『ライラの冒険 黄金の羅針盤』:2007、アメリカ&イギリス

12歳のライラが暮らすのは、人間の魂が肉体の外にあり、ダイモンと呼ばれる動物の姿をしている世界だった。両親のいないライラは、 叔父のアスリエル卿によって、彼が評議員を務めるオックスフォード大学のジョーダン学寮に預けられていた。ある日、ライラがダイモン のパンタライモンと共に会議室に忍び込んでいると、誰かの足音がした。慌ててクローゼットに隠れると、学寮長が教権機関の使者フラ・ パベルと共に入ってきた。
パベルが「学寮長の義務として、アスリエル卿の探検旅行を阻止しなければならない」と命令口調で言うと、学寮長は「教権機関の指図は 受けない」と拒否した。評議員を集めるため学寮長が会議室を出て行くと、パベルはワインに毒を混入した。パベルが去った後、ダイモン のステルマリアと共に会議室へ入ってきたアスリエル卿がワインを飲もうとしたので、ライラはクローゼットから飛び出して制止した。 ライラが毒の混入を教えると、アスリエル卿は「隠れろ、中で見張ってろ」と指示した。
会議室にやって来た評議員たちの前で、アスリエル卿は北極のスベールベルで撮影したホログラムを見せた。そこには、空からダストが 下りて来て、ダイモンを通じて男に流れ込む様子が写し出されていた。アスリエル卿は「別世界には我々が住んでいるのと同じような街が あり、そこからダストが流れ込んでいる」と語り、調査旅行のための出資を求めた。評議員たちは、出資に同意した。
アスリエル卿から「おとなしくしていろ」と注意されたライラだが、親友ロジャーの前では「彼は北極へ助手として連れて行ってくれると 約束したわ」と嘘をついた。ライラとロジャーはゴブラーという組織のことも話した。最近、巷ではジプシャンや使用人など貧乏な家の 子供たちばかりが誘拐される事件が続発していた。学寮の食堂で、ライラは貴婦人コールター夫人と出会った。彼女が登場すると、学寮長 は緊張した態度を示した。どうやらコールター夫人は、学寮に対して強い力を持っている様子だった。
コールター夫人はライラに、「叔父様とも会っているわ。スパールバルに住む熊たちの政治体制について話したのよ。熊の王ラグナー・ スタールソンに会ったこともあるわ。熊にダイモンは無いのに、彼はダイモンを持ちたがっている。彼は自分を人間だと思いたいの」と 語った。彼女は「北極へ戻るので、助手として付いて来ない?」と持ち掛けた。ライラは喜ぶが、それには学寮長の許可が必要だ。しかし 学寮長はコールター夫人に話を聞かされると、何かに怯えるように承諾した。
夜、ロジャーは友人であるジプシャンの子供ビリーと共に、学寮の外を歩いていた。ビリーは自分のダイモンに、ライラを見に行くよう 指示した。だが、そこにコールター夫人のダイモンである金色の猿が現れ、ビリーのダイモンを捕まえた。一方、教権の幹部たちは、今後 の対策について話し合っていた。一人が「学者たちは最後の真理計のありかを明かそうとせず、アスリエル卿に言われるがままに出資を 決めた。彼が別世界の存在を証明すれば、教権の教えに矛盾が生じる。その前に問題を片付けねば」と危機感を露にした。彼がコールター 夫人の研究の進行具合について尋ねると、別の幹部が「ダストの影響から身を守る装置は、ほぼ完成したようです」と告げた。
翌朝、ライラの部屋に学寮長が現れ、アスリエル卿が大学に寄贈した真理計を渡した。それは黄金の羅針盤も呼ばれるもので、「君はそれ を持つ運命にある。それは真実を見せる。持っていることを絶対にコールター夫人には知られないように」と注意した。コールター夫人は ライラを飛行船に乗せ、ロンドンへと赴いた。最初は優しかったコールター夫人だが、ライラがダストのことを口にすると険しい表情を 浮かべた。さらに彼女は、ライラにショルダーバッグを外すよう要求し、それを拒まれると高圧的な態度を取った。コールター夫人は猿に パンタライモンを捕まえさせ、ライラを威嚇した。
