『理想の女(ひと)』:2004、スペイン&イタリア&イギリス&ルクセンブルグ&アメリカ

1930年、ニューヨーク。ステラ・アーリンは大勢の男たちと浮名を流し、その妻から嫌われていた。アーリンは銀行口座が使えなくなり、 宿泊していたホテルにもいられなくなった。彼女は宝飾品を質屋で売って金を作り、船でイタリアへ渡ることにした。夏はイタリアの海岸 に名立たる金持ちが集まるからだ。ある雑誌を見ていた彼女は、ニューヨーク社交界の華であるメグとロバートのウィンダミア夫妻が 写っている写真を目にした。アーリンは、その2人がバカンスを過ごしているアマルフィーへ向かった。
メグは地元の社交界の中心人物であるルッチーノ伯爵夫人の案内で、街に繰り出した。メグが手袋屋に入ると、英国貴族のダーリントン卿 が彼女を口説こうとする。そこへルッチーノ伯爵夫人がロバートを連れて来た。ロバートはロンドンでダーリントン卿と会っていた。別荘 を探していることをロバートが口にすると、ダーリントン卿は物件を紹介した。メグは別荘を見て、すぐに気に入った。
ダーリントン卿のヨットではパーティーが開かれた。彼は年配の友人である大富豪タピー、セシル、ダンビーとカードに興じた。甲板に 出たダーリントン卿は、一人でいるメグに話し掛けた。メグは、幼い頃に母親を亡くしていることを告げた。ロバートがアンティーク・ ショップでメグの誕生日プレゼントを選んでいると、アーリンが「妻に宝石を送ってはダメよ」と話し掛けた。アーリンに勧められ、 ロバートは扇子を購入した。
ルッチーノ伯爵夫人はウィンダミア夫妻と仲良くしていたが、内心では街にアメリカ人が多く来ていることに辟易していた。彼女は娘の アレッサンドラに、「本音と建て前を使い分けなければ」と言う。オープン・カフェにいたルッチーノ伯爵夫人、アレッサンドラ、タピー 、ダーリントン卿は、ロバートがアーリンと一緒に車へ乗り込む様子を目撃した。ゴシップ好きのルッチーノ伯爵夫人とアレッサンドラは 、たちまち強い興味を示した。アーリンを安宿へ送って出て来たロバートは、ショックを受けた表情でため息をついた。
メグはロバートのスーツを受け取るため、洋品店へ赴いた。ドレスを試着していたアーリンは、メグに気付いて話し掛けた。アーリンは 露出度の高いドレスをメグに見せ、意見を求めた。メグは困惑しながら、「想像の余地が無いわ」と言う。ルッチーノ伯爵夫人は アレッサンドラと共に、アーリンのことを調べた。彼女は友人のプリムデール伯爵夫人に、アーリンが安宿から一等地の別荘へ移ったこと 、ロバートが頻繁に通っていること、いつもアーリンが男と一緒にいること、タピーが彼女に接近していることを語った。
ある日、ダーリントン卿はメグを昼食に誘った。メグが書斎のロバートを呼びに行くと、彼は「仕事がある」と告げる。ダーリントン卿は ロバートの小切手帳を見つけ、アーリンに小切手を渡していることを知った。ロバートはアーリンの元へ行き、小切手を渡す。そして 「君が金を下ろせるよう、口座を作っておく」と告げた。ダーリントン卿はメグを散歩に連れ出し、口説き落とそうとする。だが、メグは ロバートを愛しており、全くなびかなかった。2人が歩いている様子を目撃したスタットフィールド夫人は、ルッチーノ伯爵夫人と プリムデール伯爵夫人に会い、そのことを教えた。
メグはダーリントン卿に連れられ、ロバートがいるはずの電信局へ行く。だが、そこにロバートの姿は無い。別荘に戻ったメグは、帰って きたロバートに問い掛ける。ロバートは「行き違いになったんだろう」と釈明した。夫妻はルッチーノ伯爵夫人やダーリントン卿たちと共 に、オペラを見に出掛けた。一行は、タピーがアーリンと一緒にいる様子を目撃した。ダーリントン卿から「彼女に会ったことは?」と 訊かれたロバートは、「無いよ」と嘘をつく。しかしアレッサンドラに「でも見たわよ」と言われると、隣にいるメグを気にしながら、 慌てて「ああ、彼女か。金の相談に乗った」と告げた。
プリムデール伯爵夫人がアーリンのことを「悪名高きアバズレよ」と言うと、ロバートは「人を無闇に中傷すべきじゃない」と諌めた。 タピーはアーリンを誘い、劇場の外に出た。そのまま彼は、アーリンを送っていくことにした。別荘に戻ったメグは、タピーが自分の 誕生日パーティーにアーリンを連れて来ることを懸念した。ロバートは「タピーに言って断るよ」と告げる。メグは「遠回しに言ってね。 誰にも不快な思いはさせたくないの」と頼んだ。
メグが「彼女が来ると厄介だわ。噂は嘘じゃない」と言い、ダーリントン卿からアーリンが不倫していることを聞いたのだと告げる。彼女 が「汚らわしいことだわ」と言うと、ロバートは「人の噂を鵜呑みにするものじゃない」と注意する。メグは「どうして彼女を庇うの?」 と、やや苛立った様子を示す。ロバートは「話題を変えよう。もう0時を過ぎた」と言い、扇子をプレゼントした。一方、アーリンは タピーから求婚されるが、「私は結婚に不向きな女なの」と断った。
翌日、メグはロバートが出掛けている間に、誕生日パーティーの準備を進めていた。そこへダーリントン卿が現れ、高価な腕輪をメグに プレゼントした。メグは「こんな高価な物、特別な関係だと疑われる」と困惑するが、彼は半ば強引に渡した。花代の支払いを求められた メグは、ロバートが戻ってから支払ってもらおうとした。するとダーリントン卿は、小切手にサインして支払うよう促した。
ロバートの書斎に赴いたメグは、彼がアーリンに何枚もの小切手を切っていると知った。彼女はルッチーノ伯爵夫人に相談し、涙を流して 「何か理由があるのよ」と言う。ルッチーノ伯爵夫人はメグを散歩に連れ出し、「不滅の愛なんて亡霊のようなもの」と男の浮気が当然で あることを語る。ロバートはタピーと会い、誕生日パーティーにアーリンを連れて来るのは遠慮するよう求めた。タピーは「やはり噂は 本当だったか。だが、私は手強いライバルだよ」と言う。
タピーの話で、ロバートは自分とアーリンが不倫関係にあるという噂が広まっていることを初めて知った。ロバートはアーリンと会い、 「金は渡すから、すぐに街を去ってくれ」と頼む。しかしアーリンは不倫の噂を知っても笑い飛ばし、「まだ離れたくないわ」と拒否した 。ロバートは険しい表情で「君が母親だと知ったら、メグはどう思う?」と言い、明朝に街を出るよう求めて立ち去った。
ロバートはアーリンから、メグの母親だと知らされていた。彼女はメグの父親である夫を捨てて、愛人の元へ走っていた。そんな女がメグ の母親だと世間に知られることを、ロバートは危惧した。そこで彼は、内緒にしてもらうため、アーリンに金を渡していたのだ。だが、 そんな秘密を知らないメグは、ロバートがアーリンと不倫してていると思い込んだ。誕生日パーティーに出席したメグはダーリントン卿 から誘いを受け、ロバートへの書き置きを残して彼のヨットへ向かった…。

