『ラスト・リベンジ』:2014、アメリカ

アメリカ・ヴァージニア州、キャンプ・ピアリー中央情報局(CIA)訓練施設。これまで数々の実績を上げて勲章を授与されている捜査官のエヴァン・レイクは、新人に向けて演説を行った。同年代の仲間が引退を選ぶ中、エヴァンは現役への意欲を持ち続けている。彼は6年前に暫定人事として現場を離れたが、すぐにでも復帰したいと考えていた。車を運転していたエヴァンは、22年前の出来事を思い出した。カブール支局時代、エヴァンは過激派テロリストのモハメド・バニールに捕まって拷問を受けた。バニールは相手がエヴァンだと知っていたが、名前を明かすよう要求した。しかしエヴァンは、どれだけ痛め付けられても本名と素性を明かさなかった。そこへ特殊部隊が突撃して来たため、エヴァンは拷問から解放されたのだった。
ラングレーのCIA本部へ赴いたエヴァンは、クリフトン長官に現場への復帰を陳情する。クリフトンは引退を勧めるが、エヴァンは受け入れなかった。同じ頃、ルーマニアのブカレストでは、警官2名がアブディー・アビカリームというケニア人を張り込んでいた。気付いたアブディーは逃走を図るが追い詰められ、橋から川へ飛び込んだ。NSA局員のボブ・ディーコンは、水没したUSBメモリの復元を要請された。彼はCIA捜査官のミルトン・シュルツに連絡し、捜査協力を依頼した。
エヴァンは車を運転しながら、バニールのことを思い出す。彼は解放された後、バニールが生きていると確信して現場復帰を求めた。だが、CIA上層部はバニールの死体が発見されたこともあり、「戻りたければバニールのことは忘れろ」と指示した。エヴァンは病院へ赴き、受けていた検査の結果報告を受ける。担当のクレイボーン医師は、前頭側頭型認知症だと告げた。それは抑制の欠如や不適切な反応、知覚障害が起きる病気だと彼は説明し、グロス医学博士に会って相談するよう指示した。しかしエヴァンはグロスに会わず、ネットで病気について調べて治療法が無いことを知った。
ミルトンはエヴァンに、「バニールが見つかるかも。去年、デフェリブロンの注文は5回あった」と言う。「奴の病気には無関係だ」とエヴァンが告げると、彼は「注文したケニア人とブカレスト大学の医者は裏で繋がっていた。デシタビンとアザシチジンも注文している」と述べる。ミルトンが「サラセミア(地中海貧血)はバニールの持病だ。薬を斡旋するアブディーはナイジェリアの詐欺組織に属していた。医学的な情報はUSBメモリに」と語ると、エヴァンは「末期に差し掛かっているなら、姿を現す」と口にした。
ケニアのモンバサで暮らすバニールは、病気で体調が思わしくない状態にあった。側近のブイは、主治医のワンガリ医師が留守で明日にならないと戻らないことを告げた。エヴァンはクリフトンの元へ行き、バニールが生きている情報を掴んだと報告する。彼は捜索部隊の派遣を要請するが、クリフトンは「君の情報が正しければ、放っておけば病気で死ぬ。なぜ22年前に事件を掘り返す必要がある?」と言う。エヴァンはバニールが大勢を殺した凶悪犯であることを語り、「病気だから放っておくと?」と訴えた。
クリフトンはCIA医療部のサンジャー医師を呼び寄せ、エヴァンが偽名で検査を受けたことを指摘する。クリフトンは最先端の医療施設に入るよう促すが、エヴァンは口汚く罵った。エヴァンは身分証を没収され、CIAを解雇された。ミルトンはエヴァンの家を訪れ、「バニールの処方箋を出していたのはブカレスト大学のコーネル医師だった。処方期間は2年。仲介人のアブディーはコーネルに金を払ってた」と知らせた。
バニールは入金したのに薬が届かなことから、側近のアシムに「ブカレストへ行き、コーネルを連れて来い」と指示した。エヴァンはサンジャーが訪ねて来たので、ミルトンを待機させて応対に出た。ミルトンはサンジャーの言葉を聞き、エヴァンが病気だと知った。全て話すよう求められたエヴァンは前頭側頭型認知症が悪化していることを明かし、余命は3年だろうと告げた。ミルトンは治療に専念するよう促すが、エヴァンは「残された時間で価値のあることをしたい」と告げた。
エヴァンがルーマニアへ飛ぶことを決めると、ミルトンは同行を申し出た。作戦についてミルトンが尋ねると、エヴァンは「ミシェルに会う。危険を顧みない元ジャーナリストだ。恐らく元エージェントで、プラハが拠点だ」と述べた。ブカレストに到着したエヴァンとミルトンはミシェルに会い、コーネルに関する情報を提供してもらう。ミシェルは「昼間にオフィスで会うのがいい」と言い、もうアポは取ってあることを教えた。
翌日、3人はブカレスト大学の医療センターへ赴き、ミシェルはルーマニア警察の刑事を詐称してコーネルに接触する。彼女はエヴァンとミルトンを米国大使館と米国安全保障省の人間だと紹介し、ワシントンからの調査要請だと嘘をついた。エヴァンたちが尋問すると、コーネルは2年前に1度だけ代理人と会っていること、患者の名前は知らないことを説明した。エヴァンはミシェルに、コーネルを逮捕しろと指示した。するとコーネルは、「妻がアラブ人から脅迫された。薬を持って患者の元へ行かねば」と言う。コーネルは3万ユーロを請求し、アラブ人の案内でバニールの元へ向かうことになっていた。
エヴァンとミルトンはビザを取って出て来るコーネルを張り込み、アシムと接触する様子を目撃する。気付いたアシムが逃走を図ったため、ミルトンが追い掛けた。エヴァンはコーネルからビザを受け取り、「君の任務は完了だ。君も家族も安全だ」と告げた。ミルトンはアシムを捕まえ、首を切って始末した。エヴァンはセルバンというメイクの専門家に頼み、コーネルに化けた。エヴァンはモンバサヘ飛び、空港でブイの出迎えを受ける。彼はワンガリ診療所を訪れた後、銃を手に入れたミルトンと合流した。エヴァンは「身体検査がある。銃は持って行けない」と言い、注射と毒を用意したことを話す。彼は「1時間で出て来なければ任せる」とミルトンに告げ、ブイの用意した車でバニールの元へ向かう…。

