『ランナウェイ/逃亡者』:2012、アメリカ&カナダ

アメリカ国内でベトナム戦争への反対運動が行われる中、学生の過激派組織である「ウェザーマン」の指導部13名がデトロイトの大陪審に起訴された。しかし拘留されたのは1名だけだった。ウェザーマンは次々に爆破事件を起こし、ミシガン銀行を襲撃した際には守衛を射殺した。容疑者のミミ・ルーリー、ニック・スローン、シャロン・ソラーズは逃走し、行方をくらましていた。しかし30年後の2011年、2人の子供を持つ主婦としてニューヨークで平穏に暮らしていたシャロンは、FBIのコーネリアス捜査官たちに逮捕された。オールバニ・サン・タイムズの記者であるベン・シェパードは、編集長のレイ・フラーからシャロンの逮捕について調べるよう指示された。
弁護士のジム・グラントは11歳になる娘のイザベルと2人で、オールバニに住んでいる。彼は1年前、年の離れた48歳の妻を交通事故で亡くしている。娘を学校へ送り届けたジムは、かつて弁護を担当した有機野菜の販売業者であるビリー・クシマーノから声を掛けられる。仮釈放中のクシマーノはシャロンが逮捕されたこと、彼女が電話で自首すると言っていたことを話し、「弁護士が必要だ」と言う。しかしジムは、「無理だ。妻を亡くしたばかりだ」と告げ、法科大学院の同窓生であるマギー・ハートに頼むよう促した。
ベンはFBI支局に勤務する元恋人のダイアナと会い、取材協力を求めた。ダイアナは断るが、ベンが食い下がると、FBIがクシマーノを盗聴していたことを教えた。クシマーノは1971年に大麻革命を起こそうとした過去があり、シャロンは当時の仲間だった。ベンは彼を訪ね、シャロンとの関係について尋ねる。「ジムに聞いたのか」とクシマーノが口にしたので、ベンは誰なのかと質問する。クシマーノはジム・グラントが弁護士であること、シャロンの弁護を断られたことを彼に話した。
ベンはジムに電話を掛け、シャロンについて取材しようとする。ジムが「後で掛け直す」と電話を切ると、ベンは勝手に記事を書いた。名前こそ出さなかったものの、ジムがシャロンを匿ったと思わせる内容だった。ベンはジムの事務所を訪れ、取材しようとする。ジムは「シャロンから連絡は無かったし、無関係だ」と言い、彼を追い払った。ベンはジムの車のナンバープレートを盗撮し、社会保障番号を突き止めた。彼は役所に勤務する友人と会い、ベンの調査を依頼した。
ベンは新聞社でジムについてリサーチするが、記事になりそうな情報は無かった。ジムはニューヨークに住む弟のダニエルに電話を掛け、手を貸してほしいと告げた。頼んでいた調査結果がベンの元に届き、彼はジム・グラントという人物が存在しないこと、彼の正体がニック・スローンであることを突き止めた。彼はレイに報告し、そのスクープ記事はテレビでも大々的に報じられる。それに先んじて、ニックはイザベルと共に家を出ていた。
コーネリアスは部下たちに、ダニエルを尾行し、ニックのカードと口座を監視するよう命じた。ニックは偽造身分証を使い、イザベルを連れてホテルに宿泊した。ダニエルがホテルに来た時、ニックはFBIの尾行に気付いた。彼は火災警報を鳴らして宿泊客を避難させ、その中に紛れて逃走する。その際、彼はイザベルをダニエルに委ねていた。コーネリアスはシャロンが「ベンにだったら話す」と言っていることを聞かされ、ベンを呼ぶ。シャロンはベンから30年後に自首しようとした理由を問われ、「子供たちが成長し、事情を理解できるまで待った」と話す。しかし彼女は、30年前に自分たちが取った過激な行動については、「正しかった」と主張した。
