『ローマ帝国の滅亡』:1964、アメリカ

西暦180年、ローマ皇帝のマルクス・アウレリウスは軍団を率いてドナウ運河へ向かうが、健康を害していた。蛮族との戦いを終えた将軍のガイアス・リヴィウスが挨拶に訪れ、皇帝側近のティモニデスと会話を交わした。アウレリウスはリヴィウスから「族長のバロマーの首を必ず差し上げます」と言われ、「話し合いたいので生きたまま連れて来い」と指示した。リヴィウスはアウレリウスの娘であるルシラと惹かれ合う仲であり、久々の再会を喜んだ。
アウレリウスは谷に各地の国王や総督を集めるが、大半の名前を覚えていなかった。彼が知っているのはアルメニア国王のソハマスぐらいで、大多数の名前をティモニデスに教えてもらった。全員が集まると、アウレリウスは「北の蛮族と東のペルシャの境界を無くし、ローマに真の平和をもたらす」と宣言した。彼は余命が長くないと感じ、ルシラとリヴィウスを呼び寄せた。彼は後継者として、ルシラの弟のコンモドゥスではなくリヴィウスを指名した。コンモドゥスと兄弟同然の関係であるリヴィウスは困惑するが、アウレリウスは「責任を持たせれば成長すると思ったが、息子の興味は剣闘だけだ」と述べた。
リヴィウスは正式な返答を先延ばしにして、2日で到着するコンモドゥスを迎えに行く。ルシラはアウレリウスに、「私でも同じ決断をします」と告げた。アウレリウスは彼女に、「一時、寺院に籠ったという噂を聞いた」と告げる。「あの頃は人生が醜く思えたのです」とルシラが言うと、彼は「母親のせいか」と口にする。ルシラの亡き母であるファウスティナ・ミノルは、アウレリウス以外にも多くの男と関係を持った。しかしアウレリウスは妻を責めず、ルシラに慈悲を学ぶよう説いた。
リヴィウスはコンモドゥスと再会し、城に戻った。コンモドゥスが剣闘士のヴェルルスを参戦させると話すと、リヴィウスの側近であるポリビオスとヴィクトリヌスは実力に懐疑的な態度を示した。リヴィウスはコンモドゥスに、アウレリウスから後継者に指名されたことを打ち明けた。彼が「拒めと言ってくれ」と訴えると、コンモドゥスは憤りを吐露して立ち去った。リヴィウスはルシラに結婚を申し込み、承諾を貰った。
翌日、コンモドゥスが部隊を率いて蛮族の潜む森へ向かおうとすると、リヴィウスが「先に送る兵は囮だ。大勢が死ぬ。特に指揮官は危険だ」と反対する。しかしコンモドゥスは「死ねば気が楽になるだろう」と嫌味を浴びせ、そのまま森へ向かった。バロマーが率いる蛮族の部隊が襲撃し、激しい戦闘が勃発した。リヴィウスも部隊を率いて駆け付けるが、バロマーには逃げられてしまった。アウレリウスは東方の危機が迫っていることをルシラに話し、アルメニアと同盟を結ぶと告げた。ルシラは自分がソハマスの元へ嫁がされると知って嘆くが、他に手が無いと聞かされて覚悟を決めた。
リヴィウスは「臆病者は処刑する」と宣告し、橋の上に立たせた兵士を次々に突き落として殺害する。コンモドゥスが止めようとすると、彼は「私が指揮官だ」と拒否した。コンモドゥスは「神の意思を聞こう」と言い、リヴィウスの馬を鞭で打って馬車を走らせた。彼は自分の馬車も走らせ、リヴィウスと対決する。途中で2人は馬車から落ちて乱闘になり、駆け付けた部下たちが引き離した。ユリアヌスたちはリヴィウスが後継者になるのを阻止するため、アウレリウスの暗殺を企てた。毒を塗ったナイフでリンゴを切り、それを食べさせるのが彼らの計画だ。アウレリウスにリンゴを渡す役目は、彼の侍従で盲目のクレアンダーが引き受けた。
クレアンダーやユリアヌスたちはアウレリウスにリンゴを食べさせて毒殺した。臨終の際、アウレリウスはルシラに「リヴィウス」と言い残した。しかし後継者を指名する書類などは残っておらず、彼女の証言だけでリヴィウスを選ぶことは出来なかった。そして葬儀に出席したリヴィウスは、参列者の前でコンモドゥスの手を掴んで「皇帝、万歳」と叫んだ。コンモドゥスは喜び、リヴィウスをローマ軍団の最高指揮官に任命した。
皇帝に即位したコンモドゥスは、「東方の属州は穀物の献上と税金を倍に増やす」と決定した。既に東方の人々は苦境に喘いでいたが、彼は「命令に従わねば殺す」と冷酷に言い放った。リヴィウスは軍勢を率いて蛮族を追い詰め、バロマーに「奴隷にはしない」と告げて降伏を要求した。しかしバロマーは彼の言葉を信じず、戦いを続ける。リヴィウスは蛮族を制圧して鎖で繋ぎ、ティモニデスを交渉役に指名した。ティモニデスはバロマーに、「自由を与えてローマ人に迎えたい」と告げた。
コンモドゥスはリヴィウスが元老院で話すつもりだと知り、ルシラを呼び戻して翻意を促した。しかしリヴィウスは元老院へ赴き、蛮族を奴隷ではなく市民として迎え入れるよう求めた。ティモニデスは代弁者として、彼の考えを詳しく説明した。ナイジェルは反対するが長老の議員が賛同し、元老院はリヴィウスの要求を認めると決定した。コンモドゥスは憤慨し、リヴィウスに「お前の地位は奪う。北方へ戻り、永久に警備を続けろ」と鋭く言い放った…。

