスキンスと、1989年の『グローリー』でアカデミー賞の助演男優賞を受賞したデンゼル・ワシントンが共演した作品。
脚本&監督はTVドラマ『地上最強の美女!バイオニック・ジェミー』や『超人ハルク』のプロデューサーを務めたジェームズ・D・パリオット。
ムーニーをボブ・ホスキンス、ストーンをデンゼル・ワシントン、クリスをクロエ・ウェッブ、ザラをレイ・ベイカー、ディルニックをキーラン・マローニー、グレアムをジェフリー・ミーク、ウェントをロジャー・E・モーズリー、ポスナーをアラン・レイチンス、ストーンの母をジャネット・デュボワが演じている。ムーニーのキャラクター設定は、ホントにこれで良かったのかと言いたくなる。
勘違いで激怒したという事情はあるものの、ストーンを本気で殺そうとして発砲している。
そもそも、その半年前からストーンを逮捕しようと執拗に追い回している。ストーンが何かしらの犯罪に加担していたわけではないし、それどころか犯罪の疑いすら無いのにだ。
彼はザラが指摘するように、「クリスを取られたから」という個人的な恨みだけでストーンを追い回しているのだ。しかも、そこにはムーニーの言葉からも分かるように、明確な黒人差別の意識も強く込められている。
なので、肩を持てるような余地か何も無い。
もちろん、あえて黒人への露骨な蔑視があるキャラにしておいて、「そんな奴が黒人の心臓を移植され、一緒に行動することを余儀なくされる中で次第に考えが変化していく」というドラマを作ろうとしていることは分かる。
だけど、そんなことは百も承知の上で、それでもなお「なんか嫌な感じ」ってのが遥かに強く上回る。っていうか、ここってキャラを逆にした方が良かったんじゃないかな。コメディー的なことを考えると、死ぬのがムーニーで生き残るのがストーンにした方が面白くなったんじゃないかと。
もっと厳密に言うと、死ぬ役がボブ・ホスキンスで生き残るのがデンゼル・ワシントンってことだね。
ずっとイライラして怒鳴ったり文句を言ったりするムーニーって、ホントならそこで笑えなきゃいけないはずなんだけど、ちっとも頬が緩まないんだよね。
さらに言うと、心臓移植を受けた人物をメインにするんじゃなくて、ゴースト側から描いた方が面白くなったような気もする。ムーニーを生かしておくことで、「クリスと会う前にジョギングさせられて疲れたり、美容室で髪を整えてもらったり、服を新調したり」という一連の描写が、コメディーらしさを持つことに繋がっているという部分はある。それは間違いない。
ここは見た目がシュッとしてスタイルのいいデンゼル・ワシントンだったら、コメディーとしては全く映えないシーンになってしまう。
ただ、そもそも「クリスと会うために身だしなみを整える」という手順なんて、別に無くてもいいでしょ。
ラブコメなんかでありがちな、ヒロインが次々に服を着替えるファッションショー的なサービスシーンでもあるまいし。幾つか「足りていない」と感じる箇所があって、まず「なぜムーニーはストーンがクリスを奪ったと思い込んだのか」という部分。この根拠がサッパリ分からないんだよね。
半年も追い回し、何の罪も犯していないのに逮捕しようとするぐらいなんだから、よっぽど「こいつはクリスを俺から奪った」と決め付けるような確証が無いと筋は通らないはずで。
でも、そこの説明は何も無いんだよね。
そして死んだ後のストーンから説明を受けると、あっさりと受け入れている感じだし。ストーンの死について、後から台詞で処理するだけで簡単に終わらせるのも、色々と足りていないと感じる。
「ムーニーに移植する心臓が見つかったら、その持ち主はストーンでした」という描写で観客を驚かせるために、その前に起きている「ストーンが殺される」という出来事を見せずに済ませているのは、狙いとしては分かる。
だけど、そんな一瞬の、それも大したことのない効果のためと天秤に掛けた時、ストーンが死ぬ時のシーンを描いた方がメリットは大きいと思うのよ。レストランのシーンは本来なら、「ムーニーは恋人気分でデートを楽しみたいのに、ストーンが行動について細かく指示するので苛立ちを覚え、我慢できずにトイレで怒鳴る」という流れになるべきだろう。