ニックは列車でミルウォーキーに到着し、警官隊に気付かれないよう逃亡した。ベンはダニエルに電話を掛け、取材の了承を貰う。彼はダニエルの家へ行き、「ニックは娘さんのために戻る気ですよね?」と問い掛ける。ニックがイザベルを連れたまま逃亡しなかったことにベンが疑問を示すと、ダニエルは「話が無いなら、これで終わりだ」と冷淡に言う。ベンはニックが何かの理由で一時的な時間稼ぎをしており、実際は無実なのではないかと考えていた。
ニックは製材会社を営んでいる元ウェザーマンのドナルと会い、助力を求める。自宅で匿うことを承知したドナルに、ニックは元恋人であるミミのことを尋ねる。「彼女が俺の所へ来ると思うか」とドナルは言い、「俺は銀行襲撃と無関係だ。既に中心メンバーから離脱していた」と話す。ニックが改めて「ミミは来たのか」と質問すると、ドナルは「彼女は主婦になれるようなタマじゃない。骨の髄から戦士だ。噂ではキューバに行ったとか」と答えた。
ミミはカリフォルニア州ビッグサーでパートナーのマック・マクロードと暮らしながら、大麻の密輸団を指揮していた。仕事から戻った彼女はマックから新聞を見せられ、シャロンの逮捕やニックの逃走を知った。帰宅したベンは残されていた令状を見て、留守中にFBIが家宅捜索したことを知った。ベンは新聞社へ行って記事にするようレイに訴えるが、却下された。ベンはミシガンで始まるシャロンの裁判を取材しようとするが、レイは認めず、「FBIを怒らせるな」と釘を刺した。
ドナルはニックに逃走用の車を用意し、「ミミはここに来た。俺はジェド・ルイスとの間を繋いだ。ジェドは彼女にハバナの政治的な仲間を紹介した」と語った。ベンは勝手にミシガン州デトロイトへ行き、銀行襲撃事件が起きた当時の警察署長であるヘンリー・オズボーンに電話を掛けて取材を申し込もうとする。ヘンリーは不在で娘のレベッカが出たため、ベンは自分の電話番号を伝えるよう頼む。しかしレベッカがヘンリーのいるヨットクラブの名前を口にしたため、ベンは押し掛けて強引に取材を要求した。
ベンはヘンリーにミミのことを尋ねるが、面識は無いと言われる。彼が「ニックは潔白を証明する気だ」と言うと、ヘンリーは「逃走用の車は彼の物だった。それに、彼の指紋が幾つも残っていた。現場にいたという証言もある」と述べた。そこにヘンリーの妻であるマリオンとレベッカが来たので、ベンはヘンリーに後日の取材を持ち掛けて立ち去った。翌日、バーでデート中のレベッカを見つけたベンは声を掛け、「両親と似てないね」と言う。「養女だから」と口にしたレベッカに、ベンは「僕と夕食を」「コーヒーは」と持ち掛ける。彼は断られても執拗に粘り、一緒にコーヒーを飲む約束を取り付けた。
イリノイ州シカゴに移動したニックは、大学教授となっている元ウェザーマンのジェドと接触した。彼がミミの居場所を尋ねると、ジェドは迷惑そうな態度を見せた。しかしニックが「娘のために、ミミと会いたい」と言うと、ジェドの態度が変化した。ベンは古い新聞記事を調べ、ヘンリーとミミの父親同士が釣り仲間だったことを突き止めた。彼はレベッカと会い、「お父さんはミミと面識が無いと言ったが、逃亡者が家族の友人なら忘れない。お父さんは嘘をついてる」と述べた。
ニックはジェドから、昔の仲間の電話番号を教えてもらった。ニックは元ウェザーマンの女性に電話を掛け、ミミの居場所を知りたいので協力してほしいと頼んだ。その女性から連絡が繋がり、マックがニックに電話を入れる。彼はニックに、「ミミは昨日、出て行った。内陸から北へ行くと言っていた」と教えた。その言葉だけで、ニックはミミの行き先を察知した。ニックがミミの潜む小屋へ行き、娘のために自首して自分の潔白を証明してほしいと頼む…。