ライラはパンタライモンに促され、コールター夫人の書斎を密かに調べた。そこで書類を発見したライラは、コールター夫人がゴブラーの 首領であり、ロジャーとビリーが拉致されたことを知った。ライラは猿に真理計を発見されるが、パンタライモンが奪い返した。ライラは コールター夫人の屋敷から逃亡した。彼女はゴブラーに捕まるが、ジプシャンの男に救われ、ビリーの母マ・コスタと会った。マ・コスタ は、「アンタが学寮を出てから、ずっと追い掛けていた」と話した。
マ・コスタはライラを連れて船へ行き、ジプシャンの統領ジョン・ファーに会わせた。ファーはライラに、「アスリエル卿はジプシャンの 良き友で、これまでも彼に会う度、ライラのことを話していた」と語る。ライラはファーに、真理計を見せた。同席していたジプシャンの 賢者ファーダー・コーラムは、「3つの針を適したシンボルに合わせれば、心に浮かんだ質問の答えが得られる」と説明した。ライラは ロジャーとビリーの居場所について質問し、子供たちが危険だと知った。
ボルバンガーにあるゴブラーの実験基地には、子供たちが収容されていた。ロジャーたちはシスター・ライラから、「協力が終わったら 帰る」という手紙を親に書くよう命じられていた。北極を歩いていたアスリエル卿は、コールター夫人の雇ったサモエド族に拘束された。 ジプシャンの船にはコールター夫人の差し向けたスパイフライが飛来し、真理計を奪おうとした。ライラはスパイフライの1匹を捕まえる が、もう1匹には逃げられた。
ファーはゴブラーに捕まった全ての子供たちを救い出すため、船を北へと向かわせていた。ライラが甲板にいると、そこにエラナ湖地区の 魔女一族の女王セラフィナ・ペカーラが現れた。セラフィナはライラに「昔の恋人が船にいるの。真理計で当ててくれる?」と持ち掛けた 。ライラは真理計を開き、それがファーダーだと知った。セラフィナは「子供たちがいるのはボルバンガーよ。タタール族が守っている。 でもトロールサンドで助っ人が見つかるわ」と告げて立ち去った。
トロールサンドの港に到着したライラは、気球乗りのリー・スコーズビーに声を掛けられた。彼は「何かの偵察をしようとしているのなら 、気球乗りと鎧熊を雇うことだ」と告げる。イオルクはスパールバルを追放された上、トロールサンドの住民たちに騙されて鎧を奪われて いた。ライラは真理計を使い、イオルクが鎧熊族の王子だったことを知った。彼女が「この町の教権機関に鎧があるわ」と教えると、 イオルクは「借りが出来た。お前のために戦おう」と約束した。
ジプシャンに雇われたコールズビーと鎧を取り戻したイオルクを仲間に加え、船は北極へと向かった。一方、パベルは教権の密使と面会し 、ジプシャンの船が北へ向かっていることを報告した。密使が「切り離しの実験が重要な段階を迎えている。ボルバンガーを守らねば」と 言うと、パベルは「だからこそコールター夫人を監督者の立場から外すべきです。全て彼女のせいでしょう」と進言する。しかし密使は 「彼女に任せた方がいい。彼女はライラを実験台に使い、切り離しの改良点を試すつもりだ」と述べた。
北極に到着したライラは真理計を開き、湖の近くにある家に幽霊が憑依しているというメッセージを読み取った。彼女はイオレクに頼み、 その家まで連れて行ってもらう。家に入るとビリーが震えていたが、近くにダイモンがいなかった。彼はダイモンと切り離されたのだ。 ライラはビリーをジプシャンのテントに連れ戻るが、そこにタタール族が襲い掛かってきた。ライラはタタール族に捕まり、熊の王である ラグナー・スタールソンの元へ捧げ物として連行される…。