脚本&監督はポール・シュレイダー、製作はスコット・クレイトン&ゲイリー・A・ハーシュ&トッド・ウィリアムズ&デヴィッド・グロヴィック、製作協力はロブ・サリヴァン&ライアン・ブラック、製作総指揮はクリスチャン・マーキュリー&アントニー・ミッチェル&ニコラス・ウィンディング・レフン&スティーヴ・シュワルツ&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ、製作協力はヴラド・ポーネスキュー、撮影はガブリエル・コサス、美術はラッセル・バーンズ、編集はティム・シラノ、衣装はオアナ・ポーネスキュー、音楽はフレデリック・ウィードマン。
出演はニコラス・ケイジ、アントン・イェルチン、アレクサンダー・カリム、イレーヌ・ジャコブ、アデトミワ・エデュン、アイメン・アンドゥーシ、ロバート・G・スレイド、クラウディウス・ピータース、ジェフ・フランシス、シーラス・カーソン、セルバン・セリア、デレク・エゼナグ、シャリフ・シャーベク、ティム・シラノ、デヴィッド・リッパー、ジョージ・レメス、ドミンテ・コスミン、オヴィディウ・ニクレスク、アーシャ・アガダシ、セス・コザック、ケネス・ジョン・ヒューゲル他。


『アメリカン・ジゴロ』『Touch タッチ』のポール・シュレイダーが脚本&監督を務めた作品。
エヴァンをニコラス・ケイジ、ミルトンをアントン・イェルチン、バニールをアレクサンダー・カリム、ミシェルをイレーヌ・ジャコブ、ブイをアデトミワ・エデュン、アシムをアイメン・アンドゥーシ、クリフトンをロバート・G・スレイド、ゲディーをクラウディウス・ピータースが演じている。
なお、この作品を製作したTinRes Entertainment(バハマに拠点を置く映画会社)は完成したフィルムに納得できなかったようで、ポール・シュレイダーの了解を取らず、勝手にポスト・プロダクション作業を行っている。