監督はロバート・レッドフォード、原作はニール・ゴードン、脚本はレム・ドブス、製作はニコラス・シャルティエ&ロバート・レッドフォード、ビル・ホールダーマン、製作協力はジョナサン・ショア、製作総指揮はクレイグ・J・フローレス&ショーン・ウィリアムソン、撮影はアドリアーノ・ゴールドマン、美術はローレンス・ベネット、編集はマーク・デイ、衣装はカレン・マシューズ、音楽はクリフ・マルティネス。
出演はロバート・レッドフォード、シャイア・ラブーフ、ジュリー・クリスティー、スーザン・サランドン、クリス・クーパー、ニック・ノルティー、サム・エリオット、ブレンダン・グリーソン、テレンス・ハワード、リチャード・ジェンキンス、アナ・ケンドリック、ブリット・マーリング、スタンリー・トゥッチ、スティーヴン・ルート、ジャクリーン・エヴァンコ、マシュー・キンブロー、ロックリン・マンロー、ヒロ・カナガワ、アンドリュー・エアリー、レイン・エドワーズ、ケネス・ミラー、スーザン・ホーガン、ガブリエル・ローズ、デヴィッド・ミルチャード、エリン・シムズ他。


ニール・ゴードンの同名小説を基にした作品。
脚本は『スコア』『エージェント・マロリー』のレム・ドブス。
ロバート・レッドフォードが主演&監督&製作を兼ねている。
ニックをロバート・レッドフォード、ベンをシャイア・ラブーフ、ミミをジュリー・クリスティー、シャロンをスーザン・サランドン、ダニエルをクリス・クーパー、ドナルをニック・ノルティー、マックをサム・エリオット、ヘンリーをブレンダン・グリーソン、コーネリアスをテレンス・ハワード、ジェドをリチャード・ジェンキンス、ダイアナをアナ・ケンドリック、レベッカをブリット・マーリング、フラーをスタンリー・トゥッチ、クシマーノをスティーヴン・ルートが演じている。 イザベル役で、少女歌手のジャッキー・エヴァンコが女優デビューしている(ジャクリーン・エヴァンコ名義)。

まず思ったのは、「年齢に無理がねえか」ってことだ。
ウェザーマンは30年前に学生だったわけだから、現在は50代のメンバーが大半じゃないかと思うのよ。
だけどロバート・レッドフォードって1936年だから、映画が公開された2012年の時点では76歳。
お前はウェザーマンとして活動していた頃、46歳だったのかと。それで学生って、どういうことだよ。
そんで彼に合わせたのか、他のメンバーもジュリー・クリスティーが1941年生まれ、スーザン・サランドンが1946年生まれ、ニック・ノルティーが1941年生まれ、リチャード・ジェンキンスが1947年生まれなのよ。
ウェザーマンって学生組織のはずなのに、オッサンとオバサンばっかりだったのかよ。

ロバート・レッドフォードが11歳の娘を持つ父親の役を演じているのも、「無理があるだろ」と言いたくなる。
1年前に48歳で死んだ妻について「年の離れた妻」という台詞があるので、ひょっとすると「高齢になってから産まれた娘」という設定なのかもしれんけど、そういう解釈で納得するのは難しい。
そもそも、前述した「ウェザーマンは学生組織」ってことからすると、もしかしたらレッドフォードは実年齢より遥かに若い設定のキャラを演じているのかと思ったら、48歳で死んだ奥さんは「年が離れている」という設定だし。
どんな風に解釈すればいいのか困惑するわ。

ニックを捕まえようとするFBIがまるで悪役みたいに描かれているけど、ダイアナのベンに対する「テロリストはテロを正当化する。騙されないで」という言葉は、その通りだと感じるぞ。
ニックにしろシャロンにしろ、過激派組織として数々の犯罪に手を染めていたのよ。
どうやら「今も変わらない仲間の絆」ってのを軸にしてドラマを描こうとしているみたいだけど、「だったらウェザーマンを題材に使わない方が良かったんじゃないか」と思ってしまう。
まあ原作付きだから仕方が無いんだけど、過去の犯罪を全て正当化したり自分を擁護したりするような元過激派組織の連中の姿を「変わらぬ絆で結ばれた面々」として描かれるのは、違和感が強いわ。

クシマーノはベンが取材に来ると「ジムに聞いたのか」と言い、それが誰なのか問われると「ジム・グラント。弁護士だ。シャロンの弁護を頼んだが断られた」などと喋る。
「それ以上は話せない」と言うけど、充分すぎるほどベラベラと喋っている。
シャロンが自首しようとしていたことも喋っているし、口が軽すぎるだろ。
それによってベンはジムのことを知るのだが、クシマーノがボンクラすぎるというか、世話になったジムに迷惑を掛けまくっているというか、御都合主義のための駒になっているというか。

ベンは名前を出さないものの、ジム・グラントがシャロンを匿ったと読者に思わせるような記事を書く。
そんなデタラメ記事を書いた理由がサッパリ分からない。
ジムが弁護を断ったというだけで、なんで「シャロンを匿った」ということになるのか。
その後、彼はニックを怒らせるような態度を取ったり、ナンバープレートを盗撮して社会保障番号を調べたりしているので、「ジャーナリズム精神のカケラも無いクズみたいなブンヤ」という設定なのかと思ったりもしたが、ボンヤリしていて良く分からない。