監督はアンソニー・マン、脚本はベン・バーズマン&バジリオ・フランキーナ&フィリップ・ヨーダン、製作はサミュエル・ブロンストン、製作協力はハイメ・プラデス、製作総指揮協力はマイケル・ワスジンスキー、撮影はロバート・クラスカー、美術&衣装はヴェニエロ・コラサンティー&ジョン・ムーア、編集はロバート・ローレンス、音楽はディミトリ・ティオムキン。
出演はソフィア・ローレン、スティーヴン・ボイド、アレック・ギネス、ジェームズ・メイソン、クリストファー・プラマー、アンソニー・クエイル、ジョン・アイアランド、オマー・シャリフ、メル・フェラー、エリック・ポーター、フィンレー・カリー、アンドリュー・キア、ダグラス・ウィルマー、ジョージ・マーセル、ノーマン・ウーランド、マイケル・グウィン、ヴィルジリオ・テクセイラ、ピーター・デーモン、ラファエル・ルイス・カルヴォ、リナ・ヴォン・マーテンズ他。


『シマロン』『エル・シド』のアンソニー・マンが監督を務めた作品。
脚本は『脱走計画』のベン・バーズマン、『河の女』のバジリオ・フランキーナ、『エル・シド』のフィリップ・ヨーダンによる共同。
ルシラをソフィア・ローレン、リヴィウスをスティーヴン・ボイド、アウレリウスをアレック・ギネス、ティモニデスをジェームズ・メイソン、コンモドゥスをクリストファー・プラマー、ヴェルルスをアンソニー・クエイル、バロマーをジョン・アイアランド、ソハマスをオマー・シャリフ、クレアンダーをメル・フェラー、ユリアヌスをエリック・ポーター、ポリビオスをアンドリュー・キアが演じている。

谷に各地の国王や総督が集まるシーンは、「こんなに多くのエキトトラや馬を動員している大作映画ですよ」ということをアピールするために用意されていると言っても過言ではない。
そして、それをアピールしようという意識が強すぎるせいで、ものすごく作品のテンポが悪くなっている。
順番に国王や総督が挨拶するシーンなんて、9人も紹介する必要は全く無いでしょ。
どうせ後で再登場する人物なんて、ソハマスしかいないし。