この映画、当初はニコラス・ウィンディング・レフンが監督を務め、ハリソン・フォードが主演する予定で企画が進んでいた。しかしレフンが『ドライヴ』を撮るために監督を降板して製作総指揮に回り、それに伴ってハリソン・フォードの主演も無くなった。
そのため、脚本を手掛けたポール・シュレイダーが監督も兼任する形になり、主演にはニコラス・ケイジが起用された。
しかしハリソン・フォードの代役がニコラス・ケイジというのは明らかに無理があり、一応は老けメイクをしているものの、どう見てもエヴァンの役柄に合っていない。
これは大きなマイナスであり、「老いて認知症になった主人公」という設定の説得力が著しく欠如している。

ただし、じゃあ主演がハリソン・フォードだったら傑作になっていたのかというと、それは絶対に違う。
脚本や演出にも難があり過ぎて、もはやエヴァンやバニールの病気以上に救いようが無い状態と化している。
何より厳しいのは、「エヴァンが因縁の相手を追う」という筋書きと、「エヴァンが認知症を患う」という設定が、まるで相乗効果を生んでいないってことだ。
そこが本作品の肝となる部分なのに、それが機能していないんだから、そりゃあ駄作になるのも当然だろう。

クレイボーン医師が前頭側頭型認知症という検査結果を告げる時点で、まだエヴァンは「手が震える」という症状を見せていただけだ。それ以外に、彼が重病であることを匂わせるような描写は無かった。
なので、前頭側頭型認知症という宣告があっても、「そういう設定」として理解することは出来るが、あまり上手く事を運んでいるとは言えない。
で、エヴァンの認知症が判明した直後、ミルトンと彼の会話で「バニールが地中海貧血の持病を抱えている」という設定が明らかになる。
回想シーンの彼は元気そのものだったし、唐突に出て来る設定なので、最初にエヴァンが「奴の病気には無関係だ」と言った時には、ちょっと困惑してしまった。

ただ、そこでの困惑よりも引っ掛かったのは、「エヴァンだけじゃなくてバニールも病気かよ」ってことだ。
主人公も悪党のボスも重病で、それで緊迫感のあるサスペンス・アクションなんて出来るのかと思ってしまう。
何しろ、エヴァンは序盤の段階で、物忘れが酷い状態に陥っている。一方、バニールは登場した時点で既に衰弱して寝込んでいる。
復讐心を燃やして敵を追う主人公と、その対象である憎き悪党が、どっちも病気で満足に動けないって、どういう気持ちで鑑賞すればいいのかと。

何しろポール・シュレイダーのことだから、そこには「現在のアメリカ合衆国政府とイスラム過激派テロリストの関係」に対する暗喩が込められているんじゃないかという気はするのだ。
でも、「だから何なのか」と言いたくなるのよね。
どんなに強烈な暗喩が込められていようと、どういうメッセージ性があろうと、それが映画の魅力に結び付いていなかったら意味が無いわけで。
むしろ、今回のケースでは映画の邪魔になっているんだから、本末転倒でしょ。

エヴァンはバニールの殺害に執念を燃やしているが、それは明らかに「22年前の恨みを晴らしたい」という個人的な感情だ。
そこには、「アメリカ政府のため」とか「正義のため」という意識なんて全く無い。しかも、身内が殺されたってことじゃなくて、自分が拷問されたことに対する復讐心だ。
そういう目的で熱くなっている主人公に感情移入するのは、そんなに簡単ではない。
そして、そんな風に私怨のみで暴走しようとするエヴァンをサポートし、組織に逆らうミルトンの行動も全く理解できない。本人もバニールに対する個人的な感情があるってことではないし、エヴァンとの間に特別な絆があるという描写も見られないし。

クリフトンはエヴァンが要請したバニールの捜索を却下し、入院を促す。
「君の情報が正しければ、放っておけば病気で死ぬんだろう。なぜ22年前に事件を掘り返す必要がある?」という彼の考えは、充分に納得できるものだ。実際、今のバニールは病に臥せており、新たなテロを起こそうという気も全く無さそうだしね。
しかしエヴァンは、そんなクリフトンを口汚く罵る。
だが、それは「CIAの弱腰を批判する真っ当な怒り」じゃなくて、病気で感情がヤバくなっているだけなのよね。だから全く共感を誘わないし、「何をどう見たらいいのやら」という状態だ。
「認知症で感情が抑制できなくなっている」という設定が、マイナスにしか作用していない。