どうであれ、少なくとも序盤のベンは好感度が低いことは確かだ。
ニックが主人公であり、ベンは彼を追い掛ける立場だから、好感度など無関係だろうと思うかもしれない。
しかし序盤は「ベンの調査を通して、観客がニックや彼の周辺状況について知る」ということになっており、いわばベンは狂言回しのような役割を担っているのだ。
そういうポジションの人物が、好感度の低い奴ってのは望ましくない。そこは観客の共感を誘うようなキャラか、あるいはフラットに近いキャラの方がいい。

FBIが30年も指名手配して見つけ出すことが出来なかったのに、たった1人の地方記者が「ジムがニック・スローンだ」と突き止める。最初から標的が1人に限定されているとは言え、ものすごく簡単に突き止めてしまう。
ようするに、そんなに簡単にバレる程度の細工しかニックは施していなかったわけだ。
本気で「今の生活を守りたい」と思っていたのなら、もうちょっと注意が必要じゃなかったかと。
あと、戸籍の存在しない男が、弁護士なんて出来るのかね。

シャロンは逮捕されるまでの時間について「懲役のような30年だった」と言うが、では過去の行状を反省したり後悔したりしているのかというと、「政府は大勢を殺害した。私たちは反戦運動で座り込み、警察に暴行された。学生たちは政府によって大学内で殺された。政府の大量虐殺を黙って見ていることは暴力だと思った」と正当化し、「戻ったとして、また同じことをやる」と口にしている。
そんな考え方には全く賛同できないのだが、どうも作品としては基本的に肯定しているっぽいんだよな。
シャロンの言葉にすっかり感化されたベンが、「彼らの行動は評価すべきだ」と言い出すのはバカにしか思えん。
ただ、シャロンがベンを呼んだ時の会話からすると、「真実を知ろうとしている、見込みのある記者」と彼女は捉えているみたいなんだよね。
だけど前述したように、そこまでのベンの行動を見る限り、ただの腐ったブンヤでしかないわけで。そんなに高い志や信念を持ったジャーナリストではなく、マスゴミにしか思えないわけで。

ベンはシャロンを被害者とする記事を書いたらしいけど、ニックが彼女を匿ったと思わせるような記事を書いたり、その正体を暴いたことがテレビでも報じられて大喜びしたりしていた奴と、人物が合致してくれないのよ。
だけど途中からベンが「ニックの味方をする、正義感溢れるジャーナリスト」みたいな描かれ方になっており、だったら最初からソレで行けばいいじゃねえかと言いたくなる。
ベンの考え方が途中で変化するような流れも、きっかけとなる出来事も、まるで見当たらないから違和感がありまくりだし。
ってことは、ひょっとすると最初から「真実を追究する熱血ジャーナリスト」という設定だったのか。そんな風には全く見えなかったけど。

しかも、ベンはレイから「ダニエルを攻撃する記事を書いた」と非難されたり、「あいつはクソ野郎だ」と言ったりしているので、こいつのキャラ設定がまるで分からなくなってしまう。
正義感や使命感で動いているのかと思いきや、「大きなヤマだ。スクープしたのは僕だ」と言っており、特ダネ目当てで動いていることを明らかにしているし。
ヨットクラブへ押し掛け、強引なやり方でヘンリーに取材を承諾させる行動なんかも、ただ特ダネをモノにしたいだけの野心家にしか見えないし、キャラが掴み切れない。
ただ、少なくとも途中からは、ハッキリと好感の持てるキャラにしておかないとマズいんじゃないかと。

ベンはデート中のレベッカに声を掛け、夕食やコーヒーに誘う。
そこには「彼女から情報を聞き出そう」という目的があるのかと思いきや、恋人について「あの男は君には合わない」と言ったりする。翌日に彼女と会った時も、「また会ってくれないか」と言ったりする。
そこに明らかに下心が見えるわけで、もはや何がしたいんだか分からなくなるぞ。
あとさ、こいつってレベッカの時だけじゃなく、ダニエルの時も、ヘンリーの時も、話を聞き出すというより、自分の意見を喋ることが目的化しちゃってるんだよな。それは違うだろ。
しかもニックは終盤に至っても、野心のためなら人を傷付けても真実を暴いてやろうとする不快な奴になっているし。