しかも、そのソハマスはアウレリウスも知っているんだから、そこで「次々に国王や総督が来てアウレリウスに挨拶する」という手順は打ち止めにしちゃえばいいはずなのよ。
それなのに、「その次に来た国王の名前もアウレリウスは知らず、ティモニデスに教えてもらう」という様子まで描くんだよね。
どんだけ間延びさせたいのかと。
極端なこと言っちゃうと、谷のシーンなんて丸ごとカットでもいいぐらいなのよ。「ローマの平和をもたらす」と宣言するシーンを見せても、それ以降のストーリー展開に何の影響も無いし。

コンモドゥスの部隊が森を移動するだけのシーンでも、4分ぐらい使っている。アウレリウスの葬儀でも、台詞さえ無いまま5分ぐらいを費やしている。
とにかく、時間の使い方が贅沢だ。即位の式典でも、蛮族との交渉も、元老院での演説も、ダラダラと時間を浪費している。
交渉や演説に関しては「言葉で相手を説得しようとする」という目的があるし、会話劇として時間を割いているので、「ただ絢爛豪華な絵を見せたいだけ」というわけではない。
でも、その言葉や会話に引き付ける力が全く足りていないんだよね。

馬車での競争シーンは、たぶん『ベン・ハー』を意識したんじゃないかと思われる。しかし、要らないシーンで無駄に時間を使っているとしか感じない。
そもそも、なぜリヴィウスは「臆病者を処刑する」と言って次々に兵士を始末するのか。そんなの、悪玉がやるような行動だろ。それを止めに来るコンモドゥスの方が、善玉っぽい行動に思えるぞ。
あと、つい最近まで兄弟同然で仲良しだったのに、そこまで急激に関係が険悪になるのも「なんだかなあ」と言いたくなる。
しかも、傲慢な態度で相手を拒絶するのは、リヴィウスの方なんだよね。「後継者指名で後ろめたさを感じる」とか、そういうスタンスじゃないんだよね。

ユリアヌスたちが暗殺計画を語り合った後、アウレリウスが自問自答する様子に4分ほど使っている。
そこでは彼と見えない相手との間で、「我が英知の使い道は?」「分からぬか」とか、「準備していたつもりだが失敗だ」「なぜだ?死に対する問題を恐れたからか」とか、「神秘を前にしてお前の知識など無力だ。だから考えるのも話し合うのもやめた」「考えも話し合いもしないなら、もはや人間ではない」といった会話が繰り広げられる。
だが、何の意味も無い一人芝居にしか思えない。
ただ間延びしているだけで、その問答に引き付ける力なんて全く感じない。

アウレリウスがクレメンダーから受け取ったリンゴを食べた後、カットが切り替わるとルシラがリヴィウスにソハマスとの結婚を伝える様子が描かれる。
だが、これは明らかにタイミングが違う。
そこは「アウレリウスの暗殺」というトピックスに集中すべき時間だ。なので、順番は逆にした方がいい。あるいは、その辺りで処理しなくても、そこまで大きな問題は無い。
アウレリウスが殺されて葬儀があった後、ルシラが伝えるような流れでも別に構わないだろう。

リヴィウスとコンモドゥスは後継者指名の問題で関係が悪化し、臆病者の処刑を巡って激しい喧嘩まで繰り広げる。
しかもコンモドゥスが一方的に嫌悪しているわけじゃなくて、リヴィウスが冷酷で傲慢な態度を示している。
しかしアウレリウスが死去すると、すんなりと次の皇帝としてコンモドゥスを持ち上げる。
だったら、「リヴィウスは後継者指名に後ろめたさを感じており、コンモドゥスが一方的に怒りや憎しみをぶつける」という関係性にしておけばいいでしょうに。

ローマ軍の最高指揮官となったリヴィウスは、洞窟の戦いで蛮族を制圧する。
だが、今まで蛮族には苦戦を強いられ、バロマーに逃げられ、決着が付かない状態が続いていたはず。そして森の戦いでも、バロマーに逃げられていた。
そんな今までと洞窟の戦いは、何が違ったから制圧できたのか。
「今回こそはバロマーを逃がさない」という強い意識で臨まねばならないはずだが、特別な策を用意した様子は全く見られない。ただ普通に正面から激突し、大勢で剣を振るって戦うだけだ。