監督はマイク・バーカー、原作はオスカー・ワイルド、脚本はハワード・ハイメルスタイン、製作はアラン・グリーンスパン&ジョナサン ・イングリッシュ&スティーヴン・シーバート&ハワード・ハイメルスタイン、製作監修はデヴィッド・ニコルズ、共同製作はアントニオ ・グアダルビ&ロベルト・ベッシ&デニース・オデル、製作協力はキム・バーンズ&ジュリー・アン・リー=キニー&サリー・ロビンソン 、製作総指揮はジョン・エヴァンジリデス&ジミー・ドゥ・ブラバン&マイケル・ドゥナエフ&リアム・バッジャー&ダンカン・ホッパー &ミカエル・ボーグランド&ヒラリー・デイヴィス&ルパート・プレストン、撮影はベン・セレシン、編集はニール・ファレル、美術は ベン・スコット、衣装はジョン・ブルームフィールド、音楽はリチャード・G・ミッチェル。
出演はヘレン・ハント、スカーレット・ヨハンソン、トム・ウィルキンソン、ジョン・スタンディング、スティーヴン・キャンベル・ ムーア、マーク・アンバース、ミレーナ・ヴコティッチ、ダイアナ・ハードキャッスル、ロジャー・ハモンド、ジェーン・ハウ、 ジョルジア・マセッティー、シャラ・オラーノ、ブルース・マクガイア、マイケル・ストロム、アントニオ・バルバロ、ヴァレンティナ・ドゥヴァ、フィリッポ・ サントロ、アウグスト・ズッキ、カロリーナ・レヴィ、ダニエラ・スタンガ他。