ニックが知る前に、現在のミミの状況を観客に見せるのは、得策と思えない。そこはニックと同じタイミングで観客にも知らせた方がいい。
ただ、この映画の場合、そもそもニックは今のミミが大麻密輸をやっていることを知る前に小屋で出会い、頼み事を持ち掛けるのよね。それは上手くないかなと。
あと、「ベンが調査を進め、ニックの真実が明らかになっていく」という形で物語を始めたのに、どんどん視点が変化し、ミミのシーンも入れることによって、ベンの必要性が薄くなってしまうのよね。
こいつがいなくても、ニックと昔の仲間たちの様子を描いて行けば、おのずと真実は明らかになるんじゃないんかと。狂言回しを必要としない構成になっている気がするのよ。

ニックはミミに会うと、「娘がいる。もうすぐ12歳だ。このままだと娘は一生立ち直れない」と語る。
「だから私に自首して、その子のために貴方の潔白を証明しろと?全ては新しい家庭を守るためなのね」とミミが指摘するが、そういうことなのだ。
ニックがイザベルをダニエルに預けて逃亡を続けていたのは、ミミに会って「自首して自分の無実を証明してくれ」と頼むためだったのだ。
さんざん「ニックは何か目的があって」ってのを隠しておいて、明かされた答えがソレってのは、どうにもピリっとしない。

「主義は忘れたの?疲れても戦いは終わらない」というミミの主張には賛同しないけど、「疲れたんじゃない、成長したんだ」というニックの主張にも賛同しかねる。
娘のために自首して自分の無実を証明してくれってのは、ただの身勝手にしか思えない。「娘のため」と言っているけど、ようするに「娘と一緒に暮らし続けたい自分のため」だし。
ニックは娘との生活を守るために行動しているけど、射殺された守衛にも子供が2人いたわけで。守衛の射殺には加担していなくても、ミミと一緒にいたわけだから、責任がゼロとは言えない。
だったら、そこの罪は償うべきじゃないのかと。
自分だけは娘と幸せに暮らし続けたいってのは、ただの身勝手でしょ。

ニック自身は手を下していないものの、ミミを止められなかったことは事実なわけで、それに対する罪悪感や後悔は無いのかってのも引っ掛かる。「俺は殺してない」という彼の言葉は事実だけど、ただの卑怯者にしか思えないのよ。
それに、他の爆破事件には関与しているわけで、そこの罪についてはどう考えているのかと。
そりゃあ活動していた当時、ウェザーマンは自分たちの行動が正しいと思っていたんだろう。だけど、やったことは明らかな犯罪であって。
それなのに、その罪を償うこともせず、守衛の遺族に詫びることもなく、「今の家族が大事なので、それを守るために全てチャラにしてほしい」ってのは、虫が良すぎる話でしょ。

大体さ、ニックの昔の仲間たちは、自分の身を危険にさらしてでも、彼のために尽力しているのよ。ドナルなんて、彼を助けたせいで逮捕されているぐらいなのだ。
それなのにニックだけは元仲間のことなんて全く考えず、「自分の生活を守りたい」というだけで動くんだから、ちっとも共感できねえよ。「娘は一生立ち直れない」と言うけど、自業自得みたいなモンだし。
それと、レベッカはニックとミミの娘なのに、そっちに対する愛情は全く見せないのよね。
ニックはミミに「僕たちには大義よりも大切な赤ん坊がいた。だが、お互い、主義に縛られ過ぎて親としての義務を捨てた。間違っていた。その重荷を一生背負わなければいけない」と説いているけど、実際にはレベッカに対する感情なんてゼロなのよ。
それも含めて、これっぽっちも共感できねえわ。

最終的には「ニックがミミの逃亡を手助けするために囮となる」「ミミが自ら逮捕され、ニックの潔白を証明する」「ベンは多くの人々を傷付けることに繋がる真実を記事にせず、闇に葬る」という展開がある。
そして、「みんなが善意で行動し、全て丸く収まった」みたいな形で着地させている。
だけど、ようするに「全てはニックにとって都合のいい終わり方」でしかないし。
あれだけニックの説得に折れず、革命家であり続けようとしたミミが、逃亡の途中で急に変心するってのは、何の説得力も無い御都合主義でしかないし。

(観賞日:2015年11月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会