蛮族の制圧後にリヴィウスの命を受けたティモニデスが交渉するが、バロマーは応じない。ティモニデスが苛立ちながらも「諦めない」と言うと、そのシーンが終わる。
なので蛮族との交渉は決裂に終わったのかと思ったら、元老院のシーンではバロマーがリヴィウスの傍らにいる。
つまりバロマーはリヴィウスの約束を信じて受け入れたわけだが、だったら「最初は拒否していたが気持ちが変化して」という手順は必要なはずでしょ。
そこを描かないのは、省略するポイントを間違えているとしか思えない。

リヴィウスがコンモドゥスから北方へ戻れと命じられた後、シーンが切り替わると北方のリヴィウスを使者が訪ねて「皇帝がローマへ戻れと言っている」と伝える。
どうやら年月は経過しているようだが、時間経過を全く表現できていないので、「ついさっき北方へ送った直後なのに、どうなってんのか」と言いたくなる。
しかも、その間にローマでは飢えと疫病で大勢が死亡し、大規模な反乱が起きているのだ。だったら、それはちゃんと説明すべきだろ。
リヴィウスがローマへ戻る途中でティモニデスと遭遇し、彼のセリフで説明しているが、それだと遅いし薄いのよ。
「飢えと疫病で大勢が死亡している」「大規模な反乱が起きている」というシーンを直接的に描かないにしても、ナレーションか何かで時間経過も含めて示しておくべきだろ。

リヴィウスはコンモドゥスに酷い仕打ちを受けたのに、彼への忠誠を貫いて反乱を鎮圧しようとする。
反乱にルシラも加わっているが、彼は「混乱を招くだけだ」と反対する。
どうやら「ローマ帝国を守るため」ってことらしいが、だったらなおさらコンモドゥスを倒した方がいいんじゃないかと。
せめて「コンモドゥスは皇帝として不適格だが、ローマの混乱は避けたい」ってことで逡巡や苦悩があればともかく、まるで揺らぎが無いんだよね。

しかも、反乱軍を鎮圧した直後、今度は自らがコンモドゥスに反旗を翻すので、「なんだかなあ」と呆れてしまう。
反乱を起こした面々の内、ソハマスは最初の約束を守らずにペルシャ軍と組むような奴なので、「それが分かっていたから反乱に参加しなかった」ってことなら、かなり納得しやすかったんじゃないかと思うのよ。
だけど、そういう理由で反乱の鎮圧を決めたわけじゃないからね。
それは実質的に、コンモドゥスのために戦うことになっているわけで、そりゃあ「なんだかなあ」だよ。

反乱を鎮圧した後、大勢を火あぶりにするよう命じられたリヴィウスは拒否してコンモドゥスに反旗を翻すのだが、そういう奴ってことは、とっくに分かっていただろ。
今さら「そんなことを命じる奴には従えない」ってことで反対側に回るのは、ただのバカにしか思えんぞ。
あと人数は違うけど、リヴィウスも前半で理不尽な処刑をしていたよね。あれはいいのかよ。
あと、反乱を起こすなら慎重に事を進めるべきだろうに、なぜかノコノコとコンモドゥスの元へ出向いて家来たちに「彼を排除しろ」と訴えるのも、どんだけバカなのかと。そのせいで捕まっているけど、そりゃそうなるだろ。

ただ、コンモドゥスも負けず劣らずのバカなので、なぜかリヴィウスに皇帝の座を賭けたタイマン対決を要求する。そんでリヴィウスが勝利するが、皇帝の座に就こうとはしない。すると皇帝の座を巡って競りが開始され、「これがローマ帝国滅亡の始まりだった」と語りが入る。
実は映画の冒頭、「ローマ帝国が滅亡した理由については、幾つもあると考えるのが近道だろう。1つの事件ではなく、300年にも渡る出来事だ」という前置きがある。
そんなローマ帝国滅亡の理由を描くのが、この映画というわけだ。
ただ、この映画で描かれた内容を原因とするのは無理があるだろ。そもそも、これは完全にフィクションで、実際のコンモドゥスは暗殺されているしね。

(観賞日:2022年11月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会