監督はクリス・ワイツ、脚本はクリス・ワイツ、原作はフィリップ・プルマン、製作はデボラ・フォート&ビル・カラッロ、製作総指揮は ボブ・シェイ&マイケル・リン&トビー・エメリッヒ&マーク・オーデスキー&アイリーン・メイゼル&アンドリュー・ミアノ&ポール・ ワイツ、撮影はヘンリー・ブラハム、編集はピーター・ホーネス&アン・V・コーツ&ケヴィン・テント、美術はデニス・ガスナー、衣装 はルース・マイヤーズ、シニア視覚効果監修はマイケル・フィンク、視覚効果監修はスーザン・マクラウド、音楽はアレクサンドル・ デスプラ。
出演はニコール・キッドマン、ダコタ・ブルー・リチャーズ、ダニエル・クレイグ、サム・エリオット、エヴァ・グリーン、 クリストファー・リー、トム・コートネイ、デレク・ジャコビ、ベン・ウォーカー、サイモン・マクバーニー、ジム・カーター、クレア・ ヒギンズ、ジャック・シェパード、マグダ・ズバンスキー、エドワード・デ・スーザ、チャーリー・ロウ、スティーヴン・ロットン、 マイケル・アントニオウ、マーク・モットラム、ポール・アントニー=バーバー、ジェイソン・ワトキンス、ジョディー・ハルス、 ハッティー・モラハン他。
声の出演はイアン・マッケラン、イアン・マクシェーン、フレディー・ハイモア、キャシー・ベイツ、クリスティン・スコット・トーマス 他。


フィリップ・プルマンによる3部作のファンタジー小説『ライラの冒険』の第1部「黄金の羅針盤」を基にした作品。監督&脚本は 『アバウト・ア・ボーイ』のクリス・ワイツ。
原作と同じく映画も3部作の予定で企画されたが、この第1部の北米での興行成績が悪かったため、続編の製作は中止された。
ライラを演じるのは一万人を越えるオーディションで選ばれたダコタ・ブルー・リチャーズで、これが女優としてのデビュー作。
コールター夫人をニコール・キッドマン、アスリエル卿をダニエル・クレイグ、スコーズビーをサム・エリオット、セラフィナをエヴァ・ グリーン、第一評議員をクリストファー・リー、ファーダーをトム・コートネイ、教権の密使をデレク・ジャコビが演じている。また、 イオレクの声をイアン・マッケラン、ラグナーをイアン・マクシェーン、パンタライモンをフレディー・ハイモア、リーのダイモンの ヘスターをキャシー・ベイツ、ステルマリアをクリスティン・スコット・トーマスが担当している。

人間がダイモンを連れているという設定を除くと、鎧熊族が登場するまでは、ほとんど我々の世界と変わらない。魔法は使われないし、 異形のモンスターや種族も登場しない。
だからファンタジーとしての手触りは、それほど感じることが出来ない。
やはりファンタジー映画なのだから、もっと「異世界に観客を引き込む」という意識が強くないと困る。
そういう意味ではダイモンの存在はとても重要なのだが、そこには観客をファンタジーの世界に引っ張り込むような強いパワーが 感じられない。

そもそも、ダイモンがどういう存在なのかが、ものすごくボンヤリしている。正直、単なるペットのような存在にしか感じられない。
いや、そりゃあダイモンが首を絞められたらビリーも苦しんだりしているし、だから一心同体って感じで、ただのペットじゃないってのは 理解できるよ。
でも一緒に苦しむというだけなら、人間にとっては不便な存在でしかないでしょ。だけどコールター夫人が猿を叩いた時は、彼女は ダメージを受けてないんだよな。
なんか設定がハッキリしない。
後半、ビリーはダイモンと切り離されているが、人間がダイモンと切り離されたら何が困るのかもサッパリ分からない。