エヴァンは余命3年であることをミルトンに明かし、「残された時間で価値のあることをしたい」と言う。
だが、果たして復讐が「価値のあること」なのかと考えた時に、「それは違うんじゃないか」という意見しか出て来ない。
家族がいないから「家族のために何か残そう」という意識が生じない形ではあるんだが、だからって「残り少ない時間で自分がやるべきことは22年前の恨みを晴らすことだ」ってのは、どういう感覚なのかなあと疑問しか浮かばない。
そういう感覚も含めて、認知症の症状なんじゃないかと思ってしまう。

エヴァンはバニールへの復讐を果たすため、コーネルがいるルーマニアへ向かおうと決める。だが、「方法は考えたのか」とミルトンに訊かれると、「ブカレストで金を回収し、犯人を逮捕する」と言うだけ。
それは何の具体的な作戦も無いってことだ。
で、改めてミルトンが作戦を訊くと、今度は「ミシェルに会う」と口にする。「その後は?」と問われ、「まずは一歩ずつ様子を見ながら決める」と答える。
やっぱり、ほとんど「作戦なんて無い」と言っているようなモンだ。
バニールへの執念は強いのに、そういうトコは全く無頓着なのね。ただのバカじゃねえか。

エヴァンはモンバサへ向かう直前、セルバンという男のメイクでコーネルに変装する。
しかし、特殊メイクでコーネルそっくりに化けるわけでもなく、それどころか見た目は大して変わっちゃいない。ただ髭を付けて眼鏡を掛けただけだ。
だったら、わざわざ「映画の現場で働いているメイクの専門家」というキャラを、わざわざ登場させるほどの意味は無いだろ。
っていうか、その程度の変装でも「バニールはコーネルに会ったことが無いからバレない」という設定なんだから、まあユルいことで。
コーネルの顔は知らなくても、バニールは過去にエヴァンと会っているわけで、そこでの顔バレを全く考えていないのね。
まあバレないんだけどさ。

エヴァンが強い復讐心で突き進む中、何度もバニールの様子が描かれる。
しかしバニールは衰弱しており、ちっとも「凶悪なテロリスト」としての印象を与えない。なので、もう死に掛けている病人への復讐心で必死になっているエヴァンが阿呆にしか見えない。
バニールが病人だとしても、せめて終盤にエヴァンが見つけ出すまで現在の状態を隠したまま引っ張っておけば、「主人公が復讐心で突き進み、必死になって見つけ出した相手は、もう死に掛けてヨレヨレだった」というトコで衝撃を与えることが出来たかもしれない。
しかし、前半からヨレヨレ状態を何度も見せているので、そういう効果を得ることも出来ない。

で、いよいよエヴァンはバニールの家へ乗り込み、彼と対峙して素性を明かす。
しかし認知症のせいで22年前と同じ言葉を口にしたことで、バニールに病気がバレる。
ヨレヨレの2人がダラダラと喋っているシーンを見せられた後、エヴァンは何もせずに立ち去り、ミルトンには復讐したように装う。
そりゃあ、あそこでバニールを殺したとしても復讐のカタルシスなんて無いけど、じゃあ復讐せずに去ったらスッキリするのかというと、それも違うわけで。

で、ブイに襲われたエヴァンは激怒し、バニールの元へ戻って彼を殺すんだけど、敵が攻撃を仕掛けてくれたことで復讐のカタルシスが生じるわけでもないのよ。バニールが衰弱して死に掛けているってのは変わらないしね。
どういう結末にしたところで、「病気でヨレヨレの2人」という設定にした時点で正解は無くなっちゃってんだよね。
そんで最終的にエヴァンは車の中で意識が薄れ、衝突事故を起こして死ぬんだけど、「だから何?」と言いたくなるわ。
綺麗な片付け方が見つからず、主人公の死で強引に終わらせた感じだわ。

(観賞日:2016年10月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会