オスカー・ワイルドの戯曲『ウィンダミア卿夫人の扇』を基にした作品。
アーリンをヘレン・ハント、メグをスカーレット・ヨハンソン、 タピーをトム・ウィルキンソン、ダンピーをジョン・スタンディング、ダーリントン卿をスティーヴン・キャンベル・ムーア、ロバートを マーク・アンバース、ルッチーノ伯爵夫人をミレーナ・ヴコティッチ、プリムデール伯爵夫人をダイアナ・ハードキャッスル、セシルを ロジャー・ハモンド、アレッサンドラをジョルジア・マセッティーが演じている。

アーリンがロバートと不倫関係に無いことは、早い段階でバレバレになっている。
だが、それでも、やはり彼女には「多くの男が虜になるだけの魅力がある」という印象が欲しい。
それを考えると、ヘレン・ハントはミスキャストではないだろうか。
彼女は美しい人だけど、妖艶さという部分には欠けている。
これが「紳士淑女による大人の恋愛劇」ということなら、そのヒロインには適しているかもしれないけれど、そういう話じゃないのでね。

原作の戯曲を知っていたり、エルンスト・ルビッチ監督が戯曲を映画化した1925年の『ウインダミア夫人の扇』を見ていたりすれば、 アーリンとロバートが不倫関係に無いことは、事前に分かっている。
ただ、それが分かっていても、あまり支障は無いようだ。
何しろ、ロバートが安宿アーリンをへ送って出て来たところで、彼はショックを受けて溜息をついている。
それは明らかに、彼女の魅力の虜になった男の態度ではない。
それ以外にも、幾つかの場面によって、ロバートがアーリンと恋愛感情によって親しくしているわけではないこと、そこに何か秘密が 隠されていることは、前半の内に匂わされている。

しかも、その秘密が「アーリンがメグの母親である」ということも、中盤で明示される。
私は戯曲を知らないので、てっきり、その秘密が物語の肝だと思っていたのだが、そうではなかったようだ。
アーリンとロバートが不倫しているように見えなくても、中盤で秘密が明らかになっても、一向に構わないようだ。
そういうミステリーに重点は置かれていないということなのだろう。
それを明確にした上で、「全てを知り尽くした女」と「何も知らない女」を対比させ、文芸ドラマを作ろうとしているんだろう。

だけど、その秘密が簡単に明かされた上で、どこをどう味わえばいいのだろうか。
正直なところ、こっちとしては困ってしまった。
本当にロバートがアーリンの虜になったように見せ掛け、メグが書き置きを残して去る終盤までは秘密を引っ張る構成の方が良かった ように思うんだけどなあ。
でも、たぶん原作が、そこを終盤まで引っ張らない構成なんだろうな。
だとすれば、私には、そこにある高尚な面白さ、話の深みを読み取るだけの敏感なセンスが無かったということなのだろう。

それとも、ひょっとして監督は、ネタを明かすまでは、アーリンとロバートが不倫しているという風に、観客に思い込ませようと意図して いたのだろうか。
だとすれば、そのミスリードには明らかに失敗している。
もうロバートが最初にアーリンを安宿まで送っていったシーンで、既に「ああ、こりゃロバートがアーリンに惹かれて虜になったわけじゃ ないんだな」ということはバレバレになっている。

最終的にアーリンは、ロバートとメグの夫婦の危機を救う。
「多くの男を手玉に取るアバズレに見えて、実は聡明な善人でした」というところへ着地するわけだ。
それは別にいいんだけど、ニューヨークで多くの男を手玉にとっていたことは事実のようだし(それを否定するような描写は無い)、 ロバートから金を貰って別荘暮らしをしていたことも事実だ。
「娘に会いたかった」ということなら、彼から金をせびり取る必要は無いんだし、そもそも彼と親密にしていれば、それがゴシップになる ことぐらい、ニューヨークの経験で分かるはず。
彼女がやったことは、マッチポンプみたいなものだ。
そう考えると、あまり魅力的ではないんだよなあ。

(観賞日:2011年4月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会