人間にはダイモンと呼ばれる動物が付いているとか、別世界からダストと称する物がが流れ込んでいるとか、アスリエル卿がダストの調査 をしているとか、教権機関が強大な権力を持っているとか、子供のダイモンは変化するとか、ゴブラーと呼ばれる組織が子供を誘拐して いるとか、ジプシャンと呼ばれる連中がいるとか、とにかく情報量が多くて、世界観の説明だけで精一杯という感じ。
っていうか、精一杯どころか、世界観も充分に説明しているとは言い難く、慌ただしく処理してしまうので、ちゃんと把握して準備が 整ったとは到底言えないような状態なのに、どんどん話は先に進んでいってしまう。
詰め込んだ内容は乗車率300パーセントってな感じで、完全に容量オーバーだ。話の上っ面をなぞるので精一杯で、ずっとダイジェストが 続いているような状態だ。
一応は「子供のダイモンは変化する」という説明があるけど、パンタライモンの姿がコロコロと変化するのは、やっぱり困惑して しまうし。

世界観の説明によって観客を異世界に順応させ、準備を整えさせるという作業が充分に行われないままで、いきなり話が走り出してしまう 。
で、走り始めると、何か問題が起きても、あっさりと解決される。乗り越えるべき壁は存在しない。
ライラが積極的に行動しなくても、向こうからどんどんアドバイスや助っ人が舞い込んで来る。
だからライラは、ほとんど苦労することが無い。当然、ピンチらしいピンチも少ない。
ピンチになっても、それは長く持続せず、あっさりと脱出してしまう。

コールター夫人が悪党だというのは、教権の幹部たちによる話し合いのシーンで簡単に明らかとなる。
ライラの前でコールター夫人が高圧的な態度を取ると、次のシーンでは彼女がゴブラーの首領だということをライラが知る。
ライラがコールターの手下に捕まっても、すぐにジプシャンが助けてくれる。
真理計の使い方が良く分からないはずなのに、ライラはすぐに使いこなしてしまう。
子供たちが拉致されている場所は分からないはずなのに、なぜかジプシャンの船は正解である北極へと向かう。

ライラの周囲には多くの助っ人が集まってくる。ライラが歩き回ったり何か行動を起こしたりするのではなく、向こうから簡単に仲間に なってくれる。
また、何か危機的状況になっても、あっさりと解決される。
ジプシャンたちは「アスリエル卿と友達だから」ということで、ライラを助けてくれる。
港に到着するとスコーズビーが登場し、ライラが何も言わなくても「自分とイオレクを雇え」と持ち掛け、イオルクの居場所も教えて くれる。
イオルクは鎧の場所を教えてくれたというだけで、命懸けで彼女を守ってくれる。

ライラが船に乗っていたらセラフィナが登場し、あっさりと子供たちの居場所を教えてくれる。
「子供たちの居場所を突き止めるために調査する」とか、「セラフィナに会うためにミッションを遂行する」とか、そういう行程が無くて 、何か問題が起きても簡単に解決される。
終盤の戦闘では、セラフィナだけでなく魔女軍団が助けに駆け付ける。
なぜライラを助けてくれるのかは分からない。ライラと魔女たちを繋ぐ線は、ものすごく細い。
あと、魔女なのに、全く魔法は使ってくれない。

冒険物では定番とも言える「主人公が成長する」という要素が、この映画には無い。
ライラは最初から勇敢で口の達者な女の子で、その巧みな弁舌と頭の良さで、イオニクを仲間にしたり、ラグナーにイオニクとの対決を 持ち掛けたり、子供たちを施設から逃がしたりする。
じゃあ彼女が全編に渡って大活躍するヒロイック・ファンタジーなのかというと、そうではない。
やはり戦いにおいては無力なので、アクションシーンでは他のキャラが活躍する。
「成長する」という要素も、「戦いで活躍する」という要素も、どっちも無いってのは、ちょっと厳しいものがあるなあ。

(観賞日:2010年12月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会