では実際のところ、どうなっているのか。
最初は高級レストランのディナーに不慣れなムーニーに対し、ストーンが飲み物を何にするかクリスに尋ねるよう言ったり、ワインリストとエビアンをウエイターに注文するよう指示したりしている。
クリスとの会話にも口を挟んでいるので、ここでムーニーと苛立つのは分かる。でも、その後には新米らしきウエイターが緊張しながら料理の説明を始め、ムーニーとクリスが話しているのに割り込んで続ける様子が描かれている。
それを見たムーニーとクリスが笑い出すと、ストーンはテーブルの下で音を出し、ムーニーに無言で「早くしろ」的な要求をする。
これを受けてムーニーがトイレへ行き、ストーンに怒鳴るのだ。
もちろん、「せっかく楽しい気分だったのに邪魔しやがって」という怒りであり、筋は通っている。
だけど「ウエイターの説明が可笑しくて云々」というパートは、全く要らないでしょ。ムーニーたちは笑っているけど、それが映画としての笑いが生まれているわけでもないし。ストーンはレストランでムーニーに要求するように、早く事件の夜についてクリスに質問してほしいと思っているはずだ。
ところがトイレで改めて要求した後、ムーニーが質問せずにディナーを終えたのに、そこはスルーしている。
プールバーでも質問せずに遊んでいるだけだが、ここも全く注意することはなく見守るだけ。部屋でセックスに及ぶ時も、それが終わっても、ずっと傍観者のまま。
クリスが部屋を去ろうとする時まで泳がせているのは、どういうつもりなのかと。むしろ、ここは何度もストーンが急かして、ムーニーが疎ましいので反発したり追い払おうとしたりするというやり取りを見せた方が良くないか。
ウエイターのパートなんかより、そっちの方がスムーズにギャグパートを盛り込むことが出来そうな気がするぞ。
っていうかさ、「ムーニーが誰もいない場所に向かって喋ったり怒鳴ったりするので、クリスが困惑する」という手順が皆無なのは、どういうことなのか。
そこって笑いを作り出せる余地がものすごくありそうな場所なのに、なぜ無視しているのか。ストーンに怒鳴るムーニーを見た刑事たちが、精神を病んでいると思い込んで心配する描写はある。
でも、ここも使い方としては、かなり勿体無いことになっていると感じる。それだけだと、なかなか笑いには結び付かないのよ。
何より引っ掛かるのは、ムーニーに誤魔化す気が全く無いこと。
自分にしかストーンの姿が見えていないんだから、周囲からは「ヤバい奴」と見られることぐらい分かるはず。
だから、そこは「慌てて誤魔化そうとする」という行動を描けば、笑いに繋がったんじゃないかと。後半に入って、クリスがストーンには知らせず、彼の子供を産んでいたことが明らかになる。つまりホントにストーンはクリスと交際しており、ムーニーは誤解していたんじゃなくて正しかったわけだ。
そこでストーンに大嘘をつかせているのはダメだろ。その後でストーンがムーニーに「彼女は君を愛している」と言っても、何の説得力も無くなっちゃうよ。
クリスはストーンを愛していたから、子供を産んでいるんでしょうに。
しかもストーンはムーニーに嘘をついていたことを謝ろうともせず、「子供を抱いて感想を聞かせてくれ」とか能天気に言うし。
急に意地の悪い奴に成り下がってるぞ。終盤、グレアムの一味はクリスと赤ん坊を人質に取り、ムーニーを呼び出す。ムーニーとストーンは罠だと知りながらも、現場へ出向く。
ムーニーはストーンの助言を受けながら敵と戦うが、腹を撃たれる。それでも必死で立ち上がり、クリスと赤ん坊を守りながら戦う。最後は全員を倒すが、力尽きて倒れる。
完全に動かなくなるので絶命したんだろうと思ったが、カットが切り替わるとクリスとの挙式シーンが描かれる。
だったら死んだかのように見せかける変なコケ脅しなんて要らんよ。
あと、クリスがストーンの赤ん坊を産んでいるのに、平気な顔してムーニーと結婚して、それをハッピーエンドとして描いているのも「なんだかなあ」と思っちゃうぞ。(観賞日:2025年12月8日)